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アート作品に新たな命を吹き込むアート系生成AIの最前線

2020.8.27アート

アート作品に新たな命を吹き込むアート系生成AIの最前線

実在しない人物のフォトリアルな画像を生成するGANのように、AI技術は画像の生成にも活用されています。そうした画像生成技術は、既存のアート作品を再創造することにも使われています。この記事では、アート作品を再創造するアート系生成AIの事例を紹介していきます。

ローマ皇帝の彫像を血肉化する「Artbreeder」

アート系メディア「artnet news」は8月11日、カナダ・トロントで活躍するデザイナーのDaniel Voshart氏が制作した歴代ローマ皇帝のフォトリアルな画像について報じました。古代ローマの歴代皇帝に関しては、肖像画よりも彫像としてその姿が後世に伝えられています。同氏は、GAN(敵対的生成ネットワーク)を活用した画像生成アプリ「Artbreeder」を使って、彫像からローマ皇帝のリアルな姿を復元することに成功しました(復元した画像はこちらを参照)。

Artbreederの使い方は簡単で、「肖像画」「キャラクター」「古い肖像画」といった生成する画像のジャンルを選択した後に、生成画像の元となる画像をアップロードすれば、数種類の画像が出力されます。もっとも、彫像の画像からフォトリアルな画像を生成するには、人力による加工も不可欠でした。具体的には、Voshart氏はPhotoshopを使って生成された画像から細かな傷を除去して、血の通った人物を撮影した画像に近づけました。さらには、彫像には肌の色が着彩されていないので、皇帝の出身地と家族の血統を調べて肌の色を推測したうえで生成画像に反映しました。こうした制作過程は、同氏がMediumに投稿した記事で詳しく解説されています。

ローマ皇帝の復元のほかにも、Voshart氏は古代エジプトにおけるミイラといっしょに埋葬された絵画からフォトリアルな肖像画を生成したり、行方不明者の頭部の遺体から作成した頭部の粘土像からリアルな顔画像を生成したりする試みを発表しています。

絵画の制作過程をタイムラプス化する「Timecraft」

Engadgetは6月18日、絵画の制作過程をタイムラプス動画として出力するAIモデル「Timecraft」を紹介しました。タイムラプス動画とは、被写体が変化する過程を時間を圧縮して撮影した動画を指します。MITの研究チームによって開発された同AIを使うと、下塗りから細部の着彩と言った絵画の制作過程を動画として生成できるのです。同AIの画期的なのは、制作過程を撮影していなくても、完成した絵画から生成プロセスを予測する所にあります。

Timecraftは、200点のデジタル絵画と水彩画の制作過程を撮影したタイムラプス動画を学習データとして活用して、生成過程を示す動画(を構成する静止画)を予測するように構築されました。同AIの性能を評価するために、実際に制作過程を撮影したリアルな動画、同AIが生成した動画、そして圧縮された画像情報から画像を復元するMITが開発した画像生成AI「Visual Deprojection」が出力した動画を使った比較テストを実施しました。

比較テストは3つのテスト対象動画のうち2つを選んで、テスト参加者にどちらが本物のタイムラプス動画か尋ねる、というものでした。テスト結果はTimecraftによる動画はリアルな動画と比べると本物らしくないものも、Visual Deprojectionよりは本物らしく見えたというものでした。また、Timecraftが生成するデジタル絵画に関するタイムラプス動画のほうが、水彩画に関するそれより本物らしく見えることもわかりました。

以上のようなTimecraftは、美術教育コンテンツの制作に応用することができるでしょう。そのほかの応用としては、アニメーション制作現場における修正・変更作業にも応用できるかも知れません。同AIを活用すれば、例えば完成させたアニメーションの制作過程を遡って、任意の制作ステップからやり直すことが可能になるでしょう。

【論文】Painting Many Pasts: Synthesizing Time Lapse Videos of Paintings

バスキアを模倣する「STiCH」

プレスリリース専門メディア「prfire」は8月11日、カナダ・トロントに拠点をもつAIスタートアップurbancoolabが公開したバーチャル美術展を紹介しました。オンラインで開催された同美術展で展示されたのは、1980年代に活躍したアメリカの画家ジャン=ミシェル・バスキアを彷彿とさせるデジタルアートです。展示された作品は、ミシェル・オバマ前アメリカ大統領夫人や俳優のイドリス・エルバのポートレートといったバスキア本人が描いていないものから構成されています。これらは、バスキア本人が制作したのではなくバスキアの作風を学習したAIが生成したものなのです(展示された作品についてはこちらを参照)。

バスキア風のデジタルアートを生成したのは、urbancoolabが開発したAI「STiCH」です。同AIはインスピレーション、構築、そして表現の3つの制作ステップを実行してアート作品を生成します。インスピレーションのステップでは、画像とテキストを同AIに与えて生成するアート作品の作風に影響を与える設定を準備します。構築ステップでは、線やかたちを組み合わせて作品のスケッチを生成します。そして、生成されたスケッチのなかからインスピレーションのステップで生成した作風設定に合致するものを選出します。この選出処理では、遺伝的アルゴリズムが活用されます。最後の表現ステップでは、生成したスケッチをもとにして最終出力となるアート作品を生成します。この生成処理ではGANが活用されます。

以上のようなSTiCHを活用すれば、バスキア以外の作風のデジタルアートを生成することも可能です。実際、urbancoolabは同AIを使ったストリート系グッツのデザイン制作をビジネス展開しています。企業が同社にデザイン制作を依頼する場合は、前述したインスピレーション・ステップにおいて、企業が希望するデザインコンセプトに関するテキストと画像を提供することが必要になります。

以上に紹介した事例からわかるように、アート系生成AIはアート作品の制作という人間に固有と思われるタスクを代替するようなものではありません。むしろ、人間と協働して新しいアート的価値を創造することを支援するようなものなのです。CGの誕生と発展がアニメーターの仕事を奪うどころか新たな職種とアートジャンルを創造したのと同様に、アート系生成AIの発展は新たな価値と市場を生み出すことが期待できるのではないでしょうか。

Writer:吉本幸記、Image by ROMAN EMPEROR PROJECT

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