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トレカの累計出荷数10億枚を超えた『WCCF』シリーズの選手AIはこのように進化した:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.5<後編>

2022.8.31ゲーム

トレカの累計出荷数10億枚を超えた『WCCF』シリーズの選手AIはこのように進化した:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.5<後編>

2002年に登場し、全国各地のゲームセンターで大人気を博したサッカーゲーム『WCCF』こと『WORLD CLUB Champion Football』シリーズ。選手のトレーディングカードとビデオゲームを融合させる前代未聞のシステムを搭載した、本シリーズならではの選手AIはどのようにして作られたのでしょうか? 前編に引き続き、プロデューサーを務めた柏田知大氏、プログラマーの田邊雅彦氏にお聞きしました。

『WCCF』の筐体(※写真は2004年9月に稼働を開始したシリーズ第2弾『WCCF 02-03』)

——『WCCF 08-09』以降のシリーズではゴースト対戦だけでなく、異なる店舗にいるプレイヤー同士でもリアルタイムで対戦ができるようになりましたが、このタイミングでも選手AIのプログラムの改良、または大幅な調整などが実施されたのでしょうか?

柏田:いいえ。それほど大きくは変わっていなかったと思います。

田邊:大きな仕組みに変化はなくて、どちらかと言うとAIの調整はセーブして、リアルタイム対戦ができるようにサーバー側に固定したAIでチェックすることが必要になったので、そのバージョンに関してはあまり変更がなかったですね。

——つまり、AIのプログラムそのものというよりは、情報のやりとりの仕組みをリアルタイム対戦向けに作り変えたっていうことですね。

田邊:はい。モーションなどのデータを丸ごとやり取りすると容量をものすごく使ってしまうので、基本的にはお互いのキー入力だけを送り合って、双方で同じ計算が行われてるという前提で処理をしていました。

もしランダムや守備順、それからモーションの細かなズレなどがあった場合は、そのせいで同じキー入力をしたつもりでも試合結果がどんどん分かれると言いますか、別々の試合結果になってお互いに勝つような事態が起きますので、これをどれだけ抑制するかがすごく大変でしたね。

柏田:このときは、具体的にどんな対策を?

田邊:試合がズレた側のログを引っ張ってきたうえで、お互いの試合を再生しながら、どの瞬間にどの処理でズレずれたのかを毎回洗い出していました。ランダムの呼ばれ方が違うとか、モーションの選択のされ方が違っていたとか、ひとつずつ地道につぶしていました。

当時はログが店舗の筐体にしか入っていなかったので、そこから手元に吸い上げて実際に再現する仕組みを作るのがすごく大変でしたね。AI自体の調整は、クリティカルな部分には対応しながらも、ある程度の所までで留めておいたように思います。

——サーバーに各プレイヤーのプレイデータを保存できる機能を利用して、例えばプレイヤーごとの実績や、キー入力などでトレースしたプレイスタイルなどによって、選手AIが変化する要素もあったのでしょうか?

田邊:試合結果によってチームの成長度などは変わりますが、AIは基本的には変わりません。ほかに変わる要素は実況とかですね。

——キックオフ時のチーム紹介で「攻撃的なチームです」とか「現在、10試合連続で無失点記録を継続中」とか、色々な実況のボイスが流れましたよね。

田邊:そこでAIを色々と変えてしまうと、また試合ズレの問題が起きるんです。こっちのプレイヤーはこんな経歴ですとか、あっちのプレイヤーはこういう経歴を持っているとか、お互いの経歴はあまり見ていなくて、基本お互いのキー入力でしか通信をしませんから、もし経歴でAIが変わる場合は相手のAIと自分のAIとで違う動きが起きてしまうんです。

そこで、試合結果に影響しない範囲で、プレイヤーの実績によって何か見た目を変えるとなったときに、実況がちょうどいい落としどころになったのかなと思いますね。試合ではなくて、監督のその年俸に落ちたんで勝つ実績で読み方、例えば練習の時とかそういうとこに反映される感じですかね。

柏田:プレイヤー、つまり監督の能力みたいなものは、選手の育成度合いみたいな部分に反映されて、その育成の結果が試合に反映されるという1本の道ができているイメージですね。監督の能力が試合にも影響してしまうと、監督の能力にあたる範囲がものすごく広がってしまいますので。

育成の結果に加えて、監督の能力が試合に影響するとなると、試合への道筋が2つできてしまう、しかも大元はひとつなのに……ということになると、うまくコントロールすることができませんので、1 本にしようと考えて作りました。

2009年11月より稼働開始した『WCCF 08-09』の筐体

新シリーズ『WCCF FOOTISTA2019』以降のAI開発

——2019年から、新シリーズ『WCCF FOOTISTA2019』の稼働が始まりましたが、筐体もゲームシステムも一新されたことで、選手AIの構造もガラッと作り変えたのでしょうか?

柏田:いいえ。基本的には変わっていないですね。

田邊:今度からはUnreal Engine4を使うということで、まずは移植が大変でしたね。それまではC++で作っていたのですが、1度ブループリント側に落とし込まなければいけませんでした。それがとにかく大変で、味付けみたいなことを始めたのは移植が終わった後からでしたね。

以前は30フレームだったモーションが60フレームに変わったのですが、それだけでも意外と影響が大きくて、選手がボールを蹴れる範囲が60フレームになったらいきなり半分になったりしたので、そこを広げなきゃとか設定値を変えなきゃとか、まずはちゃんと動くようにすることを目指していました。

旧シリーズからソフトもハードもシステムを一新した『WCCF FOOTISTA2019』の筐体。2019年3月より稼働開始

——『FOOTISTA2019』以降のシリーズでは、カードのデザインもデータの見せ方もガラリと変わり、公式サイトやプレイヤーズサイトにログインすると、すべてのカードのパラメーターが見られるようにもなりましたよね。

柏田:はい。パラメーターすべて見られるようにしました。100種類ほど設定しておいたパラメーターのうち、以前にお話した「運」以外にも、そのタイミングで使っていなかったものがたくさんあったので、使ってもあまり意味がないものは基本的には排除して、ほぼリニューアルしたと考えていただければいいかなと思います。

できればプレイヤーの皆さんに対してちゃんと見せたい、ぜひ可視化したい思いもありましたので、説明をしやすくなるように考えて作りました。ただ、100種類もパラメーターを見せられた所で、それを処理するのは大変ですし、見せ方としてはちょっと失敗したかもしれませんが、なるべく説明が分かりやすい名前を付けたり解釈したりできるように意識しながら作っていました。

——旧『WCCF』シリーズのカードも、引き継ぎカードを作れば継続して使えるようになっていましたが、旧カードを新シリーズの仕様に合わせるうえで、何かご苦労なさったことはありますか?

田邊:パラメーターが一新されたことで、旧カードにも新しいパラメーターを割り振る必要が出てきました。過去のパラメーターは手打ちで入れることができませんので、そうすると新パラメーターを作ってもらった段階で、旧カードからもうまく変換できる仕組みですとか、自動生成とかを作る必要が出てきたので、当時の私はずっとこれにかかりっきりでした。移植や変換、ウェブ上でのツール作りなどは自分がやって、AIの調整などは後輩たちに任せていましたね。

——『WCCF』シリーズは、ほぼ毎年1回バージョンが大きく変わり、登場する選手カードもAIも変えていましたが、毎シーズンAIのプログラムを制作する期間は、大体何日ぐらいかかっていたのでしょうか?

田邊:シーズンの途中でVer.2.0とかが出るようになって、ほぼ半年に1回程度のペースで作っていましたから、およそ3か月ぐらいだった思います。まず市場での反応を見て、今後どうやって調整しようかとか、新カードのラインナップを見て「今回は、この選手が目玉になるな」とか、状況を見てどういう方向性にするのか、どんな要素を足していくかなど、まずは仕様を詰めていきました。

それから、リリースされるまでの間に約3か月の時間がありますので、そこで調整や変更を加えていくといった作り方を、半年ごとのペースで回していたように思いますね。

柏田:まとめますと、作り方は大きく前期と後期に分かれるようなイメージで、前期にあたる『WCCF 06-07』からしばらくの間、大体『WCCF 08-09』まではロールの4階層の仕組みを整えていた時期でした。『WCCF 09-10』あたりから『WCCF 18-19』までは「こんな要素を足して面白くしていこう」という方向にシフトしていきました。

私が現場でガッツリ作っていたのは前期のほうで、後期になってからは「ここまではやっておいたから、あとは面白くしてね」と、後進に託す立場になりました。前期の初めの頃はとにかく大変で、特に『WCCF 06-07』でチームスタイルのシステム作ったけれども、特定のチームスタイルひとつだけがすごく有効みたいなことになったので「次回は、そこをもっと平らにしよう」とか「ほかのチームスタイルも同じぐらい機能するように頑張ろう」とか、テーマを掲げながら改善を続けていました。

——今、バランス調整のお話が出てきましたが、ほかのソーシャルゲームなどでもバランスブレーカーになるカードが出てくることが往々にしてあるかと思います。『WCCF』シリーズではそれを防ぐためにどんな工夫していましたか?

柏田:先ほどお話した、ひとつのチームスタイルだけが有効になった例で言いますと「アーリークロス重視」という、自陣に近い位置からでもクロスを上げるようになって、ゴールゲッターにボールを合わせる戦術があったのですが、最初の頃はアーリークロスが出るとほぼゴールが決まってしまうので、そういうものが見付かった場合はその都度つぶしていました。

今であれば、多分キー入力のデータとかを全部取って機械学習をさせれば「あ、こういうチームスタイルだと勝ちやすいのか」と、どの要素がどれだけ影響しているのかを割り出して「このアーリークロス重視のままではダメだよね」などと調整していくとは思いますが、昔は地道と言いますか、本当に泥臭いやり方で対応していましたね。

田邊:今のスマホ用ゲームなどは、すぐにパッチや修正ができますけど、当時はROMをリリースするタイミングでしか修正ができなかったので、もし何か問題が見付かった場合は半年間、次のリリースまで我慢して待つしかありませんでした。途中から、外部ファイル化などの対応もしましたが、パラメーターを使って多少の調整は可能でも、AIそのものを直すのはまだ難しかったので、AIを途中で調整するのは最後まで実現できなかったですね。

昔のインターネットが普及していない時代は、その時々のゲームセンターごとに流行っている遊び方が噂としてプレイヤー間で伝わっていて、もしそれがリセットされたら、また新しい攻略法を探そうっていう遊び方が認められていた気がしますね。今、同じことをやるとナーフって言われちゃいますが(笑)。

『WCCF FOOTSTA』シリーズのMatch(試合)構造

——2009年に開催された日本デジタルゲーム学会の公開講座で、田邊さんが『WCCF』シリーズのAIをテーマにしたご講演を一度されていますよね。発表後、ほかのメーカーの開発者から注目されたり、あるいは別の学会などで評判が広がったりしたのでしょうか?

田邊:機械学習はしていなかったですし、あとはAIの学会自体が、一人称視点での経路探索とか敵を攻撃するとか、RPG的な分野がすごく広くて、先ほども説明した多人数での役割分担とか、その役割の中で誰が何をするのかとか、全員で 1 つのボールを目掛けてプレイするような考え方をやっている分野は、それほど多くはないんですね。ですから、何かこちらのほうからお伝えする機会は今までほとんどなかったように思います。社内では、新人が入ってきたときに勉強会用の資料を毎回作っていたら評価を受けたことはありました。

【講演資料】WCCF AIエンジニアリング:サッカーゲームAIの設計と実装(日本デジタルゲーム学会)

——シリーズ最後の作品である『WCCF FOOTISTA2021』は、今年の3月でサービス終了となりましたが、お二人が本シリーズ培ったAI構築のノウハウは、すでにほかのタイトルの開発にも応用されているのでしょうか?

田邊:今は『ファンタ―シースターオンライン2 ニュージェネシス』で、AIというよりは裏方みたいな仕事をしています。地形データからAIやプレイヤーに渡すための、地面に埋め込むデータの作成に関わっています。ここから攻撃ができるよとか、ここは飛び降りることができますよとか、そういったデータですね。

運営側の目線で「今はこうだけど、いずれはここを改善していこう」などと長期的な見方ができるようになったのは、『WCCF』シリーズでの経験がすごく生きたからだと思いますね。バグを我慢する耐性もふくめて(笑)。

柏田:私は家庭用ゲームのセールで割引率を何パーセントにするのが最適なのかを機械学習で予測したりとか、アーケードゲームでプレイ人数は何人になるのか、どのタイミングで離脱するのかなどの予測モデルをたくさん構築したりですとか、今までとは全然違うビジネス寄りの仕事が多いですね。

取材を終えて:アーケードゲームとして、さらにトレーディングカードを融合させて遊ぶ独創的なゲームとして、およそ20年間も作り続けた『WCCF』シリーズの選手AIは、おそらく世界中どこを探しても誰も持っていない、極めて貴重な財産であることはおそらく間違いないでしょう。今年3月にサービスが終了したばかりということもあり、本シリーズのAI開発のノウハウが、別タイトルや他の分野に応用される所までは進んでいないとのことでしたが、今後はサッカーゲームに限らず、本シリーズのAIの仕組みがあらゆるゲーム開発の発展に寄与することを大いに期待したいですね。

Writer:鴫原盛之​​

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