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CGへの扉 Vol.13:AIのクリエイティブとクリエイティビティ再考

2020.4.23アート

CGへの扉 Vol.13:AIのクリエイティブとクリエイティビティ再考

コンピュータが作り出した作品にクリエイティブ性を認められるのか?

2019年末、自動生成された687億曲、データ量にして約600Gバイトのメロディーが著作権を放棄するライセンス形式[CC0]で公開され話題になりました。このプロジェクトを手がけたのはプログラムもできる弁護士ダミアン・リール氏と、その友人の音楽家でもありプログラマでもあるノア・ルービン氏です。687億曲のデータは、二人によって設立された All the Music LLC という団体から公開されました。

12拍、1オクターブの中で考えうるすべてのパターンを洗い出し、音程をさまざまな環境で再生可能なMIDIデータ形式で、プログラムのソースコード公開で一般的に使われる GitHub に公開したのです。

ダミアン・リール氏の講演(TED talksより):Copyrighting all the melodies to avoid accidental-infringement

All the Music が公開した GitHub ページ

All the Music の公式サイト

皆さんも、知っている曲とよく似たメロディーに出会ったり、TVCMで見た曲が知っている曲に似ていたりすることはないでしょうか? 無限の組み合わせがあるように思える音楽にも、似た曲、似た雰囲気のメロディーはよくあります。ミュージシャンや作曲家も、時には意図的に似せてメロディーを作ることもあるかもしれませんが、わざと「そっくり真似しよう」としているわけではありません。

大抵は過去に聞いたことのある音楽や好みの蓄積から新しい音楽を生み出すわけで、いわゆる決まりとも言えるコード進行や音階やリズムといった定石を駆使して新しい音楽が作られます。ですから偶然似たようなメロディーが別々の人から生まれることは不思議ではないのですが、どうしても一度「似ている」と感じてしまうと、そのイメージが頭(耳?)から離れなくなってしまいます。視点を変えてとらえると、膨大な機械学習データをもとに、最適解を生み出すような作業を、作曲家は自らの頭の中で行っているわけです。

リール氏とルービン氏が All the Music で膨大なメロディーを公開した意図は、世界中のミュージシャンが生み出したメロディーがたまたま過去の曲に似ていて揉めたり、似ている似ていないで論争になったり、どちらが先に作曲したのかといった訴訟や揉め事を回避することにあります。考え得るありとあらゆるメロディーを事前に公開してしまうことで、どんなメロディーにも先行事例があることを示し、音楽にまつわる不要な訴訟や、印税や著作権まわりの揉め事を避けようという作戦なのです(余談ですが音楽市場もっとも印税を稼いだのは「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」で、今までに約43億円!)。

ここで生み出された膨大なメロディーは、アルゴリズムによって網羅的に生成されたもので、それも12拍、1オクターブという、ごく狭い範囲のパターンでしかありません。これから人工知能によって生み出されるメロディーや、楽曲アレンジ、歌詞などが無限に増えてくる可能性もあり、All the Music が公開したメロディーで、これから生まれるメロディーのどれくらいがカバーできるのかは未知数です。

「無限の猿定理」という定理をご存知でしょうか? これは猿がタイプライターのキーをランダムに無限に叩き続ければ、いつかはシェイクスピアの名作と同じ文章を叩き出す時がくるはずという考えです。実際にはランダムにキー入力している最中に “HAMLET”(シェイクスピア作の悲劇ハムレット)と猿が6文字正しくタイプする確率だけでも数億分の1ほどの可能性しかありません。そう考えると、コンピュータが偶然名作を生み出したり、偶然名曲を生み出したりする可能性は限りなく低いのですが、それも人工知能のアプローチで考えると違ったまた可能性が広がってきます。

Flow Machines(音楽ツール cubese 上で動作中の画面)

2016年にはSony CSLのResearch Laboratoryより人工知能を使ったビートルズ風の曲「Daddy’s Car」が発表されました。これは完全に人工知能だけで生み出した楽曲ではなく、Flow Machines という2020年3月に一般にも公開し始めたツールを使い、プロの音楽家がツールを操作しながら作曲したものです(ただし歌詞は人間が書いたものです)。Flow Machine は既存の楽曲から約1万3000件の旋律とコードを抜き出したデータをもとにしているそうで、「無限の猿定理」のように完全にランダムに生成するのではなく、元となる多数の楽曲の要素が抽出されて使われているのです。

人工知能のクリエイティビティはどう受け入れられるのか?

2020年2月に人工知能が描いた不気味な絵が次々に投稿される Art42 というサイトが公開されました。作者はドイツ在住のヴァレンティン・ヴィエリウ氏。一見美しくもあり、人の不安を書き立てるような不安感の漂う画風は、もし人間の画家が描いていたとしたら、どんな人であるのか想像せずにはいられない独特の雰囲気があります。

Art42は、NVIDIAが公開しているStylegan2というライブラリを改造して利用しています。Stylegen2 は学習済みモデルを使って任意の画像を生成するライブラリです。機械学習の元となるデータは WikiArtから1000枚ほどの絵画をピックアップして利用しているそうですが、どうやら元データとして選んだキュビズム絵画様式の絵画1000枚が、Art42の不気味さの元なのかもしれません。

 Art-42 のフィードより引用

Art42

Styleganの元となる論文:Analyzing and Improving the Image Quality of StyleGAN

ヴィエリウ氏が改造した派生版の Stylegan2

Art42に掲載されている人工知能が生成した絵画は、気に入ったものがあれば購入可能です。30cm×30cm、綿のキャンバス地にプリントされた作品が29.40ドル(約3,100円)、デジタルデータだけなら0.97ドル(約100円)で購入できます。送料がかさみますが日本からの注文も可能です。

Art42 を公開後、アートとは何か、Art42の絵画はアートではないといった意見や論争が起こっています。「アートはメッセージであり、見る人に問いかけるものだ」という人や、「遠くから見ると素敵だけれども細部を見ると無意味で一貫性がない」と評価する人もいます。

さまざまな絵画の作風も、それが始まった時は賛否両論が巻き起こることもあり、今は人工知能絵画による変革の過渡期であると考えることもできます。また「細部を見ると無意味で一貫性がない」と評価できるということは、人工知能が生成する全体像を整えるだけでなく、細部の生成パターンにも類似性や一貫性をもたらすことでその弱点を克服できる可能性も示しているのではないでしょうか。

歴史的なアートを現代風のデジタル絵画に “Royalty Now”

人工知能で絵画風の画像生成が数々生み出されている一方、伝統的な絵画や彫刻に描かれた過去の人物を現代風に描き変えるという”Royalty Now”(王族の今)プロジェクトが進んでいます。Patreon(パトロン)というサービスで、月額数ドル寄付してくれる小口の出資者を集めて運営されています。昔の画家が、パトロンと呼ばれる大金持ちや王族から資金援助を得て活動していたことを彷彿とさせます。

Royalty Now のパトロン資金募集ページ

Royality Now のInstagramアカウント:@royalty_now_

人工知能系の画像をいろいろ見てくると、Royalty Nowの絵画も人工知能が生成した絵画のように見えてきますが、これはデジタルアーティストが Adobeの画像編集ツール Photoshop を駆使して描いているものです。

Instgram @royalty_now_ より引用 © Royalty Now 2020

Royalty Nowを手がけたのはグラフィックデザイナーとして働くベッカ・サラディン氏。絵画や彫刻、時にはお面を元に歴史上の有名な人物を、2020年の今の街を歩いているような現代人風に描きなおしています。教科書などで見慣れた歴史上の人物なのに、思わず「いるいる、こんな人!」と驚くこと請け合いです。

今後向かう先は人間×人工知能のハイブリッドなクリエイティブ

人工知能が全自動で生成したクリエイティブは、たとえ機械学習の元となる素材に人間が関与したものだったとしても、まだまだ違和感があり、特定の事象や環境においてうまくいかない場合もでてきます。

先に紹介した Flow Machine のように、人工知能はなんでも全自動でできる便利なものと夢想せず、人間のクリエイティブの補助ツールとして活用することで、さらに可能性が広がることが考えられます。制作スピードを早めたり、的確なものを作れたり、弱点を減らしたり、検討のためのバリエーションを数多く作るなど、人間の能力をさらに加速させる可能性が感じられます。

現に翻訳の分野、投資判断の分野、チェスや将棋の分野、自動運転の分野、文書校正校閲の分野などでは、人間と機械が補い合って能力を発揮しています。

1997年にIBMのスーパーコンピュータ Deep Blue と戦って負けたチェスの世界チャンピオンガルリ・カスパロフ氏は「知性を持つ機械を恐れるな、協働せよ」と述べています。

Garry Kasparov: Don’t fear intelligent machines. Work with them

人間にありがちな思い込みや、限られた処理能力をうまく人工知能が補うことで最大限能力が生かされます。人間の能力を超えた人工知能だけでなく、人間に寄り添う、人間の能力を拡張する人工知能が求められているのかもしれません。

本連載の今後の予定:「CGへの扉」では、単なるAIの話題とは少し異なり、CG/VFX, アートの文脈から話題を切り取り紹介していきます。映像制作の現場におけるAI活用や、AIで価値が高まった先進的なツール、これからの可能性を感じさせるような話題、テクノロジーの話題にご期待ください。何か取り上げて欲しいテーマやご希望などがございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。

CGへの扉:

Vol.1:CG/VFXにおける人工知能の可能性と、その限界

Vol.2:なめらかなキャラクタアニメーションと、ディープラーニングの役目

Vol.3:CGとAIの蜜月が今まで不可能だった映像を生みだす

Vol.4:CG/VFX制作に欠かせなくなったマシーンラーニングの勘所

Vol.5:SIGGRAPH 2019に見るCG研究と機械学習

Vol.6:Facebookが取り組むVRとAIのアプローチ

Vol.7:AIによる差別やバイアスを避ける取り組み“PAIR”

Vol.8:一流オークションハウスも注目するアートとAIの関係性

Vol.9:現実の課題を解決するCGとAIの相互作用 #SIGGRAPHAsia2019

Vol.10:老齢とは無縁、De-Aging技術の台頭

Vol.11:動き、ダンスに新しい要素を加えるAIの役目

Vol.12:AIのおかげで映像の拡大やノイズ除去が高品質に

Contributor:安藤幸央

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