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モリカトロンとAIが切り開くゲーム開発のフロンティア:森川幸人氏インタビュー

2019.4.23ゲーム

モリカトロンとAIが切り開くゲーム開発のフロンティア:森川幸人氏インタビュー

ゲームクリエイターの森川幸人さんが率いるモリカトロン株式会社は2017年8月にゲームAIを専門に開発する日本初の会社として設立されました。モリカトロンの設立背景および事業内容、今のゲーム業界において、AIはどのような役割を期待されているのか? その活用の現状と課題について森川さんにお伺いしました。

モリカトロンはお薦めのAIを提案する”ソムリエ”

モリカトロンが事業として行っているのは、ゲームにAIを組み込みたい企業への技術提供です。ゲームにAIを組み込みたい、何かいい手法がないかというとき、ゲームの中や外にAIを入れるという仕事になります。

「AIのソムリエ」という言い方をよくしますが、要は料理に合ったワインを選ぶのと同じように、ゲームの種類や困っているポイントに応じて、どういうAIのモデルがいいか、どれくらいのスケールのものがいいかを提案したり、提供する。当然、期間や予算の問題もかかわってくるので、そのあたりも見極めて、じゃあこういうモデルがいいね、と。既存のモデルが合わない場合は自分たちでカスタマイズして提供しています。(森川幸人氏)

AIが使われるのは、たとえば、キャラクターのセリフやゲームのステージのデザインを自動生成するといった部分です。シナリオライターが書いたセリフを自動生成することで、プレイヤーのプレイに合わせて、よりマッチしたセリフをキャラクターに言わせることができるのです。

森川さんといえば、20年以上も前に『アストロノーカ』(1998年、エニックス)などの作品でAIをゲームに取り入れ、数々の名作を世に出してきたクリエイターです。モリカトロンでは、自分で作るゲームにAIを入れるのではなく、依頼を受けてパブリッシャーのゲームにAIを入れるお手伝いをしています。

どこまで関わるかはクライアントやプロジェクトによりますが、実装まで請け負って納品するパターン、コンサルティングとして開発をサポートするパターン、外部のラボとして共同研究を行うパターンの、大きく3つに分けられます。現在はそれぞれ、複数案件を請け負っているとのこと。

ゲームにAIを組み込むには、新規リリースの場合、クライアント側のゲーム開発と平行して進める形になります。ゲームの種類や規模によって異なりますが、例えば実装まで請け負う場合、ひとつのプロジェクトにだいたい4カ月程度、4〜5名を投入することになります。それを、現在10名強のスタッフで回しています。

発足した当時は営業に苦労するのではないかという不安もあったものの、すぐに引き合いがあり、実作業が始まりました。今はゲームAIの専門会社と掲げていますが、ゆくゆくはエンタメ系のものはすべて守備範囲の中に入れたいと考えています。

パラメータ設計やQAのAI化は大きなニーズに

ゲームの中でAIがどう使われているのかというと、ゲーム全体を制御するメタAIであったり、プレイヤーが一緒に旅するキャラクターや敵役になるモンスターの頭の中(いわゆるキャラクターAI)、ステージのフィールドなどで地形を解釈するナビゲーションAIなど、多種多様なシーンで活用されています。

そして、大きく注目されているのが、パラメータ設計(バランス調整)やデバッグ(品質管理、QA)部分への活用です。RPGなど、キャラクターのアイテムやレベル、ステータスなど複数のパラメータが存在し、それらが複雑に絡み合っています。そのため、面白さを出しつつゲームとして破綻しないよう、バランスを調整することが非常に難しいのです。

ソーシャルゲームではプレイヤーを飽きさせずに遊んでもらうために、定期的に新キャラクターを登場させます。その際、既存のゲーム世界を破綻させないようにバランスを見て、パラメータを調整する必要があります。最近のソーシャルゲームでは、こうしたキャラクターやカードの追加が2週間に1度といった頻度で行われることが多いので、運営が何年も続いているタイトルとなると、年々キャラクターの数も増えていき、どんどん規模が大きくなっていきます。

運営が5年も続いているタイトルになると、キャラクターは数百、数千という数になってきます。それくらいの数になると、そろそろ人力で調整できる範囲ではなくなってきます。順列組合わせからいっても気の遠くなるような数、しかも更新のペースは速いので。すごい人数をかけてパラメータ調整をして、それでも結局はバランスブレーカーが出てしまって炎上する。(森川幸人氏)

デバッグ作業も然りです。ゲームの動作を実際にプレイしてバグがないか検証し、ゲームのクオリティを担保する重要な部分ですが、これまでは人海戦術で大量のスタッフを投入してまかなってきました。しかし、ゲームのイベントはどんどん複雑になり、ステージも巨大化していきます。すべての条件について人間が調べて対応するというのも、そろそろ限界に来ているのです。それらの課題をAIで解決すべく、モリカトロンは実案件ベースで多数のプロジェクトに携わっています。

基本的にパラメータ設計のAIはゲームの中に組み込み、

  • キャラクターのパラメータや行動判断を学習し
  • オートプレイで対戦し
  • その結果を評価する

というプロセスを繰り返します。

人間によるプレイより何十倍も速いスピードでのオートプレイと、夜中でも休まずに作業をしてくれるAIとで、これまで何人ものスタッフで何日もかかっていた作業を短時間かつオートメーション作業で代替できるようになります。ただ、ある程度の整合性をとるところまでは可能ですが、その先の「バランス調整によって面白いものにする」という部分はまだ人間の仕事です。

ゲームによると思いますが、要になるところ、「最後にこの人がチューニングする」というのは、少数のトップクリエイターがやっています。その人の天才的なセンスとバランス感覚で面白いものにするというのは、AIが導入されても変わらないと思います。(森川幸人氏)

とはいえ、例えば3人でやっていた作業を1人に減らすことはできます。それだけでも人的コスト70%減という計算になります。また、リリース後の運用における大量生産の部分は(単純計算で)1人+AIで請け負えるようになります。

今、話が来るタイミングの多くが、開発途中、しかも、かなり後半になって問題が顕在化してくるときです。それまで、開発中は何がどこでどんなふうに大変になっているか、上のほうの人には分からない。β版くらいになって浮上してくると、「この先、人がやるのか」という話になってきて、えらいこっちゃとなる。それで話が来ることが多いですね。そこからリリースまでの間にAIを組み込む。すでにリリースされているものは、次の大型のアップデートのときに向けて、となります。(森川幸人氏)

人間が作業を担当している限り、コストは横ばいで、上がることはあっても下がりはしません。しかしAIを導入すれば、初期投費を加味しても、例えば1年間に20回程度の新キャラクターの投入がある場合、リリース後1〜2年でコストは逆転するといいます。さらには、手直しすれば複数のゲームに使い回すこともできます。

一方、デバッグ作業のAI化はまだまだ段階を追って開発している状況です。ひとつのゲームに特化した形でシステムを構築するのは可能かもしれませんが、ゲームの多様化もあり、技術的に非常に難しいのです。

デバッグやQA(品質管理)のAIはまだどこも実現していません。僕たちもその一歩手前の自動処理、一部機械化・自動化のあたりのところから、まず入っています。現場でデバッグをやりながらでないと手に入らないリクエスト、知見がたくさんあって、研究室の中でおさまる仕事ではないんです。実際にやりながら技術を磨いていく、現場からのリクエストに応えていくという形で、着実に一歩ずつ進めています。(森川幸人氏)

チェックリストをもとに、その工程どおり、機械的にボタンを押していく作業なら自動化できるかもしれません。しかし、そのチェックリスト自体をAIが作ることは、まだできません。というのも、リッチなグラフィックスにさまざまなエフェクトと、今のゲームの画面はあまりにも多彩な表現が高速で遷移するため、画面上のボタンの文字を認識することすら難しい状態だからです。

画像処理などを一部自動化するだけでもできればと思いますが、全部できるデバッグAIはまだ先かなと思います。コツコツと少しずつ入れ替わっていくということの積み上げしかない。最先端のモデルを入れればいいというわけじゃない、割とドロくさい作業の連続で、それを1つずつ作って入れ替えていくことになるので。まあ、一人天才が現れると分からないですが。(森川幸人氏)

どんなゲームにも必要なもの=インフラ化して”共有”

大手のゲーム会社でもQAにAIを取り入れようという動きは出ています。背景として使いやすいライブラリが、各種揃うなど、AI技術が普及してきていることと、前述のような複雑かつ膨大な作業を人間だけでは対応しきれなくなっているという現場のニーズがあります。両者がマッチしたことで、QAのAI化は加速されていますが、最大の要因として、QAがどのゲームにおいても必須な工程であることが挙げられます。

どんなゲームだとしても必要だからこそ、みんなが必死に研究開発しているということですが、それについて森川さんは「同じことをしているなら共有してしまえばいい」と述べています。

結局はみんな同じことをしているんです。どこの会社も技術を自分たちの中に囲い込んでいるけど、ゲーム開発のインフラのひとつとして共有してしまったほうがいい。(森川幸人氏)

モリカトロンでは仕事を受注する形態として「ラボ契約」を用意し、外部のラボとして共同研究を通し、自社のナレッジやノウハウをクライアントに提供しています。運用段階に入ったプロジェクトも、基本的には動いたときに問題があれば直すという形ですが、クライアントにノウハウごと納品し、最終的にはクライアント側だけで運用できるように、手離れできるようにしています。

パブリッシャーとしては、どうしても自分たちの知的財産を外に出すということはできない事情があります。しかし、自社で最終プロダクトのリリースをしないモリカトロンには技術を囲い込む理由はありません。

自分たちの秘密の技術、知識というように囲い込むことは考えていないんです。それに意味はないので。ゲーム業界全体に広まっていけば、それがベスト。楽できる部分はみんなで楽して、それによって生まれた余剰時間で新しい、面白いゲームができれば、そのほうがいいと思っています。(森川幸人氏)

もちろん、ラボ契約にはそれ以外の利点もあります。モリカトロンとしては担当するスタッフを調整し、複数案件を平行して進めやすくなりますし、クライアントはコストを押さえることができます。とはいえ、これは運用でマネタイズする開発支援・技術提供とは真逆のビジネスモデルで、さまざまな企業とフラットな立ち位置で関わることができ、自分たちの技術への自信があってこそできることだといえます。

インディーズゲームとAIは相性がいい

AIを使ったゲームというと大規模なものをイメージしがちですが、森川さんはインディーズゲームの作り手にも、もっとAIを活用して欲しいといいます。

AIが私たちの仕事を代替してくれても、”人間がやる部分”は必ず残ります。いわばゲーム制作とはAIと人間の分業で、AIが下準備的な作業をして、最後の仕上げはセンスのあるトップクリエイターが行うからです。しかし、下準備の泥臭い経験なしに最後のジャッジ的な部分だけをできるようになるのでしょうか? “最後はセンスのよい人がやる”とはいっても、自分の手で作らなくなっていく人が増えていくと、そういうセンスすらも持てなくなるのではないでしょうか?

これはAIの存在にかかわらず起きている問題で、ゲーム開発という職人的な技術が継承されていく世界において、クリエイターたちが十分な経験値を積むところまで至らなくなってしまうことが起きています。

昔のゲームは、例えば『ドラゴンクエスト』(1986年、エニックス)の開発期間は7カ月程度と言われています。このくらいのサイクルであれば、ゲーム会社に入社してチーフになるまでに、3本や4本を作り終えている可能性があります。

それに比べると、今のゲーム(特にソーシャルゲーム以外は)は超大作になり過ぎるがゆえに、チーフになるまでに携われるゲームの数は1本か2本。AIのことを置いておいても、これでは体験値・経験値が積めません。しかも分業化されていて、パーツの部分だけ渡されることもままあります。全体を俯瞰する形でたくさんのゲームに携われるチャンスが圧倒的に少なくなっています。

ただ、インディーズゲームの世界は事情が異なります。大ヒットは狙えないかもしれませんが、そこにはまだ多様なゲームが生まれる土壌があると森川さんはいいます。

大型のゲームの中から新しい未来が生まれてくるかというと、開発にかかわる人たちの経験が少なくなってくるといよいよ難しくなる。でも、インディーズゲームの世界は割とまだゲームの多様性が担保されているところあって、可能性があると思っています。毎年京都で開催されるBitSummitというインディーズゲームの展示会がありますが、そこを見ていると、やっぱりまだおかしなこと考えているやつがいるなと安心するんです。(森川幸人氏)

インディーズゲームの課題としては、ゲームの多様性が担保されてはいるものの、少人数のチームではお金も人も少なく、やりたいことが十分にできないということが挙げられます。しかし、ステージデザインやデバッグ、パラメータ設計など、人海戦術でこなしてきたプロセスをAIに代替できれば、少人数のチームにとっては特にメリットが大きいでしょう。

例えばステージデザインにしても、さまざまなパターンを提示してくれるAIを導入することで、人的コストは「最終的に選ぶ人間」だけで済みます。ゲームの内容、規模にもよりますが、少人数で1年くらいで作る規模のゲームであれば、だいたい20人月分くらいの人件費が減らせるでしょう。この20人月という数字は、大きなゲームにとって誤差かもしれませんが、小規模のゲームでは大きな数字です。

お金がないから自分たちでやっちゃおうと思うだろうけど、むしろ逆で、AIに任せちゃったほうがいい。今はライブラリも充実しているので、フルスクラッチで書かなきゃいけないことはないので。すぐにサンプルコードも手に入る。敷居もすごく低いと思います。(森川幸人氏)

モリカトロンの向かうところ

「もう20年も前から同じことを言ってきているのに」と苦笑する森川氏。今も「まずお話を聞きたい」という引き合いが絶えません。AIを使っていかないとゲーム開発がいずれ破綻するという危機感を持ち始めた会社は多いことがうかがえますが、社内でAIのチームを作ったという事例はまだ少ないようです。そもそも、AIの技術をゲームのアイデアに結びつけること自体が簡単ではありません。技術革新のスピードがあまりにも速く、プランナーにとって、追いつくだけでも大変です。

当然、プランナーの人はAIでどういう新しいゲームができるかというノウハウを持っていません。本当はもっといろいろなゲームが作れるはずなんです。今は、僕たちも依頼があってそれに対応している形。そうなると、AIの最新機能を使うチャンスは非常に小さくなってしまいます。

この先は、積極的に「このAIのモデルを使うとこういう遊びが作れます」というサンプルを作っていく予定です。遊びの骨組みだけ提供して、それを野球ゲームにするのかアクションゲームにするのか、RPGにするのかは、ゲームプランナーの皆さんに考えていただく。そのような技術の提案をどんどんしていきたいなと思っています。(森川幸人氏)

そもそも、AIとゲーム、両方の開発経験がないとうまく形にするのはなかなか難しいはずです。そこを橋渡しするのがモリカトロンの役割です。常に最新の技術を追いかけ、ゲームに使えるかどうかまで検証する。それを、企業への提案はもちろん、将来的には「AI×ゲーム」のデモサンプルとしてウェブで公開しようと計画しています。

設立から1年半あまり、モリカトロンは次のフェーズに入ろうとしています。ゲームの種類も違う、さまざまな制作段階のものがあり、開発環境もクライアントによって異なります。何よりも会社によってゲームの面白さに対する文化が違う。そんな中で、1年半試行錯誤を重ねてきた経験が大きな財産になっています。森川さんはゲームとAIの今の距離をこのように感じているそうです。

僕らの頃はライバルが人間しかいなかったけど、今はAIという別の知性が関わってくるので、大変だと思います。ロゴデザインを考えてくださいというのも、ディープラーニングがネット上に落ちている世界中のロゴを集めてきて、パターン抽出して新しいロゴを作るというのがすぐにできてしまう。中途半端な気持ちでロゴを作ってきた人はもう負けちゃうと思います。

これは、初めての経験でしょうね。産業革命で肉体労働が、次にコンピュータの登場で計算と記憶がギャフンと言わされてきました。今初めて人間のクリエイティブな方向に魔の手が迫っています。(森川幸人氏)

確かに人間はクリエイティブな部分は人間にしかできない仕事の最後の砦だと、どこかで思っている所があります。そして今、その領域にも否応なくAIが入ってきつつあります。これは人類が初めて経験することですが、そのことを決して悲観的に考える必要はないはずです。

最後に、今これが面白いと思う、AIを使ったゲームのアイデアについてお聞きしました。

これまでは囲碁や将棋など、ゲームを攻略する方にAIが使われていますが、これからはAIがゲームを作れないかなと思っています。以前制作をお手伝いしたゲームに、AIでステージを作るパズルゲームがありました。そのとき、ひょっとしたら新しいパズルゲームのルールをAIが作ってくれるかもしれないと思ったんです。人間だと既成概念があって柔軟な発想をしにくいけど、AIなら人間が思いつかない面白いものを考え出す可能性があります。遊びのルール自体をAIが作る、つまりAIが人間を遊ばせてくれるということですね。そんな風に新しい遊び自体をAIが創発して欲しいなと思います。まだ糸口すら見つかっていないですが。(森川幸人氏)

Writer:大内孝子

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