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ファッションの制約をAIと乗り越えるには:エマ理永氏×森川幸人氏 対談(後編)

2019.8.27サイエンス

ファッションの制約をAIと乗り越えるには:エマ理永氏×森川幸人氏 対談(後編)

前編はこちら:AIと「楽しく」作るドレスコレクション:エマ理永氏×森川幸人氏 対談

AIとコラボレーションしたファッションショーについて話した前編から、話はサイエンスから得る発想のタネから、素粒子論まで広がります。遠い所にあると思いがちなファッションとサイエンスですが、実はファッションと重力は密接な関係にあるそうです。 人間の体の動きは想像以上に複雑で、服はそれらを見越して作る必要があります。それに加えてデザイン・素材の要素がからまり合い、さまざまな制約が生まれる服作りにおいて、AIと一緒にどんな未来を描くことができるのでしょうか? 前回に引き続き森川幸人が、EMarieデザイナーのエマ理永氏に話を聞きました。

そもそもどうして? をすっ飛ばしてしまっている

エマ理永(以下、エマ):ファッション界の作品の良し悪しの評価基準の前提条件がよくわからなくて。科学に出会ったので、サイエンスのクリエイティブな所がすごく新鮮でした。でも感性を基準にすることが全然ダメかという話ではなくて、それらはつながっているし、時には重なるものであるっていう考えに至ってからはすごくすっきりしています。

森川幸人(以下、森川):僕も理科系と文化系をまたいでいるので珍しがられるんですけど、自分の中ではすごく自然なことです。ゲームプランナーの人も、理数に興味がない人が多い気がします。例えば剣と魔法の世界で、勇者がお姫様を助けに行くみたいなシナリオはデザインするけれど、その後ろで起きている物理的な現象や、モンスターや人間がどうしてそう考えるとか、そう行動するとか、生物的な背景について興味を持っている人は少ない気がします。

ゲーム機やコンピュータの性能が上がり、物理演算もできるようになったので、よりリアルな描写ができるようになりました。人間の動きをキャプチャーして貼り付けるなどもできるようになったのに、動きに魂が入っていないというか…。本当の生き物だったらそもそもそんな動きしないよねといった、「そもそも」の乖離が激しい。表面だけリアルにしても、本当のリアリティに到達しない。逆にただの四角であっても、生き物らしく振る舞えば、生きているように見えるはずだと思っているんです。魂を持たせるにはAIの力が必要だと思い、この20年やっています。

エマ:服を作るうえで人間の体を知らずに作ることは、私は考えられないけれど、実はファッション界でも人間の身体をあまり考えないことが多いんです。

森川:真剣に考えれば、どうしてそうなっているのか気になりますよね。心地よいと感じる理由を知りたくなる。

さまざまな制約を乗り越えてきたファッション

森川:僕らの作るゲームはデジタルの仮想の世界だから物理的な制約を受けないけど、服って重力や素材の影響、人間の関節の動きなどの制約をもろに受けますよね。エマさんは、デザインされるとき、そうした物理や人間性の原理からボトムアップするのか、完成された姿、つまり、見た目からトップダウンでデザインされるのかどちらからですか?

エマ:両方だとは思います。20世紀のファッションは、素敵だったと思います。ただ、ファッションは個性と言っているのに、実際にみんなが着ている服は、大量生産のグループ分けされた同じ形のものですよね。ファッションの大量生産が遅れたのは、人間がすごく多様性のある体をしていたから。そのために先人たちが一所懸命サイズ分け、グループ分けしたのに、なんのためにサイズがあるのかを忘れて、女の子たちがただ細ければいいと思ってしまっているのは、おかしいですよね。順番が逆なんじゃないのかなと。

そういった生産や流通の都合を第一にしてしまっている現状に対して、テクノロジーが進んだら新しいアプローチができるはずと唱え続けてきた一方で、手仕事も残っていくと思います。写真が生まれても絵描きは残り、印象派という写真にはできない表現も定着していきました。あとAIには、人が何を美しいと称賛するかをインプットしてもらわないといけない。

森川:AIはもっとたくさん勉強しないとですね。服をデザインするには、人間には骨があって、骨の可動域や筋肉の動かし方を想定していないと人間の体にフィットしない。服はさらにそこに素材の選択肢も入るからより複雑ですよね。

エマ:いろんな素材があるのでフレアひとつとっても、どの素材を使うかによって表現方法が変わってきます。でもゲームもたくさんの要素が組み合わさっていますよね?

森川:大変ですけど、洗濯方法や、染料が皮膚にどう影響あるのかなども考えなくても大丈夫なので気が楽です(笑)

見たことのない、新しいアイディアを生み出すには

森川:人間がアイディアに困窮する時って、こんなことをいうと笑われるかもしれない、大損するかもしれないっていう恥とか見栄とか恐怖が、無意識のうちに答えを抑えてしまっていることが多い気がします。将棋の世界でも、もしかしたら革新的な一手を思いついても、同業者の目があると打つのを躊躇してしまうことがあるそうです。どの分野でもきっと起こることですよね。

エマ:ゲームの世界でもですか?

森川:意外と保守的ですね。ゲームばっかりやってきた子が多いので、自分がはまってたゲームと同じようなゲームを作りたいとなってしまうんです。ゲームのネタは、既存のゲームの中だけにあるんじゃなく、自然界にいっぱいネタがあるのにと思っちゃいます。

エマ:ファッションのある学校では、前年度のトレンドを調べさせて、「次のトレンドはこうだ」と教えるんです。それも必要ですが、それを超えたビジョンも大切です。

森川:まったく同じですね。こういうゲームが流行ったから、同じようなのを作ろうと。マーケティングは大事ではありますが、クリエイティブの視野が狭くなってしまうので、そちらからの圧力をあまり強くかけるのは、よくないと思います。

ファッションデザインは重力との付き合い

エマ:わたし、最初に重力が「重力」と名付けられた理由が知りたいんですよね。なぜ重力なんでしょう?

森川:リンゴが落ちるのは、地球がリンゴを引っ張っているのだというニュートンの視点が天才的で。僕たちは高速で回転している地球に立っているのに遠心力で飛ばされずにいられるのも地球が引っ張っていてくれるおかげだと。

エマ:その次にアインシュタインは、重力は空間の歪みだといいましたよね?そうすると、引っ張る力を重力と名付けていて、引っ張られる所も重力で、重力が空間の歪みとなると、重力の定義はどうなるの?と…。

森川:そこは実はまだ相入れないんですよねえ(笑)。アインシュタインの説はまったく別で、例えばラケットに大きい鉄球を乗せて乗せると網がひずむように、空間にモノやエネルギーがあると、その空間がひずむ。その空間のひずみに合わせて素直に動いていると、鉄球に引っ張られているように見えます。ですから、ニュートンの万有引力とは基本的に考え方が違います。

だけど不思議なことに観測するとピッタリ合うので、どちらの解釈でも大丈夫なんです。ただ、万有引力の方程式の方が簡単なので、ロケットを飛ばすときなどは万有引力の計算を使うんです。空間の歪みの中でものがどう動くかの計算は難しい。

エマ:空間の歪み=重力となるんですね。

森川:その一番極端な形がブラックホールです。あと、重力だけが他の宇宙に漏れ出ている可能性があるんですよね。

エマ:漏れる、とは?

森川:今では、宇宙はたくさんある、「ユニ」ではなく「マルチ」である、つまり「ユニバース」ではなく「マルチバース」だと考えられています。一方、物理の力は、4つの力(電磁気力、強い力、弱い力、重力)にまとめられるのですが、どういうわけだか、重力だけが他の力に比べて、圧倒的に弱いんです。その理由を説明するひとつの仮説として、重力以外の3つの力はこの宇宙にとどまっているけど、重力だけは他の宇宙に向けて漏れ出してるので、弱くなっているんじゃないかという説があります。全然脱線した話題になっちゃってますが、大丈夫でしょうか(笑)

エマ:AIとのコラボは、合原先生と話をしている時に「AIファッションを創れたら、素敵だね」という感じで始まったんですが(笑)、AIに限らずサイエンスの世界の話全般が大好きです。ファッションデザインは重力とどう付き合うかですが、ゲームの中の世界では重力の制約を受けずに新しいファッションもできそうで…一緒に色々できるといいですね!

森川:いいですね。是非、ご一緒させて下さい。

 

ファッションの制約をAIと乗り越えるには:エマ理永氏×森川幸人氏 対談(後編)

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