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【秋期GTC2022】進む各産業のデジタルツイン化と世界のデジタルツイン化における課題

2022.10.31先端技術

【秋期GTC2022】進む各産業のデジタルツイン化と世界のデジタルツイン化における課題

2022年9月19日から22日にかけてNVIDIA主催の技術カンファレンス「GTC 2022 Fall」が開催されました。22日には「産業用メタバースの好機」と題されたセッションが行われました。本稿ではこのセッションを要約することで、各産業界におけるデジタルツイン化の現状と世界全体をデジタルツイン化しようとする動向を紹介します。

デジタルツイン化の現状

テック系ビジネスメディアVentureBeatでリードライターを務めるディーン・タカハシ(Dean Takahashi)氏がファシリテーターとなった上記セッションでは、各産業界におけるデジタルツイン化の現状を各パネリストに伺うことから始まりました。

Siemensデジタルインダストリーソフトウェア部門のCEOであるトニー・ヘメルガーン(Tony Hemmelgarn)氏はさまざまな分野でデジタルツイン化を手がけた経験をふまえて、デジタルツイン化するにあたり重要なのはグラフィックの忠実度、つまり現実を可能な限り高精細に再現することと述べました。というのも、デジタルツインは単に鑑賞するものではなく、それを見て何らかの意思決定をするものだからです。同氏はヨットを設計する際のデジタルツインを例に挙げて、顧客は自分が乗る予定のヨットが現実にどのように見えるかフォトリアルモードで確かめたいと思うものだ、とも話しました。

メルセデス・ベンツの研究開発部門CIOであるインガ・フォン・ビブラ(Inga von Bibra)氏は、デジタルツイン化の利点としてコラボレーションの簡便性を挙げました。例えば自動車製造ラインで何らかの部品の変更が生じた時、製造ラインがデジタルツイン化されていると、部品の変更に伴って連鎖的に生じるさまざまな変更を物理的制約なしにリアルタイムで行えるのです。

ARデバイスを開発するMagic LeapのCEOであるペギー・ジョンソン(Peggy Johnson)氏は、経験豊富な技術者が同社製品Magic Leap 1を活用してリモートで職業訓練を行う体制を確立して訓練時間を80%削減した事例を紹介しました。こうした事例にもとづけば、ある(仮想)現実をほかの現実に重ね合わせるAR技術もデジタルツインの要素技術と考えるべきなのでしょう。

世界のデジタルツイン化に必要なこと

ベンチャーキャピタルEpyllionのCEOであり2022年にメタバースを論じた著書を上梓したマシュー・ボール(Matthew Ball)氏はメタバースの歴史的展開について語りました。

ボール氏によると、「空間的インターネット」と説明されることもあるメタバース、そしてメタバースの産業利用と捉えられるデジタルツインは全く新規の概念ではなく、何十年も前からシミュレーションを開発し実行するというかたちで試みられていたものなのです。こうしたメタバース史観から見れば、レトロゲームのインベーダーゲームも極めて原初的なメタバースと言えます。

メタバースによって表現できることは、時代ごとの計算能力によって決まります。そして、現在の計算能力によってようやく忠実度の高い物理シミュレーションが可能となり、物理世界をデジタル的に再構築する試みが可能となりました。こうした試みのひとつとして、ボール氏はNVIDIAが発表した「Earth-2」を挙げています。

さらにボール氏は、メタバース進化のある種の終着点とは物理世界全体のデジタルツイン化である、と語りました。そして、こうした終着点を実現するには、物理世界全体のデジタル的可読性を高め、リアルタイムにシミュレーション可能にすることが必要であることも指摘しました。

ボール氏が考える通りにメタバースが進化した場合、物理世界のデジタル的可読性を向上させるために現在より多くのセンサーやカメラが設置されるようになるかも知れません。

「ムーアの法則」終焉後のコンピューティング環境

NVIDIA社のシミュレーション技術・Omniverseエンジニアリング部門で副社長を務めるレヴ・レバレディアン(Rev Lebaredian)氏は、メタバースの進化と計算能力の関係について発言しました。同氏によると、NVIDIAは長らく物理シミュレーションについて研究しており、そうした研究の成果としてレイトレーシングに代表される光学的シミュレーション、そしてシミュレーションとAI技術を統合したOmniverseがあります。

NIVIDIAの研究開発と製品は、計算能力の向上とともに進化してきました。しかしながら、こうした計算能力の向上に裏打ちされてきた進化は、間もなく終わるとレバレディアン氏は考えています。なぜならば、「ムーアの法則」が遠からず終焉するからです。

レバレディアン氏は、ムーアの法則終焉後のコンピューティング環境に関する予想も語りました。そうした予想で描かれるのは、さまざまな規格や計算能力のコンピュータをより大きな計算能力で統合することが通用しない世界です。こうした世界ではコンピュータは分散されなければならず、分散を前提としてシステム全体を再設計する必要があります。ムーアの法則終焉後の世界におけるコンピューティング環境の再構築は、史上最も困難なコンピュータサイエンスの問題、と同氏は述べました。

デジタルツインの標準規格の在り方

デジタルツインで採用するべき標準規格をめぐって、各パネリストから発言がありました。Siemensのヘメルガーン氏は、デジタルツインは単にフォトリアルなだけでは役に立たないと述べました。例えばカメラを設計するデジタルツインを構築した場合、設計中のカメラの部品の断面図を見たいというニーズが想定されます。部品の正確な断面を見せるには、単なるフォトリアル以上の解像能力が求められます。

ボール氏は、メタバースで採用されるべき標準規格は単一のものに統一する必要がないと発言しました。そして、望ましいメタバースの標準規格の在り方を説明するのに、通貨を喩えに出しました。世界の主要通貨にはドルとユーロに加えて、ポンドなどがあります。それぞれの通貨は各地域で流通していると同時に互換性があることによって、主要通貨として機能しています。メタバースの標準規格も互換性を保ちながら複数あるのが望ましいのではないか、と同氏は話しました。

3Dオブジェクトでつながるデジタルツインとメタバース

セッション終盤にファシリテーターのタカハシ氏がメタバースにおけるゲーム業界と産業界の交流について話題を振ったところ、ボール氏がアメリカの大手ホームセンターLowe’sの事例を紹介しました。

Lowe’sのビジネスに最先端テクノロジーを導入する研究を手がけるLowe’s Innovation Labsは、10年近く前からVRとARに関する研究を行っていました。最近、同ラボは同社の製品を3Dオブジェクト化して提供するサービス「Lowe’s Open Builder」を発表しました。さらに近日中に同サービスに含まれる3DオブジェクトをOmniverseで使えるようにします。近い将来、同社のショールームをOmniverseで観覧できたり、メタバースゲーム内に同社製品が陳列されたりするようなことが実現するかも知れません。

(今回のセッションで言及されていませんが)Lowe’sはNVIDIAと提携して、次世代ホームセンター「Store Digital Twin」を運営しています。現在2か所にあるこの次世代店舗では、IoTセンサーを使って商品陳列状況等に関するデジタルツインを構築することで、店舗販売員とサプライチェーンプランナーが情報を共有しています。店舗販売員がデジタルツインを閲覧するのに使われているのが、Magic Leap 2です。

以上に紹介したように、デジタルツインは各産業界で着実に普及しています。そして、デジタルツイン化の波は各産業界を超えて業界横断的に広がり、究極的には物理世界全体にまで及ぶかも知れません。こうしたデジタルツイン普及の波において、さまざまな処理を自動化したり最適化したりするAIは重要な役割を果たすことでしょう。

Writer:吉本幸記、Image by Shutterstock

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