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サッカーの戦術分析にも活躍。AI活用の新たなフロンティアとしての(e)スポーツ分析

2021.5.25先端技術

サッカーの戦術分析にも活躍。AI活用の新たなフロンティアとしての(e)スポーツ分析

スポーツのプレイを統計的に考察することは、野球のセイバーメトリクスに見られるようにもはや一般的です。こうした統計的考察をさらに推し進めて、AIによって客観的にプレイを評価する試みが始まっています。この記事では、DeepMindが発表したAIを活用したサッカーの戦術分析の事例を紹介します。

AI活用のための理論的背景

Google傘下のAI研究機関であるDeepMindは5月7日、AIを活用したサッカーの戦術分析を解説したブログ記事を公開しました。その記事によれば、イングランド・プレミアリーグの強豪リヴァプールと共同研究したサッカー戦術分析は、3つの理論的背景をもっています。

ひとつめの理論的背景は、ゲーム理論です。複数の意思決定者の相互依存的な行動選択を記述する理論であるゲーム理論は、複数のプレイヤーがゴールを目指すサッカーのプレイ選択の考察に応用できるのは以前より知られていました。

ふたつめの背景は、統計的学習です。DeepMindの研究チームは、セイバーメトリクスのようにサッカーのプレイも統計値として数量化したうえでその特徴を分析しました。プレイの数量化に際しては、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学コンピュータサイエンス学部から発表された論文を参考にしました。この論文では、サッカーのプレイをパスやドリブルを含む19のアクションに分類したうえで、プレイスタイルを考察することを提案しています。

みっつめが画像認識です。攻守のプレイヤーたちが入り乱れるサッカーの動画から特定のプレイを抽出する研究は、近年の画像認識AIの発達によって大きく進化しました。こうした技術的進化のおかげで、大量の試合動画からプレイに関する統計情報を生成できるようになったのです。

以上のような3つの理論的背景が重なり合うことによって、AIを活用した戦術分析が可能となりました。この分析の革新性は、画像認識によって生成されたサッカープレイに関する統計情報を、ゲーム理論にもとづいてAIがその特徴を抽出する、と言えます。

「ゴースティング」も算出可能

DeepMindのブログ記事では、AIによる戦術分析の一例としてペナルティキックの分析が挙げられています。12,000のペナルティキックを統計的に分析した結果、ゴールの左右どちらかにより多くキックするプレイヤー、あるいは左右均等にキックするプレイヤーのようないくつかのプレイスタイルに類型化されることが分かりました。こうしたペナルティキックの類型化は、キーパーの対応戦術の改善に応用できるのは明白です。

ペナルティキックは、サッカーの試合における非常に限られたプレイのひとつに過ぎません。そのため、ペナルティキックのプレイスタイルを統計的に類型化しても、試合のごく一部を分析しただけに過ぎません。しかし、類型化を試合全体を通して実行すれば、試合全体や対戦チームの戦術の理解につながるのです。

AIによる戦術分析は、「ゴースティング」の研究も可能とします。ゴースティングとは、試合のある局面において統計的に平均なプレイを算出することを指します。ゴースティングによって算出されたプレイと実際のプレイを比較することによって、実際のプレイを評価できます。さらには、ゴースティングを使って試合の進行をシミュレーションすれば、対戦チームの平均的なリアクションを予測できるようになります。こうした予測は、プレイヤーの交替や戦術変更によって生じる試合への影響の考察に役立つはずです。

多様な応用範囲

DeepMindの研究チームは、AIによる戦術分析を将来的にはAVAC(Automated Video-Assistant Coach:自動ビデオアシスタントコーチ)システムとして提供することを構想しています。このシステムが実際のサッカーの試合に導入された場合、監督はプレイヤーのパフォーマンスを客観的に評価したり、AIからプレイヤーの交替タイミングを提案してもらったりすることでしょう。

AVACは、スカウト活動にも応用できると考えられます。AVACを使えば試合動画から自動的にプレイを評価できるので、従来では調査が難しかった僻地のプレイヤーをスカウトできるようになるのです。

前述のブログ記事とほぼ同時に発表されたAVACに関する論文では、同システムの研究を前進させるにあたっての展望が考察されています。そうした展望のひとつとして、AVACと強化学習を融合させることが考えられます。サッカーの試合をゲーム環境と見なすと、各プレイヤーの最適行動は強化学習AIの訓練によって算出できます。そして、強化学習AIの最適行動をAVACによって戦術分析すれば、(平均ではなく)最強のプレイをゴースティングできるようになるかも知れません。

AVACはサッカーだけではなく、ルールが良く似たバスケットボールやホッケーにも応用可能だと考えられます。その応用範囲はフィジカルスポーツを超えて、Dota 2やStarCraft Ⅱのようなeスポーツ種目にも及ぶでしょう。

ところでAVACが台頭・進化を遂げると、もはや人間のコーチや監督は不要となるのでしょうか。US版WIREDがDeepMind研究チームを取材した記事では、AVACの論文で筆頭著者となったKarl Tuyls氏にこの疑問を投げかけています。同氏の答えは、AIがサッカーの監督の代わりになることはないだろう、というものでした。しかし、10年以内に試合の分析にAVACのようなシステムが現場に導入されるようになるだろう、とも予想しています。

AIによるサッカーの戦術分析は、コーチや監督を代替するものではなく、彼らの意思決定を支援し補完するものとなるでしょう。こうした「人間とAIの協働的戦術分析」から新たなサッカー戦術のトレンドが誕生するかも知れません。

Writer:吉本幸記、Photo by Sven Kucinic on Unsplash 

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