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AIが切り拓く、ゲームを超えたゲームの世界:鳥海不二夫氏インタビュー

2019.4.17サイエンス

AIが切り拓く、ゲームを超えたゲームの世界:鳥海不二夫氏インタビュー

昨今、とくに“洋ゲー”の世界ではAIとゲームの融合が進みはじめている。そうと分かっていても、現場の開発者からすると「AI使ったからって面白いわけじゃない」と言いたいところ。今回は「人狼知能プロジェクト」で広く知られるAI研究者、鳥海不二夫氏をゲストに迎え、進歩し続けるAIがこれからのゲームにもたらす新たな面白さについて話します。聞き手はモリカトロンAIラボ所長の森川幸人です。

近くて遠い、AIとゲームの世界

森川幸人(以下、森川):最近はゲーム開発においてもAIが少しずつ注目され、活用されてきています。コンテンツの自動生成「プロシージャル」の分野などがそうですね。しかし歴史的に見ると、アカデミアの世界におけるAIは、ゲーム業界とは縁遠いものだったように思います。鳥海さんはまさにアカデミアの世界のAI研究者ですが、ゲームとAIの関係性について、どんな印象を持っていますか?

鳥海不二夫(以下、鳥海):そうですね。案外、つながりがありませんよね。最近はAIもずいぶん有名になったので、映画やドラマの監修の話はけっこう来るらしいですが、ゲームはあまり聞かないですね。

森川:私はお互いにつながっていくべきだと思うんですよ。それがゲーム業界にとって面白い展開を生むだろうと思っていて。

鳥海:そうだと思いますね。AI研究者にはゲーム好きが多いですよ。私も好きで、自分でよくゲームを作っていました。振り返れば、小学校4年生の頃からRPGやパズルを作っていました。

でも、AI研究者の作るゲームが、一般的なプレイヤーにとって面白いってわけではないと思うんですよ。たとえば一昔前、『ローグ』というダンジョン探索のゲームがありました。私はそのクローンをガラケーで作って、迷路の自動生成を改良して効率化したり、ゲームレベルデザインを自動化したりしていました(笑)。すごくがんばって作るんですけど、決して一般的に分かりやすい面白さではないというか。

森川:遊ぶゲームがなかったり、物足りないので自分で作るという。純粋なクリエイターとしての欲求ですね。

鳥海:そうそう。遊んでいるうちに面倒くさいところが出てきたら自分で作りなおしたり、自動化したりするのが楽しいんですよね。AIが社会的に注目される今になって当時の自分を振り返ってみると、わりと最先端のことをやってたってことになるんでしょうかね。とはいえ、一人のゲームプレイヤーとして見ても、それが面白いということと直結するかはまた別だとは思います。

森川:ゲーム業界はアニメ業界と似ていて、「面白さは、人の手で作られるもの」という考え方が通底している、職人気質の業界です。つまりAIを用いた自動生成などの機械的な手段よりも、人の手でストーリーやグラフィックを作り込むことが重要だと考えられてきた。最近のいわゆる「ソーシャルゲーム」などでは経済効率が重視された開発が進められてきていますが、いわゆるゲーム機で発表されるタイトルの開発は、職人気質の世界だといえると思います。

もちろん職人気質の開発にこそ素晴らしい歴史があるのですが、AIの世界とつながって、新しい面白さを追求する考え方がもっと広まっても良いと思うんです。例えばゲームの世界は情報がきれいだから、色んなシミュレーションに向いてますよね?

鳥海:『シムピープル』(2000年、エレクトロニック・アーツ)や『シムシティ』(1989年、エレクトロニック・アーツ)は楽しくてしょうがなかったですね。シミュレータを作れば、それがそのままゲームになるという発想は画期的でした。

森川:本当ですよね。そして、あの中で動いていた単純なアルゴリズムを見て愕然としましたよ(笑)

鳥海:愕然としましたよね(笑)。消防署に便利なように道を作ったら実はその道は意味がなかった、とか。「きっともっと複雑なはずだ」と思って、人生をかけて作っていたあの街と時間を返してくれと(笑)。

森川:都市って生活感をふくめて具体的なイメージがあるので、簡単な設定を与えておくと、あとはプレイヤーが思い込みで補正して、リアルな世界観をゲームの中で構築していけるんですよね。人間って面白いなと思います。そしてきっと、その様子を見て、シムシティのゲームクリエイターは大喜びしていたと思いますね。

私はこうしたこと、つまりゲームプログラムから立ち上がってくる、人間の想像を超える面白さこそがゲームの本質だと思うんです。

エージェントシミュレーションとしての人狼知能

森川:鳥海さんはずっと理系畑なんですか?

鳥海:そうでもないんです。大学ではロボット等を扱う制御工学科に所属しながら心理学の研究をして,博士論文もそれで取っています。

森川:工学部にしてはずいぶん風変わりですね。

鳥海:「計量心理学」という、人間の心の働きを定量化して評価することを実践する心理学です。実際にやっていたことは、コンピュータでアルゴリズムをつくり、実験の解析をする、といった心理学です。

森川:いつからAI研究者になったんですか? やっぱり「人狼知能プロジェクト」ですか?

鳥海:AIとの関わりはずっとあった、という感じですね。でも、実は今でも自分自身では、AI研究者って気がしないんですよ。人狼知能プロジェクトもふくめ、自分はもっと広い意味でとらえていて、あえて言うなら社会の研究者だと思っています。AI研究に近い専門でいえば、「エージェントベースシミュレーション」ですかね。

最近はAIという言葉が非常に汎用的に使われていて、混乱してしまいます。現代において、一般的にAIと呼ばれているものの多くはディープラーニングであり、一種の「パターン認識」です。

一方で、ゲームの中のキャラクター、あるいはルンバのような掃除ロボットなど、人間が手を加えなくても、環境から情報を得て自律的に行動する主体(としてプログラムされたもの)のことを、AIの中でも、「エージェント」と呼びます。もちろん定義の仕方は個人差がありますが、少なくとも昔からコンピュータの世界では使われてきた言葉ですし、私はそう言う方が正しいと考えています。

エージェントシミュレーションとは、そうしたエージェントを用いたシミュレータを構築し、各種パラメータや環境情報としての社会データを与えることで、社会現象などをシミュレーションする研究分野ですね。

森川:そうした研究と、人狼知能の研究とはどのようにつながっているのですか?

鳥海:人狼知能は、もともとは、囲碁のような、プレイヤーのすべての行動が提示される「完全情報ゲーム」においてAIが人間の能力を凌駕してゆく中で、人狼のような、プレイヤーに関する情報の一部または全部が提示されない「不完全情報ゲーム」におけるAIの探求を目的として始まったものです。

もともとは研究にかこつけて楽しく人狼ができるかなと思って研究をはじめました(笑)。真面目な話をすると、私の関心としては、人狼参加者を複数のエージェントと考え(マルチエージェント)、AIを用いながらその相互作用を研究するというものです。いわば人狼を、エージェントシミュレーションとしてとらえる考え方です。

森川:人狼では、たとえば人を騙したり、説得したりするわけですが、AIにそんなことは可能なんですか? また嘘の判定はSNSなどにおいて優先度の高いタスクですが、説得はかなりハードルが高いですよね?

鳥海:説得は難しいですね。AIというのは、論理的に考えるのは得意なんです。しかし人間は論理だけではやっていけない。心に響かないと説得されないわけです。論理だけの営業担当が売上をあげられないのは簡単に想像できますよね?

人狼知能の実現までは遠い道のりなのですが、たとえば現在の研究の中でもたらされたことは、AIと人間はいかに信頼関係を構築するのか、それを考えるのが今後ますます重要になるだろうという視点です。例えば人狼の中で行われる説得は、短期の信頼関係です。これに対し、カーナビに搭載するようなAIは、ユーザーと一緒に長い間会話をしながら、5年以上という長期にわたって信頼関係を結びますよね。

これらを社会的なデータとともに分析していくことで、信頼のメカニズムというものが見えてくるかもしれない。とても興味がありますね。

遺伝的アルゴリズムとゲームの未来

森川:私は『アストロノーカ』(1998年、エニックス)というゲームで、いち早く「GA(Genetic Algorithms/遺伝的アルゴリズム)」を使ったのですが、今はその発展形を模索しています。GAは遺伝子における進化の仕組みを反映したアルゴリズムですが、『アストロノーカ』で使ったものは、非常にシンプルなものでした。実際の生物はもっと複雑なアルゴリズムで進化しています。そうしたより複雑な仕組みを組み込んだとき、学習効率が上がるか、などを実験してみたいと思っています。

鳥海:GAは面白いですよね。GAの拡張版である「NKランドスケープ」というアルゴリズムなんかは、イノベーションのモデル化などに使われています。今あるものを破壊することによって、まったく新しいものが生まれていくような秩序を学習することができます。他にも遺伝型と発現型が独立しているものがあったりと、GAにも色んなマニアックなものがあります。マルチエージェントのシミュレーションでも使います。

森川:ぜひいっしょに開発しましょう。モリカトロンは、日本初のゲーム専用AIの会社を標榜していますが、アカデミアとの架け橋になりたいんですよ。例えば物理学の世界は、理論と実験に分かれています。しかし理論の良い研究のためには、良い実験をする必要があり、その逆も然りということがあります。その際に、両方をつなぐ役割をする人というのが、物理学自体を前進させる上で非常に重要である、ということがある。私たちはゲーム業界において、そうした役割を担おうと考えているんです。

鳥海:エージェントは、ゲームと非常に相性が良いと思うんですよ。エージェントという言葉はあまり知られていないかもしれませんが、ゲームキャラクターは皆、エージェントとして考えることができます。例えばある程度の知能を持つエージェントを配置したマップの中を歩き回るというのだけでも面白いと思います。

恋愛ゲームに応用したりしても面白いと思いますね。恋のライバルが好きな女の子の周囲の環境に応じて変わったり(笑)。なかなか一筋縄ではいかない恋愛ゲームが作れる気がします。

最新の技術を使えば、きっと現代版『シムピープル』はかなりのものが作れるのではないかと。私も将来何もやることがなくなったら、そうしたゲームを作って、ずっとただ眺めては作り変えて…というのを繰り返してみたいですね。 エージェント間の相互作用から、人類の歴史が再現されたり、人類が想像すらしない歴史のあり方が立ち上がってきたりすると面白いですね。そんなゲーム、ぜひ作ってみたいなあ。

Writer:森 旭彦

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