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よりリアルに人間らしく。進化するNPC開発の最前線

2020.12.28ゲーム

よりリアルに人間らしく。進化するNPC開発の最前線

RPGで登場するNPC(Non Player Character)は、このジャンルの進化に合わせて複雑に行動できるようになりました。こうしたNPCの進化を語る上で欠かせないのが、AI技術です。というのも、NPCに高度な演出が要求されるに伴い、複雑な状況に対応できるAIが制御するようになったからです。この記事では、NPC開発の歴史を簡単に振り返った上で、最新ゲームにおけるNPC開発事例を紹介します。

NPC開発の基本と現状

ユービーアイソフトシンガポールは2019年12月、NPC開発の歴史をまとめたブログ記事を公開しました(厳密にはユービーアイソフト本社が公開した仏語の記事を翻訳したもの)。今日のNPC開発につながるアイデアとして、1990年代から使われていた有限状態機械(’Finite State Machine’、以後「FSM」と略記)が知られています。FSMは、NPCの振舞いを状態の遷移として定義します。例えば、番兵NPCの状態は、プレイヤーキャラクターが遠いときは「監視」、近づいてきたら「攻撃」と定義できます。NPCは、FSMによって定義された複数の状態を循環するようにして行動することになります。

FSMと並ぶNPC開発の基本手法として知られているのが、ビヘイビア・ツリーです。2004年頃に『HALO』シリーズに導入されたこのアイデアは、NPCが何らかの行動を選択する構造を定義します。具体的には、行動のトリガーとなるイベントとイベントから帰結する行動を分岐木として記述していきます。行動ツリーを使うと条件分岐を視覚的にわかりやすく表現できるため、NPCの行動を定義する手法として急速に普及しました。

NPC開発手法として近年台頭したのが、強化学習です。この手法は、何らかの目標を達成した場合に報酬を与えられるように設定されたNPCが、報酬を最大化するように行動するというものです。この手法が使われた事例として、『メタルギアソリッドV』があります。敵役のNPCは頭ばかり撃たれると、ヘルメットを被るようになります。この事例では「プレイヤーを倒す」という報酬が減らないように、戦術を最適化したと言えます。

現在ではさまざまな手法を組み合わせてNPCを開発していますが、開発手法が進化しても変わらない基本原則があります。それは、「NPCはプレイヤーより賢くなり過ぎない」ことです。NPCはあくまで脇役であり、プレイヤーが活躍する機会を奪ってしまうほどに強くなってはならないのです。

プレイヤーとNPCの垣根を壊す『ウォッチドッグス レギオン』

NPCは、その定義からしてプレイヤーが操作しないものです。しかし、2020年10月29日にリリースされた『ウォッチドッグス レギオン』は、プレイヤーとNPCの間にある垣根を壊すようなゲームシステムを採用しています。架空の現代ロンドンが舞台となった同ゲームは、テロ集団と戦うためにプレイヤーがNPCをスカウトします。スカウトしたNPCはプレイヤーが操作するキャラクターとなり、さまざまなスキルを使ってミッションをクリアします。

ウォッチドッグス レギオンを特集したテック系メディアPCMagが公開した2020年10月の記事によると、NPCにはそれぞれに生活リズムがあり、行動原理も異なります。例えば、あるNPCの仲間を倒すと、そのNPCはプレイヤーに敵対的に振舞うようになります。こうした生活リズムの設定にはFSMの手法が使われ、行動原理は行動ツリーによって設定されていると推測されます。

ウォッチドッグス レギオンが独創的なのは、プレイヤーとロンドンのあいだの社会的関係をもゲームで再現しているところです。同ゲームで採用されているセンシスシステム(「センシス(Census)は国勢調査を意味する英単語」)は、プレイヤーと特定のNPC集団の関係を決定するものです。具体的には、プレイヤーがある地区で暴力的な行動を繰り返すと、その地区におけるプレイヤーの評判が下がり、NPCをスカウトするのが難しくなります。このシステムは、心理学で論じられる群集心理をゲームに実装したものとも見れます。

ウォッチドッグス レギオンは、プレイヤーとNPCの関係をミクロレベルとマクロレベルの両面からリアルに表現していると言えるでしょう。

「常識」を教える必要があった『Rival Peak』のNPC

Facebookが2020年12月1日に発表したリアリティ番組『Rival Peak』では、NPCに関する野心的なアイデアが試みられています。同番組は、12人の出演者が森のなかでサバイバルする様子を視聴する番組です。単なるリアリティ番組との相違点は、視聴者が番組の進行に影響を及ぼせるインタラクティブなところです。例えば、視聴者が特定の出演者を応援すると、クラフト作業速度が上がったりします。もうひとつの相違点は、出演者はすべてAIで駆動するNPCであるところです。

Rival Prakに使われているミドルウェア「Genvid SDK」を提供するGenvid Technologiesが公開しているブログ記事では、AIに関する開発秘話が紹介されています。そうした秘話のなかには、サバイバルをリアルに再現するためにNPCがさまざまに行動できるようにした結果、開発初期に以下のような問題が生じたというものがあります。

・空腹になるとほかのNPCを殺して食べてしまった(カニバリズムの発生)。

・水筒を持っているにも関わらず、水たまりに直接口をつけて飲んでいた。

・カニバリズムを回避するために、(動物から)食べる肉を取り出せるという設定を追加したところ、NPC自身を殺して食べようとした。

以上のような問題は、AIに大きな行動の自由を与えたために生じたと考えられます。実のところ、AIはさまざまな可能性のなかから問題解決に必要な知識や行動を絞り込むことを苦手としています。こうしたAIの弱点はフレーム問題と呼ばれており、いまだに決定的な解決策がないのです。人間も日々フレーム問題に直面していると考えられますが、人間の場合には「常識」のような考える枠組みがあるので、あまりに突飛な行動を選択したり、行動不能に陥ったりせずに生きています。

対してAIは、人間であれば説明しなくても心得ている常識をすべて教える必要があります。それゆえ、Rival Peak開発時には以上のようなAIの「非常識な」行動が観察されるたびに、道徳的タブーに相当するものを実装していきました。

Rival Peakは野心的なアイデアを試みているがゆえに、今後もAIに予期せぬトラブルが生じると予想されます。しかし、そうしたトラブルをひとつずつ解決して行けば、より「人間らしい」AIが実現して、NPCの疑似的な心として駆動することでしょう。

Writer:吉本幸記、Image by Ubisoft

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