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音楽業界のAI活用は3通り:デジタル音楽ジャーナリスト ジェイ・コウガミ氏に聞く

2019.7.05音楽

音楽業界のAI活用は3通り:デジタル音楽ジャーナリスト ジェイ・コウガミ氏に聞く

SpotifyやApple Musicなど、ストリーミングによる音楽の配信が、新たなスタンダードとして確立しつつある昨今の世界の音楽業界において、AIの技術はどのように取り入れられているのでしょうか? また、日本国内においては、今後どういった活用の可能性が見いだせるのでしょうか? デジタル音楽ジャーナリストのジェイ・コウガミ氏に、音楽業界におけるAI技の実装例、これからの日本におけるAI活用の展望について伺いました。

AIと音楽の交差は、すでに始まっている

——AIは音楽業界でどのように使われているのでしょうか?

ジェイ・コウガミ氏(以降ジェイ):今、世界の音楽業界では、AIをどのように導入するかについての議論が、かなり重要なトピックスのひとつとなっています。なぜなら、レコード会社やアーティストの間で実際にAIがさまざまな課題解決のための手段として実装されはじめているからです。

音楽業界で活用されるAIは、大きく3つに分類できます。ひとつ目は「AI×クリエイション」で、作曲やコンテンツ制作においてAIが使われます。ふたつ目は「AI☓レコメンデーション」。知らない曲や新曲のディスカバリーやキュレーションでの活用です。そしてみっつ目は「AI☓ビジネス」。レコード会社の業務や権利処理など、BtoBのソリューションとしてAIを活用する流れです。特にAI×クリエイションとAI×ビジネスは、近年大きな議論として注目される頻度が高まっています。

AI×レコメンデーションについては、主にキュレーションの技術がストリーミングのプラットフォームに依存してくるため、レコード会社やアーティストがそれらをどう「攻略」していくかの議論が盛んですね。キュレーションの代表例は、Spotifyのプレイリストが挙げられます。Spotifyではアルゴリズムベースのキュレーションが多く採用されており、例えば週替わりの「Discover Weekly」や各ユーザーにおすすめのニューリリースを集めた「My Release Radar」は、AIによって自動生成されたプレイリストです。

音楽ストリーミングサービスのトレンドとしてSpotifyが積極活用するレコメンデーションのアルゴリズムは、他のプラットフォームでもどんどん採用されています。例えば、アメリカの音楽ストリーミングサービス「Pandora」は以前からレコメンデーションが強いサービスでしたが、近年は自社のアルゴリズムに加えて機械学習の技術を強化して音楽をキュレーションしています。

こうした音楽プラットフォームのレコメンデーションAIを攻略するアーティストや技術者も増えています。なぜなら、プレイリストに入ることで、曲再生数が増え、プロモーションにつながるからです。しかし、Spotifyも自社のレコメンデーション技術を安易には語りませんし、周囲もそれを理解しています。

表現の幅を広げるAIと、ヒット曲を生み出すAI

——では、ひとつめのAI×クリエイションについて教えてください。ここではAIがどのように活用されているのでしょうか?

ジェイ:クリエイションにおいては、活用方法以上に「誰が使うか」が重要なポイントです。これまで、AIを利用した制作ツールへのアクセスは、少数の選ばれたクリエイターに限られていました。ですが、2016〜2017年あたりからインディーズのミュージシャンたちによるAI活用が増加し、世界的に大きな流れとなっています。

具体的には、アーティストがプログラマーやコーダー、リサーチャーと組み、自分専用のカスタムAIを作り、過去の楽曲を学習させて、あたかも人間が演奏しているかのようなライブ演奏やレコーディングを実現します。AIツールをサポートメンバーやスタジオミュージシャン、ライブを映像で演出するVJとして自分と同期させ演奏や録音をするのです。

——それは、主に打ち込み系のミュージシャンが利用するようなツールなのでしょうか?

ジェイ:いえ、そんなことはありません。例えばジャズピアニストのダン・テファーは、自分のピアノ演奏や過去の演奏をAIに学習させ、自分と一緒に演奏させながら録音したアルバム『Natural Machines』を2019年5月にリリースしました。AIが、表現の幅をより広げたクリエイティブを発揮するための役割を担っていくのです。

また、曲に変化を持たせたいアーティストが、リアルタイムな音声の自動生成をAIに任せることによって、演奏に即興性やオリジナリティを加えることも可能です。ベルリンのアーティスト、ホリー・ハーンドンは、AI開発者と共同でコーラスや音声マニピュレーションとして活用するボーカリストAIを開発して録音したアルバム『PROTO』を2019年5月にリリースしました。

ヒューマンビートボックスをするパフォーマーがAIを使う例もあります。ビートボクサーのReeps Oneは、AIを使った音楽クリエイター集団「DADABOTS」とコラボレートし、自分のクローンとなるAIのビートボクサーを生成することで、自分とAIのビートボックス即興バトルを実現しました。さらに、自動生成される声をレコーディングやライブでも活用しています。

アーティストたちのAI活用方法として注目すべきは、単純に一緒に演奏させるだけでなく、ライブや音楽フェスの場でリアルタイムかつ人間のミュージシャンのように活用されている点です。

——AI導入の動機には、新たなクリエイティブの追求というビジョンがあるのでしょうか? 例えば作曲のためのAIアプリケーション「Amadeus Code」のように、マーケティングに近い考え方でヒット曲を作る目線でのAI開発についてはどうでしょうか?

ジェイ:先ほどお話ししたAIの活用例と「Amadeus Code」のような活用例のニーズは、それぞれまったく違う視点から生まれています。前者のAIの活用方法は、例えばMUTEKのようなエクスペリメンタルな音楽フェスティバルに出演したり、ジャズやクラシック、電子音楽など特定の領域にフォーカスした表現に寄り添う形でAIを使用するアーティストによるものです。つまり、表現の幅をさらに広げていくためのアプローチとなります。

一方ポップミュージックにおいてヒット曲を作ることは、音楽業界における永遠かつ重要なテーマです。多くの作曲家やプロデューサーが存在する今、より効率的で生産性の高いソングライティングへのニーズは、トレンドの移り変わりが加速する音楽業界において今後ますます高まります。専門家の予測では、今後10年でアメリカのシングルチャート上位40位の内、20〜30%は完全にAIが制作した曲または部分的にAIが制作した曲になると言われています。

——そういったニーズに対して活用されるAIは、どんな働きをするのでしょうか?

ジェイ:AI×クリエイションだけでなくAI×ビジネスにも重なりますが、既存の商業作曲とは違ったアプローチや、実現不可能だった作業を補完する点で、AIツールが活用されます。またヒット曲を作れる新たな才能を探しているA&R(Artists and Repertoire)などの業務では、レコード会社が使うツールにAIが組み込まれていきます。

たとえば「このプロデューサーに作曲をお願いしたいけど、今は他のアーティストと曲を作っているから忙しい」などの状況で、曲作りの作曲プロセスの一環としてAIが必要となる可能性は十分に考えられます。

また、インディペンデントなアーティストが、商業的なヒットの確率を上げるという面で、AIはとても重要なツールとなっていくはずです。現代において、ヒット曲を求める理由は明確です。それはストリーミングサービスの環境そのものにあります。例えば、Spotifyでは1日に4万曲の新曲が配信されます。つまり、Spotifyでは1年間におよそ1460万もの新曲が増えていくのです。Spotifyだけの数ですから、他のサービスも合わせると、膨大な数の新曲が生まれていることが分かります。

もうひとつ興味深いデータがあります。アメリカの音楽メディア「ビルボード」が2018年にシングルチャートで1位をとった曲の作曲者数を調べたところ、1曲あたりのクレジットは平均10人と、過去15年で最大の記録だったそうです。こうしたカオス状態からヒット曲を生み出そうとするとき、人間がすべての作業を担うには明らかに人材不足の課題に直面します。つまり、現在マーケット視点から見ても、クリエイションにAIが必要とされる必然性が背景にあるのです。

ストリーミングサービスの普及に合わせてアップデートされていくAIツール

——業界のソリューションとなるAI×ビジネスは、さまざまなニーズが考えられますが、具体的にどのように活用されているのでしょうか?

ジェイ:音楽業界で生じるさまざまな作業の効率化と自動化を担う役割をAIが果たします。例えば、手作業で行っていた情報検索などが挙げられますね。

膨大なコンテンツの中から未来のヒット曲や新人アーティストを見つけ出すのは、現在の音楽業界が直面する大きな課題です。こうしたコンテンツやストリーミングプラットフォームを検索したりモニタリングするツールを開発しているスタートアップが今、数多く生まれており、レコード会社もそれらのサービスを利用し始めています。新人スカウトのためにAIツールを利用する流れがトレンドのひとつとなっているんですね。

もちろん、紹介や口コミ、ライブハウスなどの会場を頼りに、人間の目利き力で新人を見つけ出すことはとても重要ですよ。ですが、そのアプローチにもある程度の限界があります。また、先ほど話したようにSpotifyだけでも1日4万曲ものニューリリースがあるのが現状です。膨大な数の楽曲が生まれるなか、ぴったりの新人を見つけ出すにはかなりのエネルギーが必要となるでしょう。ですが、レコード会社にはヒットを作るというビジネス面で、ポテンシャルを持ったアーティストを見つけだす必要性が高まっています。ですので、地理的な条件やタイミングの問題など、既存のアプローチではカバーしきれない部分でAIが補助的な役割を果たすのではないでしょうか。

また、これらのAIツールは新人発掘だけでなく、既存のアーティストにとってのソリューションにもなりえます。たった今、自分のどの曲がどこで誰に聞かれているのか、といったデータを分析して、アーティストとレーベルが共有することは、グローバルの音楽業界ではスタンダードな音楽マーケティングの手法となっています。データによるフィードバックを受けて、アーティストやマネージャーがビジネス的な判断をしたり、クリエイティブの選択肢を考えたりするのです。このように、アーティスト活動に参照するデータ集積をAIや機械学習に任せていくことも考えられます。

プロモーションやマーケティングでも、AIや機械学習によるデータ分析と自動化が導入できます。たとえばレーベルがアルゴリズムで生成したプレイリストやオリジナルコンテンツを、ストリーミングサービスやSNSで投稿することも可能です。

——アーティストがこれまでと異なる形で収益を上げるためにもAIは活用できるのでしょうか?

ジェイ:方法としてはふたつあります。ひとつ目は、AIコンテンツが新たな収益源として販売提供され始めています。オーストラリアのスタートアップ、Replica Studioでは、アーティストの声やフレーズを自動生成するAIを開発しています。彼らはレコード会社と組むことによって、アプリやゲーム、ポッドキャストなどのメーカーに対し、自動生成したフレーズのライセンスを販売する事業を考えているのです。

ふたつ目は、アーティストの収益分配やロイヤリティ支払いのサイクルを早めたり自動化するAIツールの導入が始まっています。どれだけ早く収益をアーティストに提供できるかは現在音楽業界で熱心に議論されているテーマです。

これに関する現在の課題を整理しますと、例えばあるアーティストがストリーミングサービスで一夜にして数千万再生を達成したとします。ですが、その収益は翌日すぐにアーティストに届く訳ではありません。契約内容にもよりますが、数カ月後にやっと分配されるケースが多いんですね。そのため、ヒット曲リリース直後にライブのオファーがあっても、資金的に移動や活動が厳しいという可能性が考えられます。利益分配問題は以前からありましたが、ストリーミングが普及してもこれはアーティスト活動の妨げにもつながってしまうでしょう。

こうしたストリーミングサービスとクリエイションの間に生まれた価値のアンバランスさを解決するソリューションが検討され始めています。AIで再生回数を事前予測する技術が生まれました。リリース後何カ月でどれくらい楽曲が再生されるか、といった予測データを割り出すためのツールにもAIが活用されます。

今後はこの領域で、AIが未来の再生数や収益性のデータを事前予測する技術が広がるでしょう。世界中のトレンドやストリーミングのデータと照らし合わせ、現在の音楽が半年後、1年後にはどうなっているかなどについて、推測した情報をアーティストに共有するという活用にAIが活用されていくと思います。

また現在は、音楽ストリーミングがビジネスとして定着したことで、アーティストやクリエイターとフェアに取引するための制度が重要になってきています。たとえば、ストリーミング会社は収益の公平な分配や情報開示などが求められます。こうした収益分配へのアプローチは、情報の透明性を高めるために有効的です。レーベルだけでなくディストリビューターの中でも積極的な取り組みが進むはずです。

最近では、収益予測を確認できる技術の新たな一歩として、アドバンス(前金)を提供するサービスも現れています。スウェーデンでディストリビューションを行なっている会社amuseは、機械学習を使ってインディーズのアーティストにアドバンスを支払う「ファーストフォワード」というサービスを提供しています。ここでは、アーティストに対し最大で6カ月分のアドバンスが支払われます。

つまり、膨大な予算を持った層だけでなく、インディペンデントに音楽活動をする人々の間でも活用可能なAIツールが広がりをみせている点が、現在の音楽業界におけるAI活用のハイライトなのです。

日本の音楽業界で共有すべきAIの可能性

——日本の音楽業界において、AIは今後どのような役割を果たしてくのでしょうか?

現在、日本国内にAIを用いた音楽用のツールやソリューションはほとんどありません。求められるニーズも顕在化していません。

ひとつ挙げるとするならば、日本の音楽業界において、レーベルやアーティストたちが何を求めているのか、業界全体で問題意識として取り上げていく必要があるでしょう。リリースした楽曲の再生状況の分析なのか、プロモーションの効果検証か、課題を明らかにしていくことで、最適なAIの活用のしかたを考えるフェーズに突入していくでしょう。

AIによって効率性や表現を高める動きは、世界に共通していることです。だからこそ、現在さまざまな国でサービスやツールが確立され、アーティストやレーベルが利用する流れが生まれているのです。ストリーミングサービスがこれから広がっていく日本においては、AIツールの活用にも大きなポテンシャルがあるといえるでしょう。だとすれば、今後を見越して何が必要となるのか予測することが今もっとも必要なのではないでしょうか。

ジェイ・コウガミ|JAY KOGAMI

デジタル音楽ジャーナリスト。世界の音楽ビジネスとエンタテインメントテクノロジーに特化したニュースメディア「All Digital Music」編集長。「デジタル☓グローバル音楽」をテーマに、音楽ビジネスや業界分析、アーティストや経営者、起業家へのインタビューまでの取材を国内外で数多く行っている。テックメディア「ギズモード・ジャパン」副編集長を経て独立。現在、「リアルサウンド」「オリコン」など多数メディアで執筆中。2018年にエンタテインメントビジネス専門のメディア会社CuePointを共同設立、音楽企業やIT企業向けに音楽・エンタメビジネスを軸とした新規事業、市場分析、メディア運営に関するコンサルティングを行う。

Writer:masumi toyota

Photo by Josh Appel on Unsplash

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