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ゲーマーの脳波に関する研究に投資するDARPAが目指す“第三の波”

2020.2.27先端技術

ゲーマーの脳波に関する研究に投資するDARPAが目指す“第三の波”

シリアスゲームやゲーミフィケーションのような概念が誕生したことが示すように、ゲームを教育や経営にも応用できる「真面目な」文化ととらえることは、もはや常識となっています。そうしたゲームおよびゲームAIをシリアスに応用することに積極的な研究機関DARPAの最近の動向を紹介します。

ドローン群を制御するのに必要なもの

テック系メディア『Popular Mechanics』をはじめとした国内外のメディアは2月、DARPAがゲーマーの脳波をドローン制御に応用する研究に投資していることを報じました。DARPAとはアメリカの国防に最新テクノロジーを応用することを研究している機関であり、同機関の研究からGPSが誕生したことでも知られています。

DARPAが投資したのは、アメリカ・バッファロー大学で航空宇宙工学の教鞭を執っているSouma Chowdhur准教授の研究です。彼は250台のドローン群が互いに強調して複雑なタスクを遂行することを可能とするシステムについて研究しています。ドローン群が協調して動作する事例としては、2017年に行われたスーパーボウルのハーフタイムにおけるドローンショーのようなものがありますが、実用的な目的でドローン群を応用する研究も進んでいます。というのも、蟻の生態で観察できるように、単体では非力なドローンは組織化されることによって大規模なタスクを遂行できると考えられているからです。

もっとも、ドローン群を人のオペレーターが制御しようとするとすぐに限界に達してしまいます。それゆえ、ドローン群を制御するのに最適なのは、演算スケールを容易に増やせるAIとなります。こうしたドローン群制御AIの学習データとして目をつけられたのが、StarCraftのようなRTSをプレイするゲーマーの脳活動なのです。複数のユニットを目的の遂行のために操作することが求められるRTSを効率的にプレイするゲーマーの判断プロセスは、ドローン群の制御アルゴリズムに流用可能と考えられたのです。

ゲーマーの脳波を採取するに際しては、ゲーマーの視線の動きを記録しながら睡眠状態の脳活動を採取するのに使われる装置を用います。採取された脳波から学習データを作って、Chowdhur准教授は人を模倣するだけではなく人を深く理解するAIを開発したい、と述べています。

ゲーマーの最大の敵は退屈?

Chowdhur准教授より以前から、ゲーマーの判断プロセスに着目した研究は多数報告されています。WIRED日本版が2013年6月に公開した記事では、ゲーマーは視覚的情報処理に優れていることを報告した研究がまとめられています。例えばニューヨーク州にあるロチェスター大学の研究は、アクションゲームをプレイするゲーマーはノンゲーマーと比較して追跡できるオブジェクトが多いことを報告しています。また、テキサス大学医学部の研究では、ゲーマーと研修医のそれぞれに手術用ロボットアームを操作させたところ、ゲーマーのほうがうまく操作できたことが報告されています。

カナダ国営メディアCBCが2013年5月に公開した記事では、ゲーマーにドローンオペレーターの適性があるかどうかを研究した事例が紹介されています。その研究によるとゲーマーはマルチタスクを遂行する能力に優れているので、優れたドローンオペレーターになる素質がある、とのこと。

もっとも、ゲーマーを実際のドローン制御業務に採用するにはひとつの問題があります。現実のドローン制御業務は、業務時間の90%は緊張を要しない退屈な時間なのです。こうした退屈な時間にゲーマーを退屈させない気晴らしを提供しないと、ドローンを制御する事態が発生した時に十分なパフォーマンスを発揮できないこともわかりました。ゲーマーの最大の敵は退屈、というわけなのです。

DARPAが目指す「第三の波」

DARPAは先述したドローン群を制御するAIだけではなく、そのほかの多数のAIプロジェクトにも積極的に投資しています。さらに言えば、DARPAは半世紀以上もAI研究に投資し続けています。そうしたAIへの投資で有名なものとして、今日の自律自動車研究に対して先駆的な役割を果たした「DARPAグランド・チャレンジ」(2004年から2013年に開催)が知られています。

近年のDARPAのAIに対する関心を知るには、同機関が2018年9月に発表した資料「AI Next Campaign」が参考になります。この資料では、DARPAが実現したい「第三の波」に属するAIについて言及されています。AIがその実用性を証明した歴史的事例として、1980年代にさかんに開発された事前に入力した知識を一定のルールにもとづいて運用するエキスパートシステムが知られています。同資料は、こうしたエキスパートシステムをAIの「第一の波」と呼んでいます。次いでAIの「第二の波」とは、2010年代から流行するようになった機械学習とディープラーニングが応用されたものを指します。そして、DARPAが考える「第三の波」のAIとは、人を理解し協働できる未来のAIのことを意味しています。

第三の波に属するAI研究は、すでに着手されています。そんな研究事例には、2019年3月に発表されたASISTがあります。ASISTとはArtificial Social Intelligence for Successful Teamsの頭文字をとった略称で、正式名称を訳せば「成功するチームのための人工的社会知能」となります。同AIは、その正式名称が示すように、特定の命令を遂行するのではなく人との協調行動を実行するものとして構想されています。

ASISTの実現において重要と考えられているのが、ToM(”Theory of Mind”:「心の理論」の略称)スキルの実装です。このスキルは人の心のあり様を理解し、理解した精神状態に合わせた協調行動を選択できる能力を意味しています。こうしたスキルの実装をめざしているASISTは、もはや単なるソフトウェアや道具を超えて人の同僚として働くAIになることを期待されているのです。

以上のような研究投資を続けているDARPAが思い描く最強のチームとは、どんなものになるのでしょうか。それは、プロゲーマーのような優れた視覚的判断能力を備えた人とその人を大規模な演算能力で支援するコラボレイティブAIから構成されたチームと言えるのはないでしょうか。そして、こうした最強チームが実現したら、その成果は国防だけではなくゲームや経営にも応用されることでしょう。

Wreiter:吉本幸記/Photo by Michael Lane 

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