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CGへの扉 Vol.36:創るためのAI〜AIと人間の創造性の未来:徳井直生氏講演レポート

2022.3.17アート

CGへの扉 Vol.36:創るためのAI〜AIと人間の創造性の未来:徳井直生氏講演レポート

AWS AI/ML「創るためのAI〜AIと人間の創造性の未来」

今月のCGへの扉では、2022年2月24日にオンラインで開催されたカンファレンスAWS Innovateの基調講演「創るためのAI〜AIと人間の創造性の未来」より、株式会社Qosmo(コズモ)の徳井直生氏(研究者・アーティスト・DJ)からの提言をピックアップしてご紹介します。

徳井氏はもともと人工知能の研究者でしたが、AIとともにBack toBack(※)のDJをしたり音楽を制作するなど、表現やメディアアート、AIをつなぐ研究や仕事をしています。徳井氏が率いるQosmoが持っているビジョンは、アートとテクノロジーを活用し、人類の創造性を拡張することを目標としているとのことです。

※Back toBack:DJのプレイスタイルの一つで、2人のDJが一曲ずつ曲をつなぎながら交代でDJしていく方式のことです。1人のDJが1曲プレイし終わったら、狭いDJボックスの後ろを通って、次のDJに場所を交代することからBack to Back と呼んでいます。

今まではAIと言うと最適化や省力化といったイメージが強く、AIと創造性はかけ離れたものであり、創造性は天才的なアーティストが新しい表現を生み出すものだと考えられてきました。しかしながら徳井氏は下記のような事例を挙げながらAIと創造性は混じり合わない水と油ではないと述べています。

The Next Rembrandt Project 2016 / Microsoft
レンブラントの過去の作品を機械学習し、架空の作品を生み出すプロジェクトです。

Edmond de Belamy, from La Famille de Belamy 2017 / The Obvious
機械学習で生み出された絵画が著名なオークションハウスで売り出されたことで、賛否両論の議論がありました。この話題については「CGへの扉 Vol.8:一流オークションハウスも注目するアートとAIの関係性」もご参照ください。 

さらに賛否両論を巻き起こしたのは2019年末に紅白歌合戦で発表された「AI美空ひばり」やAIが描いた手塚治虫の新作「TEZUKA 2020 Project」などが存在します。こうしたプロジェクトに関わる議論は「AIは所詮ツールでしかない」「AIがアーティストの仕事をも奪う」という二元論で語られがちですが、これらの言説からはAIが苦手として一般的に考えられている創造性の領域にまでAIが進出しつつあることに脅威を感じている人の存在を窺い知ることができます。

また、これらはどちらも正しくはありますが、徳井氏が着目しているのは「創るためのAI」です。徳井氏は創作に関わるプロセスをAIに委ねることで人の創造性を拡張できるのではないか?という視点を持ち、人だけでもAIだけでもできなかったことをAIと人の組み合わせにより初めて可能になる新しい創造性の形があるのではないかと考えているとのことです。この領域に焦点を当ててAIの活用を考えていくことが非常に重要です。

徳井氏がそのような領域に興味を持ち「AIが創造的になれるかもしれない」と思ったきっかけは1998年に人工知能の研究していた頃のことです。友人の影響でDJを始め音楽を作り始めたものの、そもそも音楽的な素養がなく、どうやって他の人が作れないような新しくユニークな音楽が作れるのだろうか?と考えた頃に出会ったのがカール・シムズの作品「Evolved Virtual Creatures」でした。

「Evolved Virtual Creatures」は一定期間に遠くまで行き着けた生き物が生き残るというルールによって進化のプロセスを仮想的になぞった作品です。画面上を動くのは原始的でシンプルな生き物のようなCGに見えますが、これらは誰かが作ったものではなく、仮想空間で進化させた生物とその動きが表現された結果生まれたものです。

「自分が作ったシンプルな3Dの仮想環境中でこれらの生命体がどのように『進化』し生まれてきたか、自分でも説明できない」というカール・シムズの言葉は当時の徳井氏にとって衝撃的でした。それまで彼は自分の設計したとおりに動かないものは「バグ」だと考えてきましたが、自分でも予期しないものが生まれる現象を楽しんでいるカール・シムズの作品を知ったことが、徳井氏の現在に至る表現活動を始める大きなきっかけとなりました。

自分の創造性や想像力の限界に早くから気づいたことで、AIの力を借りることで自分の枠の外にある新しいアイデアや創造性、未知のアイデアを手に入れることができると考えました。それによって自分の創造性が拡張できると考えたのです。

徳井氏は、アートが新しいテクノロジーと人・社会の関係性の未来を先取りすることができるという視点を持っています。コンピュータの新しい使い方を開拓してきたのは、アートやゲームなどの世界から始まっています。つまり、現時点でのアートにおけるAI活用を理解することが、AIの未来像のヒントになると考えています。

AI DJ Project 2017:曲の特徴から適切な曲を選曲していくAI
 

AI DJ Project – A dialog between human and AI through music from Qosmo / コズモ on Vimeo.

AI BGM:季節・天気・時間帯などに合わせてAIが曲をセレクト

AI DJ Project #2:事前に曲を用意せずに、リズム・ベースライン・メロディなどをAIが用意していく

AI DJ Project#2 Ubiquitous Rhythm—A Spontaneous Jam Session with AI (10min digest) from Qosmo / コズモ on Vimeo.

Israel & イスラエル with Israel Galván + YCAM:AIとフラメンコの組みあわせ

Israel & イスラエル from YCAM on Vimeo.

AIの活用と言うと、囲碁や将棋のようにAI対人という対立構造で考えがちですが、AI ×(掛ける)人という考え方のもとでAIを活用するシステムを構築することで、AIは人が本当に表現したいことの本質を映す鏡のような存在になります。その際にAIの間違いやゆらぎ、逸脱することを許容する態度が重要で、AIが固定観念から逸脱した間違いを受け入れていくことが新しい創造性を生み出すヒントになります。つまり間違いを切り捨てるのではなく取捨選択する姿勢が必要となります。

AI自体の創造性とは?

StyleGANなどを利用した機械学習で生み出される絵画は、過去の作品を学習してその画風を真似しているだけであり新しい絵画や画風を生み出しているわけではありません。そのため、それが果たして想像的と言えるのだろうかという疑問が生じます。AIをアートに応用する際の難しさは、将棋や囲碁のような勝ち負けや明確な評価基準がないことにあります。現時点では、過去に存在した絵画とどれくらい似ているかということでしかAIの学習を評価する基準を設定できていません。その結果、AIが生み出す絵画は過去の絵画の模倣にしかならないのです。

Perception Engine 2017 / トム・ホワイト

トム・ホワイト氏の「Perception Engine」はニューラルネットワークを活用して身近にあるものを題材にした抽象画を描く試みです。ランダムに描画したものを並べて画像認識にかけ、少しでもその何かに近づくように少しつづ学習させていきます。これはAIが得意な画像認識を意図的に「誤用」することで新しい作品を生み出した事例です。このように「AIを意図的に誤用」したり「誤用可能なAI」の提供を求めることは、もとの用途とは異なるツールの用途を許容するということです。

注目の技術動向

徳井氏は現在 OpenAI CLIP に注目しています。これまでは既存の物の模倣として、どれだけもっともらしいか?という基準で生成物を評価してきましたが、そうではない形で生成物を評価することができるようになってきました。画像とそれを示した言葉で評価したり、画像とテキスト、画像と音といった複数の素材を組み合わせたりして扱うことができます。今後、アートならアート、物理なら物理というカテゴリに閉じこもることなく、異なる要素が組み合わさることで新しい表現が生まれると徳井氏は考えています。

Imaginary Soundscape画像をアップロードすると、AIがそれにあった環境音を選んでくれる

AI Dungeon文章から、RPGゲームが生み出されるというAI活用

【参考記事】CGへの扉 Vol.22:言葉から画像を生成、DALL-Eはクリエイティブなのか?

AIは、それまで人がやってきた知的な行為を模倣を自動化する技術であり、人がこれまでやってきた行為をより正確に、より効率的に実行できるようになります。これからのAIは、人の常識や思い込みから自由な新しいアイデアを追求できるようになると考えているとのことです。これはアートだけでなくビジネスの観点からも同じことが言えるでしょう。AIを単なる便利な道具ではなく独立して存在するアーティストのような存在でもない、どちらの側面も持っている中間のものとして捉えるて付き合うことが非常に重要となります。

“Creativity is allowing yourself to make mistakes.Art is knowing which ones to keep.”
(by Scott Adams)

最後に徳井氏は「創造性とは自分が間違いを犯すことを許すこと。どの間違いを残すかを決めるのがアート」というスコット・アダムス(『ディルバート』で知られるアメリカの風刺漫画家)の言葉を引用し、どれを選択して残すのかという問題はこれからも人間側に残るでしょうし残るべきだと思っている、と講演を締めくくりました。

AIと創造性のこれから

徳井氏の講演から、人間の創造性がAIに置き換えられるわけでもなく、人間の創造性を拡張するものとしてAIを活用することで、人間だけでは成し得なかった新たな作風や新しい切り口での作品制作、創造性が得られるといった説得力のある講演でした。確かに最初はゲームやアート作品で活用される新しいテクノロジーも、徐々に社会に広がりビジネスとなっていく事例には事欠きません。「人が想像できることは,必ず人が実現できる」と言ったのは『海底二万里』の著者ジュール・ヴェルヌですが、もしかしたらAIの力によって「人が想像する以上のことができる」ようになるのかもしれません。

【参考文献・資料】

●著書『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語
情報・通信分野に関する優れた図書として、2021年度の大川出版賞を受賞。徳井氏が学生時代から今まで携わってきた、さまざまな領域でAIや機械学習、各種テクノロジーを活用しながら人間の創造性を拡張する取り組みをまとめた一冊です。

●Qosmo、ホワイトペーパー「音楽生成AIの現状と可能性(2022年版)」を無償公開
今回の講演で触れられた中でもとくにAI技術の音楽関連分野における活用に関する最新の技術動向、ビジネスへの応用、社会への影響を考察してまとめられた25ページのレポート。技術者はもちろん、ビジネス観点からの情報を得たい非技術者にも読みやすい内容となっています。

本連載の今後の予定:「CGへの扉」では、単なるAIの話題とは少し異なり、CG/VFX, アートの文脈から話題を切り取り紹介していきます。映像制作の現場におけるAI活用や、AIで価値が高まった先進的なツール、これからの可能性を感じさせるような話題、テクノロジーの話題にご期待ください。何か取り上げて欲しいテーマやご希望などがございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。

CGへの扉

Vol.35:マーベル・シネマティック・ユニバースを支える機械学習

Vol.34:注目論文よりCGの祭典 #SIGGRAPHAsia2021 を振り返る

Vol.33:AIの必然性 #SIGGRAPHAsia2021 レポート

Vol.32:Adobe Sneaks より進化の方向性を知る

Vol.31:人工知能が考える「顔」と、人が考える「顔」

Vol.30:SIGGRAPH2021レポート「ディープフェイクとの戦い」

Vol.29:AIの恩恵を受けるCG研究の世界。#SIGGRAPH2021 論文より

Vol.28:定番手法の他分野応用、自然言語処理AI由来の画像処理AI

Vol.27:眼に追いつけ追い越せ? カメラは機械学習により進化

Vol.26:アートを加速させるAIの役割 #GTC2021 レポート

Vol.25:変幻自在の顔も実は人工知能

Vol.24:自然現象もすべて人工知能で再現する時代

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Contributor:安藤幸央

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