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CGへの扉 Vol.6:Facebookが取り組むVRとAIのアプローチ

2019.9.13アート

CGへの扉 Vol.6:Facebookが取り組むVRとAIのアプローチ

Facebook とVR/CG研究、AI研究

VRヘッドセット普及の一端を担った Oculus をSNS(ソーシャルネットワークサービス)で知られる Facebookが20億ドルで買収したのは 2014年のこと。以降、Facebookではコミュニケーションやデータ解析以外のVRやCG、画像処理関連の研究が広がってきています。もともとFacebookの中で研究組織が存在した人工知能や機械学習のグループとの協業により、VRやCG、画像処理の研究でも業界内で頭角を現し始めています。

前記事「CGへの扉 Vol.5:SIGGRAPH 2019に見るCG研究と機械学習」でご紹介したコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の学会 SIGGRAPHでも、2019年に4本、2018年に5本、2017年に2本と、論文を発表しています。発表者の所属組織を見ると、Facebook Reality Labs (旧Oculus Research)という VR/CG系の研究組織、120名ほどが所属しているといわれる Facebook AI Research (FAIR) という人工知能系の研究組織などが見られます。また、SIGGRAPHへの論文投稿はありませんが、Applied Machine Learning(AML)という機械学習系のグループも存在します。Facebook Research全体としては、現在約700名ほどの研究者が所属しており、SNS関連に限らずさまざまな研究がなされ、その研究成果の一部が公開されています。 

研究内容は AR/VR、写真加工、カメラ技術、コンピュータによる映像処理、デジタルデバイスの操作・体験、最新AI技術、機械学習、自然言語処理、音声合成、データサイエンス。コミュニケーションや経済、セキュリティ、ネットワークなど、現在の SNS、SNSアプリに必要な事柄から近い未来のコミュニケーションにまつわることまで多岐に渡っています。

Facebook が存在感を示す、SIGGRAPH 2019 における人工知能系VR/CG系の研究

一見 Facebookがどのような VR/CG研究をしているのかを想像するのは難しいですが、その研究内容を見ると、現在の課題をどのようにとらえ、それらをどう解決していくか、既存のSNSのモバイルアプリや将来の SNSやVRによるコミュニケーションをどのように創造していこうと考えているのかが読み取れます。

Neural Volumes: Learning Dynamic Renderable Volumes from Images (Facebook Research)

複数方向から撮影したビデオ映像から、3Dモデルを構築する方法です。例えば本人そっくりのVRアバターが制作できます。三次元の形状をエンコード・デコード(符号化・復号化)という考えで扱うことでデータ量を減らし、VR空間における自分の代わりとなる三次元モデル(アバター)として扱うことを想定しています。Facebookでは、ここで生成されるアバターのことを 「コーデック・アバター」と呼び、機械学習で一般的な顔の表情や、感情の表現方法などを少ないデータで再現できるように研究しています(コーデック・アバターに関しては ”Facebook is building the future of connection with lifelike avatars”をご参照ください)。

論文/動画:https://research.fb.com/publications/neural-volumes-learning-dynamic-renderable-volumes-from-images/

Learning to Optimize Halide with Tree Search and Random Programs (Facebook Research)

画像処理専用のプログラミング言語 Halide を高速に実行するための手法です。計算の順序を最適化するアプローチで、専門家がチューニングした場合よりも優れています。計算コストを機械学習によって最適化し、計算のタイミングや依存関係などを考慮した上で適切な順序で計算をスケジューリングします。

論文:https://research.fb.com/publications/learning-to-optimize-halide-with-tree-search-and-random-programs/
ソースコード:https://github.com/halide/Halide/tree/master/apps/autoscheduler/

VR Facial Animation via Multiview Image Translation (Facebook Research)


VR-HMD(ヘッドマウントディスプレイ)をかぶると、ユーザーの顔が隠れて表情が見えなくなる問題に対処するための技術です。改造したVR-HMD内部に9つの小型カメラを搭載し、顔の表情の動きを機械学習させます。

目の周りに4個、口の周りに5個付けられたカメラからの情報をもとに、ほぼ顔全体の表情データを取得します。その結果をもとに利用時には3個のカメラのみで顔の表情の動きをとらえ、VR内でユーザーの顔の表情を再現します。このアプローチによって、VR-HMDを被ったままでも実際の自分の表情に限りなく近い表情を、VR空間でコミュニケーションしている相手に送ることができるのです。

論文/動画:https://research.fb.com/publications/vr-facial-animation-via-multiview-image-translation/

Synthetic Defocus and Look-Ahead Autofocus for Casual Videography (Facebook Research, UC Berkeley共同研究)

元の画像は被写界深度が深い手前にも奥にもピントが合った状態だが、手前のスコップや奥の子ども達にのみピントを合わせるような動画に加工することができる

スマートフォンで手軽に撮影した動画に対して、背景がぼけたような被写界深度の浅い映像になるよう動画加工する手法です。さらにビデオカメラのオートフォーカスのように、被写体が移動してもフォーカスを合わせるべき被写体を自動追尾する仕組みを持ちます。

現在、スマートフォンで手軽に撮影したポートレート写真に対して、背景をぼかす加工が一般的になっていますが、本研究の技術が一般化するとスマートフォンで撮影した動画に対しても、特殊なカメラやレンズなしで映画のように被写界深度の浅く、雰囲気のある動画が手軽に撮影できるようになります。技術的には任意の焦点に合わせて背景をぼかす機能と、動画の次のフレームで、どこに焦点を合わせるべきか先読みしていく機能を組み合わせて実現されています。また HDR (ハイダイナミックレンジ)にも対応しているため、輝いているものや一部分だけ明るいものも違和感なく調整されます。

資料:https://ceciliavision.github.io/vid-auto-focus/
動画:https://www.youtube.com/watch?v=5XM_rw0HnAc

DeepFovea: Universal Neural Reconstruction for Foveated Rendering and Video Compression Using Learned Statistics of Natural Videos (Facebook Research)

VR-HMD(ヘッドマウントディスプレイ)用に考えられた、目の仕組みを考慮したビデオ圧縮とその映像を再構成する方法の提案です。人間の目は焦点を合わせた中心部しか見ておらず、その周辺はぼんやりと見ているだけです。その性質を利用してVR-HMDでは描画を省略し、中心部のみ高精細な描画を行いますが、現在一般的には、周辺部分を省略して精細度の低い映像しか表示させないことで、コンピューティングパワーやネットワーク帯域を節約する方法が使われています。

その際、本来望まない圧縮によってアーティファクトと呼ばれるノイズや余計な表示物などが残ったり、逆に必要なものが欠損して表示されない場合があります。そういったアーティファクトを軽減するためにGAN(敵対的生成ネットワーク)を活用し、本来描かれているであろう高精細な映像を再現しようというのが本研究のアプローチです。これによって、安価なVR-HMD、帯域の狭いネットワーク環境においても比較的良好な映像を観られる可能性が高くなります。発表の段階ではあまり詳細が明らかにされていませんでしたが、SIGGRAPH ASIA 2019 で論文発表がされるようです。

発表概要:https://s2019.siggraph.org/presentation/?id=gensub_306&sess=sess269

ソーシャルネットワークとVR/CG、人工知能の関係性

ここまで紹介した SIGGRAPHにおける Facebookの研究は、純粋なVR/CGの研究というよりは、VRをプラットフォームとしたオンラインコミュニケーションのために必要な要素や立ちはだかる課題を、一つひとつ対処していっているように見えます。

また、Facebook Researchは企業内の研究所であり、SNS広告などの企業活動で得られた資金をもとに研究開発を進められていると思われます。しかし単なる損得勘定や自社の利益を追い求めるだけでなく、社会全体、学術界、業界、AIやCG技術全体のことを考えて、最先端技術やその応用技術を、世の中が使いやすくさまざまな用途に広げられるように考慮されていることが見て取れます。その様子はソースコード共有サイト github にオープンソースとして公開される研究段階のプログラムや、研究内容の積極的な論文公開という透明性の高い振る舞いにも現れています。

主にコンピュータグラフィックスの描画のために開発、販売されていたGPU(Graphics Processing Unit)が、現在ではディープラーニング等の機械学習を高速かつ大量のデータを同時に扱って計算するために応用されています。Facebook ではそれらの応用をさらに推し進め、GPUの性能を最大限にいかした方法で、AI関連の計算負荷を減らすための独自の研究を進めています。これは理想の計算方法を追い求めるのではなく、GPUハードウェアに最適であることを優先させてAIの計算方法を考えるという、従来とは逆のアプローチです。これは今後爆発的に増えていくであろうAI関連の計算量をいかに安価に、かつ効率的に分散させていくのかといった考えのもとに進められているのでしょう。

Optimizing Facebook AI Workloads for NVIDIA GPUs (NVIDIAのイベントでの Facebookの発表)

現在Facebookで利用者に影響する人工知能の活用分野として実際に運用されているのは、有害なコンテンツやフェイクニュースなどのフィルタリング、ある人がどのようなコンテンツを好んで読むのかを学習し、どのコンテンツをフィードに流すのかといったコンテンツの選定、写真を文字で説明するための機能だといわれています。さらに一般的に知られていないSNSやメッセンジャーの機能でも、人工知能や機械学習をベースとした機能は、
これからますます増えていくでしょう。利用者が提供する膨大なデータをもとに、さまざまな人工知能研究や布石を打てるのがFacebookの強みなのかもしれません。

動画:https://developer.nvidia.com/gtc/2019/video/S9866 
※視聴は無料ですが、登録が必要です。
発表資料:https://developer.download.nvidia.com/video/gputechconf/gtc/2019/presentation/s9866-optimizing-facebook-ai-workloads-for-nvidia-gpus.pdf

本連載の今後の予定:「CGへの扉」は、単なるAIの話題とは少し異なり、CG/VFX, アートの文脈から話題を切り取り紹介していきます。映像制作の現場におけるAI活用や、AIで価値が高まった先進的なツール、これからの可能性を感じさせるような話題、テクノロジーの話題にご期待ください。なにか取り上げて欲しいテーマやご希望などがございましたら、ぜひ編集部までお知らせください。

CGへの扉:

Vol.1:CG/VFXにおける人工知能の可能性と、その限界

Vol.2:なめらかなキャラクタアニメーションと、ディープラーニングの役目

Vol.3:CGとAIの蜜月が今まで不可能だった映像を生みだす

Vol.4:CG/VFX制作に欠かせなくなったマシーンラーニングの勘所

Vol.5:SIGGRAPH 2019に見るCG研究と機械学習

Contributor:安藤幸央

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