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NetHackチャレンジを制したのはハイブリッドモデル。浮き彫りになったニューラルネットワークモデルの課題

2022.1.28ゲーム

NetHackチャレンジを制したのはハイブリッドモデル。浮き彫りになったニューラルネットワークモデルの課題

昨年6月、旧Facebook(現在はMeta)はニューラルネットワークに関する世界的カンファレンスNeurlPS 2021で行われるコンペティションのひとつとして、AIにローグライクゲーム『NetHack』をプレイさせてスコアを競う大会「NetHack Challenge At NeurIPS 2021」(以下、「NHC 2021」と略記)の開催を発表しました。本稿では昨年12月に行われた同大会の結果報告を通して、ゲームプレイAIが今後取り組むべき課題を明らかにします。

世界最高難度なNetHack

プレイの度にダンジョンがさまざまに自動生成されるため、同じ状況下でのプレイが原理的に再現されないことを特徴とするローグライクゲームに属するNetHackは、豊富な敵キャラクターやアイテムもあることにより世界最高難度のゲームのひとつと考えられています。

NHC 2021では、ルールベースのゲームプレイAIでNetHackをプレイする部門、強化学習をはじめとするニューラルネットワークを開発技法に採用したゲームプレイAIで参加する部門、さらにゲーム開発業者ではなく大学などの学界の研究チームが参加する部門の3部門が用意されました。そして、これら3部門の全出場者のなかから最優秀ゲームプレイAIを決定します。

スコアを競うにあたっては、NetHackを複数回プレイしてゲームの目的であるダンジョンの最下層から最重要アイテム「イェンダーの魔除け」を持ち帰った回数で順位を決めます。出場した全AIが魔除けを持ち帰られなかった場合は、プレイごとにモンスターを倒すなどして得られるスコアの中央値を競います。

なお、出場AIの開発環境および競技環境は、旧Facebookが2020年に発表したNetHack Learning Environment(NLE)を利用します。同社は、同環境発表時に強化学習を用いたNetHackプレイAIも発表しました。しかし、このAIは同ゲームの熟練人間プレイヤーと比較して圧倒的に低スコアしか記録できませんでした。こうした結果をふまえて、NetHackを攻略するAIに関する知見を研究コミュニティで共有する意味も込めて、NHC 2021は開催されたのでした。

参考記事:ゲームプレイAIに対する新たな挑戦「NetHackチャレンジ」とは何か?

「稼ぎプレイ」に徹したAIが続出

NHC 2021の主催者チームは2021年12月、同コンペティションの結果をまとめたレポートを公開しました。そのレポートによると、イェンダーの魔除けの持ち帰ったAIはなかったものも、前述の3部門を合わせた総合ランキングのうちトップ3はルールベースAIが占めるというやや意外な結果となりました(下のグラフ参照。赤の棒がルールベースAI、青がニューラルネットワーク)。

ランキング1位になったAIは、大会で唯一のルールベースとニューラルネットワークを併用するハイブリッドモデルでした。同AIは、モンスターが接近する状況に応じてルールベースとニューラルネットワークを切り替えるアルゴリズムを実装していました。

好成績を収めたルールベースAIの各開発チームには、NetHackのゲームプレイに精通した開発者がいました。そうしたチームには、機械学習の開発経験が豊富なメンバーもいました。実際、上位2チームは当初はニューラルネットワークを開発技法として採用していたものも、開発途中でルールベースのほうがハイスコアを狙えると判断して開発技法を変えた、とのことでした。

大会の全体的傾向として、NetHck本来の目的であるダンジョン最下層にあるアイテムを取りに行かずに、モンスターが弱いために死ぬリスクが相対的に少ないダンジョン上層で弱いモンスターを倒し続ける「稼ぎプレイ」に徹するゲームプレイAIが多数あったことが報告されています。こうした消極的な戦略の流行は、ゲームをクリアできない場合は複数回プレイの中央値を競う大会のルールに低リスク状態で適応した結果とも見なせます。

明確な報酬がない状況に弱いAI

稼ぎプレイがトレンドとなってしまった結果をうけて、NHC 2021レポートは今後の大会運営に関する改善点として目標設定の修正を挙げています。第1回目の今大会で複数回プレイにおけるハイスコアではなく中央値が比較指標として選ばれたのは、ローグライクゲーム特有の偶然性に評価が影響を受けないようにするためでした。ハイスコアを比較指標に選ぶと、偶然簡単な構造のダンジョンの生成が続いた結果、突発的にハイスコアが記録される可能性が排除できないのです。

レポートは、ルールベースAIがニューラルネットワークAIをスコアで凌駕した理由についても考察しています。NetHackを攻略するには、「ユニコーンの角を使って解毒する」のような明示的に定義しやすい攻略のヒントを知っているか否かが非常に重要になります。ルールベースAIは、こうした攻略のヒントをニューラルネットワークよりアルゴリズムに組み込みやすいのです。戦略のヒントを実装することの重要性は、ランキング上位の開発チームには人間の熟練プレイヤーがいたことからもうかがえます。こうしたチームは、おそらく自分たちが知っている戦略のヒントをAIに実装してハイスコアを記録したのでしょう。

また大会レポートは、ニューラルネットワークAIがNetHackのプレイに苦戦する原因として、明確な報酬を設定するのが難しいことを挙げています。同ゲームには魔除けを持ち帰るというおおまかな戦略目標があるものも、その目標から個々のダンジョンにおける立ち居振る舞いを導出することは極めて困難です。こうした戦術的目標が定かでない「まばらな報酬(sparse reward)」状態では、強化学習をふくめたニューラルネットワークAIが効率的に学習できないのは以前から知られていました。

まばらな報酬状態におけるニューラルネットワークAIの学習を改善した事例として、ローグライクゲームと同様にダンジョンを探索するテキストゲーム『Zork』プレイAIに関するMicrosoftの研究があります。この研究では、逆動力学デコーディングと人間プレイヤーが残したプレイログを用いた学習によってZorkのプレイにおけるスコアを上昇させました(以下の参考記事も参照)。

NHC 2021レポートも、ニューラルネットワークAIのスコアを改善する案として人間プレイヤーのプレイログから学習することを示唆しています。人間が残したプレイログを学習すれば、ルールベースAIのように明示的なアルゴリズムとして組み込まなくても、ニューラルネットワークAIが戦略のヒントを習得できるかも知れません。

前述のようにいまだNetHackを攻略したAIが現れていない現状では、ルールベースAIとニューラルネットワークAIの両方に同ゲームを攻略する可能性が残されています。もっとも最優秀AIがハイブリッドモデルだったことから、2回目のNetHack Challengeが開催された場合、ハイブリッドモデルが主流になると予想されます。ぜひとも2回目の大会を開催することで、ゲームプレイAIの新たな可能性と限界を示して欲しいところです。

参考記事:無数の可能性から最適な行動を選ぶ。『Zork』プレイAIに見る言語的世界との新たな相互作用

Writer:吉本幸記

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