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環境主体のリアリティを探求する:ゲームAI開発者 × 生物学専門家による座談会「生物とAI」 後編

2021.4.06サイエンス

環境主体のリアリティを探求する:ゲームAI開発者 × 生物学専門家による座談会「生物とAI」 後編

ゲームAIと生物学の双方の分野から専門家を呼んで、忌憚のない意見を交換する対談企画「生物とAI」。前編では、生態系をビデオゲームとして成立させることの難しさや、ユーザーの環世界という側面から見るゲーム開発のプロセス、知能の集合体として捉える生物のあり方について語られました。

今回の後編では、現実世界の生物とゲーム世界のモンスターの決定的な違いをはじめ、ゲーム産業の発展に伴い忘れ去られたアンコントローラブルなゲーム体験、生態系という学問とビデオゲームという芸術の間に広がる深い溝について語られます。コロナ禍という人間の支配を超えた領域で自然の脅威が垣間見えるいまだからこそ、環境というキーワードがテクノロジーと強く結びつく内容です。

ゲームにおける環世界とは何か?:ゲームAI開発者 × 生物学専門家による座談会「生物とAI」 前編

ヤーコプ・フォン・ユクスキュルは、すべての動物は種特有の知覚世界を持ち、それぞれの動物による知覚と作用の総体こそが、その動物にとっての環境であるという「環世界」という概念を提唱しました。この考え方は、ビデオゲームにおけるキャラクターの人工知能を司るエージェントアーキテクチャという枠組みを支えています。

やられるためだけのモンスターは嫌だ

坂本洋典氏(以下、坂本):赤いモンスターが危険だとユーザー認識してもらうというお話がありましたよね。生態系には、強者に自らの姿かたちを似せることで弱者が身を守るベイツ型擬態という現象が頻繁に見られます。ゲームに登場するモンスターにも、強いモンスターにそっくりなのに実は擬態している弱いモンスターなんてのがいてもいいし、強くて赤いモンスターが出現する地域では、村などのデザインにおいても、警戒や畏怖を表す色として赤が用いられるように、人間の文化にモンスターが影響を及ぼすといったこともあり得ると思います。

三宅陽一郎氏(以下、三宅):ゲーム開発でそういった学習を促すのはユーザーなので、擬態という概念はあまりないですね。例えば「赤系統のモンスターは炎系の魔法ばっかり撃ってきてやばい」みたいな印象付けに色を利用することはよくあります。あくまでユーザーがモンスターの行動パターンを類推する手助けをするため。そういう特徴をユーザーの環世界に埋め込むための作業です。

残念ながら、モンスターを作るチームと地形を作るチームは別々に作業していることが多い。モンスター班は自分たちが考える最高にカッコいいモンスターを考えて、一方で地形班も自分たちが考える最高にカッコいいダンジョンを考える。そうすると、なぜか狭いダンジョンに巨大なモンスターが住んでいる、ということも一般的にはゲームで良くあることです。「こいつは一体どこから入ったんだ」みたいな。それを許容する文化がゲームにはありますね。

薄暗いダンジョンなのに派手な色のモンスターばかりいることもよくありますね。あからさまにやっつけてくれと言わんばかりに分かりやすい色なんです。もう少し地味にしておけば見つかりにくいのに。あと緑の草原に赤いモンスターとかいますからね。生物界だったら絶対生き延びられません。しかし、ユーザーが暗闇でも認識しやすい色にしてあげることが優先されます。

水辺には水系のモンスターがいるような属性分けはされるんですけど、モンスターが何を食べて生きているとか、どういうふうに子育てするとか、生物学的なリアリティはほとんどないんです。ほとんどのゲームで、モンスターはユーザーにやられるためだけのサンドバッグみたいな存在として扱われています。実は私はそれが嫌で、レベル上げのためだけに用意されたようなモンスター以上のものを作りたいと思っています。

森川幸人氏(以下、森川):ゲームプランナーにそういう話をしても共感してもらえないんですよね。

水野勇太氏(以下、水野):お客様に楽しんでもらうことが最優先されるので、環境主体と適者生存の現実世界と違って、ゲーム世界では環境でも生物でもなく開発者がコントロールできるかどうかという事を優先してしまいがちですよね。これは開発者のエゴが先行してしまっているとも言えるのかもしれません。

坂本:学会でハワイに行ったときに同じような感情を抱きました。ワイキキビーチやホノルルで、多くの観光客がハワイの自然は素晴らしいと堪能していたのですが、じつはその場のほとんどの植物や生物は人間が意図的に持ち込んだ外来種だったんです。さすがにその場では口にしませんでしたが、あれは人間が綺麗だと感じるようにデザインされた人工的な自然ですね。

水野:実はハワイはゲームデザイナーが作った島だったみたいな(笑)。誰かの主張が込められたハワイというダンジョンを、それに気が付かないプレイヤーが楽しんでいるようなものですね。確かに、ゲームとユーザーのメタ構造に似ていますね。

三宅:ゲーム開発にはテーマパークを作るという見方と、生態的な自然を作るという2つの捉え方があります。モンスターとのバトルはテーマパーク的な要素ですよね。AIを作る側も本気でプレイヤーを倒そうとは思ってなくて、ある程度戦ったらやられるようモンスターに演技させています。そういう意味では、テーマパークにいる着ぐるみの中の人と類似点があります。

一方で、ゲームの世界をデザインする部分では後者を追求していますよね。ハードウェアの進化とともに少しずつ生態系っぽい自然に近づいているんだけど、同時により良いサーヴィスを意識したテーマパークになっているとも言えます。そのせめぎ合いは常にありますね。ちなみに森川さんは生態系派のボスみたいな存在ですよね。

森川:だからこそ、いまだにこんなところでくすぶっているんだけど(笑)。ゲームで生態系が作れたら、あとは生態系が勝手に新しいものを作ってくれそうなんですよね。そうやって楽するためならどんな努力でもいとわないと意気込んで現在にいたります。まだ楽できてません。

坂本:ある程度の知性を与えられた生物が、ゲーム内の生態系でいかに生き残るか、進化するのかを観察するのはとても面白そうですね。

森川:問題は、生物の進化の歴史と同じくらいのプレイ時間が必要になりそうなことですね。水野さん、もっとがんばってよ。

水野:確かに我々のようなゲームを作る側の至らなさだと痛感します。現状は楽しみとしてのゲームをデザインし実現するだけで精一杯で、生態的な自然を実現するところまで手が回っていないのだと思います。そのような作り方だから「不自然な敵」が多数存在するゲーム世界になってしまっているのでしょう。最初から遊びを考えるのではなくて、自然の仕組みを学んだ上で、そのゲーム世界上の自然にこそ成立する最上の遊びを提案できれば、エンターテイメントと生態系の両立も可能なのかもしれません。まだまだそれを低コストで実現する具体的なアイデアはありませんけど。

アンコントローラブルなワイルドさ

三宅:普段から生き物をよく観察されている釜屋さんから見て、これからのゲームをもっと面白くできそうなアイデアはありますか。

釜屋憲彦氏(以下、釜屋):最近のゲームをあまりプレイしていないので迂闊なことは言えないんですけど、モンスターは倒してもらうための存在という話は、現実世界の自然から特にかけ離れた点だと感じました。私たちの身近には舗装された緑道のような、コントロールされた快適な自然が多いので、どうしても人間が上に立ったような感覚で自然と向き合いがちです。本来の自然は、畏怖の念を抱くほど圧倒的に恐ろしい、ある種不快な側面も多く秘めた存在なんですよね。人間のコントロールが一切およばない、手も足も出ない圧倒的な存在。そういう状況から始まるゲームがあったら面白いんじゃないでしょうか。

三宅:そこがいまのデジタルゲームにないものなんですよね。必ず攻略できると保証されている。正直なところ、たくさんのゲームがありますから、その中に、私は開発者でも攻略できるか分からないゲームがあってもいいと思います。魔王の城に続く崖は登れるかどうか分からないし、ジャングルのダンジョンは入り口すら見当たらなくて、いざ入ったら調整されてない謎のモンスターに瞬殺されたみたいな。

芸術の分野でも偶然性を取り入れることが多くなったように、ゲームにも完全にコントロールされていないワイルドさを残してもいいんじゃないか。それを望んでいるユーザーも結構いると思うんですが、みんなが主人公として活躍できるようなゲームデザインじゃないと、なかなか商業的には実現できないんですよね。

坂本:いま人類が直面している新型コロナウイルスは、ある意味でコントロールできない自然の象徴的な存在となっていると感じます。もしかしたら今は、アンコントローラブルなリアリティと向き合うために人々の意識を改革する稀有な機会なのかもしれません。

三宅:かつて『ワールド オブ ウォークラフト』(2004年、ブリザード・エンターテイメント)というMMORPGのゲーム世界でパンデミックが起こったことがあります。ボスがかけた呪文によってヒットポイントが減少して感染性を持つタイプの状態異常で、本来は特定のダンジョンの中だけで発生するものだったのですが、プログラマのミスでダンジョンの外でも次々と状態異常が感染する状況が生まれてしまって、初心者がログインした瞬間にゲームオーバーになってしまうような大惨事になりました。

それと同様に、昔のゲームであるほどしっかりチューニングされていませんでしたよね。プレイヤーが3日間戦い続けないと倒せないモンスターがいたり、謎の無法地帯があったり、そういう深い混沌がどこかで生まれていて、そういう部分をこよなく愛するゲーマーがいるんです。最近だと『デモンズソウル』(2009年、フロム・ソフトウェア)のような高難易度で人気を博するゲームが、当時のアンコントローラブルな感覚に近いのかな。

水野:圧倒的な存在と対面するという感覚は、近年だとMMORPGにおけるレイドコンテンツとしても表現されていますね。アップデートのたびに初見では倒せないような最上難易度のボスが追加されて、プレイヤーたちが試行錯誤を繰り返して攻略方法を模索・共有していくという、オンラインゲームの醍醐味ともいえる体験が提供されています。そういった知識を共有したり、顔も知らない仲間たちと協力したりする中で高まっていく連帯感は、圧倒的な自然を生き延びる喜びに近いのかもしれません。

森川:プレイヤーたちが未知の強敵を目の前にして慌てふためくという状況は、コロナ禍で起きているサイトカインストームという免疫系の暴走に似ていますね。どの程度の魔法やアイテムを使ったらいいのか分からないから、とりあえずやられないように過剰に反応してしまう。この世界自体がすでにゲーム的なので、ヒントはたくさんあると思うんですよね。水野さん、この感覚を共有できている1年以内にも企画を通さないとね。

学問と芸術の間にある深い溝

釜屋:家でダンゴムシやハエトリグモといった小動物を飼育しています。卵の状態から大人になるまでずっとはりついて観察していると、なんて多面的な顔があるのかと、発見は尽きません。文献を調べても見つからない、意外な行動もどんどんでてきます。主観的には彼らを可愛く感じる瞬間や恐ろしく感じる瞬間もある。ゲームに登場するモンスターもただ立ち向かうべき敵としてだけでなく、プレーヤーとの関係性を介した多面性が垣間見えれば、「モンスター像」はより豊かになるんじゃないでしょうか。

水野:三宅さんは子どもを育てている時のモンスターの話をよくしますよね。

三宅:私が育った地元にはイノシシが人前によく現れるのですが、動物は時と場合によってまったく異なる表情を見せます。一般にゲームのモンスターはとくに理由もなく怒っていることが多い。確かに多面性はリアリティを演出する上で重要な要素のひとつですね。

森川:子連れのイノシシが凶暴化するのは、脳内物質のオキシトシンの作用によって引き起こされる生理的な反応です。そういう原理を理解した上で、初めて生き物らしい振る舞いが表現できるんだと思います。ただ何となく人間的な解釈でモンスターの行動を表現するんじゃなくて、もう少し生物の根源を積極的に学ぶべきなんだと思います。

三宅:私も生態系の仕組みをいろいろと勉強してゲームに取り入れようとはするのですが、システムを客観的に再現する行為と主観的に体験する行為はまったく異なるんです。例えば、魚や鳥の群れのシミュレーションって外から見たら圧倒されるんだけど、いざゲーム内の敵として対面すると烏合の衆にしか見えなくなるんですよ。生き物らしさを取り入れても、ユーザーの環世界に体験として現れてくれない。そこには学問と芸術の違いのような深い溝があるように思います。

森川さんの手掛けてきたゲーム作品は、そういう誰も越えられなかったところに橋を渡してきた印象があります。遺伝的アルゴリズムをゲームに取り入れた『アストロノーカ』(1998年、エニックス)は代表的なお手本ですよね。客観的に理解した自然の原理を、主観的に楽しませるにはどうしたらいいか。その移植は誰にでもできる作業じゃないと思います。

水野:ゲーム開発者には、どうしてもコントロールしきれないものを怖がる傾向がありますよね。森川さんの言葉は、その先にある価値から目を背けるのはあまりにももったいないというエールだと感じました。

森川:私もいまはゲームをデザインする側の人間じゃないからこういうこと言えるんでしょうけど、実際のところ難しいですよね。環境を主体に考えれば新しい視野が生まれて、遊びの可能性も広がっていくと思います。ゲーム業界の人は、もっといろんな分野の専門家と話す機会を持った方がいいのかもしれません。

三宅:ゲームの世界はポリゴンをつなぎ合わせただけの仮想的な空間なので、現実世界のように環境が力をもっていないんですよね。草が生えていても食べられないし、そこで生物が育まれるわけでもない。あらかじめ定義されたものだけが存在を許される乾いた場所。自然界では目に見えない微小なものですら力を持っているのに、ゲームにはそれと同じパワーはない。さらなるゲームAIの発展には、環境との相互作用は欠かせないと考えています。

坂本:ひとえに自然を再現するといっても、親しめる自然の度合いは人によって違いますよね。例えば、ジャングルのような本格的な自然の中で珍しい生き物を見つけるためには専門的な知識と技術が必要で、難易度がかなり高くなるのですが、そうした術を持たない多くの人は動物園やサファリパークのように生き物が頻繁に現れてくれる空間の方が楽しいと感じると思うんです。どこまでの自然を楽しめるかは人それぞれなので、ゲーム開発におけるテーマパーク作りの側面も理解できます。

水野:その人に合った自然を提供するという意味では、私の専門であるメタAIが役立つ可能性はあるのかもしれません。ゲーム業界がたどり着いた袋小路は、むしろ大きなイノベーションにつながるチャンスなのかもしれませんね。

ゲームは体験するメディアです。例えば、滅びゆく世界を単なる映像として観るだけじゃなくて、プレイヤーが世界に対してアクションを起こせるのがゲーム。それはただ鑑賞するよりも強い体験になると思います。そういったプレイヤーのインタラクションを通して、現実世界の問題を伝えることに長けているメディアなんですよね。

坂本:いま起きているコロナ禍も、センザンコウやコウモリという野生動物を本来は宿主とするウイルスが人間社会に持ち込まれたことがきっかけとされます。それは間違いなく人間の手により自然環境が破壊され、奥深くの自然にいたウイルスが近づいたことによって引き起こされたと言えます。自然や生態系の仕組みを感じさせてくれるゲームがあったら、自然破壊の問題について多くの人に考えてもらうきっかけになりそうですね。これからのゲームを本当に楽しみにしています。

三宅陽一郎

株式会社スクウェア・エニックス リードAIリサーチャー。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。共著『デジタルゲームの教科書』『デジタルゲームの技術』『絵でわかる人工知能』(SBCr) 『高校生のための ゲームで考える人工知能』(筑摩書房)『ゲーム情報学概論』(コロナ社) 、著書『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(BNN新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)、『なぜ人工知能は人と会話ができるのか』(マイナビ出版)。翻訳監修『ゲームプログラマのためのC++』『C++のためのAPIデザイン』(SBCr)、監修『最強囲碁AI アルファ碁 解体新書』(翔泳社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 AIとテクノロジーの話』(日本文芸社)、『ゲームAI技術入門』(技術評論社)。

坂本洋典

東京都町田市出身。早稲田大学教育学部卒業。東京大学大学院農学生命科学研究科生産・環境生物学専攻博士課程修了[博士(農学)]。現在、国立環境研究所生物・生態系環境研究センター研究員として、外来生物の防除研究に主として携わっている。著書『外来アリのはなし』(朝倉書店)、『アフリカ昆虫学 生物多様性とエスノサイエンス』(海遊舎)、『アリの社会 小さな虫の大きな知恵』(東海大学出版会)など。

釜屋憲彦

島根県松江市生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科認知科学分野修士課程修了(人間・環境学)。野生生物の生態調査員として働きながら、それぞれの生物が独自に体験する世界(環世界)をテーマに研究、執筆活動を行っている。「環世界展」(主催:好奇心の森 DARWIN ROOM、2015)キュレーター。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。

水野勇太

大手ゲーム会社で、ステルスアクションゲームの敵AIプログラマとして、ゲーム業界のキャリアをスタート。シリーズ作の敵AIプログラマ、スマートフォンタイトルのリードプログラマなど4年のプログラム経験ののち、企画職へ転身。スマートフォンタイトルのプランナー、ディレクターとして、6年間ゲームデザインとディレクションの経験を積む。2017年4月、ゲームAIの研究開発に本格的に取り組める環境を求めて、スクウェア・エニックスへ転職。大型タイトルのボスバトルへのメタAI実装を経て、卓球ロボットへメタAIを実装する研究、建築情報学への寄稿など、現在はゲーム以外へのメタAI実装すら射程に入れ、AIテクニカルゲームデザイナーとしてさまざまなメタAIの研究開発に取り組んでいる。共著『ゲーム学の新時代』(NTT出版)、『建築情報学へ』(millegraph)。

森川幸人

筑波大学芸術専門学群を卒業後、「ウゴウゴルーガ」のCG制作などで幅広く活躍。1994年よりゲーム開発に従事し『がんばれ森川君2号』『アストロノーカ』『くうまた』などAIを使ったゲームを手掛ける。著書「マッチ箱の脳」(新紀元社)「テロメアの帽子」(新紀元社)共著「絵でわかる人工知能」(SB出版)「イラストで読むAI」(筑摩書房)など。2017年にゲーム業界、エンターテイメント業界に特化したAI専門会社モリカトロン株式会社を設立し、AI研究所所長としてAI人材の育成に力を注ぐ。

Writer:Ritsuko Kawai / 河合律子、Image by Kevinsphotos from Pixabay

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