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時代を先取りし過ぎた『がんばれ森川君2号』『アストロノーカ』のゲームAIはどのようにして開発されたのか?:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.4

2022.3.22ゲーム

時代を先取りし過ぎた『がんばれ森川君2号』『アストロノーカ』のゲームAIはどのようにして開発されたのか?:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.4

1997年に、当時の最新のAIを導入したプレイステーション用ソフト『がんばれ森川君2号』を、翌年には『アストロノーカ』を立て続けに世に送り出した、現モリカトロン株式会社代表取締役の森川幸人氏。学生時代までコンピューターすらまったく知らなかったのに、やがて独学でAIをマスターし、いち早くゲームAIの開発に成功したその功績は、今でこそ広く知られていますが、いずれも発売当時はまったく評価されなかったそうです。

あまりにも時代を先取りし過ぎた『がんばれ森川君2号』と『アストロノーカ』は、いったいどのようにして開発されたのでしょうか? そして日本初のゲームAI専門会社、モリカトロンを設立した動機と目的とは? 森川氏にたっぷりとお話を伺いました。

『がんばれ森川君2号』とは?

1997年にSCE(現:SIE)から発売された、主人公にあたるテレビの中で暮らす知的生命体PiT(Pet in TV)を育成しながら世界を冒険するゲーム。PiTに目的地を指示したり、行く先々で見付けたアイテムや生き物、ギミックに対して最適なアクションを学習させたりすることで、PiTはどんどん賢くなり、冒険できる世界が広がるところに本作ならではの楽しさがあります。

『がんばれ森川君2号』のゲーム画面

『アストロノーカ』とは?

1998年にエニックスから発売された、パートナーのロボット、ピート君と共に究極の野菜を作り出し、宇宙一の農家になることを目指すシミュレーションゲーム。畑を荒らそうとする害獣バブーが出現したら、畑に続く道中にさまざまなトラップを仕掛けて追い返すか、または捕獲しないと野菜を台無しにされてしまいます。バブーは出現するたびにトラップ対策を学習し、学んだ内容は次世代へと引き継がれる特徴を持っています。また、野菜は種を繰り返し交配させて品種改良をすることもできます。

『アストロノーカ』より。敵の害獣、バブーをトラップで退治したところ
同じく『アストロノーカ』より。畑から収穫した野菜の種を交配させて新種を作り出すことが可能

ゲーム開発もAIも、まったくの素人から独学でマスター

――森川さんは、小さい頃からゲームが大好きだったのでしょうか?

森川幸人氏(以下、森川):『ゼビウス』とか『ドラゴンクエスト』とか、王道のゲームしか知りませんでした。そんな自分が、まさかゲームの作り手側に回るとは、35歳になるまで夢にも思っていませんでした。

――では、どんなきっかけでゲーム開発を始めたのでしょうか?

森川:ゲーム開発者としてのデビュー前に『ウゴウゴルーガ』や『IQエンジン』などのテレビ番組でCG制作に関わっていたのですが、ちょうどその頃がプレイステーションの立ち上げのタイミングでした。多分、プレステが発売する2年程前だったと思いますが、プロデューサーが新しいアーティストや制作者を探していて、そこで私の名前が挙がりまして「ゲームを作らないか?」と言われたんです。

当時はゲームの作り方なんてまだ全然知りませんでしたが「作ります」と返事したところ、じゃあやりましょうということになりました。ですから、昔からゲームを作りたいと目指していたのではなく、たまたま声が掛かったのがそもそものきっかけです。

で、どんなゲームを作ろうかと考えていたら、最初にどこで知ったのかは忘れてしまいましたが、AIという言葉を知ったことで「AIのゲームを作ります」と言って、AIがパズル画面を生成するパズルゲームの企画をペライチで出したら通りました。

当時のソニーの内部は大らかで、今ならスキルシートとかで開発実績をちゃんと調べられるところですが、そんなことを全然なく、まだゲーム開発もAIも素人だった私の企画を見て「作りましょう」とOKをいただきました。ゲーム開発とAIの勉強を始めたのはそれからですね。

――テレビ番組の制作やゲーム開発を始めるにあたり、やはり石原恒和さん(※現 株式会社ポケモン社長)の存在は大きかったですか?

森川:そうですね。石原さんは大学の2つ上の先輩で、卒業後もすごく良くしていただきまして、かつて六本木の会社で石原さんが働いていらっしゃったときに、久々に電話うをいただいて「コンピューターをやりなよ」と言われたので「ハイ、やります」とすぐに返事をしました。当時の母校の筑波大は体育会系的なところがあって、先輩に言われたことには従わないといけないんですね(笑)

その後パソコンショップに行って、石原さんに「じゃあ、これを買ってきなさい」と教えていただいたAmigaを買いました。それまではコンピューターのことは全然知らず、学校でもコンピューターの勉強はまったくしていなかったのですが、これを機にすっかりハマって、だんだん仕事でも使うようになっていきました。

――当時の大学では、コンピューターやCGの授業があったのでしょうか?

森川:なかったですね。私が通っていたのは芸術学群で油絵とかを勉強していましたし、ゲームもAIも頭の中には全然なかったです。

――まったくの初心者だったのに、どうやってCGの描き方を覚えたんですか?

森川:アニメーションまでは作れませんでしたが、絵を簡単に作れるソフトが出ていたのでそれで覚えました。実は、『ウゴウゴルーガ』のメンバーはみんなAmigaバカで、ロースペックなマシンでしたが「こんなことができるんだぜ!」とか言いながら切磋琢磨していました。私以外にも『おしりかじり虫』を描いたうるまでるびさんとか、「バストアムーブ」の田中秀幸さん、「せがれいじり」の秋本きつねさんなど、いろいろな人が参加していました。

――Amigaで覚えたCGの描き方が、後のプレステ用ソフトの開発時にも役に立ちましたか?

森川:ゲームの作り方も、プログラムのことも全然わからなかったので、CGで覚えた技術や知識はまったく役に立ちませんでした。ただ、それまでの「思いっきり好きなことをやるのがもいい」という、テレビ時代の価値観をそのまま引き継いじゃいましたので、ゲームのセオリーとかは全然関係なしで、誰の話も聞かなかったですね(苦笑)

――『がんばれ森川君2号』が完成するまでには、どのぐらい時間がかかりましたか?

森川:2年以上かかりました。最初の半年間はゲームの企画はまったく手が付けられずに、AIの勉強だけをずっとしていました。ミーティングがあるたびに、「こんなAIがあります」とみんなに説明するだけで、プログラマーは何もやることがない状況が続いていました。

その後は苦労の連続で、今考えるとゾッとする作り方をしていましたね。当時の最先端のAIで「バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)」という、ニューラルネットワークのアルゴリズムを使ったのですが、そんな計算の負荷が高いものは本来プレステのハードでできるハズがないんですよ。それなのに無理矢理乗せてしまったので、チューニングにものすごく時間がかかりましたね。

――AIの実装は、森川さんおひとりで担当されたのでしょうか?

森川:はい。当時は本格的なニューラルネットワークを使ったゲームはおそらくまだなくて、AIのブレーンになってくれる方は誰もいなかったですね。、一般向けの書籍も全然ありませんでしたし、インターネットも普及してなかったので海外の事情もよくわからず、AIの先駆者の方を見付けることができませんでした。

そこで、私が最初に始めたのは紀伊國屋書店に行って、AIの本を全部買って読むことでした。全部とは言っても当時は本屋さんの棚に2段分ほどしかなく、どれから読み始めていいのかもわからなかったので全部買って読むことにしました。

私は美術の勉強をしていたので、本を読むと偏微分とか、見たこともない工学系の数学がたくさん出てきて、ましてやAIの本ですから、本の中でいちいち数学の説明まではしてくれませんので、わからないところは過去の数学の本もさかのぼって買ったりしながら、イチから勉強しました。

――大変なご苦労と猛勉強の末に発売された『がんばれ森川君2号』ですが、ソフトは何本売れたのでしょうか?

森川:40万本ぐらいだったと思います。当時の40万本は、みんなにガッカリされる期待外れの数字でしたが、ちゃんとリクープはしていたと思います。ソニーさんがすごく肩入れしてプロモーションをしてくださいましたので、そのおかげでリクープできたんだと思います…。

――業界的にはガッカリな数字だったとはいえ、今までにないタイプのゲームが40万本も売れたわけですから、その実績を評価したうえで続編を作るお話は出なかったのでしょうか?

森川:なかったですね。この後に『ここ掘れ!プッカ』というゲームも作ったのですが、『がんばれ森川君2号』の評判があまり良くなかったので、続編の話は出ませんでした。

画期的なゲームAIを実装するも、評価されなかった『がんばれ森川君2号』

――ほかに森川さんが開発されたタイトルで、AIを搭載したプレステ用ソフトには『アストロノーカ』がありますが、本作のアイデアはいつ頃に思い付いたのでしょうか?

森川:『がんばれ森川君2号』を開発していた後半の頃には、おそらく『アストロノーカ』のことも考えていたと思います。『がんばれ森川君2号』のときに、ニューラルネットワークで動くキャラクターを初めて自分で体験したときは、まさに鮮烈でした。落ちている物を叩いたり拾ったりして、物がなくなったら次のステージに進むという、こちらが何も教えていないのに、キャラクターがスタコラサッサと進んで行くのを見たときの、いかにも生き物らしい見えて。そこまでのリアリティはまったく予想だにしていなかったので。自分にとっても衝撃でした。

それ以来、ニューラルネットワークは生き物に近いものが表現できるアルゴリズムだということに気が付いてからすっかりハマりましたね。ゲームを作りたいというよりは、隙あらばAIを使いたい、まず先に使いたいAIのアルゴリズムがあって、それを念頭に置いてゲームにどうやって落とし込むかという発想で、以後ずっと開発を続けることになったんです。

――ゲームの場合は、たとえどんなに優れたAIや計算プログラムを組み込んだとしても、プレイヤーが遊んでいて面白くなければ一切評価されないところが難しいところですよね。

森川:そうなんです。ゲームという遊びとAIの相性って実は悪いんですよね。ゲームプランナーとしては、プレイヤーが想定どおりにゲームが展開してほしい、キャラクターにはこういうふうに動いてほしいとか考えますので、その場合はif文とかを使って「こういう場合には、こうしなさい」とかってルールベースで書いちゃうほうが都合がいいわけです。

ところがAIを使うと、どういうことが起こるのかは開発者ですらわからず、ゲームの展開がどうなるかもわからなくなることがあるので、ある意味相性が悪いんです。今でもそうですが、ゲームの開発にAIチームが加わると、初めのうちはAIチームが幅を利かせるのですが、だんだんまとまってくると邪魔者扱いされてほんの一部だけ、みんなの邪魔にならない程度に携わるというケースが結構あるんです。

で、結局「こういう行動を取ってほしい、こういう動き方をしてほしい」という肝心な部分を、みんなルールベースで書かかれることが多いんですね。例えて言うなら、パック旅行の中に1時間で自由時間だけあるみたいな、すごい制約のある中で、ほんの少しAIが受け持つみたいなことになっちゃうんです。ですからAIチームは、エンジニアよりもプランナーと揉めることが多いんですよ(笑)

ゲーム開始直後のPiTは無意味な行動を繰り返すが、イエスまたはノーの評価を与えたり、時には頭をなでて褒めることで、どんどん適切な行動パターンを覚えていく

――『がんばれ森川君2号』の発売後、AIを実装したことでメディアやユーザーから褒められたことはありましたか?

森川:まったくありませんでした。『ファミ通』などのゲーム雑誌で何度もインタビューを受けたことがあるのですが、AIについて話した部分は全部カットされてましたね。ゲーム自体がヒットしなかったのは自分の責任でもあるのですが…。

唯一、『アストロノーカ』を発売した後に「AIっていいですね」と言って下さったのが、現スクウェア・エニックスの三宅陽一郎さんでした。当時からAIのことについて嬉々として話を聞いてくれたのは三宅さんだけでしたから、逆に「何でこんなに喜んでくださったのかな?」と不思議に思っていました。

――確か、『がんばれ森川君2号』に実装したAIは論文で発表されてましたよね?

森川:はい。人工知能学会からはかなり反響がありました。ちょうどAIが第2次ブームの真っ最中だったのですが、当時は研究者の間だけのブームで、社会全体に認知されるようなブームではありませんでした。また、AI自体も社会応用にはまだ力不足なところがありました。

そのようなときに、自分のような素人が最新のAI「バックプロパゲーション」を使ってゲームを作ったということで、皆さん驚いてましたね。そこで「論文を書いてみないか」と言われたので論文を書きました。

遺伝的アルゴリズムを実装した『アストロノーカ』

――『アストロノーカ』には、敵のバブーがトラップを回避するときの学習方法と、野菜の交配にAIを実装されていますよね?

森川:ダーウィンの進化論をモチーフにした「遺伝的アルゴリズム」(以後、GA)というAIを使いました。当時は東京の「夢の島」は、ゴミ捨て場で、毎年大量にハエが発生してよくニュースになっていました。、不衛生だからと毎年夏になると大量の殺虫剤を散布していました。

そうすると、なぜか知らないけど殺虫剤に耐性のあるハエがすでにいて、ほかのライバルのハエが全部死んだ後には、次の年にまたその耐性があるハエが大発生しちゃう。で、またそれをやっつけるために強い殺虫剤をまく、堂々巡りをしているというニュースを見ました。

そのニュースを見て、「これってゲームじゃないか?」と思ったんです。まるで人間がハエを鍛えてやってるみたいだなと(笑)。「強い殺虫剤とハエとでは、どっちが不衛生なの? どっちが人体に悪いのか微妙な話だな、これはそのままゲームになりそうだな」と思って作ったのが『アストロノーカ』なんですね。

――敵のバブーは、初めのうちは簡単にトラップに引っ掛かってくれますが、徐々にトラップを回避するようになるので、毎回同じパターンでトラップを仕掛けても通用しないところが『アストロノーカ』ならではの面白いところですよね。

森川:はい。トラップを仕掛けると、バブーにだんだん耐性がついてきたり、トラップの回避方法を学んだり、自分たちで進化を続けるようになります。プレイヤーによってどこに、どんなトラップをいくつ仕掛けるのかで変わってきますので、事前にバブーの強さをどうやって設定するのかが非常に難しくなるんです。

でもGAを使うと、バブーはプレイヤーごとに違う進化をするので、事前にバブーの進化を想定しなくていいメリットが生まれるんです。パラメータを設定したのは初期集団の20体のバブーだけは、その後に出てくるバブーたちは一切パラメーターを作っていません。

これを最初に作ったときは、自分のことを天才かもって思いましたが(笑)、当時は三宅さん以外に全然評価されなかったのでガッカリしましたね…。

――『アストロノーカ』は何本ぐらい売れたのでしょうか?

森川:8万本ぐらいですね。後から発売されたダウンロード版も、確か同じぐらいの数が売れていたと思います。

『がんばれ森川君2号』のときに評判が悪かったのはエンジンむき出しで、ゲームデザインのことは放っておいて、まずはAIを作りたかった、AIのための表現手段としてゲームを作ったのが原因だったと思います。でも、『アストロノーカ』のほうは、ちゃんとゲームとして楽しめる形で作ったつもりだったのに、それでもセールスが全然伸びなくて心底ガッカリしました……。

――ゲームの場合は、たとえどんなに優れたAIを実装しても、遊んで面白くなければユーザーに評価してもらえないのが難しいところですよね。

森川:ええ。今でこそ、『牧場物語』とか農業を遊びの一環としてできるゲームがありますけど、当時は農業だけで独立したゲームは全然なかったんですよね。営業の方からも「農業をテーマにしたゲームなんか売れないよ」って怒られました。今は当たり前のジャンルですけどね。『がんばれ森川君2号』のときも、「放置してもいいゲームです」って言ったら、「やらなくてもいいゲームなんて、そんなのあるかよ!」って叱られました。ヒットするためには、やっぱり時代に合った形で出さないとダメですね。

――野菜の種を交配させて新種が作れるシステムは、どのようにプログラムしたのでしょうか?

森川:メンデルの法則をそのまま利用しました。優性、劣性の出現とか突然変異が起きるとか、ちゃんとした生物学の法則どおりに作ってあります。

――メンデルの法則も、ゲーム開発のためにご自身で勉強されたわけですね?

森川:そうですね。法則自体はとてもシンプルな内容なので、仕様に置き換えるのはそれほど大変ではなかったです。簡単なテーブルを作ったうえで、あとは確率選択ができるようにすればだいたいうまくいきましたね。

GAよりも、バブーの思考ルーチンを作るほうがずっと大変でした。腕力とかジャンプ力とか、身体的な能力のパラメーターだけでなく、トラップ回避の思考もすべて次世代に引き継ぐAIを実装した前例が当時はまだなかったんです。

バブーは世代交代が進むにつれて、トラップの回避方法をどんどん学んでいく

――『アストロノーカ』のAIは、メディアやプレイヤー間ではどう評価されましたか?

森川:ゲーム自体の評価は割と良かったと思いますが、AIの評価は特になかったですね。当時の『ファミ通』のクロスレビューでも高く評価していただいて「ゴールド殿堂入り」をしました。

以前に『アストロノーカ』の20周年を記念した「アストロパーティー」を開催したのですが、北海道から来たファンの方もいらしたのにでびっくりしました。「こんなにものファンがどこにいたの? だったらもっと売れてもいいのに……」って思いましたね(苦笑)。

参考リンク:アストロノーカ20周年イベント「アストロパーティー2019」生中継

――『アストロノーカ』のAIは、学会などで研究発表をされたのでしょうか?

森川:はい。確かCEDECで発表したと思います。三宅さにんから「講演やりませんか?」とお声掛けをいただいたのがきっかけだったと思いますが、それからAIの評価を受けるようになりましたね。

――『アストロノーカ』の発売後、本作のAIを参考に開発されたゲームが、森川さんの作品以外に何か登場したのでしょうか?

森川:ないと思います。それから『アストロノーカ』のときは、AIはゲームの開発段階でも使えることを示したつもりだったんですよ。当時エニックスはRPGをたくさん出していた会社さんだったので「例えばモンスターや武器のパラメーターをAIに任せれば、いちいち自分たちで作らなくても済むんです、自動で設定できるんですよ」って当時のお偉方に直談判もしたのですが、全然響かなかったですね(笑)。

ゲーム業界はアニメ業界に近いところがあって、人が手塩にかけて苦労して作ったもののほうが素晴らしいんだという文化的な土壌があって、機械が勝手に作ったものはそれより下に思われることが多い気がします。

――今でこそ、オープンワールドのMMORPGなどでは、3Dのマップを自動生成する時代になり、海外ではゲームAIを部外者にも公開して自由に研究に利用できるようにしたケースも出てきてますよね。

森川:アメリカとかでは、AIがやろうが人間がやろうが合理的であれば良しとする、日本に比べるとドライな判断をして、お互いに研鑽し合う場があったりしますが、日本でも早くそうなるといいなと思いますね。

日本初のゲームAI専門会社、モリカトロンが目指すもの

――現在の会社、モリカトロン株式会社を作ろうと思ったきっかけを教えて下さい。

森川:『アストロノーカ』の後に、プレステ2で『くまうた』とかも作ったのですが、こちらも全然売れなくて……。音声合成をして、歌詞もメロディも自動生成して、それから母音だけですがリップシンクもちゃんとできるようにして、AIがちゃんと歌も歌えるようにしたんですけどね。

『初音ミク』よりも早い時代に、自分でもがんばって作ったのにまったく評価されず、販売本数も相当ひどかったので嫌気が差して「誰もわかってくれないし、もういいや…」と しばらくの間AIは放っておいたんです(笑)。

その後、2012年頃にディープラーニングが注目されるようになり3回目のAIブームになったら「そういえば、森川さんは昔AIを使ってましたよね?」とちょくちょく聞かれるようになったんです。AIからはしばらく離れていてそのブームの存在を知らなかったので、今頃になって何でいろんな人が話を聞きに来るのかなと不思議に思ってたら、ああそんな事情だったのか、いよいよゲーム業界にもAIの時代がやって来たんだなあと。

「今頃になって…」とは思いつつも、私の話をようやく聞いてくれるようになりましたので、またAIを使ってみようかと思い始めました。でも、自分で作ったゲームにAIを組み込むだけだと自分の世界だけで完結してしまうので、どうせならゲーム業界全体にAIを普及させるためのお役に立ちたいな、もし実現できたら、それはきっといいことだろうと思いました。

そこで、ゲーム制作会社さんに「こういうAIがあります」とか「こんなAIの使い方がありますよ」みたいなことを提案したり、設計したりする会社があってもいいなと思って立ち上げました。正確には、立ち上げたと言うよりは「ゲームAIをやりませんか?」とお声掛けをいただいたので、それに乗った形でしたけどね。

――設立当時のメンバーは、森川さん以外にどなたがいらっしゃったんですか?

森川:元スクウェア・エニックスのプロデューサーだった成沢理恵と、現monoAI  technology社長の本城嘉太郎の3人です。

――設立直後は、主にどんなクライアントと仕事をしていたのでしょうか?

森川:自分たちは裏方なので名前は出せないのですが、大きなソーシャルゲームのメーカーさんとかですね。ソーシャルゲームのメーカーさんは、コンシューマーよりも制作コストをいかに落とすかをシビアに考えますので、「AIでコストダウンができるのであれば、ぜひ導入したい」というリクエストを多くいただいています。リアルタイムシミュレーションのデッキ編成とかパラメーターの設計、パズルゲームの画面の自動生成とか、いきなりそんな話をいただいています。

――現在では、最新のプラットフォーム機でも何かゲームAIの制作はされていますか?

森川:はい。キャラクターがステージ内でどのように判断して行動するのかを決める、キャラクターAIとかを作っています。今ではゲーム業界以外からの引き合いも多くて、例えば雑談も含めて人と自然な会話ができる会話エンジンを開発して、医療方面、とくに、はメンタルヘルスやリハビリテーション、認知症予防向けに使うサービスとして提供しています。

――会話ができるAIまで開発されるとは、すごい技術ですね!

森川:ちゃんと真面目にGPT(Generative Pre-trained. Transformer)を使って作りました。私も意外だったのですが、医療系の業界の方にお話を聞いたら,

医療の分野でもアプリとかもいろいろと作っていたんです。でも、どれもおカタイ仕組みであることが多くて、みんな途中で使うのをやめちゃうようです

そんな状況だったので、まともな会話ができてしかもエンタメの要素もあるAIをということで、ウチにお声掛けをいただいたんだと思います。まさか、そんな所にも需要があるとは想定していませんでしたね。

――ゲームもAIも、両方の開発ノウハウを豊富に持つ会社は、今のところモリカトロン以外にはほとんど存在しないように思われます。まさに独占市場ですよね?

森川:ええ。ただし、すごく狭い領域での独占ですけど(笑)。エンターテインメントとして守らなくてはいけない部分と、ガチのAIを組む部分とを並行して進められるのが、我々の数少ない強みですね。

――ゲーム業界以外の仕事もあるとのことですが、今でも売上はゲーム業界向けのAI開発が一番多いのでしょうか?

森川:そうです。今はキャラクターAIと、QAおよびデバッグ用のAI設計が収益のニ本柱になっています。お財布を握っている人に「AIでデバッグすると、コスト下げられますよ」と提案するとすごく喜ばれますね(笑)。AIならば「徹夜でフィールドを歩いて」って指示をしても全然怒られませんし、うっかりミスすることもありませんから。

――これからも、ゲームAIの市場はどんどん伸びていくと思われますか?

森川:そうですね。QAもデバッグも、まだAIが全部受け持つところまではできていなくて、いろいろな案件の中で切磋琢磨を続けて、現場からのリクエストも聞きながら発展している道半ばの段階です。とはいえ、QAやデバッグを必要としないゲームは存在しないですし、ゲームの大型化にともない人手も多く必要になってきますので、これからは人手だけに頼れなくなる流れになるのはもう必然ですから、今後もAIの需要が高まるのは間違いないですね。

――まだまだ伸びしろがあるんですね。今後も市場が拡大するのであれば、当然AIが作れる技術者がもっと必要になるかと思いますが、現段階では需要に対して技術者の数は足りているのでしょうか?

森川:技術者は慢性的に不足していると思います。ウチに限らず、業界全体でAIエンジニアは足りていないと思いますので、人材の育成が急務ですね。それ以上に必要なのが、AIもゲーム開発もわかるAIプランナーでしょう。

エンジニアは、AIで何かの問題を解決する問題解決型のアプローチになりますが、「AIを使うと、もっとこんな面白いこととか、新しい遊びとかができますよ」と、いろいろなことを考えてくれる問題提案型のAIプランナーみたいな人のほうが、ゲーム業界に求められる人材になるのではないかと思います。要は、理科系と文科系の両方の脳を持った人が必要だということですね。

――将来は、モリカトロンをどんな会社にしていきたいとお考えですか?

森川:企業なので、まずは収益を上げることが必須ですが、同時にうちに続く会社さんやAIエンジニアやプランナー志望の方の背中を押せるように、ゲームAIだけでもちゃんと成り立つんだよというを実際に見せなくてはいけないなと。自分たちは、業界に対してその責任があると考えています。

まだ多くの方が「ゲームAIってビジネスになるの?」と思っているかもしれませんが、ちゃんとビジネスとして成立しますし、仕事として携わるに値する、まだまだ伸びしろがいっぱいある業種だと思いますので、ウチだけではなくてゲーム業界全体のお役に立てるようになりたいです。そろそろ年齢的にも、自分がそういう役割をするタイミングになったのかなとも思いますね。

取材・文/鴫原盛之

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©MuuMuu Co., Ltd.、SYSTEM SACOM corp.、ENIX 1998

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