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【JSAI2020】AIと共に生き、AIを生かす社会のデザイン:中島秀之氏基調講演(前編)

2020.7.09サイエンス

【JSAI2020】AIと共に生き、AIを生かす社会のデザイン:中島秀之氏基調講演(前編)

第34回人工知能学会全国大会(JSAI2020)初日に行われた基調講演では、札幌市立大学学長の中島秀之氏が登壇し、IT技術の進化の流れの中で捉えたAIの歴史を紐解きながら、AIを活用していくことで変容していく社会の可能性について語りました。それは未来の社会のデザインを考えていくのは私たち自身なのだという力強いメッセージでもありました。

情報社会から人間の価値観を中心とする社会へ

中島氏は人類が誕生以来歩んできた社会の変化を振り返りながら「情報は物質やエネルギーに並ぶ世界観」だと語りました。まず衣食住のような物質が社会の基盤であった農耕社会の時代から、18世紀半ばのイギリスで起こった産業革命に移行に工業社会へと移行します。この時代には人間がエネルギーを活用するための技術が発明され、世の中を物質ではなくエネルギーがリードするようになりました。現在は情報が世の中を動かす情報社会です。今後はさらに、AI技術がこの人間社会を支えていくと予測されています。

図1:情報は物質、エネルギーに並ぶ世界観。各時代をドリブンしてきた物質やエネルギーと同じだということ

中島氏はこのスライドを使っていた2000年頃から、情報社会の次は人間の価値観が中心に来る人間社会が来るだろうと考えていました。人間社会では価値や物語、サービスが重要になります。ここで中島氏が物語に注目した理由は、人工知能という研究分野は世の中に存在するものを分析して記述する分析科学と言われる類いの学問ではなく、自分たちで新しいシステムを作っていく学問領域であるためです。そうした学問分野は構成的科学あるいは工学と呼ばれ、その分野における論文は分析科学とは異なる物語的な書き方になると考えたのです。

これは、日本政府が提唱する未来社会のコンセプト「ソサエティ5.0」で言われていることと同様です。人類の誕生とともに生まれたソサエティ1.0は人類が何も生み出さず自然界にあるものを採って食べるだけの狩猟社会で、それが100万年以上続いた後、約1万年前に農耕社会(ソサエティ2.0)、300年前に工業社会(ソサエティ3.0)に移行します。そして、今から60〜70年前にコンピュータが誕生して20年前にインターネットが普及し、ほんの数10年前に情報社会(ソサエティ4.0)へと移行しました。

図2:ソサエティ5.0は5年ごとに改定される科学技術基本法の第5期(2016年度から2020年度)で示された。すでに到達していなければならないはずだが、いまだ至ってはいない

ここで重要なのは、前の社会から次の社会へと移行するまでのスパンが100万年、1万年、100年、10年と、どんどん短くなっていることです。レイ・カーツワイルが著書『ポスト・ヒューマン誕生』で述べたシンギュラリティは、この人間社会の進化の加速を取り上げたものです。日本では2007年に出版され、2017年にエッセンス版として『シンギュラリティは近い』が刊行されていますが「2045年シンギュラリティが起こり、人類がAIに置き去りされる」とセンセーショナルなフレーズが独り歩きし、さまざまな物議をかもしました。

中島氏は「シンギュラリティが近い」というカーツワイルの言葉について、彼が一番言いたかったことは、変化の速度が指数関数的に加速していることだと指摘します。AIが人類を置き去りにするのではなく、人間がAIやナノテクノロジー、遺伝子工学といった新たな技術を得ることで生物としての限界を越えていくことこそが、カーツワイルが言うシンギュラリティなのです。

図3:変化の加速は0に、シンギュラリティに至る

図3はカーツワイルの本の中に出てくるものですが、縦軸がログスケールで次の変化までに何年かかったかを示しており、上にいくほど変化が遅いことがわかります。一番上を見ると10の10乗、10億年くらいで次の変化が起こっています。生命の誕生から細胞という形になるまでに膨大な時間がかかっていますが、細胞という単位ができたことによって進化が加速し、人間の誕生まですぐに到達しています。人間が出てくると、農業、工業、コンピュータと、社会の様相が急速に進化していきます。このように生命の誕生後に人類が辿ってきた変化はエクスポネンシャル(指数関数的)な加速であるということです。

人工知能の歴史と現状

人工知能の歴史をかいつまんで振り返ると、最初に到来した第一次人工知能ブームは、コンピュータという記号の処理をする機械さえあれば人間の知能を再現できると考えられていた記号処理の時代でした。しかし、ほどなくして記号処理だけではなく人間が持っている常識と呼ばれる莫大な知識がないと人工知能は作れないという壁にぶつかり冬の時代が来ます。

次第にコンピュータの処理速度が速くなり記憶容量が増してくると、コンピュータに特定の分野の知識をデータとして読み込ませて推論をさせることで、専門家のような判断を行うエキスパートシステムが作られます。これが第二次人工知能ブームで日本で言うと第五世代コンピュータの時代です。

ところがエキスパートシステムの成功は限定的なもので、人間の専門家を越える段階までは到達できませんでした。欠けていたのは暗黙知と呼ばれる言葉にできない知識を処理する能力です。例えば自転車の乗り方は言葉では説明ができません。このように言語化が難しく汎化できない多くの知識を個々の人間は持っているため、これまでの方法では人間の専門家が持つ知識をコンピュータに完全に移行できないことが明らかになり、再び人工知能研究は冬の時代を迎えます。

しかしその後、大量に与えたビッグデータを学習するディープラーニングが注目されたことで、第三次人工知能ブームが到来して現在に至ります。ディープラーニングは暗黙知を勝手に吸収するため学習結果は言葉にはなりません。中島氏はディープラーニングの長所は説明できないことを学習することだと語ります。昔の知識処理に欠けていた部分をディープラーニングが補うことで人工知能が次の段階に進歩する可能性があるからです。

ディープラーニングは人間の脳の神経細胞を模式化したニューラルネットワークの一種です。人間の脳には多いものだと100万本超の入力を持つ神経細胞があり、入力の足し算をしてある一定以上の値が来たら出力をする仕組みです。脳細胞1つでは単純なことしかできませんが、これが何10億、100億と集まることで人間の脳のような働きが可能になります。

図4:網の神経細胞とその模式化

図4の右側が脳の神経細胞の仕組みを単純化したモデルです。素子に対しX1からXnの入力があり、それにW1からWnという重みをかけて足し算した結果、それが特定のしきい値を越えた場合に出力がされます。これによりニューラルネットワークができるのですが、最初にできたのはパーセプトロンと呼ばれる入力と出力をつないでその間に重み付けを加えた結線をするアルゴリズムです。出力が望みのものでない場合、それに寄与した重みを下げていくことで学習ができますが、単純な概念しか学習できません。

マービン・ミンスキーとシーモア・パパートは彼らの共著『パーセプトロン』の中で、単層パーセプトロンは線形分離可能なものしか学習できないという理論的限界を指摘しました。その後1980年代になって、図5の中で赤い丸で示された中間層を入れた多層パーセプトロンによって、理論的には何でも学習できるアルゴリズムが登場します。この多層パーセプトロンを進化させたのがディープラーニングで、中間層を多層化することによって、データを提示すれば世界を教えなくても自分で勝手に学習できるモデルです。

図5:ニューラルネットの複雑化
図6:Googleの猫。インターネット上の画像をラベルなしに見せていただけで「猫」の写真を識別できるようになった。2012年、ディープラーニングのお披露目的なものとして発表され、大きなインパクトを与えた

すでにゲームの世界ではAlphaGoをはじめ、囲碁も将棋も人間よりプログラムのほうが強い状態になっています。中島氏がここで言及したのは、判断基準が単純明快で変わらないゲームの世界ではうまくいっても、実生活においてAIを活用することの難しさです。

特に、囲碁将棋は盤面上にすべての情報がある完全情報ゲームであり、必要なデータがそろっているためアルゴリズムでの処理に適しています。しかし、実社会には非常に多くの評価基準が存在し、場合によって何が大事か、何を一番優先すべきかも変わってきます。例えば電車の事故や停電などでダイヤが乱れたとき、おそらく最適化ということだけに絞ればコンピュータの方が計算は速いでしょう。ただし、何を最適化すべきなのかを自分では判断できません。

今のAIは「Internet of Things(IoT)」などによって実世界から収集されたデータをIT技術で分析して再び実世界にフィードバックする「Cyber Physical Sysytem」による環境知能によって支えられています。ニューラルネットワークの最新系であるディープラーニングはIoTによって取得されクラウドに蓄積されたビッグデータがないと学習ができません。この仕組みを整理したのが図7です。

図7:分野地図

さらに、ITを3つのタイプで分析したものが次に示す図8です。Type1は、コンピュータと対象の間だけで情報が処理されるものです。例えば自動制御や工作機械は人間の関与なしに自動的に制御されます。Type2は人間と対象物の間にコンピュータが入ることで色々な情報が処理されるもので、自動翻訳やデータマイニングなどがこれにあたります。中島氏が注目するのはType3で、対象とする現実世界を抜きにしてコンピュータの中だけで色々なことができるというものです。例えばバーチャルリアリティ、コンピュータシミュレーションなどがそうです。

図8:情報処理の3つのカテゴリ

IBM WatsonはType1で、人間の医者が診断できなかった白血病を診断したことで話題になりました。毎日3,000本くらい大量に出てくる症例や新薬に関する医療関係の論文をすべて読み込んで、最新の知識をアップデートし続けているからこそ可能となるわけです。そのようなAIと人間が協力することで、より良い医療サービスなどさまざまなことができるようになるのが今後の社会だと中島氏は言います。コンピュータにしかできないことがある一方で、人間にしかできないこともあり、両者が協力する社会が実現されるということです。

アメリカではマルチエージェントシステムをセキュリティに応用した例もあります。麻薬の取り締まりにおける見回りルートをコンピュータが策定することで検挙率が向上しました。人間が考える限り、犯罪者側も警察がどこを見回りにくるかが分かってしまうのですが、コンピュータが判断することで相手に読まれないルートを採ることができるわけです。

図9:マルチエージェントシステムのセキュリティ応用

同じくコンピュータシミュレーションの事例では、水害や地震などの震災時に、どこにどういう被害があるか、あるいは避難場所までどれくらいの時間がかかるかをコンピュータシミュレーションで算出するシステムがあります。

図10:震災総合シミュレーションシステム

図11はCOVID-19の感染症拡大シミュレーションで、長距離の移動を抑えることは本当に感染防止に役に立つかを検証したものです。左上から順番に移動確率を増やしています。これはコンピュータの中のランダムなシミュレーションであって、現実の世界と対応しているわけではありませんが、傾向としては移動が増えれば増えるほど、感染が拡大していくことが分かります。おもしろいことに一番感染が拡大している(e)ではその分収束の速度も速まっていることが示されました。

図11:COVID-19の感染症拡大シミュレーション

中島氏が最近使っている言葉にAIとITをつないだ「AIT」という造語があります。AITは新しい社会システムを作っていく技術ですが、単にコンピュータやネットワークができたことで社会の制度が変わるかというと、そうとも限りません。例えば、電子政府の実現に向けた取り組みのひとつに住民票のオンライン申請がありますが、いまなお続いている紙で住民票をやり取りする仕組み自体を変えることこそが本質ではないでしょうか。 AITは社会の仕組みを根本的に変える力を持っているにもかかわらず、どのような社会を目指すべきかをデザインをする人が不在であることが問題であると中島氏は指摘します。後編ではそれを踏まえて、AIとこれからの社会を考察していきます。

≫≫後編に続く

Writer:大内孝子

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