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三宅陽一郎が語る、ウィル・ライトとシムシティの思想:懐ゲーから辿るゲームAI技術史vol.1
ゲームAIがビデオゲーム一般に実装されるようになったのはここ20年ばかりですが、1980年代から2000年代初期のゲームを支えてきた技術を振り返ると、ゲームAI史のミッシングリンクをつなげる事例を多数見つけることができます。そのひとつが1990年にマクシスからリリースされたシミュレーションゲーム『シムシティ』です。
本稿ではゲームデザインに関するウィル・ライトの思想を伝える数少ない書籍『ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて』(1990年、ウィル ライト著・多摩 豊翻訳)を参照しながら、AI開発者の三宅陽一郎氏(日本デジタルゲーム学会理事)にAI開発の視点から見た『シムシティ』とウィル・ライトの功績について伺いました。
ゲーム世界へのプレイヤーの介入の仕方をデザインした
——『シムシティ』といえば、今の時代でもシミュレーションゲームの代表として、まず思い浮かぶタイトルのひとつです。発売当初から大ヒットだったのでしょうか?
三宅陽一郎(以下、三宅):最初はなかなか苦戦したようですよ。『シムシティ』は企画段階でもまったく評価されず、同じくウィル・ライトがデザインした『バンゲリングベイ』(1984年、ブローダーバンド)の版元、ブローダーバンドでも取り扱いを断ったそうです。その後もパブリッシャーが見つからなかったため、ウィル・ライトは自らの会社マクシスを作って発売したという経緯があります。
発売後も売り上げが伸び悩んでいましたが、ウィル・ライトと仲の良い宮地洋一さんによると(※1)、ノーベル賞受賞者が「これはすごい」とニューズウィークのコラムで書いたのをきっかけに大ヒット。1991年に任天堂がスーパーファミコン用にライセンスを取り、1997年にエレクトロニック・アーツがマクシスの株式を買うようになりました。
『シムシティ』を出す5年前にウィル・ライトは『バンゲリングベイ』というタイトルを作っていました。日本ではハドソンからファミコン版が発売された時に大々的に広告を打ちましたが、子どもたちからの評判は散々でした。そもそも子どもがプレイしても何のゲームかよく分からないんです。
まず、このゲームの世界にはたくさんの大陸があります。そこをプレイヤーがヘリコプターでぐるっと回るのですが、回っても何も起こらないんです。時々敵がやってきて爆弾を落とすのでそれをやっつける。そうすると、何か展開があると思うでしょう? でもその後、やっぱり何も起こらないんです。もう少し上の年齢のプレイヤーなら分かったかもしれませんが、子どもの自分にはわかりませんでした。
——シューティングゲームということにはなっているようですが、プレイ動画を見てさえ、よく分からないですよね。
三宅:シューティングゲームという割にはシンプルすぎるんですよね。敵も滅多に出てこないし、基本的にプレイヤーが何をするべきなのか全然分からない。どこかからオイルが流れてきているという設定があるようなので、そこからゲームが展開していきそうだと思うんですが、その描写がプログラムのバグか分かりませんが、透明になって見えなくなっているのでどうしようもない。そんなの、デバッグすれば分かる以前の問題じゃないですか。
——あんまりですね(笑)
三宅:そんな訳で何のゲームかよく分からないものの、CMの効果で当時の子どもたちの間で結構流行ってしまったというバンゲリングベイショックみたいな出来事がありました。でも、その後ウィル・ライトは『シムシティ』をはじめ、すごくいいゲームをたくさん作ったので、ゲーム史に名を残すことになりました。
『シムシティ』から10年以上経って、ウィル・ライトが2000年に作ったもうひとつの大ヒット作が『シムピープル』(原題『The Sims』)です。これは箱庭のような仮想世界に生きる人々(シム)をシミュレーションするゲームです。
とは言っても、ゲームの世界に住むのはプレイヤーのアバターという訳ではありません。住んでいるのはシムというAIで、彼らがゲームの中で自律的に動いて、トイレに行ったり、お風呂を洗ったり、バーベキューをしたり、友達の家に行って遊んだりします。街にはそんなシムたちが溢れていて、プレイヤーは神様視点で箱庭を管理するように、ひたすら家具を置いていきます。それだけのゲームなんですが、何とシリーズ累計で1億8千本以上売れる程成功しました(※2)。アメリカ人はそういう人工的に何かができていく雰囲気が好きなのかもしれません。
『シムピープル』の世界では、色々なイベントが自動的に起きます。隣に誰かが家を建てたら、勝手に自分のシムと友達になって、そうこうしているうちに結婚しちゃったり。その様子を観察記録のように「うちのシムたちが、今日いきなりこんなことをしだしてさ」と、ブログに書いて公開する人たちもいます。「Simsブログ」という海外でも日本でもジャンルが確立しているんです。調べてみるとすぐに出てくると思います。アメリカほどではありませんが、日本にも一定の熱心なファンがいて、好きな人は本当に好きなんですね。
『シムシティ』や『シムピープル』の他に『シムアース』(1990年、マクシス)や『シムアント』(1991年、マクシス)など色々な関連タイトルがあります。このシムシリーズは、ずっとウィル・ライトのライフワークでした。共通しているのは、ゲームの中で回していくシミュレーションの中でプレーヤーがどう介入していくかがテーマだということです。
——『シムシティ』には今で言うゲームAIにあたる技術が実装されているとのことですが、具体的にどのような技術だったのでしょうか?
三宅:『シムシティ』は施設や道路などを建設して街を作るゲームですが、『シムピープル』と同様に、プレイヤーは街を外から俯瞰しながら家や工場を作っていくだけなのでゲームの中には存在しません。そして、そのプレイヤーの行動に対する結果が後からじわじわと時差で出てくるのが特徴です。例えばある場所に工場を置いて、5分くらい経って少し街が大きくなると、隣の住人が「こんな環境の悪い所に住めるか!」と怒り出したりします。それに対して「俺、なんで工場の隣にタワーマンションなんか建ててしまったんだろう」と後悔して、工場とマンションのどちらを削除しようかと迷ったりします。

『ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて』を除いては、ウィル・ライトのゲームデザイン論はまとまった本という形では出ておらず、講演のスライド資料くらいしかありませんが、ウィル・ライトによる『The Sims』のゲームデザインを表現した図があります。物を増やしていく軸と、社会的関係を作っていく軸があって、これがゲームプレイの広さを決めています。スタートから序盤の領域があり、より大きな領域にゲームプレイの環が広がって行くことが表現されています。
ウィル・ライトはゲームの楽しみは時間的にスケールするという理論を持っています。1秒のスパンでの楽しみもあれば、5秒、30秒、1分、5分の楽しみもある。例えばシューティングゲームやアクションゲームはワンアクションしたら一瞬で結果が返ってきます。RPGは分かりやすいかもしれません。敵と出会って剣を振ったら次の瞬間に手ごたえが演出されます。これは瞬時の楽しみです。次に敵を倒したら経験値が入ります。これが30秒ぐらいの楽しみです。さらに敵を倒し続けると、レベルが上がります。これが3分の楽しみです。レベルが上がると、新しい街に行けて、新しい物語展開を得ることができます。これが30分の楽しみです。
『シムシティ』においても、アクションに対するレスポンスが何重にもなって返ってくるのが大きな特徴です。『ウィル・ライトが明かすシムシティーのすべて』に詳しく書かれていますが、それを表しているのがこちらのスライド右側の階層図です。

ワンアクションしたら、つまり、ある場所にある建造物を建てたら、それが3秒後、30秒後、3分後、10分後に結果が返ってきます(この時間は解説のための目安の時間なので正確な時間ではありません)。建ててすぐにレスポンスがあるのはグラフィクスですね。そこに建物が実際に表示されます。次に、その建物が使用され始めます。これが3秒後など。30秒後は周囲に影響を及ぼしはじめ、3分後には街全体への影響が確定して行きます。
——知識表現で使用されてきた影響マップを多層展開している仕組みですね。それぞれの階層によって人口に影響があったり住環境の質に影響があったりと、影響の種類が変わってくるんですね。
三宅:そうです。まず一番上の第一層が「アクション空間」と言われるゲーム画面内に見えている階層です。このレイヤーの1マスがゲーム画面に表示される1マスに相当していて、プレイヤーはどのマスからどのマスを工場にするのか、シムたちが住む居住地にするのかなどを選びます。それぞれの施設を設置したら、その影響を考えないといけませんが、アクション空間の下には、施設を設置した影響を計算するレイヤーが多層にあります。ただし、何を設置するかによって、また影響の内容によって返ってくるまでの時間や空間のスケールが変わります。
例えば人口の変化を1マスの範囲だけで考えても仕方がありません。ですから、比較的大きなスケールで考えます。他にも、エネルギー問題や騒音問題はそれぞれこれくらいの時間と空間のスケールで考えるという具合に、それぞれの問題ごとにフィードバックにかかる時間と影響する空間のスケールが変わります。アクション空間のレイヤーで何かアクションをすると、その影響はずっと下に降りて、それぞれのレイヤーで計算をされてから、またアクション空間へと戻ってきます。レイヤーが下に行けば行くほどアクション空間に戻ってくるまで時間がかかります。ですから、比較的すぐ狭い範囲で影響が出ることもあれば、時間が経ってから広い範囲に影響が出ることもあります。

時間と空間のスケールを分けるのがAIの基本ですが、『シムシティ』では、まさにそれをやっています。ゲーム内のひとつのアクションが、いくつかの時間のループになって帰ってくるのです。その時空間インタラクションのデザインこそがウィル・ライトのゲームデザインです。シリーズを通して『シムシティ』は基本的にこの構造を変えていません。基本的にはこのような階層構造のシミュレーションをやっています。
——1988年の時点でそれができてしまうのは、今こうして振り返ってもすごいことだと思います。
三宅:そんな風に最初のアイデアをバーンと出すというのがウィル・ライトなんです。『シムピープル』も、人間の心理シミュレーションをやっているのですが、それもウィル・ライトがいきなりシムを動かすAIのプログラムの原型を書きました。もちろん描画などはなく数値だけですが。そのようにウィル・ライトはゼロイチの発想を形にしていくことで、常にパイオニアとしてゲームを作ってきました。彼は本当にユーザのことを考えて楽しませようとする、根っからのゲームデザイナーなのだと思います。
ちなみに、このプログラムは、それを受け取ったプログラマーのホプキンスさんのブログで読むことができます。1997年1月28日9時25分のことです。
今こそ再評価したい『シムシティ』の技術
——『シムシティ』はその後の時代のゲーム作りにどのような形で影響を与えたのでしょうか?
三宅:『シムシティ』のような多層構造のシミュレーションはあまり見かけませんが、例えば敵の勢力図や資源の分布を、独立した複数のレイヤーを置いて計算するなど、マルチレイヤーを敷いて解析をする事例であれば色々あります。ゲームのキャラクターの知能でネックになるのは環境認識なので、AIをキャラクターではなく環境の側に乗せる発想は戦略ゲームやアクションゲームをふくむゲームではたびたび採用されてきました。ただ、それを自己成長する形で実装したのは『シムシティ』だけです。
とはいえ、どちらかというとこの技術はメタAIというよりはレベルデザインに属します。レベルデザインは、例えば風が吹いたら木が倒れるといったゲームの世界の仕組みのことを指します。メタAIはその世界に介入して面白い舞台に整えようとするのですが、もともとあったゲームの世界の秩序に従って世界を変えようとするレベルデザインとコンフリクトします。ですからどちらを優先するかですね。例えば、ここで木が倒れたほうが面白いけれど、今風は吹いていない。じゃあ風を吹かすか、という具合に。

「メタAI」という言葉を最初に使ったのは、ウィル・ライトです。ウィル・ライトはゲームAIを3つの種類「Meta AI」「Peer AI」「Sub AI」に分類します。「メタAI」は「ゲームデザイナー」に相当する役割を持つAIで、すなわち、データを生成し配置します。「Peer AI」は「キャラクターAI」と同じで、キャラクターの頭脳です。「Sub AI」はゲーム世界の自律シミュレーション機能で、ゲーム特有の世界の発展の仕方を定義しています。
『シムシティ』では、ユーザーが配置した街のオブジェクトが影響マップを通して街全体に影響を及ぼしていく「Sub AI」が大きな役割を果たします。「メタAI」はユーザーのプレイを解釈し幾重にも拡大してゲーム全体を変化させる役割を持っています。『シムシティ』でも『Spore』でも、ウィル・ライトのゲームデザインは、ユーザーの操作がシミュレーション機能と結びてついていて、まるで楽器でも演奏するように、あるいは水に波紋を立てるように、少しタッチすればゲーム世界が幾重にも響いて変化していくのです。
ところがレベルデザインはレベルデザインで、ゲームが始まった時点から世界を動かしているので、そんな風にいきなり横からメタAIに介入されることでゲーム全体の整合性が取れなくなることが、よくあるわけです。幸い『シムシティ』はシンプルなゲームなので、メタAIのレイヤーとレベルデザインのレイヤーをほぼ融合させることができました。ですから、それをメタAIと呼んでもレベルデザインと呼んでも差し支えがないし、どちらとも言い切れないわけです。
とはいえ、レベルデザインとメタAIが未分化な形でうまく融合できたのは80年代だからとも言えます。『シムシティ』の最新版は2013年に発売されたもので、こちらも初期と同様のレイヤー構造はありますが、個々の車や人にもAIを入れています。レベルデザインとメタAIはそれぞれ独立して存在していて、構造としてはゲームの中のAIがレベルデザインの中で生きているという関係になっています。
——メタAI の現在についてもお話を伺えればと思います。ここ5年くらいのメタAIのトレンドはどのように変化してきたのでしょうか?
三宅:メタAIは、2007年の『Left 4 Dead』以来ブームが続いていましたが、その後少し下火になっていた時代もありました。2016年以降の2、3年でまたメタAIが盛り返してきたという感触がありますが、それはオープンワールドの台頭が背景にあります。オープンワールドが主流になっている今は、かつてのようにイベントや会話、ミッションなどのコンテンツを事前にすべて用意するゲームの作り方ができなくなっています。その場でコンテンツを生成しなければならない。
自動生成の意味は昔と今では異なります。昔の自動生成は、何かしらのアルゴリズムによって森なり敵キャラクターなどが配置されるものでしたが、今はそこがAI化されて、その時々の状況をまず把握した上でどのような生成をしていくかを決定します。『Left 4 Dead』がそうであったようにプレイヤーの緊張度をアップダウンさせる役割をメタAIに担わせる時代は一段落していて、そこからゲームを動的に生成する存在としてメタAIを考えようという動きになっています。
——今こそウィル・ライトの階層構造が活用される時代になりそうですね。
三宅:まさにそうです。ただメタAIの場合だと、どのようにゲームの世界に干渉をするかが問題になるので、あの図とは逆の構造になるかもしれません。例えばあるエリアを危険地帯にしたいという目的が一番上にあり、その下のレイヤーで具体的にどのような危険地帯にするのか、それによってモンスターをどう配置するのかを考えるという構造です。ちょうどキャラクターAIが階層化されていったように、メタAIも今階層化の段階にあります。
一方でメタAIはシンプルであるべきでは? という議論もあります。ゲームデザインに干渉するため、深い思想でメタAIを組まれても何が起こるか分からないと困るという懸念があるからです。ただ、これについては、一昔前には同じことをキャラクターAIに対しても言われていた時代がありました。キャラクターAIも、とりあえずは敵に向かって行けばよしとされていた時代から、今ではプレイヤーから見ると何をしでかすか分からないように見えるほど複雑なAIになりました。
今の段階のメタAIは後から調整可能なように、シンプルなアルゴリズムに留められています。その先は仮想的な思考を持って、より抽象度の高い所から下におりてくる形で意思決定を行います。そこではキャラクターAIの思考のルーチンを応用することになるので。結局メタAIはキャラクターAIと同じ作り方をすることになるのです。
三宅陽一郎|YOUICHIRO MIYAKE
国際ゲーム開発者協会日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。共著『デジタルゲームの教科書』『デジタルゲームの技術』『絵でわかる人工知能』(SBCr) 『高校生のための ゲームで考える人工知能』(筑摩書房)『ゲーム情報学概論』(コロナ社) 、著書『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(BNN新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)、『なぜ人工知能は人と会話ができるのか』(マイナビ出版)。翻訳監修『ゲームプログラマのためのC++』『C++のためのAPIデザイン』(SBCr)、監修『最強囲碁AI アルファ碁 解体新書』(翔泳社)、『眠れなくなるほど面白い 図解 AIとテクノロジーの話』(日本文芸社)、『ゲームAI技術入門』(技術評論社)。
Editor:高橋ミレイ