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「人間とAIの共作」の可能性を追求したAI生成楽曲の最新事例

2021.4.30音楽

「人間とAIの共作」の可能性を追求したAI生成楽曲の最新事例

美空ひばりの歌声をよみがえらせた「AI美空ひばり」は、ファンが歓喜した一方で一部の音楽関係者からは「冒涜」と酷評されました。海外でも人間のアーティストの音源を使ったAI生成楽曲が制作されていますが、そのなかには人間を模倣あるいは復活させるというよりは人間とAIが共作して初めて可能な表現を追求したものがあります。この記事では、そうした人間とAIが共作した楽曲事例を紹介します。

27歳で逝去したミュージシャンたちが生きていたら…

音楽系メディアGuitar Worldは4月6日、AIが生成したアルバム「Lost Tapes of the 27 Club」が発表されたことを報じました。同アルバムを制作したOver The Bridgeは、音楽業界のメンタルヘルス増進を目的として設立された組織です。同アルバムの制作コンセプトは、タイトルが暗示しているように、27歳で逝去した多数のミュージシャンの楽曲を学習データとして利用して、彼らが生きていたら制作したかも知れない楽曲をAIが生成する、というものです。学習データとされたのは、ジミ・ヘンドリックス、ニルヴァーナのボーカリストだったカート・コバーン、エイミー・ワインハウスなどいずれも伝説的なミュージシャンばかりです。

同アルバムが制作された意図は、公開していたYouTubeチャンネルに掲載されています(2021年4月末時点では公開は終了)。その制作意図は、若くしてこの世を去ったミュージシャンたちをよみがえらせてファンを喜ばせたり、ましてや利益を得たりするためではありません。その真意はミュージシャンたちの「メンタルヘルスの危機によって失われたものを世界に示す」ためであり、「AIであっても本物(の楽曲)に取って代わることはできない」ことを実感してもらうことにありました。こうした事情から同アルバムのYouTubeでの公開期間は限定的だったのですが公開中はダウンロード販売もされて、その収益は音楽業界のメンタルヘルス増進のために使われました。

ちなみに、同アルバムの制作にはGoogleが開発した音楽生成AI「Magenta」が使われました。しかしながら、同アルバムの制作には多くの人手が加わっており、AIに「丸投げ」していたわけではない、と制作関係者はコメントしています。

「Lost Tapes of the 27 Club」の公式サイト

ダフト・パンクにオマージュを捧げたAI生成ミュージックビデオ

音楽系メディアedm.comは2月28日、2月22日に解散したエレクトロ系音楽デュオのダフト・パンクにオマージュを捧げたミュージックビデオについて報じました。「Voyager」というタイトルのこの動画で特筆すべきなのは、AIによって生成されたところです。同動画を制作したのは、多数の国際的なコンクールの受賞歴があるアイルランドで活躍するCGアーティストのGlenn Marshallです(同氏の詳細は公式サイトを参照)。

YouTubeで公開されている同動画の概要欄によると、同氏は動画生成AIにダフト・パンクを連想させる「ロボットヘッドギア」「ロボットヘッド」「ロボットディスコ」というテキストを入力として渡して、生成された動画はダフト・パンクが楽曲を提供した映画『トロン・レガシー』を彷彿とさせるように編集しました。

同動画の制作には動画生成AIの「Story2Hallucination」が使われました。このAIは、今年初めにOpenAIが発表した画像認識AI「CLIP(Contrastive Language–Image Pre-training:「言語と画像の対比的な事前学習」の略称)」を改変したものです。CLIP自体は画像を入力として与えると認識されたオブジェクト名を出力するAIなのですが、Story2HallucinationはCLIPの出力と入力を逆転させることでテキストを入力すると幻想的な画像を生成できるようにしたのです。

Marshall氏のYouTubeチャンネル「Glenn Marshall Neural Art」には、「Voyager」のほかにもシュールレアリスムの画家ダリにインスパイアされた動画や映画『ブレードランナー』の有名なオープニングシーンをリメイクしたものが公開されています。同チャンネルの概要に掲げられている同氏の制作上のモットーによれば、人間の記憶にもとづいた画像や人間が抱いている美や形式に関する観念には先入見が含まれているので、同氏は制作プロセスから積極的に自らの判断を取り除いてAIが生成するものをアート作品としている、とのこと。こうしたモットーから生まれた「ニューラルアート」は、人間のみで制作されたアート作品より純粋かつ完全とさえ言えるのです。

Story2HallucinationのGitHubページ

サンプリングをAIによる生成に置き換えた音楽系NFT

エンタメ系メディアHYPEBEASTは4月12日、音楽プロデューサーKeyon Christが発表した音楽系NFT「Black Skin Machine」について報じました。楽曲としてはヒップホップに分類される同NFTは、このジャンルの楽曲で伝統的な表現法であるサンプリングによって制作されました。同NFTがユニークなのは、サンプリング元となる楽曲がAIによって生成されたものであるところです。

サンプリング元となった「NO SOUL」は、アーティスト兼エンジニアのユニットDATABOTSが8,000人のヒップホップ・ミュージシャンの楽曲を学習データとして利用して、OpenAIが開発した音楽生成AI「Jukebox」で生成した楽曲です。このようにして生成された同楽曲には、人間が制作したそれに適用されるような著作権が存在しません。それゆえ、同楽曲のどのフレーズをサンプリングしても著作権侵害とならないのです。こうした同楽曲のタイトルは、AIが生成したので人間のソウル(魂)が宿っていないという意味にも解釈できます。そして、同楽曲をサンプリングして制作された音楽系NFTのタイトルが「Black Skin Machine(黒い肌の機械)」なのは、多数の黒人ヒップホップ・ミュージシャンを学習したAI(つまりは機械)から生成されたからのでしょう。

なお、NO SOULとBlack Skin MachineはAIを活用した創造的な楽曲制作事例として、2021年のNVIDIA主催の開発者会議で紹介されました。NO SOULのほかにも、DATABOTSの作品として「D.O.M.E」も発表されました。「Disproportionately Oversized Music Explorer(不釣合いに大き過ぎる音楽のエクスプローラー)」の頭文字をとったD.O.M.Eは、再生時間が12時間に及ぶNO SOULから任意のフレーズを視覚的に見つけて再生できるようにしたものです。

音楽生成AIは、楽曲の著作権ひいては人間の音楽的創造性を脅かしかねない存在であるのは否定しがたい事実です。しかし、こうしたAIを適切に活用すれば、以上に解説した楽曲のように音楽の新たな可能性が拓かれるのです。

Writer:吉本幸記、Photo by Marcus Neto on Unsplash 

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