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ディープフェイクは医療の進歩に貢献するかもしれない:月刊エンタメAIニュース vol.3

2020.3.27先端技術

ディープフェイクは医療の進歩に貢献するかもしれない:月刊エンタメAIニュース vol.3

エンタメにおいてもAIは日進月歩で進歩しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間、主に海外で公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

声に出して命令すればゲームステージを作成できる

ビジネスメディア「Venture Beat」が3月10日に公開した記事では、AIを活用することでゲーム制作のハードルを下げるゲームエンジン「Prometheam AI」が紹介されました。これまでもゲームエンジンの発明と進化によって、ゲームステージの相互作用の設計が楽になってきましたが、多くの場合ゲームエンジンを使いこなすには専用のプログラミング言語を習得せねばならず、グラフィック担当者が作成したオブジェクトを自力で実装するにはまだ困難が伴います。

Promethean AIは、現状のゲームエンジンに残存する困難を取り除きます。このツールを使うと、ユーザが「テーブルを横向きにして」や「机を移動」といった日常的な言葉で命令するだけで、ゲームステージ内にオブジェクトを設置できるようになります。こうした言葉を認識してゲームエンジンの動作に翻訳する際に、AIが使われています。UIにはVRヘッドセットとハンドコントローラを採用しているので、まるでゲームステージ内にいながら構築しているような体験ができます。

Promethean AIの開発チームはアフリカ・ウガンダでプロモーションを行い、プログラミング言語を知らない現地アニメーターに同ツールを試用してもらいました。その様子を収録した動画がYouTubeで公開されており、試用したアニメーターは目を輝かせてその体験を語っているのを確認できます。ご関心のある向きは、公式サイトからユーザ登録するとアーリーアダプターとなることができるので登録して見ると良いでしょう。

新人アーティストの発掘と育成を助けるAI

音楽メディア「Music Business Worldwide」が2月27日に公開した記事では、AI駆動型A&Rが浸透しつつある海外音楽業界の現状が伝えられています。アーティストを発掘・育成し、楽曲リリース計画を立案するA&R(Artists and Repertoire:アーティスト&レパートリーの略)には、経験豊富な人の直観が必要だと長らく考えられてきました。この業務にも、AI活用の波が押し寄せています。

2018年、Warner Music Groupはカナダ・トロントで生まれたスタートアップSodatoneを買収しました。同スタートアップが開発した機械学習AIは、ストリーミング、ソーシャルメディア、ライブツアー等のデータにもとづいて、まだ契約していないアーティストが将来成功する可能性を見積もります。こうしたアーティストの成功を予測するAIの開発が加速している背景には、楽曲の評価がYouTubeで公開した音楽動画の視聴数やSNSによる拡散といった、従来にはなかった複雑な要因によって大きく左右されるようになったことがあります。

カナダ・モントリオールに拠点を置くHITLABは、独自の技術を採用したA&R支援AIを開発・提供しています。同社が開発した技術「デジタルニュアンス分析(Digital Nuance Analysis:略してDNA)」とは、任意の楽曲が持っている特徴を83の属性に分類した上で、分析対象とよく似た過去のヒット曲を提示するというものです。この分析を駆使すれば、新人アーティストの楽曲を過去のヒット曲と比較することでブラッシュアップできます。ちなみに、大量のデータを分類するという作業は機械学習やディープラーニングといった現在のAIが得意とするところです。

HITLABのMichel Zgarka社長は、DNAは人の仕事を奪うものではなく、A&Rにおいて今まで1年間に1,000曲以上聴いていた所を、AIを使って100倍の100,000曲を分析することを可能にする、と語っています。

医療の進歩に貢献するディープフェイク

US版Forbesが3月9日に公開した記事では、ディープフェイクが善用されている事例を紹介しています。任意の動画に含まれる顔を他人の顔に置き換えるAI技術であるディープフェイクは、事実に反するフェイク動画を制作することを可能とするものとして、ネガティブな注目を集めてきました。しかし、同技術を善用した事例も多数報告されているのです。

ロイター通信は、AIスタートアップのSynthesiaと共同でディープフェイクを活用して無数のニュース動画を制作しました。同技術を使えば、ニュースキャスターを撮影した動画から偽のニュースキャスターを生成して、その偽キャスターが出演するニュース動画を大量に制作できるのです。この事例は、視聴者ごとにカスタマイズされたニュース動画を提供するビジネスモデルの可能性を示唆しています。

アメリカ・フロリダ州にあるダリ美術館では、ディープフェイクを活用してダリが被写体となった新しい動画を制作しました。この蘇ったダリは、生前に撮影された1,000時間ものインタビュー素材を学習データに活用して復活した音声で、生前に書き残した文章の一部を話します。

ディープフェイクは、医療業界での活用も期待されています。脳腫瘍のような疾病を判定するAIを開発するには学習データに使われる大量の医療画像が必要とされますが、不足しているのが現状です。同技術を活用すれば、本物の医療画像にそっくりな偽の画像を大量に生成して、学習データの不足をこの偽画像で補うことができるのです。

ディープフェイクを善用する事例が増えれば、この技術に対するネガティブ一辺倒なイメージが多少なりとも払拭されるのではないでしょうか。

TikTokで発見されたAIアルゴリズムの闇

US版BuzzFeedNewsが2月27日に公開した記事では、TikTokのフォロー推奨機能に潜んでいる問題点が論じられています。カリフォルニア大学バークレー校に在籍するAI研究者のMarc Faddoul氏は、同アプリがフォローすべきアカウントを表示する際に示すある特徴を発見しました。その特徴とは例えば黒人女性のアカウントをフォローした場合、おすすめのアカウントには黒人女性ばかりが表示されるのです。同様に白人女性のアカウントをフォローすると、今度は白人女性ばかりがおすすめに表示されます。こうした観察結果を、Faddoul氏は分かりやすい画像を付けてツイートしました。

Faddoul氏のツイートを見つけたUS版BuzzFeedNewsがフォロー推奨システムについてTikTokの開発チームに問い合わせたところ、協調フィルタリングが実行された結果、前述のような現象が発生したと回答しました。協調フィルタリングとは、「同じものが好きな人々は、ほかの好きなものも同じになるはず」という推論にもとづいて、推奨内容を決定するアルゴリズムです。例えば、ユーザAがアイテムXを好んでいる場合、同じアイテムXを好んでいるユーザBがアイテムYも好んでいるとすると、ユーザAもアイテムYを好むに違いない、と判断するのです。

協調フィルタリングが多用されると同じような傾向のものが推奨されるようになり、推奨内容から多様性が失われる危険性があります。そして、Faddoul氏がツイートしたような人種差別的とも見られ兼ねない結果に陥ることもあるのです。こうした現象は「フィルターバブル」と呼ばれ、問題視されています。

フィルターバブルを考察するうえで重要なことは、この現象はTikTokに限ったことではなく、検索または推奨アルゴリズムが使われているすべてのアプリやシステムの使用時に発生し得る、という点です。現代社会に偏在しているフィルターバブルに対しては、ユーザ個人と社会全体の両方が注意を怠らない必要があります。

Writer:吉本幸記/Photo by Hal Gatewood on Unsplash

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