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【GDC 2019】ジレンマを生成し人の心を動かすメタAI

2019.4.18ゲーム

【GDC 2019】ジレンマを生成し人の心を動かすメタAI

ゲーマーとして、ジャーナリストとしてビデオゲームのコミュニティに属していると、作品に対して「単なる作業ゲー」や「虚無感しかない」といった言葉を目にしたり、自ら感じたりすることは少なくありません。つまり、そのゲームは根本的につまらないか、もしくはすぐに飽きてしまうという意味です。

ゲームとは何かという定義は、知能とは何かという定義と同じくらい相対的ではありますが、多くの作品にあてはまる代表的な条件として、「目的がある」「制限がある」「プレイヤーの関与がある」の3つが挙げられます。そして、多くのユーザーがすぐに飽きてしまうゲームには、このプレイヤーの関与が決定的に不足しているか、もしくはプレイヤーの関与が目的にまったく影響をおよぼしていません。

ちなみに、目的がないゲームも存在します。『マインクラフト』(2009年、Mojang)をはじめとするサンドボックスゲームのクリエイティブモードでは、往々にして目的、つまりゴールや勝利条件はありません。また、『The Long Dark』(2014年、Hinterland Studio Inc.)のサバイバルモードのように、「死なない」「生き延びる」という受動的な目的はあっても、いつまで生き延びればいいのかという終わりがないゲームもあります。同じく、『Banished』(2014年、Shining Rock Software)のような街づくりをシミュレートするゲームでは、「村を作る」「人口を増やす」といった中期目標はあっても、エンディングは存在しません。

前者のような目的が存在しない作品やゲームモードは、もはやゲームというよりは玩具に近い存在ですが、プレイヤーの関与に制限がないという点において、それは永遠の遊び場を提供してくれます。それでは、「プレイヤーの関与」とは何か。ゲームシステムというルールの中で、キー入力によってキャラクターを操作する行為、つまりインタラクションをプレイヤーの関与と解釈することもできますが、それよりも重要なのはプレイヤーの感情が揺さぶられることです。したがってユーザーの行為が体験に変化をもたらす仕組みが「プレイヤーの関与」の必要条件となります。

ジレンマ生成とプレイヤー感情

ゲームクリエイターの米光一成氏が、自身の論文「ゲームの本質とそれ以外の部分―ルイージ要素―」の中で定義しているゲーム要素に、ジレンマという言葉があります。ここでのジレンマとは、プレイヤーのインタラクションに「あちらを立てればこちらが立たず」という状況を作り出す仕組みを指します。

一般的なロールプレイングゲームで例えると、強力な攻撃魔法を使えば多くの敵を一掃できるけれど、その先に待ち受けているボス戦に向けてMPを温存しておきたいといった状況が考えられます。一方で、強力な攻撃魔法を使わないことでボス戦のためにMPを温存できたはいいけれど、戦闘が長引いたことでボス戦を生き残るためのHPが残らないかもしれません。この時のHPとMPのやりくりこそが、プレイヤーが抱えるジレンマです。

ストラテジーゲームでは、自軍の資源や戦力が乏しい最序盤に戦略におけるジレンマが顕著に見られます。領地の拡大を優先して偵察ユニットと拠点建設に資源と時間を割くのか、それとも軍備拡張にオールインしていずれ出会う敵の領地を奪い取ることに賭けるのか。領地拡大に集中すれば自国を守るための軍備が疎かになり、軍備拡張に集中すれば自国の領地は広がらず資源は減る一方です。プレイヤーはスタート時の地形や状況に合わせて戦略を選ぶことになります。これもまたジレンマです。

このジレンマこそがプレイヤーの感情を揺さぶる要素であり、はてはプレイスタイルを決定する材料でもあります。それはユーザーの関心をゲームにつなぎ留めておくための楔です。

ゲームをゲームたらしめる「プレイヤーの関与」とは、ルールの中でループするインタラクションとジレンマの組み合わせと解釈できます。そして、2つのギアが噛み合う瞬間に生まれるのが、プレイヤーの緊張度です。遊び手を飽きさせないゲームは、プレイヤーの緊張度を監視し、巧妙に彼らの感情を手玉に取ります。その役割を担っているのが、メタAIと呼ばれるゲームAIです。

メタAIはゲーム世界の舞台監督

現在のゲームAIは、異なる3種類の役割を担うAIに大別されます。もっとも一般的に認知されているのが、ゲームに登場するプレイヤー以外のキャラクターであるNPCの挙動や行動をつかさどる知能としての「キャラクターAI」。次に、パス検索や位置解析といったアルゴリズムを駆使してキャラクターAIをゲーム世界で道案内する「ナビゲーションAI」。そして、ゲームのレベル状況を監視してエージェントに指示を出すことで全体の流れを作る「メタAI」です。

メタAIは俯瞰的にゲーム世界をコントロールするAIです。メタAIが広く知られるきっかけになったタイトル『Left 4 Dead』(2008年、Valve Software)では、ゲームの戦闘展開などのコントロールに特化した、舞台監督のような「ディレクターAI」というメタAIの一種を採用していました。

これら3つのゲームAIが連携することで、はじめてユーザー体験が生まれます。それでは、メタAIはいかにしてプレイヤー感情を測定し、ユーザー体験の中にジレンマを生成するのでしょうか。2019年3月の「Game Developers Conference 2019」のセッション「Changing the Game: Measuring and Influencing Player Emotions Through Meta AI」にて、スクウェア・エニックスのテクノロジー推進部でAIテクニカルゲームデザイナーとしてゲームAIを研究・開発する水野勇太氏は、メタAIの構造と仕組みを解説しました。

メタAIを構成するのは、センサーから受け取ったゲーム世界の情報を分析する「ワールドアナライザー」、その結果を基にレベル状況に変化を与えるための計画を立てる「ゲームメイカー」、そしてエフェクターをとおして計画どおりに難易度を調整したり、イベントを発生させたりする「オペレーションジェネレータ」の3つです。センサーとエフェクターは動物にとっての五感や身体の役割を果たし、メタAIにとっての環世界を構築します。

スクリプトやフラグによってあらかじめすべてのジレンマが用意されていた従来のビデオゲームでは、それぞれの経過点におけるプレイヤーの感情は、推定したものしか扱えず、事前に推定結果に合わせて設定しておくしかありませんでした。しかし、常にプレイヤーの状況・感情を認識し、メタAIによってゲームの状態を変化させるようになった世界では、プレイヤーの感情に合わせてダイナミックにゲーム状態を変化させることができるのです。

感情を操作されるという”特権”

そこで同じくスクウェア・エニックスのAIリサーチャーである里井大輝氏が披露したのが、「2次元感情マップ」という仕組みです。これは、異なる状況下で想定される複数のプレイヤー感情を「勝利への期待感」と「敗北への不安感」の2軸による直交座標に基づき、そこから想起される8つの感情をマッピングしたものです。例えば、「興奮」と「憂鬱」といった対極する感情のペアは、それぞれ対角線上に位置づけられます。このマップ上におけるプレイヤー感情の現在座標をもとに、メタAIは揺さぶり動かす先となる目的座標を決定し、プレイヤーの知能に干渉してくるというわけです。

例えば、アクションゲームやロールプレイングゲームのバトルにおいて、メタAIが「勝利への期待感」を上げようとしたときには、敵NPCのキャラクターAIの中で、以下のようなパラメータが影響を受けていると、里井氏は解説しています。

  • 隙が大きなアクションや警戒移動をより高頻度で使う
  • プレイヤーの攻撃に対する反応速度が上がる

一方で「敗北への不安感」を上げようとしたときには、敵NPCのAIの以下のようなパラメータが影響を受けているといいます。

  • 比較的危険な攻撃(連続攻撃や大技など)をより高頻度で使う
  • より避けにくい位置から攻撃を始める

このように、メタAIはプレイヤーの現在の感情を推測したうえで、それを2次元感情マップ上で常に反対側へ動かそうとします。

メタAIの実装例として有名な作品としては、ゾンビシューターの『Left 4 Dead』が挙げられます。同作のメタAIは、時間あたりのプレイヤーの撃破数からユーザーの緊張度を測定し、出現させる敵の数や位置をリアルタイムに調整することで知られています。「リラックスの余裕」があるプレイヤーに対してはゾンビの大群を差し向け、「切羽詰まってパニック状態」のプレイヤーに対しては攻撃の手を一時的に弱めることで、緊張度に緩急をつけました。

『Left 4 Dead』のメタAIは1次元の緊張度のみに基づいてゲームに緩急をつけていましたが、その技術をさらにアップグレードさせたのが今回発表された2次元感情マップだといえます。

このようにして作られたインタラクションとジレンマのループこそが、前述した「プレイヤーの関与」を生み出す根源となります。メタAIの役割は、そのループを監視してユーザーのインタラクションに基づいた新しいジレンマを生成することです。

近年のメインストリームであるオープンワールドというゲームデザインにおいては、プレイヤー感情に基づいたキャラクターAIの行動調整のみならず、広大なフィールドを自由に動き回るプレイヤーを飽きさせないために、各地でイベントを自動生成するような仕組みにもメタAIは応用されています。このようにジレンマをとおして感情を操作されることは、今に時代におけるビデオゲームのプレイヤーが持つ特権ともいえるでしょう。

関連資料:ゲームの本質とそれ以外の部分—ルイージ要素—(米光一成)

署名:Ritsuko Kawai

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