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AIと「楽しく」作るドレスコレクション:エマ理永氏×森川幸人氏 対談(前編)

2019.8.23サイエンス

AIと「楽しく」作るドレスコレクション:エマ理永氏×森川幸人氏 対談(前編)

2019年3月、 Tokyo Fashion Weekの2019-20秋冬コレクションにて、一風変わったファッションショーが開催されました。場所は東京大学生産技術研究所。ランウェイにドレスが現れる前に、東京大学生産技術研究所教授の合原一幸氏によるレクチャーが行われました。ここは果たして本当にファッションショーの会場なのだろうか? そんな心配をよそに、5分ほどのレクチャーが終わると音楽が会場を包み込み、バリエーション豊かなドレスが次々と現れ、華やかなショーがお披露目されました。

実はこのドレスの数々はAIとコラボレーションして生まれたものです。プロジェクトに尽力したのは理化学研究所革新知能統合研究センター(AIP)、東京大学生産技術研究所(IIS)、東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機関(IRCN)。ファッションと人工知能による化学反応はどのようにして生まれたのでしょうか。実際、どのようなフローでドレスができていったのでしょうか。モリカトロンAIラボの所長、森川幸人が、EMarieデザイナーのエマ理永氏に話を聞きました。

ファッションとサイエンスの出会い

森川幸人(以下、森川):今回のコレクションの前にも無重力ドレスや数式を取り入れた服を作ってらっしゃいましたが、そもそもエマさんがサイエンスからインスピレーションを受けるようになった経緯とはどういうものだったのでしょうか?

エマ理永(以下、エマ):高校生の頃から美術科で純粋芸術を学んでいたのですが、デザイン・アート・グラフィック・テキスタイルなど…色々と興味が湧きました。大人になってシカゴに住むようになったとき、地元のカレッジの夏期講習でアートのコースを受けたら、アメリカ人の友達にファッション科の面接に強引に連れて行かれて(笑)。でも、モデルの女の子たちが笑顔で服を着てくれたのが嬉しくて、それをきっかけにファッションに向かって行きました。

その時代は思考することと感性が結びつかない風潮があったのですが、理論物理学の本を読んだ時に、理論物理学とかサイエンスの世界がクリエイティブだと思ってしまったんです。それで数学、物理や工学の先生たちと一緒にアートとサイエンスの融合を始めました。

最初は位相幾何学に刺激を受けてショーをやりました。その次に脳科学者の、理化学研究所の松本元先生にコラボレーションの依頼をしました。当時から松本先生は脳型コンピュータを作るという壮大な夢を持っていらして、脳型コンピュータを研究することは、人間を研究することとおっしゃっていて、すごいなと。

「人は何に美しさを感じるか」を松本先生と禅問答をさせていただいて、2000年に脳をテーマのコレクションを発表しました。そんな経緯で数学と科学にどんどん近づいていって、ある日科学雑誌の『Nature』に載ったんです。それをきっかけにスイスの時間生物学の研究者からオファーが来たり知覚認識学の方からオファーが来たり……すごく楽しくて! ますますのめりこんでしまいました。

森川:『Nature』に載るファッションデザイナーなんて聞いたことないです(笑)。小さい頃から理科や算数は好きでしたか?

エマ:小学校の時は、算数は得意でしたけど…二十歳になったらただの人、全然ダメで!(笑)。今となっては、もっとしっかりやればよかったですね。

デザイナーと共生したアイディアをくれるAI

エマ:今回のショーはAIとコラボレーションしたのですが、私のドレスの画像500枚をAIが学習することから始めました。元画像の修正もありAIに学習させるのに時間がかかりました。最初にAIがクリエイトした画像は、それほどクリエイティブではありませんでした。次に私のスカートと貝の画像をラーニングしたらと研究者さんに提案したら、すごく素敵な画像を出してくれたんです。 私の造形の本質は自然界の造形です。そのデザイナーの本質をAIがラーニングすることによってAIとデザイナーとはクリエイトを共生できると思いました。

巻貝の画像をラーニングしたドレス。繊細なテクスチャの重なり具合と貝の立体感のエッセンスを見て取れる

森川:ちなみに、どうして貝を題材に選ばれたんですか?

エマ:自然界の形が私のクリエイトの基本なんです。数学もサイエンスもアートも自然界を人間の脳が捉えようとしていると私は思っていて…。

肩の周りの膨らんだフォルムや裾がぐっと広がるデザインはAIが生み出した。それらをヒントにエマさんがパターンに起こしてドレス化していくが、このフォルムを再現するのはかなり難易度が高かったそう
人工ニューロン(神経細胞)の電気信号の波形をドレスのテキスタイルに。ジャケットのフォルムもAIがデザインした
エマさんの過去のドレスを500着以上AIがラーニング。出てきた画像の解像度を下げてプリントしたピクセルドレス

 

サイエンスが、もやもやを晴らしてくれた

森川:エマさんはサイエンスの知見と自分の作品を、頭の中でどう結びつけていらっしゃるんでしょう?

エマ:もともと形における美というか、緊張感だけを追求しようと思っていたんです。でも洋服づくりにおいても科学的な思考がないと、服にシワなどができた場合、直せないことに気づきました。すでにハウツーとしてある服作りの設計では、身体に密着したドレスを作れなくて…。サイエンスに出会って、それまでのもやもやがすごく明確になったんです。

人が「良い」「悪い」を判断する基準を謎に思っていて、例えばピカソの絵は「江戸時代でも良いものなのか」、「どの時代でもどの人間にも合っているのか」、それとも「条件付きなのか」それを語ろうとせずに、二分法で良し悪しを語るのが分からなかったんです。

森川:それはファッションデザインの世界ではメジャーなアプローチなんですか? それとも、マイナーなアプローチでしょうか?

エマ:すごくマイナーだと思います。AIについても人間が勝つかAIが勝つかみたいなことをおっしゃることが多いです。

森川:AIはファッションデザインにおいて、無用というか敵対的なものと考えられてる?(笑)。ゲームの世界でも意外とそう考えられてることが多い気がします。

エマ:そうなんです。でもそれを聞いて科学者の人は、面白いと言うんですよね(笑)。いろんな人がいるのは良いのかなと思います。私は思考と感性の両方が必要だと思っています。

森川:エマさんは、複雑系の研究家の東大の合原先生などとコラボされていますが、コラボするお相手はどうやって見つけられるんでしょうか? 先方から声がかかる? それとも自分から声をかけられる?

エマ:合原先生は自分からでした。偶然買った合原先生の本の中に故松本元先生のお話が載っていて、嬉しくてメールを送ったのがきっかけです。今回のコラボレーションは、テクノロジーを女の子の幸せのために!という想いに共感してくださっていて。プレタポルテファッションって、ここ50年くらいの歴史なんです。大量生産至上主義になってしまっていますが、テクノロジーがもっと発達すれば、一人ひとりに合う洋服ができるのではと考えています。

森川:素晴らしい積極性だと思います!

正しいAIじゃなくて、楽しいAI

エマ:人間の体って複雑曲面なんです。大量生産が目的の設計図では、ウエストはどのパーツにおいても、細い所になるのですが、人間の身体を横から見るとその位置は、一番細い所ではない人の方が多いんです。これまでは人間が一所懸命ウエストの位置を考えてきましたが、私はこれからAIと一緒に考えてみたいと思っています。

森川:そうですね、できるかもしれないです。2012年に出てきたディープラーニングが一番革新的だったのは、法則性や知見を自分で理解できることでした。それまでのAIは、コンピュータが理解できる形に、知識やルールを人間が作ってあげないといけなかった。こうした作業を「記号着地化」といいますが、それってすごく大変で、正確に記述するのも難しかったため、なかなか精度が上がらなかったんです。

でもディープラーニングだったら服を沢山見せてやれば、自分でその中に法則性や共通性を見つけ出して、理解を深めていきます。ファッションくらい複雑なものだとまだ難しいですけど、囲碁や将棋はそのように学習してきて、結果、今では、人間が思いつかないような手を見つけ出すに至っています。人間が教師となってすべて教えてやらないと学習できなかったAIが、ディープラーニング以降は人間がうまく言葉で表現できないような法則性や思考などを自分で見つけるようになってきました。言葉にならないレベルの無意識な美的感覚を、うまく可視化する可能性は出てきましたね。

エマ:森川さんが目指しているのは、囲碁とか将棋ができるAIではなくて、人間よりも高度なAIなのでしょうか…?

森川:個人的には、AIは人間のトップクリエイターには及ばないんじゃないかと思っています。でも、クリエイターのパートナー、助手には十分になり得ると思っています。AIは人間の職を奪うとかいった、敵対的な関係じゃないと。ちなみに、最近は、作業を効率化するとか欠陥を見つけ出すとか「役に立つAI」がもてはやされていますけど、僕が目指しているのは正しいAIじゃなくて、楽しいAIなんです。

エマ:より幸せにするんだったら、どんなテクノロジーでも良いなと思います。作業効率化や経済効率化ばかり考えているとずれていくので、「楽しい」っていうキーワードはいいですね。うん、わたしもAIとは楽しく付き合っていきたいです。

(後編へ続く)

エマ理永|Ema Rie

武蔵野美術短期大学工芸デザイン科卒業。William Rainey Harper College(シカゴ近郊)ファッションデザイン科卒業。1986年ごろより「女性の身体」と「布」による彫刻としての服創りを始める。一方でウエディングドレスのオートクチュールデザイナーとしても活動。

Writer:八木あゆみ

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