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AIを”嘘つき”に育てるために:「すごろくや祭」AIゲーム対戦ブースレポート

2019.8.13ゲーム

AIを”嘘つき”に育てるために:「すごろくや祭」AIゲーム対戦ブースレポート

2019年8月3日、東京都立産業貿易センター台東館にて、株式会社すごろくやによる大規模ボードゲームイベント「すごろくや祭」が開催されました。この祭典に、モリカトロンも自社で開発するボードゲームAIを来場者が体験できるブースを出展しました。その内容と会場の様子、そこから見えてきた汎用型ボードゲームAIの開発における今後の課題をレポートします。

この日、600人を収容できる会場には、参加者が出展ブースごとに多種多様なボードゲームに挑戦できるチャレンジゲームコーナーをはじめ、ゲーム研究家を招いたトークショーや大人数でのゲーム大会を行うステージ会場、名作ボードゲームの登場キャラクターをモチーフにしたドーナツが目玉商品のコラボカフェ、すごろくやの商品が割引価格にて購入できる物販コーナーなどが設けられ、大人も子供も楽しめる文化祭として賑わっていました。

完全情報ゲームでは、もはや敵なし

モリカトロンが出展したのは、参加者が同社のゲームAIとボードゲームで対戦できる「AIゲーム対戦ブース」です。対戦種目となるボードゲームのラインナップは、子ども向け将棋教材として生まれた『どうぶつしょうぎ』、コマ同士を重ねて競うフランス発祥の三目並べ『ゴブレット・ゴブラーズ』、そしてモリカトロンがAIによる不完全情報ゲームの学習対象として研究中の『ガイスター』です。

近年チェスや囲碁で人工知能が次々と人間のプロプレイヤーたちを負かし、ますます脚光を浴びるなか、最先端AIの実力を肌で感じようと多くの挑戦者がブースを訪れていました。順番予約のために配られた整理券はあっという間になくなってしまい、飛び入りで参加を希望する人も多かったようです。

モリカトロンブースで参加者を待ち受けるプレイヤーは、DeepMind社の「AlphaZero General」というAIをベースに、モリカトロンでカスタマイズしたボードゲームAIで、単一のモデルで異なる複数のゲームを学習できる汎用性が特徴です。特に、チェスやオセロのような盤面の状況をすべて把握できる完全情報ゲームであれば、いまや人間をほぼ完全に凌駕する領域にまで改良が重ねられています。

事実、今回のイベントでも、盤面の情報に不確定要素が一切存在しない『どうぶつしょうぎ』と『ゴブレット・ゴブラーズ』で、モリカトロンのAIを負かした参加者は少数でした。イベント終了時点で、『ゴブレット・ゴブラーズ』ではAIが25勝、人間が5勝。『どうぶつしょうぎ』では、AIが16勝、人間2勝でした。この人間が2勝したうちの1回は、挑戦者の戦略で意図的に盤面からコマを減らしていったとのことです。両者のコマが残り1つまで減るというイレギュラーな局面にAIが対応しきれず、人間が勝利しました。

一方、相手のコマを取るまで、対象となるコマの正体が分からない『ガイスター』では、AIの対戦成績は惨たんたるものでした。『ガイスター』に馴染みがない初心者やカジュアルに遊びを楽しむ子どもを除いて、少しでも勝つための戦略を意識しているボードゲーム経験者に対し、AIは明らかに苦戦していました。最終的にAI7勝、人間22勝という結果になりました。そこからは、果たして人工知能に嘘はつけるのか? また相手の嘘を見破ることは可能なのか? という、AI開発における根本的な課題が見えてきます。

この世の大半は不完全情報ゲーム

『ガイスター』は、6×6の盤上で2人のプレイヤーそれぞれがお化けを模した2種類のコマを計8つずつ使って対戦するゲームです。プレイヤーから見てコマの手前側にはそれぞれ青色と赤色の印があり、対戦相手からはどちらの色のコマなのかが視認できない仕組みになっています。

ルールは、プレイヤーが交互に任意のコマを上下左右に1マスずつ動かしていき、自分の青いコマ(良いお化け)を相手側に設置された出口へ侵入させるか、自分の赤いコマ(悪いお化け)をすべて相手に取らせるか、反対に相手の青いコマをすべて取ることができれば勝利です。このように、盤上を動く相手のコマが何色なのかが常に不確定なことから、『ガイスター』は『人狼』などと同様の不完全情報ゲームに分類されます。

「世の中に存在するゲームの大半は不完全情報ゲームです。ごく一部の完全情報ゲームでAIが人間に勝てるようになりましたが、私たちが目指しているより汎用性の高いゲームAIを完成させるためには、どうしても人間の意図を読み取るという課題をクリアしなければなりません」と、モリカトロンAIラボ所長の森川幸人氏は語ります。

『ガイスター』の場合、人間のプレイヤー同士の対戦であれば、わざと相手の出口へ赤いコマを接近させることで、ゴールを目指す青いコマだと思い込ませて取らせるといったブラフをふくんだ戦略が想定されます。森川氏によると、AIはこのブラフを見破ることができず、まんまと相手の赤いコマを取ってしまい自分の首をしめてしまうのです。それはAIが普段ブラフという概念に接する機会が皆無に等しいからだといいます。「現在ベースにしているAlphaZeroは、教師信号を必要としないタイプのAIです。つまり、自分自身との対戦を繰り返して強くなっていきます。そして、このAIは嘘をつかない紳士なので、結果として嘘つきなプレイヤーとの対戦は経験できていないというわけです」。

これからのAIに求められるのは、人間のダークサイド

実際、この日モリカトロンのブースで『ガイスター』をプレイしていた参加者の多くは、こうしたAIの誠実さをいち早く見抜き、人間味にあふれた巧みなハッタリでいともたやすくAIを翻弄しているように見受けられました。AIプレイヤーがブラフに引っかかることを試合中に察した参加者は、実質同じ戦術を繰り返すだけで勝ててしまうのです。また、AIには敗北への恐れや焦りといったプレッシャーを感じることがないので、どうしても無謀な戦略を取りやすい傾向にあるそうです。

「このままの路線で進み続けても打開策は見つからないので、最近は人工的に嘘つきなAIを学習プロセスに導入しようとしています。AIには決して“邪悪な心”というものは自然発生しないので、人間の手によって外部から注入するしかありません。あえて正攻法ではなく、ブラフを多用するAIを個別に訓練して、それを従来の正直なAIの集団に紛れ込ませるといったイメージです。これはAlphaZeroの基本設計には組み込まれていない仕組みなので、私たちにとって新たな挑戦になると思います。その先に何が生まれるかは、いまのところ完全に未知数なのです」

モリカトロンでは現在、『ガイスター』をはじめとした他の不完全情報ゲームのAI学習に力を入れています。前述したような人間の意図を読み取ることへの挑戦以外にも、サイコロのような運による不確定要素が鍵を握るゲームへの対応も、汎用的なボードゲームAIが乗り越えなければならない高い壁だといいます。9月4日からパシフィコ横浜で開催される国内最大のゲーム開発者向け技術交流会CEDECで行うセッション「AIは自分でボードゲームの勝ち方を見つけられるか?」では、これまでモリカトロンで開発したボードゲームAIの研究成果が発表されます。従来の学習プロセスの枠を越えた、不完全情報ゲームが内包する不確定要素への新たなアプローチの進展が期待できるかもしれません。

署名:Ritsuko Kawai

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