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音楽業界とAI、その進化と新たな課題とは:デジタル音楽ジャーナリスト ジェイ・コウガミ氏に聞く

2021.1.19音楽

音楽業界とAI、その進化と新たな課題とは:デジタル音楽ジャーナリスト ジェイ・コウガミ氏に聞く

2021年、世界中で新しい生活様式がインストールされ、国内でもこれまで以上に映像や音楽、ゲームなどのコンテンツを配信するストリーミングプラットフォームが浸透しました。コンテンツのディストリビューションのデジタル化に伴い、それぞれのビジネスに従事する人にとってAIの役割はますます大きくなっています。それは音楽ビジネスにおいても同様です。前回、この話題についてデジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に伺った2019年夏から現在にかけて、AIと音楽の関係はどのように変化したのでしょうか? 今後の課題を見据えながら、AIと音楽ビジネスの現在地をについて質問しました。

【関連記事】音楽業界のAI活用は3通り:デジタル音楽ジャーナリスト ジェイ・コウガミ氏に聞く

音楽業界で進むAIの実用化

——前回のインタビューで伺ったAIと音楽産業をつなげる3つの軸、クリエイション、レコメンデーション、ビジネスは、この1年半近くの間にどのような変化を遂げたのでしょうか。まず、AI×クリエイションからお話を伺えればと思います。

ジェイ・コウガミ氏(以降ジェイ):3つのカテゴリに共通して言える大きな変化は、実用化が進んだことです。クリエイションの面においては、メロディだけでなく、歌詞や曲調、声質までを機械学習することで新たな楽曲を生成する領域に到達しています。実用化という意味でも、さまざまな使い方が広がっています。

例えば2020年2月、ヒップホップアーティストのトラヴィス・スコットを機械学習する「Travis Bot」が生まれました。AIがトラヴィスの楽曲や歌詞を機械学習することで、新たなトラヴィス風の楽曲を生成するというものです。

TravisBott Jack Park Canny Dope Man [Official] from space150 on Vimeo.

また、5月にはオランダのテレビ局がAI作曲のオーディション番組「AI Song Contest」を制作しました。さまざまな国のチーム対抗でAIによる作曲を行い、番組ではオーストラリアのチームが優勝しています。また、従来であれば実現不可能なコラボレーションがAI技術によって再現する事例も出てきていますね。韓国では、過去のアーティストをAIで生成し、現役のアーティストとバトルする歌番組「Once More Time」がスタートするようです。

これらは視聴者が楽しむためのプロ向けの技術活用ですが、消費者が実際にAIを使用する興味深い事例も増え、実用化が進んでいます。

オンラインゲームプラットフォームのRobloxは、プレイヤーが色々なツールやミニゲームを楽しむことができるのですが、なかでもAIで簡単に作曲できるミニゲーム「Splash Music」が世界的に人気を呼んでいます。オーストラリアのAI音楽スタートアップ、Popgun(ポップガン)が開発したこのミニゲームは、自動生成されたビートやエフェクトを自分で組み合わせることで曲を作り、それをゲーム内で実際に流すことが可能です。現在、2000万人以上がSplash Musicをプレイしています。このように、AIの活用によって音楽の専門知識がなくても楽曲を作り配信できるようになりました。

——プロ向けだけでなくアマチュア向けでもAIによるクリエイションの実装例が出てきているのですね。

ジェイ:もうひとつ広がっている領域があります。それは、自動生成した楽曲を映像などのBGMに使ってもらうためのサービスです。

現在、YouTuberやTikTokerなどの動画クリエイターが使用するBGM音源を、AIで自動生成するサービスの需要が高まっています。2019年には、AI楽曲生成を行うスタートアップJukeDeck(ジュークデック)が、TikTokを運営するByteDanceに買収されました。

また、素材写真などを提供するShutterstock(シャッターストック)は、AIの音楽スタートアップであるAmper Musicを買収しました。同社の技術によって、映像制作に使用する楽曲をクリエイターが検索する機能を強化させています。

さらに2020年10月には、リスナーの心をリラックスさせたり集中力を高める効果のあるBGMを生成するAIスタートアップEndelが500万ドルの資金調達を達成しました。このことからもAIによって生成された楽曲の需要の高まりや、用途の多様化をうかがい知ることができます。

——楽曲検索については、蓄積された検索キーワードのデータから生じるレコメンデーションの変化にもつながっていきそうですね。

ジェイ:そうですね。まさに今、楽曲検索の需要が高まっています。どのような楽曲のニーズが高いかをAIが機械学習して、適切なユーザーとのマッチングが向上すれば、楽曲を制作するクリエイターたちに収益還元する機会も増えていくでしょう。これは、クリエイションとレコメンデーションが密接に繋がっていく部分だといえます。

Lo-fi hip-hop拡大の背景となったレコメンデーションAI

——レコメンデーションにおけるAIの活用については、どのような変化があったのでしょうか?

ジェイ:前回お話したのが「AIが知らない曲を紹介したり新たに配信された新曲をレコメンドする」といった、パーソナライズ機能についてでした。これはこれまでユーザーが検索したり聴いてきた楽曲の履歴から、各ユーザーの趣向とマッチングする曲がレコメンドされる機能のことを指します。

例えば、Lo-fi hip-hopやchill beat、Jazzy beatなど、ゆったりしたインストゥルメンタルの音楽をミックスして配信するYouTubeチャンネルやレコードレーベルが、ここ数年で非常に人気を集めています。これは、リラックスしたり勉強・仕事に集中するという目的で多くの人が音楽を聴いているためです。こうしたコンテクスト・プレイリストを通じて、ユーザーに相性の良い曲がレコメンデーションされてくるのです。

アルゴリズムにとって重要なのは、何回聞かれたかといった再生数だけではありません。再生途中の離脱をはかる指標「スキップレート」もポイントになります。なぜなら、AIが提示したプレイリストや曲に対するユーザーの反応をAIがさらに学習することで、よりそれぞれのユーザーに最適化されたレコメンデーションに強化していく仕組みだからです。スキップされた楽曲はアルゴリズム的には「ネガティブ」に記録され、より長く聞かれた楽曲は「ポジティブ」に記録されます。従ってフォロワーが多くてもスキップされやすいコンテンツは、AIから見た価値が下がってしまうのです。

「長時間スキップせずに聞いてもられるプレイリスト」を作れば「リラックス」や「作業に集中する」用途へのニーズが高いことをアルゴリズムが学習します。そしてその学習は各プラットフォームがジャンルやプレイリストを視聴者にレコメンドする根拠になっていくのです。Lo-fi hip-hopを作曲するクリエイターが増えたり、楽曲の制作方法をYouTubeにアップする人が増えたことには、このような背景があります。

この流れの延長線上には、Lo-fi hip-hopの他にアルゴリズム的にニーズが高いシティ・ポップやアンビエント・ミュージックといったジャンルのレコードレーベルを作ってSpotifyに配信し、それらの著作権でビジネスを行う動きなども見られます。

——スキップ以外にも、お気に入りやプレイリストへの追加などもアルゴリズムに取り入れられていくのでしょうか?

ジェイ:お気に入りへの保存やプレイリストに追加するなどの反応も、AIによって学習されていきます。

例えば、ミュージシャンのTwitterやInstagramのプロフィール欄に、かつてはWebサイトへのリンクが載せられていましたが、今ではストリーミングのURLを載せていることが非常に増えています。これは、ユーザーに各配信サービスへ飛んでもらうことで、アルゴリズムに対してもポジティブに働くため、そのミュージシャンの楽曲がより多くのユーザーにレコメンドされやすくなるからです。ストリーミングのビジネスに挑戦する上で、Webサイトよりも効果的な結果を得られるといえるでしょう。

——音楽業界はAIに対してどういう反応をするのでしょう? レコード会社としては、自社のアーティストをよりレコメンド上位にしていきたいはずですが、具体的な対策はあるのでしょうか?

ジェイ:前提として、ストリーミングのアルゴリズムがどんな反応をするのかについてきちんと理解しておくことが重要です。アルゴリズムを意識する音楽業界の人は、かなり増えてきており、データサイエンティストやエンジニアを直接雇うレーベルもありますね。

プラットフォームによって考えるべきことは異なるため、各サービスに合わせ戦略を丁寧に考えていくことが必要になってきます。例えばTikTokの場合、どうしたらUGC(一般ユーザーが制作するコンテンツ)で楽曲を使用してもらえるかを考えていきます。これまではダンス動画が流行っていましたが、競合も増えているため、より魅力的な動画を作ってもらうための新しい攻め方が必要です。また、Instagramでは2020年に音楽を使える機能が増えました。こうした機能面から、積極的に使ってもらうにはどうしたらいいか?なども考えられるでしょう。

ストリーミングも同様です。お気に入り登録やプレイリストを聞いてもらうためにはどうしたらいいのか考えられるでしょう。

——楽曲のメタデータ管理にもAIは活用できるのでしょうか?

ジェイ:音楽メタデータの管理も非常に重要なトピックスです。ストリーミングが視聴体験の主体となった現在、メタデータやタグ付も、ユーザーが楽曲と出会う上で大事な要素となります。また、プラットフォームに配信したのちに最適化させていくテクニックも必要です。

——楽曲とAIに関わる事例は他にもあるのでしょうか?

ジェイ:AIを使ったデータ検知技術にも変化がみられています。フランスのDeezerが、2020年、オーディオファイルの歌詞を検知する「歌詞検閲技術」を発表しました。卑猥な歌詞や、宗教上流せない言葉などを検知して流さないようにしたり、子ども向けの対応も可能になります。まだ開発途中で実装されていない段階ですが、今後膨大な楽曲の歌詞データを検知できるようになるでしょう。こうした自動化・効率化が進むことで、より多くの国や地域で楽曲が配信されやすくなるでしょう。

AI活用とは「働き方改革」である

——では、ビジネスにおいては、今どのようにAIを活用しているのでしょうか?

ジェイ:まず、AI活用は「働き方改革」や「DX(デジタルトランスフォーメーション)」といえるのではないでしょうか。業務プロセスの改善手段になり、その結果として時間短縮にもつながります。特定の業務を自動化することで成果も一貫したものになるため属人化を防げる点も大きなメリットです。

また、AIはアーティストやコンテンツの分析、戦略の立案にも活用されています。例えばマリリン・マンソンの再生データをAIを実装した分析サービスのChartmetricで解析したところ、最近は実際に楽曲を聞いているのはハードロックのファンよりも、彼の楽曲が使われているリアリティ番組のファンが多かったことが分かりました。このケースでは、従来の経験値のみに頼った推測ではなく、データを解析したことで、現在の正確なターゲットを明らかにし、消費者に訴求するための戦略を練ることにつながったという事例です。

——今後は、どのような使われ方が重視されていくと思いますか?

ジェイ:これまでは、ビッグデータとしてを集めること自体が中心でした。今後は、よりリスナーやファンとの関係値を長く持続させることや、ビジネスでリードするために、データをどう分析・活用していくことがポイントとなります。

例えば、AIによる膨大な楽曲データのタグ付けや検索技術が、新人発掘に活用されています。それまでは、ライブハウスに行ってパフォーマンスを見ながら新人発掘を行っていましたが、新型コロナの影響でそれも難しくなりました。そのため、新人をTikTokやYouTubeから探したり、海外で才能が光るアーティストを発掘するなどのニーズに対応するサービスは今後増えていくでしょう。

ストリーミングが普及した今は、まさに楽曲を投稿しやすい環境が整いつつある状況でもあります。必然的に、アーティストにとってもストリーミングでのチャンスが大きくなっていくでしょう。クリエイターだけでなく、公式YouTubeや配信を運営するチーム全体がアルゴリズムについて知っておく必要が大きいといえます。

まとめると、ビジネスにおいてマンパワーでは実現できないシステムづくりの面で、AIを積極的に活用していくべきなのではないでしょうか。音楽業界における働き方改革を推進するためにも、アルゴリズム導入を全面的に行うことで業界全体の大きな進歩につながるはずです。

——AIと音楽業界における今後の課題は何でしょうか?

ジェイ:最近の傾向としては著作権の管理における応用が進んでいます。具体的には、著作権を侵害したコンテンツを独自のアルゴリズムで検知するサービスやスタートアップが登場してきました。楽曲単体の不正アップロードを発見するだけでなく、ショート動画やプレイリスト、GIFなど異なるプラットフォームからも検知可能になってきました。

実例としてはゲーム実況に使用するBGMの著作権侵害を防ぐ取り組みが挙げられます。海外の音楽業界では、ゲーム実況で使用される楽曲は著作権をクリアしていないものが多数あることが問題になっているため、このニーズは今後も高まっていくでしょう。

また、Travis Botの例からも明らかなように、現在アルゴリズムによる生成や著作権侵害の検知の対象となっているのはメロディやビート、サンプリングだけではありません。AIを活用することで歌詞や歌い方、声質まで自動生成できるため、結果的に特定のアーティストの作品に酷似してしまう可能性もあります。

【関連記事】アートか犯罪かを問われる音声のディープフェイク:月刊エンタメAIニュース vol.5

また、ディープフェイクによって生成された動画が世に出回ったことで訴訟問題にまで発展したケースもあります。ラッパーのジェイ・Zは、YouTubeで彼のパフォーマンスを素材にしたディープフェイク動画を違法投稿しているチャンネル(Vocal Synthesis)の削除申請を行っています。さらに、2020年11月にはYouTubeチャンネルのCalamity AIがエミネムのスタイルでマーク・ザッカーバーグをディスるディープフェイクの動画をYouTubeで公開して話題になりました。こうした問題は、今後もどんどん増えていくのではないでしょうか。

重要なのは、あらゆるクリエイターが著作権侵害や著作権利用についての情報を確認できるツールにアクセスできるようにすることです。大手レコード会社だけでなく、インディーズやアマチュアアーティストまですべてのアーティストが自身の楽曲や動画などの著作物の不正使用を知る仕組みが必要となるでしょう。

——現段階では、そうしたツールはインディーズのアーティストにどこまで普及しているのでしょうか?

ジェイ:例えば、YouTubeにはコンテンツIDという機能があります。自分の制作・登録した音楽を自動管理することで不正使用を防ぐ仕組みがあります。一方でストリーミングサービスではそういった不正使用を知る術がないというのが実情です。そのため、誰かが楽曲を盗用してアップロードしていても、黙認されて、不正に収益を得ているケースがあります。それに対して、運営側が通報したりBANすることはできますが、さらに別のIDで同じことを繰り返すいたちごっこになってしまうのもまた事実です。

現在、Spotifyが楽曲の盗用を検知するために音の波形を分析するオーディオ検知を開発しているようです。これが実装されればインディーズのアーティストでも自身の楽曲の違法アップロードを検知しやすくなるのではないでしょうか。

現時点では音楽業界におけるAIの実装や応用は、研究やトライアンドエラーの面もあるといえます。つまり、商業利用が可能かどうかというのは別軸の話です。ビジネスでの最適化と並行して「実験」としてのクリエイション・レコメンデーションの試行錯誤が今後も行われていくでしょう。

Writer:masumi toyota、Photo by Tadas Mikuckis on Unsplash

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