モリカトロン株式会社運営「エンターテインメント×AI」の最新情報をお届けするサイトです。

TAG LIST
CGCGへの扉機械学習安藤幸央ディープラーニング月刊エンタメAIニュースGAN河合律子OpenAI音楽ニューラルネットワークNVIDIA三宅陽一郎強化学習吉本幸記QAGoogleFacebook人工知能学会GPT-3自然言語処理グーグルDeepMind大内孝子森川幸人敵対的生成ネットワークキャラクターAIスクウェア・エニックスモリカトロンAIラボインタビューマイクロソフトルールベースシナリオAIと倫理映画デバッグアートDALL-E2StyleGAN倫理ゲームプレイAINFT自動生成SIGGRAPHメタAIテキスト画像生成ロボット深層学習CEDEC2019プロシージャル遺伝的アルゴリズムテストプレイモリカトロンStable DiffusionDALL-Eビヘイビア・ツリーディープフェイクCEDEC2021CEDEC2020ゲームAIVFXデジタルツインメタバース不完全情報ゲームVRナビゲーションAINPC畳み込みニューラルネットワークCLIP画像生成GDC 2021JSAI2022GDC 2019マルチエージェントCEDEC2022AIアート画像生成AIボードゲームファッション懐ゲーから辿るゲームAI技術史toioCNNAdobeUnity著作権小説アニメーション鴫原盛之HTN階層型タスクネットワーク汎用人工知能JSAI2020TensorFlowインタビューBERTMicrosoftイベントレポート対話型エージェントロボティクスMetaMinecraft水野勇太Genvid TechnologiesガイスターStyleGAN2GTC2022教育ソニーJSAI2021スポーツ研究シムピープルMCS-AI動的連携モデルマンガマーケティングGDC SummerバーチャルヒューマンブロックチェーンMidjourneyアストロノーカキャリアNVIDIA OmniverseeスポーツAmazoneSportsDQNBLUE PROTOCOLシーマンアバターOmniverseUbisoftメタAlphaZeroTransformerGPT-2AIりんなカメラ環世界中島秀之哲学ベリサーブPlayable!ChatGPT理化学研究所SIGGRAPH ASIADARPAドローンシムシティImagenZorkバイアスモーションキャプチャーTEZUKA2020AI美空ひばり手塚治虫バンダイナムコ研究所スパーシャルAIElectronic Arts3DメタデータLEFT 4 DEAD通しプレイOpenAI Five本間翔太CMピクサープラチナエッグイーサリアム作曲ボエダ・ゴティエビッグデータ中嶋謙互Amadeus Codeデータ分析Microsoft AzureMILE模倣学習ナラティブスタンフォード大学アーケードゲームOmniverse ReplicatorWCCFレコメンドシステムNVIDIA DRIVE SimWORLD CLUB Champion FootballNVIDIA Isaac Simセガ柏田知大軍事サイバーエージェント田邊雅彦トレーディングカードトレカ音声認識メディアアートPyTorch眞鍋和子バンダイナムコスタジオaibo合成音声齊藤陽介マインクラフトお知らせMagic Leap Oneチャットボットサルでもわかる人工知能VAE3DCGリップシンキングUbisoft La Forge自動運転車ワークショップ知識表現ウォッチドッグス レギオンIGDA秋期GTC2022どうぶつしょうぎEpic Gamesジェイ・コウガミ音楽ストリーミングMITAIロボ「迷キュー」に挑戦野々下裕子徳井直生マシンラーニング5GMuZeroRival Peakクラウド対話エンジン斎藤由多加リトル・コンピュータ・ピープルCodexコンピューティショナル・フォトグラフィーゴブレット・ゴブラーズ絵画rinnaイラストシミュレーションデジタルヒューマン完全情報ゲーム坂本洋典PaLM釜屋憲彦ウェイポイントパス検索対談藤澤仁生物学GTC 2022画像認識GPT-3.5SiemensStyleCLIPDeNA長谷洋平masumi toyota宮路洋一OpenSeaGDC 2022TextWorldジェネレーティブAIEarth-2BingMagentaSFELYZA Pencil松尾豊GTC2021CycleGANデータマイニング東京大学NetHackはこだて未来大学キャラクターモーションフェイクニュースエージェントRPGSIGGRAPH 2022レベルデザインAIボイスアクターNVIDIA CanvasGPUALife人工生命オルタナティヴ・マシンサウンドスケープLaMDAAI DungeonASBS栗原聡ぱいどんテキスト生成不気味の谷ナビゲーションメッシュ松井俊浩ELYZAフルコトELYZA DIGEST音声合成西成活裕Apex LegendsELIZA群衆マネジメントNinjaコンピュータRPGライブビジネスアップルタウン物語新型コロナKELDIC周済涛メロディ言語清田陽司ゲームTENTUPLAYサイバネティックスMARVEL Future FightAstro人工知能史タイムラプスEgo4DAI哲学マップバスキア星新一日経イノベーション・ラボStyleGAN-XL敵対的強化学習StyleGAN3階層型強化学習GOSU Data LabGANimatorWANNGOSU Voice AssistantVoLux-GAN竹内将SenpAI.GGProjected GANMobalyticsSelf-Distilled StyleGAN馬淵浩希Cygamesニューラルレンダリング岡島学AWS SagemakerPLATO映像セリア・ホデント形態素解析frame.ioUXAWS LambdaFoodly誤字検出森山和道認知科学中川友紀子ゲームデザインSentencePieceアールティLUMINOUS ENGINELuminous ProductionsBlenderBot 3パターン・ランゲージ竹村也哉Meta AIちょまどマーク・ザッカーバーグGOAPWACULAdobe MAX 2021自動翻訳AIライティングOmniverse AvatarAIのべりすとFPSNVIDIA RivaQuillBotマルコフ決定過程NVIDIA MegatronCopysmithNVIDIA MerlinJasperNVIDIA Metropolisパラメータ設計テニスバランス調整協調フィルタリング人狼知能テキサス大学AlphaDogfight TrialsAI Messenger VoicebotエージェントシミュレーションOpenAI CodexStarCraft IIHyperStyleMax CooperFuture of Life InstituteRendering with StyleIntelDisney類家利直LAIKADisneyリサーチヴィトゲンシュタインRotomationGauGAN論理哲学論考GauGAN2京都芸術大学ドラゴンクエストライバルズ画像言語表現モデル不確定ゲームSIGGRAPH ASIA 2021PromptBaseDota 2モンテカルロ木探索ディズニーリサーチMitsuba2バンダイナムコネクサスソーシャルゲームEmbeddingワイツマン科学研究所ユーザーレビューGTC2020CG衣装mimicNVIDIA MAXINEVRファッションBaidu淡路滋ビデオ会議ArtflowERNIE-ViLGグリムノーツEponym古文書ゴティエ・ボエダ音声クローニング凸版印刷Gautier Boeda階層的クラスタリングGopherAI-OCR画像判定JuliusSIE鑑定ラベル付けTPRGOxia Palus大澤博隆バーチャル・ヒューマン・エージェントtoio SDK for UnityArt RecognitionSFプロトタイピングクーガー田中章愛実況パワフルサッカー石井敦銭起揚NHC 2021桃太郎電鉄茂谷保伯池田利夫桃鉄GDMC新刊案内パワサカマーベル・シネマティック・ユニバースコナミデジタルエンタテインメント成沢理恵MITメディアラボMCU岩倉宏介アベンジャーズPPOマジック・リープDigital DomainMachine Learning Project CanvasMagendaMasquerade2.0国立情報学研究所ノンファンジブルトークンDDSPフェイシャルキャプチャー石川冬樹サッカーモリカトロン開発者インタビュースパコン里井大輝Kaggle宮本茂則スーパーコンピュータバスケットボール山田暉松岡 聡Assassin’s Creed OriginsAI会話ジェネレーターTSUBAME 1.0Sea of ThievesTSUBAME 2.0GEMS COMPANYmonoAI technologyLSTMABCIモリカトロンAIソリューション富岳初音ミクOculusコード生成AISociety 5.0転移学習テストAlphaCode夏の電脳甲子園Baldur's Gate 3Codeforces座談会Candy Crush Saga自己増強型AItext-to-imageSIGGRAPH ASIA 2020COLMAPtext-to-3DADOPNVIDIA GET3DデバッギングBigGANGANverse3DDreamFusionMaterialGANRNNグランツーリスモSPORTAI絵師ReBeLグランツーリスモ・ソフィーUGCGTソフィーPGCVolvoFIAグランツーリスモチャンピオンシップStability AINovelAIRival PrakDGX A100NovelAI DiffusionVTuberユービーアイソフトWebcam VTuberモーションデータ星新一賞北尾まどかHALO市場分析ポーズ推定将棋メタルギアソリッドVフォートナイトメッシュ生成FSMメルセデス・ベンツRobloxMagic Leapナップサック問題Live NationEpyllion汎用言語モデルWeb3.0マシュー・ボールAIOpsムーアの法則SpotifyスマートコントラクトReplica StudioAWSamuseChitrakarQosmoAdobe MAX 2022巡回セールスマン問題Adobe MAXジョルダン曲線メディアAdobe Research政治Galacticaクラウドゲーミングがんばれ森川君2号pixiv和田洋一リアリティ番組映像解析Stadiaジョンソン裕子セキュリティMILEsNightCafe東芝デジタルソリューションズインタラクティブ・ストリーミングLuis RuizSATLYS 映像解析AIインタラクティブ・メディアポケモン3DスキャンPFN 3D Scanシーマン人工知能研究所東京工業大学Ludo博報堂Preferred NetworksラップPFN 4D ScanSIGGRAPH 2019ArtEmisZ世代DreamUpAIラッパーシステムDeviantArtARWaifu DiffusionGROVERプラスリンクス ~キミと繋がる想い~元素法典FAIRSTCNovel AIチート検出Style Transfer ConversationOpen AIオンラインカジノRCPMicrosoft DesignerアップルRealFlowRinna Character PlatformiPhoneCALADeep FluidsSoul Machines柿沼太一MeInGameAmeliaELSIAIGraphブレイン・コンピュータ・インタフェースバーチャルキャラクター大規模言語モデルBCIGateboxアフォーダンスLearning from VideoANIMAKPaLM-SayCan予期知能逢妻ヒカリセコムGitHub Copilotユクスキュルバーチャル警備システムCode as Policiesカント損保ジャパンCaP上原利之ドラゴンクエストエージェントアーキテクチャアッパーグラウンドコリジョンチェックPAIROCTOPATH TRAVELER西木康智OCTOPATH TRAVELER 大陸の覇者山口情報芸術センター[YCAM]アルスエレクトロニカ2019品質保証YCAMStyleRigAutodeskアンラーニング・ランゲージ逆転オセロニアBentley Systemsカイル・マクドナルドワールドシミュレーターローレン・リー・マッカーシー奥村エルネスト純いただきストリートH100鎖国[Walled Garden]​​プロジェクト齋藤精一大森田不可止COBOLSIGGRAPH ASIA 2022高橋智隆DGX H100VToonifyロボユニザナックDGX SuperPODControlVAE泉幸典仁井谷正充クラウドコンピューティング変分オートエンコーダーロボコレ2019Instant NeRFフォトグラメトリartonomous回帰型ニューラルネットワークbitGANsDeepJoinぎゅわんぶらあ自己中心派Azure Machine LearningAzure OpenAI Service意思決定モデル脱出ゲームDeepLHybrid Reward Architectureコミュニティ管理DeepL WriteウロチョロスSuper PhoenixSNSProject MalmoオンラインゲームGen-1気候変動Project PaidiaシンギュラリティProject Lookoutマックス・プランク気象研究所レイ・カーツワイルWatch Forビョルン・スティーブンスヴァーナー・ヴィンジ気象モデルRunway ResearchLEFT ALIVE気象シミュレーションMake-A-Video長谷川誠ジミ・ヘンドリックス環境問題PhenakiBaby Xカート・コバーンエコロジーDreamixロバート・ダウニー・Jr.エイミー・ワインハウスSDGsText-to-Imageモデル音楽生成AIYouTubeダフト・パンクメモリスタ音声生成AIGlenn MarshallScenarioThe Age of A.I.Story2Hallucination音声変換LatitudeレコメンデーションJukeboxAIピカソVeap JapanAI素材.comEAPneoAIテンセントSIFT福井千春DreamIconDCGAN医療mignMOBADANNCEメンタルケアstudiffuse人事ハーバード大学Edgar HandyAndreessen Horowitz研修デューク大学NetflixAIQVE ONEQA Tech Nightmynet.aiローグライクゲーム松木晋祐東京理科大学下田純也人工音声NeurIPS 2021産業技術総合研究所桑野範久リザバーコンピューティングBardプレイ動画ヒップホップ対話型AIモデルソニーマーケティングControlNetサイレント映画もじぱnoteNBA環境音暗号通貨note AIアシスタント現代アートFUZZLEKetchupAlterationAI News粒子群最適化法Art Selfie進化差分法オープンワールドArt Transfer群知能下川大樹AIFAPet Portraitsウィル・ライト高津芳希P2EBlob Opera大石真史クリムトBEiTStyleGAN-NADA世界モデルDETRゲームエンジンDreamerV3SporeUnreal Engineクリティックネットワークデノイズ南カリフォルニア大学Unity for Industryアクターネットワーク画像処理DMLabSentropyGLIDEControl SuiteCPUDiscordAvatarCLIPAtari 100kSynthetic DataAtari 200MCALMYann LeCunプログラミングサム・アルトマン鈴木雅大ソースコード生成コンセプトアートGMAIシチズンデベロッパーSonanticColie WertzTRPGGitHubCohereリドリー・スコットウィザードリィMCN-AI連携モデルマジック:ザ・ギャザリング絵コンテUrzas.aiストーリーボード介護大阪大学西川善司並木幸介KikiBlenderサムライスピリッツ森寅嘉Zoetic AIプロンプトゼビウスSIGGRAPH 2021ペットGPT-4ストリートファイター半導体Digital Dream LabsPaLM APITopaz Video Enhance AICozmoMakerSuiteDLSSタカラトミーSkeb山野辺一記NetEaseLOVOT大里飛鳥DynamixyzMOFLINRomiU-Netミクシィ13フェイズ構造アドベンチャーゲームユニロボットADVユニボXLandGatoAGI手塚眞DEATH STRANDINGマルチモーダルEric Johnson汎用強化学習AIデザインOculus Questコジマプロダクションロンドン芸術大学生体情報デシマエンジンGoogle BrainインディーゲームSound Control写真高橋ミレイSYNTH SUPER照明Maxim PeterKarl SimsJoshua RomoffArtnomeハイパースケープICONATE山崎陽斗深層強化学習立木創太松原仁浜中雅俊ミライ小町武田英明テスラ福井健策GameGANパックマンTesla BotNEDOTesla AI DayWikipediaソサエティ5.0SphereSIGGRAPH 2020バズグラフXaver 1000ニュースタンテキ養蜂東芝BeewiseDIB-R倉田宜典フィンテック投資韻律射影MILIZE広告韻律転移三菱UFJ信託銀行

ゲーム技術が一役買ったスパコン開発史と両者が接続する未来

2022.9.29ゲーム

ゲーム技術が一役買ったスパコン開発史と両者が接続する未来

2022年8月23日から25日にかけて、ゲーム・エンターテイメント分野における最新コンピュータ技術に関するカンファレンスCEDEC2022がオンライン開催されました。8月25日には、理化学研究所・計算科学研究センターでセンター長を務める松岡 聡氏が「ゲームはスパコンの夢を見るか、スパコンはゲームの夢を見るか」と題した基調講演を行いました。本稿では同講演を要約することで、ゲーム技術がスパコン開発に果たした役割とゲームに接近しつつあるスパコンの未来を明らかにします。

TSUBAME 1.0を開発するまで

松岡氏はコンピュータ開発史と自身が研究者になるまでの経緯をまとめてから、同氏が助手や准教授であった1980年代から1990年代のスパコン開発状況に言及しました。この当時のスパコンは特殊アーキテクチャを採用しており、汎用性に乏しいものでした。1996年から東工大で研究することになった同氏は特殊アーキテクチャに限界を感じていたため、クラスタ技術によって民生品を連結してスパコンを自作することを構想しました。この構想は、同氏の研究室の学生を総動員して、さながら職人のように手作業で進められました。

松岡氏率いる研究室が自作したスパコンは、1999年から2001年のスパコンランキングトップ500にランキングするほどの性能を発揮しました。このスパコンにはAMD製のCPUが使われていたのですが、同製品を使ったスパコンとして初めてトップ500にランキングという快挙を成し遂げました。同スパコンはトップ500にランキングするだけでなく、実際に日本各地の大学研究室で科学計算に活用されました。例えば現在九州大学に所属する藤澤克樹教授は、同スパコンを使っていくつかのアルゴリズムで当時の世界記録を達成しました。

松岡研究室製作スパコンはその後も改良を続け、いつしか東工大が所有するスパコンの性能を凌駕するに至りました。そして2000年、松岡氏は東工大より同大学が管理するスパコンを製作するように命じられました。こうして開発されたのが、2006年に完成した「TSUBAME 1.0」です。同スパコンは民生品を使いながらも、ある性能指標では当時日本最高峰のスパコンだった地球シミュレータを凌駕しました。

GPUの転用で進化したTSUBAME

もっともTSUBAME 1.0の運用には、多大な電力を消費してしまうという問題がありました。この問題を解決するために松岡氏が注目したのが、GPUでした。ゲームにおけるCG処理を効率よく実行するために開発されたGPUは、大量のベクトル計算を行うスパコンの部品としても非常に優秀だったのです。こうしてGPUを並列して2010年に完成した「TSUBAME 2.0」は世界トップクラスのスパコンとなり、当時日本で稼働していた京コンピュータと性能はほぼ同等ながら、電力消費を大幅に抑えたものとなりました。

TSUBAME 2.0もベンチマークを測定するだけではなく、実際の科学計算に応用されました。応用事例のひとつとして、金属材料が結晶する過程のシミュレーションがありました。金属の特性はミクロレベルの構造に依存するのですが、当時はミクロレベルのシミュレーションが不可能と言われていました。こうしたなか、TSUBAME 2.0を使うことによって金属材料の結晶仮定のシミュレーションに成功したのでした。

TSUBAME 2.0に続いて、現在でも東工大で稼働している「TSUBAME 3.0」が製作されました。TSUBAME 3.0は、ついにスパコンの省エネ性能ランキングであるGreen500で1位となりました。もっとも、TSUBAME 3.0は民生品を組み合わせて制作するというTSUBAMEシリーズの設計思想から次第に乖離して、複雑な機構になっていきました。

AIにスパコンを使う

松岡氏は、スパコンのAI活用についても言及しました。ディープラーニングモデルの訓練のような多大な計算資源を使うAIを開発するのに、GPUを活用して計算効率を向上させたスパコンはうってつけのデバイスなのです。そうした事例には、市村 強東京大学教授が2018年に発表した地震シミュレーションがあります。

スパコンがAI開発に役立つことが判明したことによって、AI開発を目的としたスパコンを製作する機運が高まりました。こうした背景から製作されたスパコンが、ABCI(AI Bridging Cloud Infrastructure:「AI橋渡しクラウド」)です。同スパコンは東京大学柏第二キャンパス・旧ラグビー場に建設され、2017年10月30日頃から基礎工事が始まり、2018年8月には本格運用が始まりました。こうした短期間で完成した理由のひとつとして、民生GPUを活用してスパコンを製作するというかつての設計思想に回帰したことがありました。

ABCIは完成後さまざまな用途に利用されましたが、運用開始初期で注目すべき活用事例には画像認識AI開発があります。同スパコン運用開始当時、画像認識データセットのImageNetを使ったAIモデル開発競争が熾烈を極めていました。こうしたなか同スパコンを用いて富士通やSONYが一時的に世界一位のベンチマークを記録するものも、すぐにGoogleに抜かれる一幕がありました。

「頂きは高く、裾野は広い」富岳の開発

ABCI以降に開発された日本のスパコンでもっとも重要なのが、理化学研究所の「富岳」です。同スパコンは、高い計算能力と幅広い応用分野の両立というスパコンの理想を徹底的に追及するという設計思想のもとに開発が進められました。その想定応用分野には、Society 5.0のような日本の未来像に直結するものも想定されました。ちなみに「富岳」と命名されたのは、計算能力としては最高峰を目指し、活用される裾野は広いという同スパコンの理想像を富士山(富岳は富士山の異称)の姿に託したからでした。

ところで、富岳のような莫大な投資が必要な科学プロジェクトが実行される度に問題となるのが、そうしたプロジェクトを行う意義です。松岡氏は、世界トップクラスのスパコンを国家プロジェクトとして開発する意義として2つの理由を挙げました。1つ目の理由は、スパコン開発のようなムーンショットプロジェクトは、民間企業のみでは実行できないことが挙げられます。2つ目の理由として、スパコン開発は実は投資効果が高いことがあります。富岳と同等のスパコンを商用調達しようとすると、3,000億円相当を要します。対して富岳の開発費は1,100億円なので、ROI(投資利益率)は商用調達の約3倍となります。また、スパコン完成後の応用による経済効果も考慮すると、さらに高いROIが見込まれるのです。

2021年3月から本格運用が始まった富岳は、すでにさまざまに応用されています。松岡氏が挙げた応用事例には、タンパク質の構造分析、気象現象の大規模シミュレーションがあります。気象現象シミュレーションに関しては、実際に観測した気象情報と照合してシミュレーションの精度を上げていくシステムも構想されています(そのほかの富岳の応用事例については、理化学研究所・計算科学研究センターの「「富岳」ユーザーの主な研究成果」ページも参照のこと)。

以上のような富岳は、現在でも世界トップレベルのスパコン性能を維持しています。2022年5月時点で、シミュレーションを稼働させた際の性能とビッグデータ処理でそれぞれ世界1位と2冠を達成しています。また、2021年11月には、機械学習処理に関するベンチマークであるMLPerf HPCで1位となりました。

スパコンとゲームが合流する未来

富岳は、前述したように裾野を広げる活動も行っています。そうした活動のひとつには、全国の高校生が同スパコンを用いたソリューションを競う「夏の電脳甲子園」があります。こうしたコンペが開催できるのも、同スパコンが特定の目的にしか使えない特殊なアーキテクチャではなく汎用CPUを用いて製作されたからなのです。

富岳の裾野をさらに広げる活動として注目されているのが、各産業界におけるデジタルツインの構築です。同スパコンによってさまざまな物理現象のシミュレーションを構築することによって、物理世界を精密に再現できるデジタルツインが実現します。デジタルツインがあれば、物理世界で生じる問題に対して最適解を発見できるようになります。デジタルツインの構築にあたっては、AIが大きな役目を果たします。というのも、デジタルツインを構築するにビッグデータからその特徴を抽出する必要がありますが、こうした特徴抽出はAIが得意とするところだからです(デジタルツインとAIの関係については、モリカトロンAIラボ記事「AIとゲームエンジンの産業利用の最前線であるデジタルツインを解説」も参照のこと)。

富岳によって構築したデジタルツインを活用した事例として有名なのが、コロナ感染シミュレーションです。このシミュレーションに関してはマスク着用をめぐるものが何度も報道されましたが、実際には教室や電車、さらにはカラオケボックスに関する精密なデジタルツインを構築したうえでさまざまなシチュエーションにおける感染リスクを検証しました。このコロナ感染研究は、2021年にゴードン・ベル賞COVID-19研究特別賞を受賞しました。

松岡氏は講演の締めくくりとして、スパコンとゲーム技術が合流する未来について話しました。同氏によると、スパコンを制御する単位であるノードは歴史的にゲーム機とともに進化してきました。つまり、ある時代のスパコンのノードはその時代のゲーム機とほぼ同等の性能を持っていたのです。この事実を現在に則して言えば、PS5を(富岳の総ノード数である)約16万台連結すれば、富岳に匹敵するコンピュータが製造できるのです。

いわば平行進化を遂げてきたスパコンとゲーム技術は、融合する兆候を見せています。すでに述べたように現在のスパコンの活用法としてデジタルツインの構築が挙げられますが、デジタルツインをさらに進化させる方向性としてグラフィックの向上とインタラクティブ性の追加が考えられます。こうした進化を実現する手段としてふさわしいものは、ゲームをおいて他にはありません。

デジタルツイン進化の兆候は、例えばNVIDIAが開発するプラットフォームであるOmniverseで見られます。Omniverseの事例として、松岡氏はEricssonが構築した5Gネットワークのデジタルツインを挙げました。

以上のような松岡氏の基調講演からわかるのは、現実の問題を解決するスパコンとエンタメコンテンツを開発ゲーム技術は、その目的が異なるものも、最先端の計算技術を活用し続けてきた点で共通していたことです。そして、デジタルツインやメタバースの実現が真剣に語られるようになった現在、スパコンはグラフィック技術やインタラクティブ性、ゲームは高度な計算能力をそれぞれ求めることによって、両者はかつてないほど接近しようとしています。それゆえ、近い将来、技術基盤にスパコンを活用したメタバースやゲームグラフィックと見紛うばかりのデジタルツインが誕生するかも知れません。

Writer:吉本幸記

RELATED ARTICLE関連記事

AIに不可欠な知識表現とは? IGDAボードゲームAIワークショップをレポート

2019.6.19ゲーム

AIに不可欠な知識表現とは? IGDAボードゲームAIワークショップをレポート

【JSAI2022】人間プレイヤーから学び人間に近づく人狼知能研究の最前線

2022.7.29ゲーム

【JSAI2022】人間プレイヤーから学び人間に近づく人狼知能研究の最前線

AIが変えた現代将棋の常識と定跡:北尾まどか氏×森川幸人氏 対談

2019.6.25ゲーム

AIが変えた現代将棋の常識と定跡:北尾まどか氏×森川幸人氏 対談

RANKING注目の記事はこちら