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「AI美空ひばり」はなぜ炎上したのか?:栗原聡氏×山野辺一記氏インタビュー(後編)
マンガの神様と呼ばれた手塚治虫の作家性を人工知能に学習させ、31年ぶりに新作を生み出すという前代未聞のプロジェクト「TEZUKA2020」。インタビューの前編では、新作『ぱいどん』の制作に活用されたプロット自動生成技術「Automatic Scenario Building System」(以下、ASBS)の開発経緯に始まり、AIに作家性という価値を学習させるための挑戦、AIがクリエイターの背中を押してくれる存在になれたことの意義について、慶應義塾大学理工学部の栗原聡教授とエッジワークス代表の山野辺一記氏によるトークに花が咲きました。
人工知能に作家性を宿らせる方法:栗原聡氏×山野辺一記氏インタビュー(前編)
インタビュー前編では、栗原聡教授とエッジワークス代表の山野辺一記氏に手塚治虫の作家性を学習したAIによる新作『ぱいどん』で活用されたプロット自動生成技術「Automatic Scenario Building System」(ASBS)の開発からAIによる作家性の再現などについて伺いました。
後編では、作家の個性を忖度できるAIへの期待や、AI技術の使われ方として物議をかもした「AI美空ひばり」との対比、セレンディピティによって構造論を越えた新時代のシナリオ制作について語られます。一見すると支離滅裂で業界の常識をかけ離れたAIの発想から、思いがけない新たな価値が生まれるかもしれません。AIによってクリエイティビティの定義が書き換えられた近未来がほんの少しだけ垣間見える内容です。
良い意味で忖度できるAIを作りたい
栗原聡(以下、栗原):重要なのは誰のためにシナリオを生み出すのかという点です。それはもちろん人のためです。単純作業を効率化するためにAI技術を活用する際は数値化できますが、クリエイティブな用途においては性能評価が難しくなります。作品の評価は受け取る側の感性によっても変わってきますから、作品を根底から支えているのは生み出す人間の信念です。そこにはどうしてもAIの入る余地はありません。
私たちがやらなければならないのは、AIが生成してくれる発想のきっかけとしての候補を、作家の個性に合わせて可能な限り絞り込むことです。平たく言えば、作家に良い意味で忖度できるAIが作りたいんですよ。
山野辺一記(以下、山野辺):我々の業界では「好み」という言葉を使いますね。例えば、マンガ『BLEACH』は現代の日本を舞台にした物語だし、『鬼滅の刃』は大正の時代を描いた話。何故その時代背景に設定したかという理由は、それはもう作家の好みだからとしか言えません。男性作家にとってヒロイン像に好みが表れることもありますよね。そればかりは、AIによる分析はできても、生み出すことはできません。
大里飛鳥(以下、大里):そういう意味で忖度できるAIを突き詰めたいということなのですね。
栗原:しかし、忖度という行為は実はすごく難しいのです。現在、私たちが触れているAIのほとんどは道具に過ぎませんが、本来の知能とは自律した存在です。これからはいかにAIを自律的に行動させるかという方向で研究していかなければならない。例えば、手塚眞さんが好むようなプロットを生成するようAIに命令した時、手塚眞という人物の好みを自律的に知ろうとする術がないといけません。その部分をどう実現していくかが鍵になるでしょうね。
大里:「TEZUKA2020」では作画作業もAIが機械的に進めたんですか?
栗原:AIが作ったのは、ディープラーニングを使ってキャラクターの顔画像を自動生成するところまでです。そこから先、コマ割りや作画といった過程はすべて従来どおり、人間の手による作業です。マンガを作るのはほぼ人の仕事というわけです。
一方で、現代のAIは仕事の効率化を追求するために発展した技術が大半なので、今回のようにAIがアイデアの発想に使われた例は非常に珍しいのではないかと思います。
AI美空ひばり騒動に見る不気味の谷
大里:世間で物議をかもした「AI美空ひばり」の比較対象として「TEZUKA2020」が挙げられることもありますが、『ぱいどん』を制作するにあたって注意したことはあるのでしょうか。
栗原:「TEZUKA2020」の企画が立ち上がった際に、AI研究に従事する人間として忠告させていただいたのは、AIで手塚治虫を蘇らせて新作を作らせるという発想は危険だということです。「AI美空ひばり」が物議をかもしたのは、決してAIという技術の使い方に問題があったからではなく、演出の方法が結果的に否定的な意見を生んでしまったからです。
人間をふくめた動物には、初めて目にしたものが自身に危害を加える存在かどうかを認識しようとする本能があります。この地球上で進化を繰り返してきた私たち動物にとって、自身に危害を加える可能性がある存在は、必ず自分たちと同じ有機生命体です。無機的な存在が動物に危害を加えた歴史はありません。つまり、私たちは本能で対象が自分たちに近い存在かどうかで判断しているわけです。これが不気味の谷と呼ばれる現象の本質です。
中途半端に自身と似た存在はひと目で脅威と判断しづらいからこそ不気味なのです。「AI美空ひばり」は音声だけを再現する試みなら賛否は生じなかったでしょう。ところが、黒い背景に白い衣装で生々しいCGを際立たせてしまった。そこへ歌唱中に観客へ語りかける演出も相まって、人間にとって直感的に不気味に映ってしまったのかもしれません。
生命に対する冒涜だという意見もありますが、それは不気味に感じる原因が分からないもどかしさから生じた人間の後付けの理由と言えるのではないでしょうか。なまじ似せすぎてしまったせいでかえって不気味さを増してしまった。不気味の谷に落ちてしまったのです。
「TEZUKA2020」の目的は、あくまでも手塚治虫というマンガ家の知識を活用して新しいものを生み出すこと。それをAI技術はどこまでサポートできるのかを実験するプロジェクトです。決して手塚治虫をAIとして蘇らせることではありません。その点は常に強調してきましたね。
手塚治虫AIが示した次世代のクリエイティビティ
大里:「TEZUKA2020」プロジェクトの中で開発したAIプログラムなどのリソースは今後どのように管理、もしくは運用されていくのでしょうか。
栗原:これを機に、今回のリソースをたたき台にして次の研究を立ち上げる構想はあります。
山野辺:そうなるとAIが生み出したプロットが一般の読者にどう響いたのかというフィードバックも気になりますね。
大里:『ぱいどん』が掲載されたモーニングの編集部には読者の反応は届いていそうですよね。
栗原:私たちの方には何も届いていませんが、手塚プロダクションはもちろんフィードバックは得ているでしょうね。
山野辺:反応がどうであれ、ASBSという技術をふくめて、AIが生み出したプロットが実在するコンテンツとして世に出たのは貴重な一歩だったと思います。
栗原:主人公のデザインに関しても、手塚治虫作品の特徴を学習させたAIによって自動生成された1,000通りくらいの画像サンプルから選ばれました。人間の作家が生涯をかけて生み出せるキャラクターの数は有限ですが、その作家性をディープラーニングで学習したAIは同様の作品を無限に生み出せる可能性を示したことも、今回のプロジェクトの成果だと思います。しかも、個性という特徴空間から抜け出せない人間と異なって、AIには明らかに手塚治虫風だけど誰も見たことのない方向性のような、セレンディピティがある点もAIを使う強みではないでしょうか。
大里:囲碁AIの「AlphaGo」が人間の思いつかない手を生み出した話につながりますね。ちなみに今回のキャラクター生成には、どの程度のスペックのコンピュータが使われたのでしょうか。
栗原:1000万円くらいかかる高価なコンピュータです。企業にとっては大した額ではないと思います。ただ、今回のプロジェクトでは手塚治虫作品の顔画像だけではAIの学習に限界があったので、NVIDIAがAIで生成した架空の顔画像データをお借りしています。同社が数万人の顔を学習させて生み出した元のリソースには、数千万円の規模では済まないマシンが使われているでしょうね。
多くの人が人工知能の可能性について誤解している点として、人工知能って実はとてもお金がかかる技術だという事実があります。例えば、吉野家の従業員をロボットに置き換えたら人件費が浮くと考える人もいるかもしれませんが、AIの方が人件費よりもよっぽど高くつくんですよ。とんでもない電気代もかかりますしね。
ちなみに、人間は何ワットで稼働しているかご存知ですか。私たちの脳や筋肉も電気信号によって動いていますから、ヒューマンリソースも電気に換算できますよね。ヘアドライヤーがだいたい800Wから1,000Wくらいです。それに比べて一人の人間は60Wで活動できるんですよ。裸電球1個と同等なんです。脳だけなら10Wから15Wだと言われています。こんなエコなものは他にないんですよ。AIが消費している電力を考えたら、人間ほど環境にいい存在はありませんよね。まあ余談ですけど。
構造論を越えた新たなシナリオ制作の時代へ
大里:「TEZUKA2020」プロジェクトは一段落を迎えたわけですが、栗原研究室とエッジワークスの共同研究としてはプロットの自動生成はさらに追求していくのでしょうか。
栗原:もちろん、これで終わりではありません。やはり人に負荷をかけ過ぎたインプットデータを用意する過程は何とか自動化できるようにしたいですね。あとは今回の研究のきっかけとなった、小説の登場人物をAIで置き換えてみたいという学生の願いを実現すること。オンラインゲームのようなシミュレーション空間で自由に動き回るAIのキャラクターに、私たちが干渉することでインタラクティブにシナリオが形成されるような仕組みを模索しています。
山野辺:これは毎回研究室の方々にも話しているのですが、たとえキャラクターがAIで自動的に動きまわったとしても、それが必ずしもシナリオと呼べるものになるかどうかは分かりません。それをストーリーとして見るのか、それともドキュメンタリーとして見るのかによっても考え方は違ってきますけど。
従来のシナリオライターは起承転結や登場人物の設定といった構造論から制作へ入っていきますが、AI技術によってそうしたストーリーの作り方自体が変化していくのかもしれませんね。これまでにはなかったチャンネルが生まれることで、作家のルールを越えたところで成果物が生まれるようになってきたように感じます。
栗原:特定の業界に限らず、ある程度完成されたシナリオを手軽に生み出せるような汎用的なツールへと発展させていければいいかなと。
山野辺:そこまで作り方が変わってくると、従来の方法がいいと感じる人も出てくるかもしれないし、もしかしたらAIが生み出したものを不気味に感じる人も出てくるかもしれません。そこは『ぱいどん』がAIによって生み出されたマンガだと言われなければ分からないように、私たちの作り方次第でもあると思います。
栗原:ことさらにAIによって生み出された事実を強調する必要はないんですよ。すでにIllustratorのようなツールを使って絵を書く人は大勢いるけれど、だからといって違和感を抱く人はいないわけじゃないですか。要するに、AI技術もはじめは人々にとって珍しいものに映るでしょうが、世間一般で普通に使用される道具として定着していけばいいんですよ。
山野辺:あとは避けて通れないのが、AIによって生まれた作品の権利問題です。エンタメ業界で多くの人がもっとも気にしているのは、実はそこなんです。でき上がったものが面白いかどうかよりも権利関係をしっかりと管理できないと、さまざまな問題が生じてくるでしょうね。
Writer:河合律子