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トイロボットが運ぶあそびと教育の器:田中章愛氏×森川幸人氏 対談

2020.1.20先端技術

トイロボットが運ぶあそびと教育の器:田中章愛氏×森川幸人氏 対談

スマートフォンや家庭用ゲーム機が広く普及し、子どもたちのあそびがよりバーチャルな世界へとシフトしていく中、デジタルとアナログのあそびを融合した実世界のインタラクティブエンタテインメントという分野が存在します。今回はソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)でロボットトイ「toio」の商品企画のリーダーを務める田中章愛氏をゲストに迎え、社内スタートアップとして誕生しSIEの製品として発売された「toio」の開発秘話や、あえて顔のないロボットに込められた子どもたちへの想い、教育ツールとしての可能性も見据えた次なる挑戦について話します。聞き手はモリカトロンAIラボ所長の森川幸人です。

課外活動から生まれたあそび心の結晶

森川幸人(以下、森川):今回、田中さんをはじめとしたSIEの方々と一緒に仕事をさせてもらうことになった経緯から、お話したいと思います。私たちはこれまでビデオゲームの中のAIを作ってきたわけですが、もう少し拡張してエンターテイメント全般へ応用した方が面白いと考えるようになりました。そんな折、小さくて扱いやすいトイロボットにAIを組み込むことを模索する中で「toio」と出会いました。「これは可愛い」と感じ、こちらからアプローチした形です。

すると偶然にも、私にとって田中さんは筑波大学の後輩にあたり、さらに「toio」の事業に関わっているマネージャーの方は私がプレイステーションのゲームを作っていた頃にプロモーションなどでお世話になった方だったんです。しかも、弊社の三宅がそのマネージャーの方と一緒に仕事をした経験があるということで、長い歴史の中で少なからぬ縁があったというわけです。そういう経緯から、「toio」にAIを組み込んだ「ウロチョロス」を作るに至ったという次第です。

先日はそれを少し拡張して、新渡戸文化学園にて小学校4年生の児童を対象に教育ツールとしてあそんでもらいました。一段落着いた現在は、「ウロチョロス」の次のバージョンについて模索しているところです。

小学生向けAIワークショップでモリカトロンが伝えた機械の心

田中章愛(以下、田中):森川さんのことは大先輩のレジェンドとして、これまでゲームだけでなく書籍や記事をよく拝見していました。AIの歴史を含めて、その技術を応用するノウハウについて、ユーザー目線から熟知していらっしゃる点に感銘を受けてきました。おっしゃられたような数々のご縁もあって、今回のお話をいただいた時はとても光栄でした。

森川:「toio」の開発はいつごろから始まったのでしょうか。

田中:研究が始まったのが2012年なので、もう8年近く経ちますね。当時、私はソニーの中でロボティクス関連の研究員として、ロボットや機械学習などを研究している研究所に所属していました。

実際に「toio」につながるアイデアを作り始めたのは、ちょうど研究テーマが一段落着いたので何か新しいことを始めたいと考えていた矢先、人間とコンピュータの新しい付き合い方を研究するヒューマン・コンピュータ・インタラクションという分野に従事していたソニーコンピュータサイエンス研究所の研究員アンドレ・アレクシーに、ちょっとした勉強会で出会ったのがきっかけでした。

私たちには、ロボットとゲームを融合させた新しいおもちゃを作りたいという共通の意識がありました。当時2人を中心に色んなアイデアを出す中で、子どもが自分で作った世界が動き出したら楽しいんじゃないかという考えに至り、そこから研究が始まりました。

森川:それは社内スタートアップのような形式の研究だったのでしょうか。

田中:最終的にはソフトウェアエンジニアの中山も加わって社内スタートアップへつながったのですが、最初は本当に単なる思いつきから始まった課外活動みたいなものでした。自分もふくめ、ソニーグループに勤める社員自体がもともと、本業の役にも立つものづくりの趣味を持った人が多いなとは感じています。例えば「メイカーフェア」と呼ばれるものづくりの祭典に、放課後活動として個人で出展している人は結構いました。最近ではソニーグループとしてスタートアップを支援する仕組みができたので、自分で事業を形にしたい人が自由に応募できる環境が整っていますね。

森川:ちなみに「toio」という名前にはどういう由来があるのでしょうか。

田中:おもちゃの「Toy」と入出力を意味する「I/O」という言葉をかけ合わせた造語です。五感を使ってあそぶという想いを込めています。実はロゴにもあそび心が込められていて、アルファベットの「o」と「i」で目と鼻を表現することで、何となく顔に見えるようにデザインしています。

エンジニアではなく親としての目線

toioを手に取る田中氏。キューブの顔にあたるものをユーザーが追加できるデザインにした意図を語る

森川:初めて「toio」の中心となるロボット「toio コア キューブ」(以降キューブ)を見た時に私がもっとも感銘を受けたのが、トイロボットなのに顔がない点でした。従来の商品はかわいらしさの演出のために、目鼻を付けるじゃないですか。それを排除したのは、何か意図があってのことだったのでしょうか。

田中:あえて顔をなくしたのは、顔になるものをユーザー自身に作ってキューブの上にかぶせて欲しいとの想いからです。さまざまなあそび方をしていただくために決まったキャラクターに固定せず、自分の好きなキャラクターにいつでも変えてほしいと考えました。

森川:そういった拡張性をはじめから前提にしていたんですね。レゴとのコラボも最初から考えていたのでしょうか。

田中:そうですね。レゴの方々とはかつてソニーコンピュータサイエンス研究所の方で研究成果を発表する機会があったほか、その後も色々な形で長くお付き合いさせていただきました。今回、新商品として発売するタイミングに合わせて、キャンペーンとしてまたレゴジャパンさんとコラボさせていただいた次第です。

森川:自由にカスタマイズできるおもちゃって、意外とユーザーにとってハードルが高いんですよね。もともと工作が得意な人じゃないとなかなかできない。そういう意味で、なじみのあるブロックが取り付けられる意義は大きいと思います。

田中:そこには、ユーザーがイメージしたものをすぐ形にして、いち早くあそんで欲しいという想いがあります。作ってあそんでひらめいてというループを体験してもらいたい。作ることだけに膨大な時間を費やす必要がないように、すでにご家庭にあるブロックを利用できればと考えました。その熱い想いは最初からブレずにありましたね。

森川:キューブのサイズについてですが、この大きさも初期の段階から決定していたのでしょうか。

田中:現在の4倍のサイズから半分のサイズまで何種類も作ったんですけど、大きいとロボット本体が目立ち過ぎて上に載せるものが目立たなくなるし、小さ過ぎると子どもが扱い辛かったりバッテリーが保たなかったり。色々検証した結果、現在のサイズに落ち着きました。

森川:「ウロチョロス」を開発するにあたって外を見るカメラやマイクなど目と耳の機能がない点で苦労したのですが、そうしたものをあえて排除した意図は何だったのでしょうか。

田中:それは悩んだ部分ですね。最初期のバージョンではさまざまなセンサーやカメラもふくめ検討したのですが、キューブが上に載せるおもちゃや手で覆われても問題なく動かなければならないということや、消費電力面であそべる時間を十分にとりたいということもあって、最終的に今の形に落ち着きました。

子どもがストレスなくあそぶ上で重要なのは、ロボットが周囲を見られることよりも、キャラクター同士の位置を座標として認識して、お互いの状態を正確に把握できることです。そのコンセプトをもとに、デザインや技術をまとめ、取捨選択していったというわけです。

森川:ロボットにとっては、自分の位置検出だけでも大変な作業ですからね。少しカメラを遮るだけで現在地を見失ってしまったりと、なにかとトラブルが起きるんですよね。

田中:あと外を見るカメラを搭載するとなると必ずどこかに穴を空けなければいけないし、そこに覆ってはいけない領域が生まれてしまいます。できるだけシステムに依存しないあそびを提供したかったので、キューブに関しては地面を走行している限りは絶対に隠れない底面部分にセンサーを取り付けました。かなり長期間の研究を重ねた結果ですね。

もちろんエンジニアとしては色々な機能をつけたいのが本音ですが、自分が親だったら子どものためにどういうものが欲しいかという消費者の目線で考えたというのもあります。子どもにあそびたいと思ってもらえるだけでなく、家族や親戚から子どもの誕生日やクリスマスのプレゼントとして買ってもらえる価格帯や商品像であるということを大切にしていたので、ユーザーテストを繰り返しながら必要な機能に絞り込みました。

森川:そこが企業による発明と学術的な発明との大きな差ですね。私たちも色々と風変わりな研究をしていますが、最終的には商業利用を前提にしているので、常に面白さとコスト、あるいは受け入れやすさという連立方程式を解かなきゃいけない。新しいことはやりたいけど、本当に需要があるのかどうか。本当にみんなの役に立つのかどうか。そういう意味では、アカデミックなロボット研究よりも面白いものが生まれるのかも知れませんね。

田中:そういう天秤は常にありますよね。

スマホアプリを使った新たな挑戦

内部構造がわかる透明なキューブ(非売品)

森川:私はゲームAIの中でも、キャラクターが外界から情報を得て自分で考えて行動する「キャラクターAI」の分野が個人的に好きで、「toio」についても単なるデバイスやコントローラーのような存在としては捉えていませんでした。「ウロチョロス」を開発するにあたって、ひとつの生き物のように動いて欲しいという想いがありました。

そういうわけで、最初に「スマホであそべるようにして欲しい」という要望をいただいた時は、正直なところPCではダメなものかと苦悩しました。というのも、生き物らしさを演出するのに将棋AIのような複雑な思考は必要ない一方で、生物的な反応を組み込むにはどうしても目になる部分が欲しかったからです。

その際、「toio」本体にカメラが搭載されていないので、PC+カメラを利用した画像認識のような仕組みを想定していました。また、仕組み上キューブ自体にAIを載せることはできないという意味でも、PCが最適解だと考えていました。

田中:そうですね。ただ、「ウロチョロス」という企画が形になっていく中で、最終的に発表会でPCによるデモの展示だけで終わってしまうのはもったいないと感じたので、すでに「toio」を所有しているユーザーが自分で試せるものにしたいというこだわりについてはお話ししていました。

通常「toio」はカートリッジでソフトウェアを提供しているのですが、今回は新たなチャレンジとして、「toio」と「トイオ・コレクション」をすでにお持ちの方がスマートフォンからソフトウェアをダウンロードして使っていただく追加コンテンツという形式を提案させていただきました。

森川:結果として、スマホアプリとしてどんどん新しいあそびが追加されていけば、消費者としてはコストも抑えられてカートリッジよりもハードルが下がるという利点もありそうですね。SIEがAPIを公開してくれたことで、開発する側にとっても手を出しやすくなりました。

田中:誤解のないように補足させていただくと、カートリッジ形式で提供している主な理由として、現状必ずしもスマートフォンを持っているわけではない子どもたちが、親のスマートフォンを借りなくてもまずは自分たちだけであそんでいただける環境を提供したいという意図があります。そうした体験のベースを築いた上で、親のデバイスを借りて一緒にあそべる使い方があってもいいかなというスタンスなんですよね。

森川:私たち開発者の目線ではついつい技術や環境のことが先行してしまいがちですが、一般的なユーザーの目線ではあそびのサンプルを提供してくれるという意味合いが強そうですね。

田中:今回、先ほどおっしゃられた「toio」の機能・使い方がユニークである点や、タイヤの機構上真横には移動できないといった物理的な制約がある中で、「ウロチョロス」という生き物っぽさを最大限に表現していただけたことには、とても感銘を受けました。

森川:逆に物理的な制限があるからこそ、生き物らしさが生まれるのかもしれません。同じプログラムを走らせても、個体によって挙動に若干の違いが出てくるんですよ。これこそが生き物の本質だと思います。今回の経験では、画面の中でキャラクターを動かすのと、現実世界でロボットを動かすことの違いを思い知らされました。

今回の「ウロチョロス」は発表会で披露することが前提だったので、5分くらいで伝えられるシンプルなあそびとそれを司るAIを用意しました。実際に家庭で使ってもらう際にはもっと長い時間あそんでもらえると思うので、それだけ多くユーザーとふれあった履歴を成長要素として動きに反映させることが期待できます。

そうなれば時間をかけて学習を重ねるというAIの持ち味が発揮できるので、本来目指したかったキャラクターAIの特性を生かせると思います。プログラムが組めない人でも育てられる、自分だけのカスタマイズされた「toio」みたいなものに発展していけば面白いんじゃないでしょうか。そこを目指して、現在準備しているところです。

田中:外見だけでなくて動作までもカスタマイズできるようなものへ育てていきたいですね。

森川:ビデオゲームではユーザーにカスマイズさせるというあそび方は一般的ですよね。ただ、何もないところから創造するように0から1を生み出せるユーザーはそんなに多くないので、作る側が色々な挙動やあそびをたくさん用意して、ユーザーはその中から自由に選ぶという仕組みにしてあげることで、あそびの幅は広がっていくと思います。

AIネイティブ世代を育むゆりかごへ

toioの今後の展望を語る二人。まだまだこれからも進化していくとのこと

森川:今後はどのように進化させていく予定ですか。

田中:先ほど述べたスマートフォンの活用をはじめ、色んな形の体験を増やしていきたいですね。子どもの成長にあわせて使い方を変えてもらったり、アーティストの表現手法のひとつとして利用してもらったり、多様な利用方法に寄り添える商品を目指したいと考えています。

森川:せっかくだから、ソニーならではのビデオゲームとの融合なんて見てみたいですね。

田中:確かに可能性は十分あると思いますし、ゲーム開発に関わっていたクリエイターの方々とのコラボレーションとしては今回の森川さんのようにすでに融合が始まっていると思います。今後もさらに、ゲーム開発で培われたキャラクターの表現や動作をロボットにも取り入れていければいいですね。実際、「toio」はそれぞれのキューブの座標からお互いの距離を計算して動いているので、ビデオゲームのキャラクターと仕組みは同じですからね。そういう意味で親和性はあると思います。

森川:初めて「toio」のデモを見せてもらった時はキューブ12台が同時に動いていました。それぞれの行動がシンプルでも、お互いがぶつからないように集団で動いているだけで群知能のように感じられて面白いですよね。

田中:将来的には「ウロチョロス」のように、キューブ自体が知能をもっているように見えるおもちゃやあそびもより視野に入れたいと思います。

森川:教育の方面への活用も考えていらっしゃるのでしょうか。すでに一部のパッケージにはビジュアルプログラミングの教育ツールが含まれていますよね。

田中:もともとロボットを使ってみんなであそぶおもちゃとして開発したので、教材として普及させることは想定していませんでした。予想外ではありましたが、発売後は結果的に教育現場でも価値を認めていただき使っていただく例が増えてきたので、今後はそうしたニーズにも応えていきたいとは考えています。

ビジュアルプログラミングのツールを用意したのは、プログラミングは楽しいという価値観を広めたかったという意味合いが強いですね。例えばロボットを使った相撲で勝つためであったり、ロボットサッカーでゴールを決めるためであったり、色んなゲームの中で目的に向かって学ぶことでプログラミングが楽しくなっていく喜びを知って欲しいと思います。

森川:私たちの世代は無意識に発想に制限をかけてしまっているのかもしれません。AIネイテイブと呼ばれるいまの世代の子どもたちなら、より柔軟な思考で新しい使い道を生み出してくれそうですね。

田中:時に専門的な知識を持つほど柔軟性が失われることもありますが、「toio」ではぜひ大人も子どもも枠にとらわれず、先入観や前例を覆すような世界や体験を作る手助けができればと願っています。

Source:toio公式ホームページ、Writer: Ritsuko Kawai / 河合律子

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