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無数の可能性から最適な行動を選ぶ。『Zork』プレイAIに見る言語的世界との新たな相互作用

2021.7.27ゲーム

無数の可能性から最適な行動を選ぶ。『Zork』プレイAIに見る言語的世界との新たな相互作用

マイクロソフトの研究開発部門マイクロソフト・リサーチは6月7日、テキストゲーム『Zork』をプレイするAIを論じたブログ記事を発表しました。この記事にもとづいて、以下では新たな強化学習技法を使って同ゲームを攻略した顛末を解説します。

膨大な行動範囲を内包した『Zork』とは

1980年に発表された『Zork』(1980年、インフォコム)とは、ディスプレイに表示されるテキスト文からゲームの状況を読み取ったうえで、プレイヤーが行動をテキスト文で入力するインタラクティブフィクションと呼ばれるジャンルに属するゲームです。このジャンルのゲームにはプレイヤーの行動をテキスト文で入力するというゲームデザインを可能とするために、入力文を理解するためのテキスト解析ルーチンが実装されています。

Zorkには「地下迷宮の宝物を探して生還する」というおおまかなストーリーが設定されており、その地下迷宮には古代寺院や火山といったさまざまな景色が広がっています。プレイヤーが遭遇する多種多様な状況に対して、入力可能な行動は無数に考えられます。そうした行動範囲は、状況説明文を読んで行動を入力する一連のステップごとに98万通りの可能性があるとも言われています。

以上のようなZorkをプレイするAIには「状況説明文の理解」と「理解した状況において可能な行動の列挙」、そして列挙した行動の中から「ゲーム攻略につながる最適行動の選択」という3つの機能の実装が求められます。これらの機能を実装するには、自然言語処理と強化学習というAI研究における代表的な2つのドメインに立脚することが求められます。

報酬が不明確でも探索するには

ZorkプレイAIに必要な3つの機能のうち、最も実装が難しいのは「ゲーム攻略につながる最適行動の選択」です。チェスをプレイするような従来の強化学習AIにおいてはゲームの目標達成につながる報酬を明示的に定義することが容易だったので、ゲームプレイを繰り返すことで最適行動を絞り込めました。

対してZorkでは「地下迷宮の宝物を探して生還する」という大まかな長期的目標がありますが、個々の状況説明文のなかから長期的目標達成につながる手がかりを判別するのは困難です。目標達成につながる手がかりが不明瞭なため、報酬が何であるかも不明確です。それゆえ、Zork攻略には報酬にもとづいた強化学習は効果的ではありません。

Microsoftの研究チームが従来の強化学習の代わりに採用した技法が、逆動力学デコーディング(inverse dynamics decoding)です。この技法は、ゲームプレイAIが自身の行動を予測した際の精度を向上させるように学習するというものです。行動の予測は、時間的に前後した状況の推移にもとづいて行われます。例えば、「木の根元に立っている」と「木の枝に座っている」という状況の推移が観察された場合、「木に登る」という行動が予測されます。逆動力学デコーディングを使えば、報酬にもとづかずに行動を絞り込めます。この技法に関しては、スーパーマリオブラザーズやゲームプレイAI用に開発されたDOOMである『VIZDOOM』の攻略に使われた先行研究があります(以下の参考論文を参照)。

【参考論文】Curiosity-driven Exploration by Self-supervised Prediction(自己学習による好奇心ドリブンな探索)

逆動力学デコーディングを使うと、初めて遭遇する未知な状況下でも継続して行動できるようになります。今回開発したZorkプレイAIのプレイログを確認すると、「曲がりくねった小さな通路が同じように並ぶ迷路を進むと、コインを手に入れた」といった未知な状況の探索が長期的目標の達成につながった形跡がありました。こうした未知な状況の探索は、報酬にもとづいた強化学習では回避されていたかも知れません。

ゲーマーから学ぶ

マイクロソフトの研究チームは、逆動力学デコーディングのほかに新たな自然言語処理の技法も使いました。その技法とは、CALM(Contextual-Action Language Modelの略称)と呼ばれるものです。この技法は、2019年に発表された自然な英文を生成することでAI業界を驚愕させた言語AIであるGPT-2を、テキストゲーム攻略用にファインチューニングするというものです。

GPT-2をファインチューニングするには、さまざまなテキストゲームのプレイログが必要になります。幸いなことにテキストゲーム愛好家が管理しているデータベース「ClubFloyd」があるので、このデータベースから590のゲームに関する426のプレイログを採取して学習データを作成しました。

ZorkプレイAIには、最終的に逆動力学デコーディングとCALMの両方が実装されました。ゲームプレイにおいては、CALMが状況説明文を前提条件として可能な行動のリストを生成して、逆動力学デコーディングによって行動リストから最適な行動を絞り込むという役割分担が行われました。

以上のようなアーキテクチャで構築されたZorkプレイAIに対して、Zorkを含めた28のテキストゲームをプレイした平均ゲームスコアを測定したところ、従来の最先端テキストゲームプレイAIと比べて69%のスコア向上が認められました。もっとも、テスト対象となったテキストゲームのプレイのなかには従来のスコアを超えられなかったものがあるので、テキストゲームプレイAIにはまだ進化の余地が十分にあると言えます。

ZorkをはじめとしたテキストゲームをプレイするAIには、言語的に構築された世界との相互作用を通してタスクを解決することが求められます。それゆえ、テキストゲームプレイAIの研究を進めれば、AIの「言語を介して世界を理解する」能力を進化させることにつながるのではないでしょうか。

Writer:吉本幸記

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