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【CEDEC2019】汎用型ボードゲームAIの開発に向けたモリカトロンの挑戦

2019.9.17ゲーム

【CEDEC2019】汎用型ボードゲームAIの開発に向けたモリカトロンの挑戦

第三次人工知能ブームのきっかけを作ったディープラーニングが2010年代に普及して以降、AIは物体認識や音声認識を中心にさまざまな分野で活用されるようになり、その波はゲーム業界にも訪れています。1種類のゲームや1体のキャラクターに対してそれぞれ個別のAIを開発するのではなく、あらゆる状況に対応できる汎用型のゲームAIが作れたなら。それはゲーム開発者たちの夢でもあります。

9月4日から9月6日までパシフィコ横浜で開催されたCEDEC 2019では、ゲーム開発現場におけるAI技術の応用例や活用法に関するセッションが目白押しでした。今回は、その中からモリカトロンの「AIは自分でボードゲームの勝ち方を見つけられるか?(※講演資料あり)」というセッションを取材しました。

左から、松原卓二氏、森川幸人氏、成沢理恵氏

登壇者は、モリカトロンAI研究所の所長である森川幸人氏、同研究所のチーフエンジニア松原卓二氏、同社取締役の成沢理恵氏。講演では、同社の人工知能モデル「モリカAI」が複数のボードゲームを学習する上での技術的な工夫や今後の課題が解説されたほか、日本将棋連盟女流二段の北尾まどか氏とモリカAIによる対戦デモが実施されました。

ボードゲームの学習はビデオゲームへの布石

ゲームという料理に合うAIというワインを選ぶ「AIソムリエ」を謳うモリカトロンは、教師なし学習の利点と将来性を検証することで、AIによる自律的な学習がゲーム開発業務にもたらす可能性やメリットを追求しています。その最終目標は、ビデオゲームを自ら学習してくれるAIの開発です。今回、ボードゲームに特化したモリカAIの開発しているのは、その足がかりに過ぎないといいます。その理由について、森川氏は次のように語っています。

ビデオゲームを対象にAIを開発するには、実際にAIを組み込むまでの作業量が膨大になってしまいます。また、テスト用のゲームを用意した場合、AIの賢さを測る客観的な査定が困難になってしまう問題が生じます。さらに、既存のビデオゲームを使って研究することも、権利上の理由から現実的とはいえません。結果、こうした問題が比較的少ないボードゲームを研究の対象に選んだということでした。ボードゲームAIから得られた戦略獲得のノウハウは、ビデオゲームにも応用できそうだとモリカトロンは考えています。

ボードゲームのカテゴリーは、完全情報ゲームと不完全情報ゲーム、運が絡む不確定要素の有無、そして二人か多人数かによって、全部で8種類に分類されます。近年、AIが人間のプロプレイヤーを負かしてきた将棋や囲碁は、このうちの二人完全情報確定ゲームに該当します。このほかの例として、二人完全情報不確定ゲームにはバックギャモン、二人不完全情報確定ゲームにはガイスター、多人数不完全情報不確定ゲームには麻雀などが挙げられます。

AIによる学習は、二人完全情報確定ゲームがもっとも容易とされており、ここから不完全情報、不確定要素、多人数向けと複雑さを増すごとに、学習難度も比例して上昇していきます。一方で、一般的に普及している完全情報確定ゲームは意外と少なく、この世界に存在する大半のボードゲームは不完全情報か不確定、またはその両方のカテゴリーに該当するといいます。ビデオゲームに関しても、必然的に完全情報確定ゲーム以外のカテゴリーの方が圧倒的に多いことが想定されるでしょう。

モリカAIはAlphaZeroというAIから生まれた

モリカAIは、Google傘下のDeepMind社が開発したAlphaZeroをベースに、その前身であるAlphaGo Zeroの手法を一部取り入れ、多人数ゲームに対応させたゲームAIです。不完全情報および不確定ゲームに対応しており、Webサーバーとクライアント機能を搭載したことで、GUIによる対人プレイも実現しています。また、スーパーコンピューターのような環境がなくとも平均的な計算資源で利用できることを前提に、AlphaZeroと比べてさまざまな部分で軽量化が施されています。

ちなみにAlphaZeroとは、2015年にDeepMind社が発表した囲碁プログラム「AlphaGo」と、その改良版である「AlphaGo Zero」をさらに汎用化したAIで、棋譜なしで囲碁のほかにチェスや将棋も学習できます。二人完全情報確定ゲームであれば、同一アルゴリズムと同一ネットワークを使用して、ゲーム固有の人間の知識やデータなしで、完全な白紙状態から自己対戦で強化できる点が特徴です。つまり、事前にゲームのルールさえ教えれば、勝ち方は自分で見つけ出すように設計されているのです。

AlphaZeroは、モンテカルロ木探索とディープニューラルネットワークを組み合わせて対象のゲームを学習します。モンテカルロ木探索とは、自分の手番がくるたびに仮想盤面における探索ツリーを構築して、その中から最善の手を選ぶアルゴリズムです。この手法で自己対戦を繰り返し、生成した学習データをディープニューラルネットワークに蓄積していきます。すると以降の自己対戦では、モンテカルロ木探索を実行する際にディープニューラルネットワークから打ち手と価値を入手し、それを基にした最善の手を導き出します。このループを何万回と繰り返すことで、より有効な戦略を自ら生み出していくというわけです。

このAlphaZeroをゲームAI開発のベースとして採用した理由は、その汎用性の高さから、二人完全情報確定ゲーム以外のボードゲーム全般へ応用できる可能性が期待できるからだと、森川氏は語ります。事実、AlphaZeroには完全情報ゲームの学習成果において大きな実績があります。また、多くの研究者たちによるサンプルコードなど、研究に応用できる既存のリソースが豊富に存在することも大きなアドバンテージだといいます。

すべてのゲームへ機能拡張するため試行錯誤は続く

モリカトロンの挑戦は、二人完全情報確定ゲームのみを対象に開発されたAlphaZeroの機能を、すべてのカテゴリーへと拡張することです。今回の講演では、そのためのプロセスや工夫について語られました。

ディープニューラルネットワークが白紙状態の初期段階では、AIがランダムに手を決定するため正解にたどり着けないケースが出てきます。そこでルールベースのプレイヤーを自己対戦の中に混ぜることで、学習中のAIに「セオリーの気づき」を与えたといいます。また、ゲームの種類によっては「イカサマディーラー」のような仕様のプレイヤーを加えることでAIにわざと勝利させ、成功体験を与えることも重要だということでした。

いわゆる「ルールベース」を排除した学習が、AlphaZeroの特徴なのですが、あえて、そこに「ルールベース」を加えてみたら、単純なモンテカルロ木探査よりよい学習ができました。(森川)

実際にモリカAIが学習したボードゲームは、二人用では完全情報確定ゲームの「どうぶつしょうぎ」と「ゴブレット・ゴブラーズ」、「立体四目並べ」、不完全情報不確定ゲームの「サイコロ将棋」、不完全情報確定ゲームの「ガイスター」、そして不完全情報不確定ゲームの「バトルライン」。

多人数用では、完全情報確定ゲームの「四人オセロ」、完全情報不確定ゲームの「キュージェット」、不完全情報確定ゲームの「クイビット!」、そして不完全情報不確定ゲームの「ハゲタカのえじき」と「すずめ雀」。これら11種類のボードゲームを、7から8人月かけて学習させたとのことです。

ひとつのゲームごとに固有のAIを設計していたら、この人月では11個のゲームの学習はできなかったと思います。汎用のAIを使えたからこそのスピードだったと思います。(森川)

課題山積も未来のゲーム開発に一条の光

これらのボードゲームでモリカAIはどれくらい強くなったのか。AIの実力を人間の主観ではなく、定量的に評価するには何らかの尺度が必要です。国際チェス連盟の公式記録や、サッカーやテニスをはじめとしたプロスポーツにおける公式ランキング、オンライン対戦ゲームでのマッチングには、イロレーティングという尺度が使われています。これはプレイヤーやチームの相対的な強さを数値で評価する指標のひとつですが、多人数ゲームや不完全情報ゲームには使えないという欠点があります。

そこでモリカトロンは、モリカAIの強さを示す5段階の尺度を定義しました。まず、ランダムプレイヤーに勝ち越せないレベル1。ここでのランダムプレイヤーとは、ゲームルールの範疇で無作為な選択肢でプレイしている状態を指します。次に、ランダムプレイヤーに勝ち越せるレベル2。これは何らかの勝ち方を見つけてはいますが、素人より弱い状態です。そして、ルールを覚えたばかりの人間に勝ち越せるレベル3と、ゲームを熟知した人間に勝ち越せるレベル4。最後に、プロ級の人間に勝ち越せるレベル5です。

現在のモリカAIの実力は、二人完全情報確定ゲームの「どうぶつしょうぎ」と「ゴブレット・ゴブラーズ」では、デモ対戦で北尾女流棋士を負かすほどに成長し、すでにレベル5に到達しています。一方で、不完全情報ゲームの多くではまだレベル3やレベル2の壁を越えられていないようです。

特に「ガイスター」のような、相手を出し抜くブラフ戦略が勝利の鍵を握るゲームにおいては、嘘をつくことも見抜くこともできないAIの自己対戦だけでは解決できない課題があるようです。北尾氏とのデモ対戦でも、人間なら絶対に選択しない手を指したことであっさりと負けてしまいました。

北尾さんとの対戦の少し前、我々は、ガイスターに相手の赤のコマを3つ取ったら、その後はむやみにコマを取らず、慎重に行けと学習させました(相手の赤のコマを4個取ったら負けなので)。その追加の学習が「効き過ぎ」たため、北尾さんの赤のコマを3つ取った後、慎重になりすぎた、結果、無意味な作戦を取ってしまいました。(森川)

それでも、不確定要素をふくむ「サイコロ将棋」や、多人数のプレイヤーが参加する「四人オセロ」と「クイビット!」でレベル4に到達していることから、着実に成長している様子が見て取れます。

このように、モリカAIが人間の頭脳のような汎用性を手に入れるまでには、まだまだ長い道のりがありそうです。また、入力表現の決定が難しいことや、汎化・強さ・学習コストのトレードオフ、明らかに不向きなゲームの存在など、今後の課題も山積しているようです。しかし、ディープラーニングがゲーム開発業務にもたらす可能性やメリットを追求するという点においては、いくつかの利点が見出せたようです。中でも、ゲームの勝ち方を知らないプログラマでも作れる点や、人間がいまだに発見していない戦略を見つけてくれるという点は、将来ゲーム開発者たちの夢を叶える上で大いに役立つでしょう。

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Writer: Ritsuko Kawai / 河合律子

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