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CGへの扉 Vol.27:眼に追いつけ追い越せ? カメラは機械学習により進化

2021.6.15アート

CGへの扉 Vol.27:眼に追いつけ追い越せ? カメラは機械学習により進化

スマートフォンのカメラ性能、人間の目の性能

一般的に市販されているデジタルカメラや、スマートフォンに搭載されているカメラの解像度は、数千万画素は当たり前、最新機種であれば1億画素以上の脅威的スペックを持った機種も登場しています。20年前ほどに写真撮影目的のカメラを初めて搭載した携帯電話が11万画素の性能でした。単純計算すると、ここ20年で解像度に関しては、およそ1,000倍の性能になったといえます。では、人間の眼の性能は、それに匹敵するくらい進化しているのでしょうか?

眼鏡の超薄型レンズや、乱視向けのコンタクトレンズなど、眼にまつわるテクノロジーは進化していますが、「眼」としての性能はそれほど大きく変わりありません。それに、ここ数十年で眼の性能が1,000倍どころか10倍も進化していません。眼というのはとても不思議な器官で、センサーとしての眼と、眼で見たものを解釈する脳とのセットで考える必要があります。

よく知られており、皆さんも実感しているのは、眼にはピントがあり、見えている範囲すべてにピントが合っているわけではないことです。視線方向のみに限られること、中心視野と呼ばれる脳が明瞭に認識できるのが左右30度ずつくらいの狭い範囲で、さらに中心視と呼ばれる形や色などが明瞭に認識できるのは中心1〜2度にすぎません。周辺はぼんやりと見えているだけということです。また眼と脳はとても騙されやすく、錯視とよばれる視覚にまつわる錯覚が数多く知られています。

不完全な器官である眼が何とか機能している一方、数多くの中から、異質なものを素早く見つけ出したり、ものすごく素早く動くものを正確に把握して理解することができたりします。眼の働きには多少の個人差はありますが、流れ作業の工場で不良品を見つけだしたり、ひよこの雌雄を2秒で判別できたりするヒヨコ鑑定士の眼など、驚異的な能力が秘められているのは確かです。

では、センサーとしてのカメラは1億画素だとしても、そこから得られる視覚情報を解釈し理解する人工の「脳」はどれほどのものでしょうか? 「CGへの扉 Vol.23:AIで人の眼に進化するカメラ」でコンピューティショナル・フォトグラフィー(コンピュータを利用した写真撮影)の事例をいくつか紹介しました。ここではさらに人工知能の助けを借り、単なるカメラ画像を人間の眼に近づけるようなアプローチの研究をいくつか紹介します。

普通の動画をスローモーション動画に

事故などに遭って命の危険が生じた時、その瞬間が「走馬灯のように」ゆっくりと見えたとよく聞きます。走馬灯のように見える生死の境目は大げさですが、スポーツで決定的シーンを決めた瞬間、子どもや孫が初めて何かをした瞬間、可愛がっているペットが驚くべき動きをした瞬間など、その時々の撮影映像をスローモーションでじっくりと確認したい場合があるでしょう。最近のスマートフォンであれば1秒間に240コマといったスローモーション撮影は可能ですが、すべての動画を大量のメモリとバッテリーを消費する240fpsで撮影しているわけではりません。

NVIDIAの “Super SloMo: High Quality Estimation of Multiple Intermediate Frames for Video Interpolation”(スーパースローモーション:ビデオ補間のための複数の中間フレームの高品質な推定)という研究では、普通に撮影された動画から、実際には撮影されていないさらに細かい間の映像を推定し再構成する方法が考えられています。

サンプル動画:Research at NVIDIA: Transforming Standard Video Into Slow Motion with AI

動画のあるフレームと次のフレームとの変化量を捉え、その間にもう1フレームあった場合、どのような映像になるかを予想し補完する。補完映像が歪んでしまうのを補正するのが難しい課題

論文:https://arxiv.org/pdf/1712.00080.pdf
この研究の元となったサンプル実装1:https://github.com/avinashpaliwal/Super-SloMo
この研究の元となったサンプル実装2:https://github.com/avinashpaliwal/Deep-SloMo
サンプル実装:https://github.com/rmalav15/Super-SloMo
NVIDIAのサンプル実装(一部):https://github.com/NVIDIA/unsupervised-video-interpolation

スマートフォン等で撮影された10,000以上の240fpsスローモーション動画を学習データとしています。NVIDIAが提供するディープラーニングフレームワークcuDNN(CUDA® Deep Neural Network library)で高速化された PyTorch が使われました。生成されたスローモーション映像の検証には、学習とは別のデータセットが使われたとのこと。

また本研究では、もともとスローモーション撮影された動画を、さらに細かいゆっくりとしたスローモーション動画に変換することも試されています。なかでもスローモーション映像ばかりを公開している教育系YouTuber “The Slow Mo Guys” が公開しているスローモーション動画をさらに4倍スローモーションに変換した驚きの映像を見ることができます。現状はまだスマートフォンで実行できるような平易なものではありませんが、動画をクラウドにアップロードすると、スローモーション化するサービスなどが生まれてくるかもしれません。

邪魔ものを除去。人間が脳で行なっている作業を代替

障害物を除去する事例(窓、フェンス、雨粒)

ガラス越しの物体やフェンス越しの撮影、汚れている窓や雨粒がついている窓から撮影し、うまく意図した撮影ができずにもどかしい思いをしたことはないでしょうか? これらのガラスやフェンスなどの余計なものは、人間が目で見ている場合は脳が自然と除去してあまり気にならないものとして、見たいものに意識を集中させて見ることができます。

ところが目でみている環境をそのままカメラ撮影すると、余計なものがそのまま強く主張して写ってしまいます。世の中には美術館や博物館での展示用に使われる写り込みの少ない特殊ガラスも存在します。例えば普通のガラスであれば片面につき反射率が4%なのに対し、超低反射ガラスでは0.08%〜0.5%程度の反射率しかありません。そうは言っても世の中のガラスすべてがそうではありません。

ここで紹介するGoogleと国立台湾大学、米国カリフォルニア・マーセッド大学、米国バージニア工科大学による研究”Learning to See Through Obstructions” では、撮影された写真に映り込んだ余計なものを除去することができます。ポイントは撮影したい奥にある風景と、手間にある余計なガラスやフェンス、水滴などはカメラからの深度が異なることをうまく利用しています。つまり撮影したい背景と手前の余計なものの動きの違いから、それぞれが存在する層を再構築し、余計な層を取り除くことで目的の映像を得ているのです。

この手法であれば、従来手法に比べ、動きが激しい映像や明るさの変化が激しい場合にも効果があるそうです。結果のサンプルを見ると、まるで余計なものは何もなかったかのようにクリアな映像が抽出されているのが分かります。

論文:https://arxiv.org/pdf/2004.01180.pdf
解説動画:Learning to See Through Obstructions
余計な写りこみの除去前と除去後を示した動画:https://www.facebook.com/watch/?v=526203295017956
サンプル実装:https://github.com/alex04072000/ObstructionRemoval

現状はまだ利用条件や成果が得られる状況が限られていますが、将来的にはスマートフォンにこの機能が搭載されたり、もしかしたら車や飛行機のフロントウィンドウに搭載されて雨粒を除去した映像が見られるようになったりするかもしれません。また具体例としてロボットの目、物体認識用カメラの精度を上げる工夫として役立てられるかもしれません。

もともとのアプローチは、同研究者による 2015年のSIGGRAPHで論文発表された研究”A Computational Approach for Obstruction-Free Photography“を、CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)によって高速化、高精度化したのが本研究になります。そう考えると、数年前の研究で、その当時は計算コストが実用に見合わなかったような研究も、現在のコンピューティングパワーと人工知能の最新成果による実装で、再び日の目をみる研究というのも、これから数多く登場してきそうです。

これからの眼とカメラ

人の目の性能を測る指針のひとつとして「動体視力」というのがあります。これは球技などのスポーツ選手であれば、普通の人よりも優れていると言われ、トレーニングによって強化できると言われています。動体視力は、年齢とともに変化し、老眼と同じように加齢によって性能が落ちてくる能力のひとつでもあります。最初に紹介した工場の流れ作業での不良品の発見も、人の眼から徐々にハイスピードカメラと、人工知能を活用した画像認識技術に取って代わられつつあります。

High-speed-camera object recognition technology that enables real-time image recognition without stopping(動きを止めずにおこなうリアルタイムで画像認識が可能なハイスピードカメラによる物体認識技術)は、NECのバイオメトリクス研究所、データサイエンス研究所と東京大学大学院情報理工学系研究科 石川正俊教授室・妹尾拓講師らの研究グループによる研究です。

ここで行われているアプローチは次のとおりです。まず毎秒1,000コマのハイスピードカメラの映像から同じ物体が写っている、ボケやブレがひどい画像を除去し、明るさや精細度が適切で画像判別に適した画像を数枚選別します。それらを別々に小規模のニューラルネットワークで画像認識します。その複数の解析結果から多数決で正解を導き出すことによって、超高速で正確な判別を可能にしています。この方法は、1枚の画像から判別する従来型の手法に比べ、約4割スピードを短縮して利用することができるそうです。

1960年代に月着陸を実現したアポロ宇宙船には3系統のコンピュータが搭載されており、トラブル回避のための3重化という目的とともに、計算が間に合わなかった時や、何かの要素で3系統のコンピュータが異なる結果を導き出した場合、多数決で計算結果を決めていたそうです。

研究要素だけで「高速に判別」という課題を解決しようとすると、ひたすら正確性を追い求めてしまうかもしれませんが、曖昧な要素、不正確な要素を残したままで、いかに計算を省力化しつつ目的の成果が得られるか。完璧を目指さずに適切な結果を導くという考えは、人工知能研究の実用化において、とても重要な観点かもしれません。

いまどきの若い世代にとって、スマートフォンアプリの写真フィルター機能が当たり前すぎて、フィルター加工のない元の生々しい写真は、かえって違和感があると言われています。スマートフォンへのカメラ搭載、SNS等によるスマートフォンで撮影された写真や動画の私的活用から、単なる撮影された写真や動画だけでなく、二次的な利用が広がってきています。コンピューティショナル・フォトグラフィーによる成果やニーズも最近は一段階次のフェーズに入ってきたように感じられます。

カメラセンサーの性能、ディスプレイ表示の性能はまだまだ向上することが予想されますが、人間の眼の性能が根本から変わらない限り、デジタルデバイスの性能はどこかで頭打ちになるのは確実です。けれども今後は、人間の脳の仕組みや眼の仕組み、構図や色味、視野角や動き、にじみやボケ、人が見たいと考えている写真や、脳が理解しやすい写真、脳が求める写真を大量の機械学習から導き出していくような気がしてなりません。もはやその時は、カメラでもともと何を撮影していたのか分からないのかもしれませんね。

こぼれ話:人工知能系の論文のサンプル実装を見つける用途としてPapers With Codeという無料検索サイトが最強です。

本連載の今後の予定:「CGへの扉」では、単なるAIの話題とは少し異なり、CG/VFX, アートの文脈から話題を切り取り紹介していきます。映像制作の現場におけるAI活用や、AIで価値が高まった先進的なツール、これからの可能性を感じさせるような話題、テクノロジーの話題にご期待ください。何か取り上げて欲しいテーマやご希望などがございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。

CGへの扉

Vol.26:アートを加速させるAIの役割 #GTC2021 レポート

Vol.25:変幻自在の顔も実は人工知能

Vol.24:自然現象もすべて人工知能で再現する時代

Vol.23:AIで人の眼に進化するカメラ

Vol.22:言葉から画像を生成、DALL-Eはクリエイティブなのか?

Vol.21:人工知能+3DCGの最新論文をまとめて紹介 #SIGGRAPHAsia2020

Vol.20:Adobeと人工知能の将来を見極める #AdobeMAX2020

Vol.19:コミュニケーションツールの新境地「NVIDIA MAXINE」

Vol.18:SIGGRAPH2020レポート 映像制作の現場で活躍する人工知能

Vol.17:描画を進化させるTensorFlow Graphicsの真価

Vol.16:バーチャル開催SIGGRAPH論文を先取り

Vol.15:撮影に革新をもたらすAIによる照明

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Contributor:安藤幸央、Image by IEEE(※今回のトップ画像は KODAK社による世界初のデジタルカメラ。カセットテープに画像を記録するデジタルカメラの試作機。1975年当時KODAK入社2年目の若手技術者Steven Sasson氏が開発したもので白黒100×100画素の性能であった)

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