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TRPGのゲームマスターを演じるゲームAIの探求

2020.3.30ゲーム

TRPGのゲームマスターを演じるゲームAIの探求

第三次AIブームを牽引し、現在活用が進んでいる機械学習やディープラーニングを使ったAIは、予測や分類を得意としています。最近これらの技術は画像や文章の生成にも応用され始めています。本記事では、そんな生成系AIの研究のなかでも最も難易度が高い、ゲームシナリオを生成する「ゲームマスターAI」の最前線を紹介します。

すべてはTRPGから始まった

現在最も大規模かつ洗練されたビデオゲームのジャンルとして挙げられるのが、オープンワールドのMMORPGでしょう。MMORPGにおいては、プレイヤーが操作するキャラクターは広大なフィールドを自由に移動して、さまざまなクエストに挑むことができます。このジャンルのゲームでは、プレイの自由度とプレイヤーが体験するストーリーの一貫性の両立が求められます。同ジャンルの起源を遡っていくと、1970年代に誕生したテーブルトークRPG(TRPG)に行き着きます。

ボードゲームのサブジャンルとして誕生したTRPGは、ダンジョンやフィールドを模したボードとキャラクターの役割を果たす駒を使ってプレイします。このプレイにおいて重要な役割を果たすのが、ゲームマスター(Game Mater:GM)です。GMは、プレイヤーの選択に応じて変化するゲームの展開を口頭で伝えます。GMには、プレイヤーの行動に合わせて一貫性のあるストーリーを生み出す想像力が求められます。こうしたTRPGにおけるボードと駒、そしてGMをデジタル技術で代替することで誕生したのが、1981年に発表されたPC向けRPG『ウィザードリィ』でした。同ゲームからさらに進化してMMORPGが生まれたわけですが、そんなMMORPGであってもいまだにTRPGを凌駕できていない所があります。それは、GMという人の想像力に依拠した自由度と一貫性が両立したストーリーテリングです。

2月28日に公開されたWIREDの記事では、GMのストーリーテリングを再現する「GMAI」の研究の現状がまとめられています。GMAIを研究しているジョージア工科大学所属のLara J. Martin氏は、2020年に開催されたアメリカ人工知能学会(AAAI)のカンファレンスで研究成果を発表しました。発表された論文によると、従来の機械学習を用いたストーリーテリングにおいては、文法的な間違いはないものも一貫性に乏しいストーリーしか生成されないという問題がありました。

論文ではこうした問題に対して、GMAIに与えられる任意のイベントの内容を一定の規則にもとづいて抽出するルールベースのアルゴリズムと、機械学習的アプローチを併用するハイブリットなストーリー生成方法が提案されています。この方法によって生成されたストーリーは、機械学習のみで生成したそれと比べるとより一貫性があるものの、熟練した人間のGMのような能力を再現するには至りませんでした。

無限にストーリーを生成する『AI Dungeon』

現在、機械学習的アプローチを用いたGMAIでもっとも成功しているのが、Nick Walton氏が開発した『AI dungeon』です。同氏がユタ州にあるブリガムヤング大学に在学中に開発した同ゲームは、テキストメッセージによる相互作用でストーリーが展開されるテキストアドベンチャーゲームです。同ゲームをプレイすると、ゲームの状況を説明するメッセージが表示されます。そのメッセージに対してプレイヤーが任意のメッセージを入力すると、ゲーム状況が進展して新たなテキストメッセージが表示される、というプロセスが繰り返されます。同ゲームの画期的な所は、開発者がゲーム状況を説明するメッセージを一切コーディングしていない点です。こうした特徴により、テキストで表示されるゲーム状況を事前に予測することは誰にもできません。

同ゲームのテキストメッセージ生成には、実業家のイーロン・マスク氏が設立に関わったことで知られるAIを研究するNPO「OpenAI」が開発した言語AIモデル「GPT-2」が活用されています。膨大な量の英文テキストを学習した同モデルは、任意のテキストが与えられると後続のテキストを統計学的に算出します。こうした処理の結果、一貫性があるように感じられるストーリーが生成されるのです。

以上のようなGPT-2に対して、Walton氏はダンジョン探索をテーマにしたファンタジー小説風のテキストを生成するようにカスタマイズを施すことによって、AI Dungeonを開発しました。カスタマイズに際して使用した学習データは、ウェブブラウザでプレイできるテキストアドベンチャーゲームを集めたウェブサイト「ChooseYourStory.com」から抽出したのでした。

AI Dungeonは誰にも予測できないテキストメッセージをほぼ無限に生成できるという大きな魅力があるものの、熟練したGMのようにあらゆるテキストに対して一貫性のあるストーリーを生成することはまだ出来ません。同ゲームの出来栄えに関しては、例えばテック系メディアThe Vergeでは「(古典的TRPGである)ダンジョンズ&ドラゴンズの即興セッションのようだ」と評されています。

AIは『罪と罰』の夢を見ることができるのか

GMAIの開発において、克服すべき課題となっているのが一貫性のあるストーリーの生成です。この課題を克服するためには、広範囲にわたってコンテクストを考慮したうえでテキストを生成する必要があります。この「広範囲のコンテクストを考慮する」というタスクは、GMAIだけではなく言語AIモデル全般に共通する難問なのです。

前述したGPT-2をふくめた今日の高性能な言語AIモデルのほとんどは、2017年に発表されたTransformerから進化したものです。Transformerがいわば起源となっているのは、このモデルに「attention」と呼ばれる画期的なコンテクスト処理が実装されたからでした。しかし、このattentionをもってしても、長編小説のように長大でありながら一貫性のあるテキストを生成することは困難なのです。というのも、考慮するコンテクストの範囲が広がると飛躍的に計算量が増加するために、統計学的に高い精度の演算結果が実現できなくなるからです。

こうしたなかTransformerを開発したグーグルは、先日attentionを凌駕する新しい処理を実装した言語AIモデル「Reformer」を発表しました。同モデルは、Transformerよりはるかに少ない計算資源でTransformerと同等な性能を実現しました。その結果、例えばドストエフスキーが著した長編小説『罪と罰』の全体を考慮できるようになりました。グーグル傘下のAIスタートアップで囲碁AI「AlphaGo」を開発したことで注目されたDeepMindも、Transformerを改良して長編小説全体を考慮できるようになった「圧縮Transformer」を発表しました。長編小説全体を考慮できるこれらの言語AIモデルには、長編小説を自動生成するポテンシャルが秘められています。というのも、言語AIモデルが生成できるテキストの長さは、コンテクストを考慮できる長さに比例するからです。

以上のようなGMAIと長編小説を生成する言語AIモデルの研究が合流するところには、一体何が誕生するのでしょうか。そうした合流点には、プレイヤーごとに完全にカスタマイズされたオープンワールドMMORPGが生まれるのではないでしょうか。無限の自由度と長大かつ重厚なストーリーテリングが両立した未来のMMORPGにいたる研究は、まさに現在進行形で進んでいるのです。

Writer:吉本幸記/Photo by Mirei Takahashi

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