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【GTC 2022】AIを活用して気候変動に挑むデジタルツインEarth-2の革新性

2022.4.22サイエンス

【GTC 2022】AIを活用して気候変動に挑むデジタルツインEarth-2の革新性

2022年3月21日から24日、NVIDIAは開発者会議GTC 2022を開催しました。24日には「気候変動を理解し対応するためのデジタルツイン」というプレゼンが行われました。本稿ではこのプレゼンを要約することによって、気象シミュレーション研究の概要とその研究に革新性をもたらすAIシミュレーター「Earth-2」について解説します。

気象シミュレーションにおけるファウスト的契約

以上のプレゼンを行ったマックス・プランク気象研究所のビョルン・スティーブンス教授は、気象シミュレーション研究の基本コンセプトの解説から話し始めました。気象をシミュレーションするとは、気象モデルを計算してその結果を可視化することを意味します。気象モデルは、せんじ詰めれば物理現象を記述する方程式として表現できます。気象現象を物理的に記述しようとすると、質量保存の法則、エネルギー保存の法則、運動量保存の法則等を考慮して、以下の画像に書かれているような3つの方程式に集約できます。

以上の気象モデルは、数年前に気象を再現する場所をドイツに設定して実際に演算されました。今回のプレゼンでは、この演算結果をNVIDIAの研究チームが可視化しました。それが以下に示す画像です。完全にフォトリアルではないものも、雲の様子はかなり現実に近いように見えます。

前述の気象モデルは、以下に示す画像のようにさらにさまざまな物理現象を考慮してより精緻なものに進化させられます。気象モデルがより精緻になると、現実の気象現象をより正確に再現できるようになります。しかし、気象モデルを精緻化すると、計算コストが大きくなるという問題が生じます。

気象シミュレーションの計算コストは、気象モデルの複雑性のほかに計算スケールが関わっています。計算スケールとは、気象シミュレーションを適用する土地の大きさを指します。例えば、前述のドイツの気象をシミュレーションするのに同国を20キロメートル平方のグリッドに分けて計算した場合、複雑な気象モデルでも計算可能となります。しかし、2キロメートル平方のグリッドに分けた場合、シミュレーション結果はきめ細かくなる一方で、計算コストが大きくなるので複雑な気象モデルでは計算できなくなります。

計算能力が一定の場合、気象モデルの複雑性と計算スケールはトレードオフの関係にあります。つまり、複雑な気象モデルでシミュレーションしたければ、計算スケールを粗くしなければなりません。反対に計算スケールを細かくしたければ、シンプルな気象モデルの使用を余儀なくされます。一般に気象シミュレーション研究では、気象モデルの複雑性を犠牲にしてきました。こうした妥協を悪魔と契約したファウストになぞらえて、スティーブンス教授は「ファウスト的契約(The Faustian Bargain)」と呼びます。

気象シミュレーションによって自然災害を予測

ところで、気象モデルの複雑性や計算スケールは研究者には重要であっても、一般人にはどちらも大した重要でないように感じられます。しかし、スティーブンス教授によれば、計算スケールは一般人にとっても極めて重要な意味があります。計算スケールの重要性を説明するために、同教授は2021年夏にドイツ西部で起こった洪水を引き合いに出しました。この洪水では、以下の画像のように市街地が浸水して甚大な被害が生じました。

スティーブンス教授は、以上のような洪水は2キロメートル平方の計算スケールによる気象シミュレーションで予測できると断言しました。実際、以下の図に示すようなドイツ気象局は気象シミュレーションを計算して、洪水を予測してその原因も突き止めました。昨年のドイツ西部の洪水には4つの原因が絡んでいましたが、そうした原因がそろったことに関して気候変動の影響を否定できないという結論に至っています。

さらにスティーブンス教授は、以上の洪水をふくめた2021年に生じた自然災害における被害額一覧を、ミュンヘン再保険の発表資料にもとづいて以下の画像のように引用しました。この画像からわかることは、昨年の自然災害における被害は、一部の大災害に集中していることです。こうした大災害を気象シミュレーションによって予測できれば、多くの人命と資産を救えるかもしれないのです。それゆえ、気象シミュレーション研究は直接的に社会貢献できる学術活動なのです。

「もし地球が○○だったら…」が可能なEarth-2

もっとも、前述のように気象シミュレーションの性能向上は、計算資源が飛躍的に増えない限り一筋縄ではいきません。こうしたなか、昨年NVIDIAが地球上の全気象をシミュレーションするAIシミュレーター「Earth-2」構築計画を発表しました。この発表を受けて、Earth-2を使えば気象モデルの複雑性と計算スケールのいずれかを犠牲にすることなく、より正確な気象シミュレーションが可能になる、とスティーブンス教授は考えました。そして、同教授は実際にEarth-2による気象シミュレーションを実行してしました。その結果を可視化したのが以下の画像です。Earth-2による気象シミュレーションは、以前のスーパーコンピュータによるそれと比べて、大気だけではなく海流も考慮しています。

Earth-2の真価は、正確な気象シミュレーションにとどまりません。現実とは異なる条件を設定することによって、まだ現実化されていない事象に関するシミュレーションも実行できます。こうした非現実のシミュレーション事例として、スティーブンス教授はドイツの都市カールスルーエの緑化を挙げました。そのシミュレーションの結果は、都市の気温低下が認められなかったうえに、汚染物質が地表付近に滞留するようになって空気が悪くなるという残念なものでした。しかしながら、実際に実行すると大きなコストを要する都市緑化の効果を事前に予測できるのは、Earth-2の大きな利点と言えるでしょう。

以上のようなEarth-2によるシミュレーションを通して、地球と人々が直感的に相互作用できることこそが気候変動に対する認識を育む唯一の手段、とスティーブンス教授は考えています。Earth-2は教育目的にとどまらず、政策決定やインフラ計画にも活用できるのは自明でしょう。

スティーブンス教授は、30日間であればEarth-2は最先端の気象モデルと同等の演算結果が得られるという実証データにもとづいて、月1回ごとにEarth-2の演算結果を集計して、その集計作業を300年間繰り返して、300年分の気象をデータとして完全再現するという壮大な構想も抱いています。この構想を実現するために必要なアーキテクチャには、32テラバイトのメモリ、エクサバイトのデータを処理できるデータレイクが必要、と同教授は試算しています。

プレゼンの最後にスティーブンス教授は、地球の気象現象すべてをシミュレーションするというアイデアを実現するためには、AIが不可欠であると力説しました。DeepMindが開発したタンパク質の構造を予測するAlphaFoldのように、AIは自然科学においても大きな成果を上げています。そして、気候変動のような全人類が関係する重大な問題についても、AIがその解決に寄与すると見て間違いないでしょう。

Writer:吉本幸記

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