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テーマはラップや映画、先住民文化も。Googleが制作支援した機械学習アート作品まとめ

2021.6.30アート

テーマはラップや映画、先住民文化も。Googleが制作支援した機械学習アート作品まとめ

2019年5月、Googleは同社主催の開発者会議「Google I/O 2019」において、機械学習を活用した創作活動の促進を目的として、同社が支援するアーティストを募集しました。そして、応募のなかから選ばれた6人のアーティストの活動成果が、2021年4月末に公開されました。この記事では、公開された機械学習アート作品を紹介していきます。

ヒップホップの歌詞を生成する「おんがく Poetry Bot」

イギリス・ロンドンでデザインスタジオを経営するAlex Fefeghaは、ラップまたはヒップホップの歌詞を生成するAI「Hip Hop Poetry Bot」を開発しました。このAIには、過去のラップとヒップホップの歌詞が学習データとして活用されました。もっとも、ラップとヒップホップの歌詞に関する膨大なデータベースはまだ存在しないので、彼は学習する歌詞を提出できるウェブページを作りました。十分な量の歌詞が集まったらデータベースとして公開したい、とも話しています。

なお、ヒップホップをテーマとしたAIアート作品には、大手GPUメーカーNVIDIAの開発者会議GTC2021で発表された「NO DATA」もあります。この作品は、AIによって生成されたヒップホップのフレーズをつないで、著作権上の問題なしにサンプリングできるようにしたものです。

【参考記事】「人間とAIの共作」の可能性を追求したAI生成楽曲の最新事例

存在しない英語を生成する「The Nonsense Laboratory」

プログラマー兼詩人のAllison Parrishは、通常の英単語や英文を存在しない(それゆえ無意味な)文字列に変換するAI「The Nonsense Laboratory(ナンセンス研究所)」を開発しました。

英語は、綴りと発音が完全には一対一対応しない表音文字体系となっています。この特徴により、通常の英単語や英文の綴りを変えると、まったく聴いたこともないような発音の英語を生成できます。こうした言語的背景にもとづいて作られたのが、The Nonsense Laboratoryなのです。

同AIの学習データに使われたのは、CMU PronouncingDictionaryという特殊な辞書です。この辞書は16万の単語の綴りとその発音から構成されており、単語の意味は書かれていません。同AIは綴りと発音の関係のみを学習したので、存在しないが発音可能な英単語を生成できるのです。

同AIの動作を確認できるウェブページを閲覧すると、任意の存在する英単語の綴りを混ぜて新規の(無意味な)英単語を生成する「MIXER」(下の画像参照)、英文の綴りを変換して発音可能だが無意味なアルファベット文字列に変換する「MOUTHFEEL TUNER」などを試せます。

画像出典:The Nonsense Laboratory「MIXER

失われたサイレント映画をよみがえらせる「Let MeDreamAgain」

ロンドン在住のアーティストAnna Ridlerは、映画黎明期(20世紀初頭)にアメリカ人によって作られたサイレント映画の断片を学習データとして使って、映画を生成するアート作品「Let MeDreamAgain(「私に再び夢を見せて」)」を制作しました。

サイレント映画の80~90%は失われており、彼女の試みは新たな映画を生成すると同時に、映画史上に存在していたかも知れない映画をよみがえらせているとも言えます。学習データには静止画300万枚分の映画が使われました。この学習データは6次元の情報として整理された後、t-SNEという技法を使って3次元データに圧縮して可視化しました(以下の画像参照)。

画像出典:Google Arts & Culture「Recreating Lost Cinema Using Machine Learning

Ridlerによると、黎明期の映画は現代の映画のように明確にストーリーを伝えているわけではなく、むしろ映画を制作するテクノロジーの可能性に関心を寄せていました。こうした関心のあり方が、機械学習の可能性を追求する自分の関心と共鳴した、と彼女は話しています。

録音技術発明以前の音響を再構築する

インド出身で現在はオランダ・ライデン大学に所属するメディアアーティストのBudhaditya Chattopadhyayは、音をテーマにしたアート作品を制作しています。音がテーマといっても音楽ではなく、環境音を聴く体験を再構築する試みを続けています。こうした創作姿勢により、彼はボイスレコーダーを常時携帯して環境音を録音しており、録音したデータ量は3テラバイト以上になります。

Chattopadhyayが環境音にこだわるのは、彼は録音技術が発明される前の前近代的な音響体験に興味をもっており、環境音こそがそうした過去の音に通じるからです。2020年に発表された作品「Dhvāni」は、彼のお気に入りの音源のひとつである鐘をテーマにしたものです。この作品は51個の鐘から構成されており、鑑賞者が鐘の近くを歩くと鐘がなります。鐘がひとつ鳴るとAIによって51個の鐘が自動調整されて、多数の音源によるネットワークからユニークな音響体験が生成されます(下の画像参照)。

画像出典:Google Arts & Culture「An Artist Conducts a Generative Orchestra of Bells

ChattopadhyayはAIを人間とは異なる知性体という意味で「エイリアン・エージェンシー」と呼び、そうした異体知性体は人間と機械のあいだのコミュニケーションとコラボレーションを可能にすると考えています。

映像の制作過程を視覚化する

Martine Symsはアメリカ在住のアーティストで、黒人女性というアイデンティティをテーマとしたビデオインスタレーションの制作を続けています。Gooleの支援を受けて制作する新作「Neural Swamp」は、5つのスクリーンを使って上映される歌劇です。歌劇とは言っても何らかのストーリーを伝えるものではなく、複数の音響や視覚情報が重なり合うことでひとつの映像作品が生成される体験自体をテーマとしています。

Neural Swampで使われる5つのスクリーンのうち2つで、Syms自身の声が使われています。声の再現には、機械学習が使われました。彼女が声にこだわるのは、声こそが(声紋認証があるように)人間のアイデンティティを司るものと考えているからです。Neural Swampは、2021年秋にフィラデルフィア美術館などで上演されます。

キープ文化を復活させる

ペルー出身のマルチメディアアーティストPaola Torres Nunez del Pradoは、かつてペルーで繁栄したインカ帝国のコミュニケーション手段であるキープをテーマとした創作活動をしています。キープとは縄の結び目によって数字を表す方法なのですが、最近の研究では暦や伝承の伝達にも使われていたと考えられています。

Pradoはキープ文化を現代に復活させる試み自体をアート作品にしようと思い、「El Tiempo del Hombre(スペイン語で「人間の時代」)」と題されたレコードを制作しました。このレコードには、キープをテーマにしたアート作品で有名なペルー人アーティストJorge Eduardo Eielsonが自作の詩を朗読する声が収録されています。彼は物故しているので、声はディープフェイク技術を使って復活させました。

なお、Pradoは制作したレコードの1枚をペルーの砂漠に埋めました。この行為は、AIによって復活した死者の声という新しい形式の記録を後世に残すために象徴的に行われたのでした。

以上に紹介した6人のアーティストを簡単にまとめた動画がYouTubeで公開されています(以下の動画を参照)。

機械学習は、現代アートの表現手法のひとつとしてさまざまなアート作品に応用されるようになりました。そして、近い将来、機械学習をテーマとした美術展が日本で開催される可能性もあるでしょう。

Writer:吉本幸記、Image by Google Arts & Culture「Recreating Lost Cinema Using Machine Learning

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