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音の多様性は都市に生きる人の行動にどのような影響を与えるのか?

2020.3.20サイエンス

音の多様性は都市に生きる人の行動にどのような影響を与えるのか?

ALife研究者によるスタートアップ、オルタナティヴ・マシン社を訪ねるインタビュー。前編「生物が“音の棲み分け”をする環境を、ALife研究者が再現する理由」では、ANHを開発する発端となった生体音響学者による「音のニッチ仮説」から音が人をふくめた生物に与える影響、としてサウンドスケープを自動生成するために実装した遺伝的アルゴリズムやANHのハードウェア設計について伺いました。後編となる本稿では、環境問題に対するALife的なアプローチから、ALifeの社会実装により都市や人がどのように変容する可能性があるかということについて話が及びました。

生物が“音の棲み分け”をする環境を、ALife研究者が再現する理由

Alife研究者によるスタートアップ、オルタナティブ・マシンは、サウンドスケープを自動生成する機械「ANH」を開発しました。その特徴のひとつはサウンドの生成時に遺伝的アルゴリズム(GA)を使っていることです。前編となるこちらの記事では、ANHの発想のもととなった「音のニッチ仮説」とANHの技術について同社の開発チームの皆さんからお話を伺いました。

効率化や合理化へのカウンターとしての技術を模索する

森川幸人氏(以下、森川):環境を復活させようとなった時、短絡的に木を植えればいいみたいな話になりがちですが、皆さんは、音によって生命を呼び戻すというアプローチを取られています。仮説が正しいかどうか分かるのは、これからでしょうか。

青木竜太氏(以下、青木):そうですね。2019年12月にMUTEK.JPで展示したのと、2020年1月にパルコでも展示させていただきました。どれだけ多様か、複雑なのかということを表す指標がいくつかあって、代表的な4つを試した結果、ANHがあった方が高い値を示すことが分かっています。実際の空間に展示したことで色々な発見があったので、改良したい所がたくさん出てきました。今後はそこからどこを絞っていくかという所ですかね。

定量化手法による評価。代表的な4つの「音の生態系指標」において高い値を示した

森川:生きやすい環境について、人間は頭でっかちに考えすぎて、都市の構造といったことを考えてしまう。だけど、むしろプリミティブな音とか匂いとか光の量とか、そういうことが人間の精神の安定につながっているように思います。評価の仕方が非常に難しい気がしますが。そこを、さらに生物の進化の手法でやっていこうというのがおもしろいですね。こういう音からのアプローチは、研究としてはよくあるものなのですか?

升森敦士氏(以下、升森):先行研究を調べると、まさにALifeの研究領域で2018年、2019年と似たような研究があります。他にも、環境を復活させるという文脈において「環境を音情報から評価できないか」「生物の多様性をそこで鳴いている音から評価できないか」というテーマは結構昔からやっているようです。

土井樹氏(以下、土井):その場所の多様性を本当に調査しようとすると大変ですよね。あそこに鳥が何匹いてと観測したりするのはちょっと現実的じゃない。それがマイクを使って一発で録音して評価できたらいいなということです。インドネシアとかアマゾンといった自然そのものが残っている環境では、音がとても豊かだろうと評価できるといったように。

青木:都市を評価する時に「生き生きとする音のあり方」を指標にするとか、今回のアプローチで新しい指標を作ってもおもしろいですね。今はどちらかというと地価や物価、リッチさとか静的な情報で評価しますが、ダイナミックに生成される情報から街を評価していくみたいなこともなくはないはずです。生物をもう少し正しく評価する、多様性を評価する指標としても成立するかもしれない。すごく可能性に満ちた分野だと考えています。

どちらかというと、技術は人間の効率化や合理化に使われがちですが、基本的にALifeの研究者は自然とか生態系の方を向いている。そういう技術のあり方を提示していきたいなというのはあります。

ちょうど引き合いを受け、某企業のオフィスでこれを実験しようという話を進めています。音の多様性が高い場合、人の行動にどのような変化を与えるのか。アンケート的な主観評価と、可能かどうか分からないですが、カメラで撮影して行動変容を観る。両者を関連付けて観察することができればおもしろいのではないかと考えています。

次のステップとしては、オフィスの中にいる人の行動を変えたり、リラックスする環境を作るための活用であったり、音環境が良くない工場や職場環境の改善などに使えるかもしれません。さらには、自然環境的ではあるがまた違ったアプローチの癒やしを目的とした商業施設や病院のサウンドインスタレーションとして活用したり、さらにスケールを広げて、都市の生態系を復活させるようなことも考えられたらいいなと思っています。

森川:音以外に何か着目されていることはありますか? 例えば匂いについてはどうですか?

青木:やってはいないですけど、気になりますね。

土井:音と匂いは近いと思っていて、視覚に比べると、記憶にダイレクトにつながっている。昔聴いた曲や、かいだ香水の香りに接すると一瞬で当時の感覚を思い出しますよね。

青木:映像としてしっかり思い出されるというより、匂いはその時に覚えていた感情が呼び起こされる感じがありますね。人間の持っているダイレクトな情報を与えすぎるとそこに意識を持っていかれてしまいますが、相手の記憶を呼び起こすくらいのちょうどよい情報を与えると、ちゃんとジェネレートされるというか。その集合ごと保存できると感情を引き起こせるのではないでしょうか。光とか音とか匂い、光といっても具体的な映像というよりフラッシュ的なもの。

ALifeはオルタナティブな進化史をシミュレートする

森川:生物の原理にさかのぼっていくというのはおもしろいですよね。生物の歴史からしたら、人間の起源は700万年前とか、全然歴史が浅いわけです。生物の根底の何か、そこにダイレクトに影響を与えた方がおもしろいことが起きそうな気がします。

青木:与えられるものより、自分からジェネレートされたものの方が、より身体化して同一化できるのかもしれません。情報を誰かから与えられただけではそんなに覚えていないけど、自分で創造するとしっかり覚えているので、ある程度自分が関わる余白があるかどうかが重要だと思います。例えば、リアルな実写だとその人の人種や身体が持っている何かについて無視できないけれど、マンガやアニメなど抽象化された絵だと、見ている側が没入しやすくなります。そのような相手のイマジネーションを喚起できる微妙な距離感を出せるかがすごく重要で、ALifeはそれがすごく得意なんじゃないかなと思います。

ALifeが扱うのは広義の生命で、生命指標というものがあるわけではないですけど、みんなが一般的に思っている生命の形とは違う形もあり得るとしているからです。今は歴史の繰り返しの中で偶然性が折り混ざってしまっているから、生命の本質的な仕組みや進化の仕方が分かりません。それに対し、作ったもので生み出される現象を分析して、こういうアプローチもあるかもしれないという新たな可能性を発見しようとしています。

森川:社会応用までやられるようとしているわけですよね。僕もエンターテインメント系の人工知能をやりながら、社会応用、どうやってマネタイズするかを模索しています。次の世代の若い人たちに、学術的な知見も必要だけど、それで仕事として生活が成り立つ所まで導いてあげたいと思っているんです。

青木:ALifeの場合、社会の理解や受け入れが進んでいけば応用できる所は本当にたくさんあると思っています。例えば、今の意思決定のシステムのほとんどはアルゴリズミックで、この条件だったらこうしましょう、みたいなものを規定して作られています。しかし、この先、あらゆるものが自動化していきトップダウンでコントロールがまったく不可能となった時にそれらと接する技術や、複雑なシステムに介入しながら、ナビゲートしていく技術が必要になった時、ALifeはおおいに活用されていくと思います。

あとは、生態系の中で重要な位置を占め、その生物がいなくなると関連している生物や生態系までもが死んでしまうポジションにいるキーストーン種と呼ばれる種がありますが、そういう生態系の仕組みが分かると、現実の情報社会の中でも応用できます。つまり、ウェブなどのサービスの中で重要な情報を発するなどをするキーストーン種にあたる人がいて、その人を守っていくことでサービスが生き生きとしていく。本当に、色々な所で応用できます。ただ、その技術を理解したり、やってみようとする人はまだ少ないので、地道に説得や試作機を見せていくことで、意外といけるねとなることはあるのではないかなと思っています。

環境問題、社会問題などにどう応用できるのか、僕たちも大きなテーマのひとつとして考えています。ALife研究をすぐ応用できるものもありながらも、社会の受け入れやコンピュテーションパワーなどからももう少し先のものや何十年も先のものも当然あります。経済合理性で作られる世界では、基礎研究をしているALife研究者は絶滅危惧種のような存在になるリスクもあります。何とかして後世に引き継いでいかないといけない。池上高志と岡瑞起と私で一緒に起ち上げたオルタナティヴ・マシン社やALIFE Lab.は、そのためのコミュニティの場としての側面もあります。将来的には研究所兼ミュージアムみたいなものを作って、ALife研究者が他分野の研究者やアーティストなどと活動できる場所を作りたいと話しています。

森川:それはうちとすごく近いですね。

青木:ゲームの分野では、すでにやられているかもしれませんが、プロシージャル、生成系の領域でALife技術が注目されているとも聞きます。『ロード・オブ・ザ・リング』の戦闘シーンで、何万体のオークの動きの作成に使われた「MASSIVE」を開発したステファン・レガロスは、もともとALife研究者です。そういう領域がゲームでは多いと思うので、ゲームを作るツールとしてのALife技術の応用というのもあると思っています。

森川:すでに、ゲーム内の集団を扱うAIは実装され始めています。危険があったら逃げるとか、周りで誰か負傷していたら助ける、集団の中で敵の多い所に行く、あるいは逆に逃げるとか、すごく生き物らしく動きます。ただ、そのルールを今ほとんどプランナーが書いているんですよね。それが、もっと生物として自律的に考えて、人間が考えないような戦略を生み出してくれたらうれしいんですが、まだそこまでいっていない。

青木:5年から10年以内にはその辺の技術がもっと一般化してくる気はしています。ARグラスが一般化したら位置情報ゲームはもっと流行ってくるはずです。『Pokemon GO』もそうですし、『Minecraft Earth』もそうですが、最初から作ったシナリオでは対応できないような状況がどんどん起きていく。その場その場で生成されるストーリー、キャラクター、動きなどが求められるようになる。そういう所で、ALifeはまさに使われるのではないかと思っています。

森川:がんばってください。ご協力できることがあるとしたら、ゲームを作ってもう20年以上になるので、ユーザーインタラクティブの所とか、分かりやすく伝えるという所は揉まれてきているので、そういう所では何かできるかもしれません。

Writer:大内孝子

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