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これからの情報の大海を航るために必要なAIの形:月刊エンタメAIニュース vol.25

2022.1.25先端技術

これからの情報の大海を航るために必要なAIの形:月刊エンタメAIニュース vol.25

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間、主に海外で公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

神経生理学から見るAIの形

人類による電子演算の歴史は、中央集権的な制御機構に縛られてきました。垂直統合型の電子複合体としての一般的な人工知能モデルも例外ではありません。一方で人間の知能とは、無数の神経細胞(ニューロン)に連鎖するインパルスの賜物と解釈できます。テクノロジーが人間の知能をもっとも忠実に再現できるとしたら、その可能性は集権型制御の呪縛を脱した神経生理学的なアプローチの先にあります。そうした新たなAIの形として期待されるのが、人間の脳とコンピュータを技術的に統一した電脳というコンセプトです。

しかし、ニューロンを特定の機能と結びつける関係性の解明は困難で、さらに脳細胞には活動しながら性質を変化させるという特性があることから、電子部品の設計図のようには明確な構造を定義できません。もうひとつの課題は、人工的な電気信号をいかに生理的なインパルスに変換するか。その逆も然りです。神経生理学の観点から人工知能を研究するOleksandr Kostikov医学博士は、こうした課題を克服できる新たな仕組みを提唱しています。

その鍵を握るのが、コンピュータから脳細胞へ信号を発するトランスミッターと、脳細胞からの信号を受け取るレセプターを、完全に分離させた制御機構だといいます。この時、トランスミッターはニューロンではなくシナプスへのみ信号を送ります。これにより人工信号はインパルスとしてニューロンで処理され、脳は「Synaptic Plasticity」(前述した活動と共に性質を変化させる特性)を維持します。

一方、レセプターは細胞の状態を記録するマーカーのネットワークとして機能し、それらがニューロンのアドレスやフィードバックソースになるということです。これらは脳細胞に統合できるナノサイズのビーコンであり、注射によって脳内に埋め込む手法が想定されます。これが可能であれば、完全にワイヤレスかつ手術を一切必要としない電脳が実現できるかもしれないということです。

脳とコンピュータとの間で直接データの交換ができれば、もはや音や文字を使った意思疎通に意味はなくなります。つまり、言葉に依存しないコミュニケーションが可能になるということです。手足を使って電子機器を操作する必要もなくなるでしょう。あらゆる乗り物やデバイスを身体の一部として直感的に操れるようになるかもしれません。また、知識やスキルもインターネット上からダウンロードしてインストールするだけで習得できるでしょう。そんな世界では、映画やゲームは文字通りの仮想現実と化すことが考えられます。

インターネットの到来により人類を取り囲む情報量は爆発的に増加しました。1997年から2002年までのたった5年間で、人類はそれまでの歴史全体を超える情報を生み出したとされています。現在、インターネットに広がるデジタルデータの総量は18か月ごとに倍増していると言われています。人間の脳は圧倒的なエネルギー効率を誇る反面、そんな情報の大海を航るには処理速度が遅すぎるのです。一方、コンピュータは脳細胞の数百万倍の速さで情報を処理できます。脳のエネルギー効率と柔軟性にコンピュータの処理速度が加わった時、情報の海を制した人間は知能の定義を更新するのかもしれません。

デジタル資産としてのAIアート

以前、敵対的生成ネットワーク(GAN=Generative Adversarial Networks)を使って風景画を自動生成する「NVIDIA Canvas」や、自然言語の情報に基づいた3Dモデルを自動生成するAIモデルを紹介しました。すでにインターネット上には、単語や短文を入力するだけでユニークな顔画像を自動生成してくれるArtflowのようなウェブサイトも数多く存在します。こうしたアルゴリズムによって芸術作品を生み出すAIアートは、非代替性トークン(NFT=Non-Fungible Token)の新たな触媒として人々の関心を集めています。

関連記事:AIに想像力を与えるために必要なこと:月刊エンタメAIニュース vol.19

AIが数学者の羅針盤になりうる未来は近い:月刊エンタメAIニュース vol.24

NFTは画像や音楽、動画といったデジタル作品と所有者をブロックチェーン技術で結びつける仕組みとして、2017年頃から急速に拡大した新たなデジタル資産の形です。2021年前半には、多くのデジタルアートやネットミームがオークションハウスやマーケットプレイスで高額売買されるなど、投機的な価値が爆発。一部でドットコムバブルを彷彿させるようなバブル経済を生み出しました。その市場規模は250億ドルに上ったと報告されています。

Art AIが運営するEponymというサービスでは、ユーザーが入力したテキストを基にAIがアート作品を自動生成し、それらをNFTマーケットプレイスのOpenSeaへ直接出品できる仕組みが構築されています(トップ画像参照)。また、Metascapesという写真家が運営するプロジェクトでは、アルゴリズムによって生成された疑似風景写真をNFTとして発行しています。すでにOpenSeaでは膨大な量のAIアートがNFTとして取引されており、今後も市場は成長を続けると予想されます。

人間そっくりなAIボイスの市場価値

18世紀ハンガリーの発明家ヴォルフガング・フォン・ケンペレンが人類史上初とされる音声合成機を生み出してからおよそ200年。急速なAI技術の発展に後押しされて、アップルのSiriやグーグルのGoogle Assistant、アマゾンのAlexaを筆頭に、人間のように違和感なく発話できる音声合成技術は、いまや身近な存在となりました。近年、その延長線として特定人物の肉声を忠実に再現する音声クローニングへの関心と市場価値が高まっています。

1月17日にアメリカのNPRが取り上げた企業Speech Morphingは、クライアントのボイスサンプルからニューラルネットワークを構築し、機械学習によって本人そっくりに仕上げた合成音声を販売しています。同社によると、音声の基盤構築に必要なのはたった10分から15分程度の収録音源だといいます。依頼者が読み上げた一見取り留めもない数百種類のフレーズから、AIは話者ごとに特有の波形を学習しているのです。

昨年のCEDEC 2021でも、「学習ベースの自然な音声合成技術のキャラクターボイスの応用と実運用」というセッションにて、肉声の抑揚やテンポを真似させる「韻律射影」あるいは「韻律転移」という技術が紹介されました。こうした技術の登場と発展により、合成音声の作業効率や調整幅は日々向上し続けています。

関連記事:【CEDEC2021】ゲームキャラクターの声を音声合成に置き換えるのは可能か

ちなみにアマゾンでは以前から、Alexaの音声をタレントシェフのゴードン・ラムジーや俳優のサミュエル・L・ジャクソン、アメコミヒーローのデッドプールそっくりの声に置き換えるセレブパーソナリティシリーズが販売されています。また、日本テレビの番組「世界一受けたい授業」でも先日、山瀬まみさんの声を完全再現するAIが紹介されました。

音声クローニングは、事故や病気で声帯を失った人の声を取り戻す希望の光として取り上げられることもある一方で、故人の肉声を再現するようなプロジェクトでは倫理的な観点からたびたび賛否両論が巻き起こってきました。くわえて、将来的に合成音声の再現精度が高まれば高まるほど、特定人物へのなりすましや発言内容の捏造といった悪用も十分に想定されます。AIと共生する未来に向けて、そうした弊害も含めたテクノロジーの理解が私たちには求められます。

自然言語処理モデルGopherは文系?

人間を負かした囲碁AI「AlphaZero」で知られるDeepMindは2021年12月8日、同社独自の大規模自然言語処理モデル「Gopher」を発表しました。2800億個のパラメータから構築されているとのことで、これはOpenAIが2020年に発表した「GPT-3」の1750億個をはるかに上回る規模です。ちなみにマイクロソフトとNVIDIAが2021年に発表した「Megatron」は5300億個のパラメータを誇っています。

自然言語処理モデルにおけるパラメータは複雑さを示す指標であり、一般的に規模が大きいほど言語処理能力に長けていると考えられています。しかし、言語処理とは単純に文章の読解にとどまらず、文脈をとらえる論理や差別的な表現の判別など多岐にわたるため、一概にパラメータのサイズが優劣につながるとは言えません。

同社が掲載した論文によると、Gopherは文章の読解において極めて高いスコアを記録しており、その能力は人間の高校生に匹敵するといいます。一方、数学的なリーズニングスキルにおいてはまだまだ改善の余地があるとのことです。それを踏まえても、専門家による適切な運用が前提であれば、与えられた情報を極めて正確かつ効率的に要約できることは間違いないでしょう。

Writer:Ritsuko Kawai / 河合律子

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