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AIが変えた現代将棋の常識と定跡:北尾まどか氏×森川幸人氏 対談

2019.6.25ゲーム

AIが変えた現代将棋の常識と定跡:北尾まどか氏×森川幸人氏 対談

ディープラーニングや強化学習の発展によって、かつては完全情報ゲームで人間の足元にも及ばなかった人工知能が、近年あらゆる競技でトップクラスのプレイヤーを次々と打ち負かしています。今回は『どうぶつしょうぎ』の生みの親であり、国内外で将棋の普及活動に尽力している女流棋士の北尾まどか氏をゲストに迎え、AIが身近な存在となったデジタル時代の中で変わりゆく将棋の戦略や、人間の能力を凌駕した後におけるAIのあり方について話します。聞き手はモリカトロンAIラボ所長の森川幸人です。

将棋が日常の光景だった時代を取り戻したい

森川幸人氏(以下、森川):北尾さんが将棋を始めるきっかけは何だったのでしょうか。

北尾まどか氏(以下、北尾):子どもの頃に父からルールを教わったのがきっかけでした。オセロや五目並べなど、いろんなゲームを教わる中で、チェスを覚えた後に将棋と出会いました。将棋は取った駒を再利用できるという特性上、チェスより複雑ではじめはあまり好きになれませんでした。

ところが高校生のとき、学校にみんなが持ち寄ってきたゲームの中に将棋があったので、対局をしてみたところ負けてしまったんです。それが悔しくて、どうやったら勝てるのかを研究するために本を買ったり、父に繰り返し勝負を挑んだり、熱が入るうちにどっぷり沼にはまってしまった感じですね。

森川:負けず嫌いな性格だったのですね。ちなみに、その頃は女性プレイヤーがどれくらい、いたのでしょうか。

北尾:いまでこそ将棋を指す女性はもちろん、将棋を観戦する女性ファンも増えましたが、当時は将棋の女性人口は極端に少なかったと思います。高校でも周りに将棋を指す女子はほとんどおらず、男子生徒に混ざって大会に出場させてもらっていたのを覚えています。

森川:肉体競技だと必然的に性差が生じるので男女に区別されるのは理解できるですが、将棋にもそういった性別による差はあるのでしょうか。あえて女流枠を設ける理由とは。

北尾:もちろん性別による優劣はないと思います。ただ、もともと男性が始めた競技なので、女性プレイヤーの歴史が浅いという背景があります。女流棋士の歴史はまだ45年しかありません。そのため、男性と比べてプレイヤー人口の母数にも開きがあります。それが全体的な実力差につながったため、「棋士」の制度のほかに「女流棋士」という制度があるんです。女性でも「棋士」を目指すことはできて、現在もあと一歩のところまで来ている方がいます。将来的には男女の垣根がなくなる可能性もあるんじゃないでしょうか。

森川:近年、藤井聡太七段の躍進をきっかけに将棋の話題性が一段と増しました。そのことについてどう感じておられますか。

北尾:時代ごとの波がありますよね。私が将棋を始める少し前には羽生善治ブームがありました。その後、NHK連続テレビ小説『ふたりっ子』をきっかけに女性プレイヤーが増えました。近年ではインターネットのライブ配信をはじめ、将棋中継を手軽に観戦できる環境が整ったこともあって、棋士たちのメディア露出が増えたことも将棋人気に一役買っているのではないでしょうか。

森川:棋士には北尾さんのように将棋の普及活動に注力している方が大勢いらっしゃいます。その原動力は何なのでしょうか。

北尾:もともと将棋は誰でもできて当たり前みたいな時代がありました。私より前の世代にとって、将棋とは縁台将棋に見られるような日常の一部でした。私のようなファミコン世代からは家の中で遊ぶ子どもが増えたこともあって、アナログの遊び自体が下火になった印象があります。その頃から、将棋のルールは知っていて当たり前みたいな風潮がなくなっていったのではないでしょうか。

私は各家庭に将棋盤が置いてあった時代を取り戻したいんですよ。現代の子どもたちにも将棋の楽しさを知ってほしい。そういう想いから、母子が一緒に遊べる『どうぶつしょうぎ』を作ったという経緯があります。一方で、今はスマホやタブレットのアプリで、どこにいても手軽に将棋が楽しめるようになったので、それはそれでいい時代になったと思います。

森川:『どうぶつしょうぎ』を作った経緯について詳しく教えてもらえますか。

北尾:もともと『どうぶつしょうぎ』は販売を目的として開発したのではなく、子どもに将棋を教える際に使う教材として生まれました。子ども向けの将棋教室の生徒は、まだ字が読めない子どもも少なくありません。また、将棋は1時間のレッスンという限られた時間の中では決着がつかないことも多々あります。そういう状況で限りなくシンプルかつわかりやすい道具が必要でした。そこへ当時女流棋士だった藤田麻衣子さんが描いた、どうぶつの将棋駒のデザインと合わさって『どうぶつしょうぎ』が完成したというわけです。

森川:なるほど。『どうぶつしょうぎ』で自分と相手の駒が最初から接触しているのは、決着までのプロセスを簡素化した結果だったのですね。

北尾:将棋の一番の楽しみは王手だと思うんです。『どうぶつしょうぎ』ではいきなりひよこ同士がぶつかっているので初手で駒を取れます。しかもその時点で王手です。最初に教えるときは、ここでライオン(王)を逃げずに取らせてあけます。すると、わずか3手で負けて見せることができるんです。どうやったら勝てるのかを教えるには、それが絶対に必要なプロセスなのですが、将棋の場合は最短で負けるにしてもどうしても時間がかかってしまいます。決着の付け方をコンパクトにしたことで、ゲームの本質を教えやすくしたのが『どうぶつしょうぎ』です。

森川:北尾さんはプロ棋士である一方で、ゲームデザイナーとしての側面もお持ちですよね。

北尾:『どうぶつしょうぎ』をはじめ、これまで私は主に伝統的なゲームを元にしたミニゲームを作ってきました。それらはゲームデザイナーを目指して作ったというよりは、たまたま閃いたアイデアの副産物として生まれたものです。将棋の普及活動や会社の経営もあるので、ゲームデザイナーといっても優先度は低いかもしれません。

森川:将棋の普及活動といえば、北尾さんは世界中を飛び回っている印象です。

北尾:人々が将棋というものに触れるきっかけをできるだけ多く作りたいという想いで続けています。特に『どうぶつしょうぎ』という言語に依存しないツールができてからは、海外における普及活動に注力するようになりました。今年に入ってからはフランス、トルコ、オーストラリア、台湾に行ってきました。今年の目標は世界一周です。

AIの発展とともに将棋の質は変化した

対談の後半では、北尾まどか氏に『どうぶつしょうぎ』をはじめ、『立体四目並べ』や『ガイスター』、『オセロ』『ゴブレット・ゴブラーズ』といった複数のボードゲームを使って、モリカトロンが開発中のゲームAIと対戦していただきました。

大変接戦となりました。『立体四目並べ』は五目並べの立体版。縦横斜め、いずれかに4個自分のコマが並べば勝利です。なかなか接戦となりましたが、北尾さんの勝ちでした。まだまだAIの勉強不足です(森川)
『ガイスター』は、8体(赤、青各4体)のゴーストを取り合うゲームです。相手の青ゴーストを4個取ると勝利、相手の赤ゴーストを取ると負けとなります(他にも勝利条件あり)、相手のゴーストの色は自分からは見えません。相手のゴーストの挙動からその色を推測して取ったり取らせたりする不完全情報ゲームです(森川)
今回対戦したAIは、人なら絶対に赤だとわかるゴーストを取ってしまい、北尾さんの勝利でした(森川)
『オセロ』はとてもポピュラーなゲームなので、ルールは説明する必要はないでしょう。また、すでに完全にAIのほうが強いゲームですので、さすがに北尾さんでも勝つのはむつかしかったようです(森川)
『ゴブレット・ゴブラーズ』は馴染みのないゲームかもしれません。基本的には3目並べで自分の色のコマが縦横斜めいずれかに3つ並べば勝ちです。ただ、コマの大きさが3段階あって、小さなコマに大きなコマをかぶせられる(同じ場所に置ける)ところがミソとなるゲームです。1回戦は、北尾さんのコマが2個並び、必ず止めなければいけない場面で、AIがトンチンカンなところに打ってあっという間に終局してしまい場が緊張しましたが、その後、AIを入れ替えた2戦は、結構な接戦となり、何とかAIが勝つことができました(森川)
北尾さん発案の将棋タイプのゲームです。すでに将棋もAIの方が強いので、将棋の簡易仕様である『どうぶつしょうぎ』もAIの方に部がありますね。ということで、作者にAIが勝ちました(森川)

森川:今年に入ってからAIにボードゲームの戦略を学習させるという研究を始めました。『どうぶつしょうぎ』もそのひとつです。将棋の棋譜のように人間が戦略の模範解答を残せないケースが多いため、AIの学習では自己対戦の繰り返しの中から新しい戦略を見つけさせるというプロセスがもっとも現実的だと考えています。

とはいえ、AIのモデルをスクラッチから作っているわけではなくて、DeepMind社が開発したAlphaZero GeneralというAIをベースにカスタマイズしています。こうした環境を整えるために昔は膨大な時間を要していましたが、現在はベースとなるリソースが公開されているので、私たちの仕事は特定の問題解決に最適なエンジンを見つけ出し、問題に合わせて加工することなんです。例えるなら、ワインのソムリエのようなものです。

北尾:人々がおいしい料理を味わうのと同じように、ゲームに応じたAIを用意するという楽しみということですね。

森川:藤井聡太七段のような、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる世代は、急速に発展を遂げるAIと対局しているから強くなったとも言われています。北尾さんから見て彼らの世代の強さとは何でしょう。

北尾:コンピュータを駆使して腕を磨こうとする姿勢は若手棋士の間では当たり前になってきています。そういう意味で今の将棋と昔の将棋って、ルールこそ同じだけど質という面では大きく異なるように感じます。ベテラン世代は時代の流れについていくために勉強する必要がありますが、若い世代はそうしたツールや考え方に子どもの頃から日常的に触れています。そういう強みはあるでしょうね。

森川:将棋の質が変わったとはどういうことでしょう。コンピュータが新たな戦略を見つけられるようになったということでしょうか。

北尾:そうですね。エルモ囲いがいい例です。そういったコンピュータ発祥の戦略がプロの世界で採用される機会が増えました。定跡とは常に進化していくものですが、最近は自由度が大幅に増した感じがします。今は何でもありです。

加えて、昔だったら将棋は身近にいる強い人から習うことで上達するものでしたが、今はインターネットやソフトを活用することで、相手が近くにいなくても強くなることができます。ポーランド出身で史上初の外国人女流棋士となったカロリーナ・ステチェンスカ棋士はインターネットの将棋対戦サイトで腕を磨いたことで知られています。昔と違って今はどこから強い棋士が飛び出してきてもおかしくはありません。それこそがデジタルネイティブ世代の強みと言えるのではないでしょうか。

森川:近年ではチェスや囲碁をはじめ、複数の競技で人間はAIに勝てないことが証明されています。それでも将棋人気は落ちないのでしょうか。いわゆる競技としてのシンギュラリティは起こり得るのでしょうか。

北尾:AIに勝てないからと人気が落ちることはないと思いますよ。そろばんを使って計算能力をコンピュータと競う人や、自動車と足の速さで競う人なんていないじゃないですか。競技には選手の人柄や背景があって、そうした人間同士が競い合うことで物語が生まれます。データだけを比較しているわけではありませんよね。そうした美学がある以上、いつまでも競技として続いていくと思います。

バックギャモンのようなゲームでは、早くからAIが人間の能力を凌駕した歴史があります。その中でいかにコンピュータに近づけるかということが人々の強さを測る目安になってきました。同じように、将棋でもAIが人間の実力を可視化する指標になってくれればいいと思います。すでに若い世代では強さを研究するツールとして、AIから学ぶことが当たり前になってきていますね。

一方で将棋AIはひたすら強さを求めて発展してきたので、人間に対する手加減が苦手ですよね。わざとらしい不自然な悪手を指すことくらいでしか、さじ加減を調整できないことが多い印象があります。これからの発展としては、指し手に個性がでてくるとか、AIにキャラ立てができたら面白いと思います。結局のところ、人々が求めるのは単なる先生役ではなくて、遊び相手なのではないでしょうか。

森川:まさに私たちのゴールはそういうAIの形です。最終的には接待できるAIを目指しています。今は正確さや強さを超えた領域へ進むためのヒントを探しているところですが、まだそこへいたる登山道すら見つかっていないような段階です。ただ、遊び相手になってくれる友達のようなAIを実現するには、サイコロを使った駆け引きのような運が絡む不確定要素や、人間の意図に強調する協力プレイなどが大きな課題になってくるでしょうね。

北尾:それが実現できればすごく楽しそうですね。自分と対戦した結果から学んでくれるAIがいたら、教え子のように育ててみたいです。私の棋譜を学習して育つAIの弟子みたいな。あとは大人数で遊ぶゲームは参加者が足りないことも多いので、個性や癖を持ち合わせたAIのプレイヤーがその穴を埋めてくれたらいいですよね。

Writer:Ritsuko Kawai

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