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ゲーム開発コスト削減の鍵となるのは「外のAI」である:三宅陽一郎氏×森川幸人氏 対談(後編)

2019.5.07ゲーム

ゲーム開発コスト削減の鍵となるのは「外のAI」である:三宅陽一郎氏×森川幸人氏 対談(後編)

モリカトロンAIラボの所長、森川幸人がホストとなり、さまざまなゲストの方からエンターテインメントとAIの最新情報についてお話を伺うモリカトロンAIラボインタビュー。4月26日に公開した「ゲームAIのこれまでとこれから:三宅陽一郎氏×森川幸人氏 対談(前編)」では、三宅さんがゲームAI開発者になったバックグラウンドから、特にゲームの中で使われているゲームAIの構造と歴史について解説していただきました。後編となる本稿では、QA(品質保証)やデバックといったゲームの外のAIが持つ可能性と課題についてお話いただきます。

今、伸びしろがあるのは「外のAI」

森川幸人氏(以下、森川):ここまでお話していたのは、三宅さんが言うところの「(ゲームの)中のAI」の話ですよね。モリカトロンに来る仕事の7〜8割がゲーム開発を効率化するためのAI、「外のAI」なんです。今の三宅さんとして関心があるのは、やはり「中のAI」ですか?

ゲームの中のAI、ゲームの外(周辺)のAI

三宅陽一郎氏(以下、三宅):今はゲームの外のAIのほうが伸び代はあるかなと思っています。僕がゲーム業界に入った頃からAIで開発工程を何とかできないかという話はあったんです。当時はAI技術そのものが高度でゲームの中に入れるだけでも精一杯だったんですが、今はAIブームのおかげでAI技術が使いやすくなっています。

データ解析やディープラーニングも動かしやすくなって、開発工程に導入できるようになったのが2017年くらいからですね。その動きが加速的にどんどん大きくなっています。CEDECのセッション数を見ると顕著ですが、AIの発表が10件になり、20件になりと増えていき、そのほとんどは開発工程におけるAIについてです。

両者が決定的に違うのは、外のAIはふんだんにメモリやCPUパワーを使えるということです。リアルタイムである必要もインタラクティブである必要もありません。つまり制限がほぼないんです。カスタマイズすることなく、AI技術をすぐに適応できます。いわゆる流行の画像処理、ディープラーニング、データマイニングと地続きのところにあるんです。

それに対して、中のAIがしていることは他の産業から見るとちょっと特殊すぎる。なぜ1/60秒のフレームレートで動かしつつ、インタラクティブかつ省メモリなAIという極限のところで曲芸をやっているんだ?という話になるわけです。

とはいえ、外のAIにしても1/60秒で動いているゲームを対象にしているので、これまでのQA(品質保証)技術が通用しないという課題があります。たとえば、通常のアプリは0.1~0.5秒に1回の頻度で画面を描き換えても問題がない。経路探索アプリがリアルタイムである必要はないわけです。

しかし、モバイルゲームとなるとすごいスピードで画面が切り替わります。デバッグで画面の差分を取るとき、通常のアプリなら最大でも0.1秒程度なのに、ゲームの画面の差分を取ろうとすると、0.1秒では全然違う画面になってしまうので、まず差分なんて取れません。1/60秒の画像処理が必要なのはそのためです。そこまで高速に画面を認識する必要があるのはゲーム以外だと自動運転くらいしかありません。

あと画面の状態ですね。状態が目まぐるしく遷移するので何をやっているかのログを取れない。ゲームの場合、ユーザーログをリプレイに使おうとしても、0.01秒ズレただけでボタンが消えて押せないということが起きてしまう。たまたま、そのときCPU処理がちょっと遅くなっただけでリプレイできないことになる。全然、使い物にならないわけです。そうなると結局、QAに対してAI技術を持ってくるまではいいけれど、そこからゲーム産業側がゲーム用にカスタマイズする必要が出てきます。それがなかなか難しいというのがだんだん分かってきたというところなんだと思います。

森川:モリカトロンでも今そこで本当に苦労しています。たとえばOCR技術。ゲーム画面を読み取れるかというと、ボタンだろうがバンバン動くし、エフェクトがかかっているので、外の世界のOCR技術がまったく役に立たないんです。一般の画像認識技術がすぐにゲームのQAでデバッグに使えるかというと、まったくそういうことはなくて、いちいちゲーム用に加工しなければならない。その大変さがようやく見えてきました。

三宅:2016年から2018年くらいで、ようやく、ゲームの自動デバッグというのは、世間的には特殊な問題が多く、ゲーム固有の問題がほとんどだ、ということが分かってきました。3D空間のカメラもそうで、こんなにガンガン動かすのはゲーム以外ほとんどありません。自動運転でさえカメラは固定されています。カメラを動かし放題にすると何が起こるかというと、学習データが取れないんです。同じ角度から映していないから。さらに「夕方になりました」といってシェーダーが変わってしまったりします。そういう課題がたくさんあるんですよね。

ディープラーニング、画像処理、データ解析といった、QAにかかわる要素技術としては第3次ブームで育まれたAI技術と同じなんですが、ゲーム特有の問題があって壁が結構高いというのが分かって。そこが今、ゲーム業界全体でやらないといけないところなのだと考えています。

組織を超えた研究開発を進めるためには?

森川:三宅さんがよく言われるように、外のAIのほうが産学協同でやりやすいし、他の会社との協業もしやすいですよね。

三宅:環境の特殊性がないのとテーマがアカデミックの流れの中に位置づけやすい。しかも、QAはゲームの守秘義務のない部分です。中のAIのデメリットが逆転してメリットになっているという構図ですね。

森川:ゲームの中のAIというのは、その会社のゲームの特性、内部情報がもろに入ってしまっているので、おいそれと共有するわけにはいかないですよね。でも、デバッグや開発工程の問題はみんなが同じように抱えている。しかも、学術的なテーマにもなり得るという。

三宅:そうですね。僕も大学にそういう研究テーマがありますと案内したり、会社に大学の先生を呼んだりしました。また、最近はゲームAIのコミュニティのSlackを作ったり、Mediumを作ったりもしています。ただ、研究のスピードがなかなか上がらないですね。成果が上がりにくくて。やはり、結局はみんな同じところでつまずいている。もちろん、海外の大手ゲーム会社、エレクトロニック・アーツなども外のAIに取り組んでいます。でも日本より進んでいるかというと、50歩100歩なのかなと思います。

ゲームAI開発者コミュニティ(Slack)

今、研究のフェーズとしてはおもしろいですね。2004年からこの業界にいますけど、まったく新しいフェーズなので。いうなれば、ゲームの外の話では日本もほぼ横並びで研究しているといっていい。モバイルゲームは日本のほうが進化しているので、モバイルゲームのQAに関してはその分アドバンテージがあります。

森川:日本以外もふくめて、みんな色んなところで同じ問題を抱えている。そこは共同研究で進めて、最終的にうまく利益を分散できればいいのかもしれない。

三宅:これは誰かが突破しないと。ゲームが大規模になるにつれ、どんどん人件費も釣り上がるわけで、開発費の何割かがQA費になってしまう。将来を考えたら絶対に必要なんです。

森川:モリカトロンでは今、自社用ですが、バグのあるゲームを作っています。1つはデバッガーのトレーニング用、もう1つはAIの学習用に。三宅さんが言ったようにQAには人員が必要だけど、人がたくさんいると当然質は下がる。要は、トップのデバッガーたちを育てる必要があるんですが、職人芸のようなものをどう教えるのか。そこをもうちょっと機械化しないといけないというところで。主観でテストしていてはダメなんですよね。

今後、デバッグをAI化していくにあたってのノウハウ、気付きを広くシェアしていきたいと考えています。みんなが利権がらみで様子見で、動きが取りにくいところをうちが突破口になることで現状を打破したいというのはありますね。

三宅陽一郎|YOUICHIRO MIYAKE

株式会社スクウェア・エニックステクノロジー推進部リードAIリサーチャー。国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。共著『デジタルゲームの教科書』『デジタルゲームの技術』『絵でわかる人工知能』(SBCr) 『高校生のための ゲームで考える人工知能』(筑摩書房)『ゲーム情報学概論』(コロナ社) 、著書『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(BNN新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)、『なぜ人工知能は人と会話ができるのか』(マイナビ出版)。翻訳監修『ゲームプログラマのためのC++』『C++のためのAPIデザイン』(SBCr)、監修『最強囲碁AI アルファ碁 解体新書』(翔泳社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 AIとテクノロジーの話』(日本文芸社)。

Writer:大内孝子

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