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小学生向けAIワークショップでモリカトロンが伝えた機械の心

2019.12.11サイエンス

小学生向けAIワークショップでモリカトロンが伝えた機械の心

20世紀に生まれ、IT技術の黎明と発展を見届けてきた世代の大半にとって、コンピュータやスマートフォンに幼少期から触れることなどありませんでした。ましてや人工知能という存在は、映画や小説の中にだけ登場するほとんど空想のテクノロジーでした。しかし、スマートデバイスが子どもの手にまで普及し、人工知能というテクノロジーが日常に溶け込んだ現代では、すでにAIネイティブと呼べる世代が誕生しつつあります。

モリカトロンは11月29日、東京都中野区の新渡戸文化学園にて小学校4年生の児童を対象に、いまや身近な存在となった人工知能について、子どもたちの理解を深めるためのワークショップ「AIとわたし」を開きました。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのロボットトイ「toio」と、モリカトロンが開発したAIアプリケーション「ウロチョロス」を使った授業を通して、児童たちは人工知能という存在をどう受け止めたのか。初等教育におけるAI事情をリポートします。

AIは人間と機械を友だちにしてくれる

2クラス合同の計62名の生徒を前に、モリカトロンAI研究所所長の森川幸人氏ははじめに、ゲームAIを作るという仕事の中で大切にしている3つのことについて、ネコやトナカイの自作イラストを使った例え話を交えて語りました。

「人とちがうことはけっして、悪いことじゃないよ!」

「いろんな見方でかんがえてみよう!」

「こうきしんは、さいのう!」

それは美術や宇宙工学、ゲーム開発、数学と、文化系学問と理科系学問という2つの大河を自らも転々と往来してきた森川氏にとっての道標のようでした。それらが合流したところにAIがあったと、森川氏は子どもたちに語ります。ゲームAI開発という仕事には、子どもたちが今後経験していくすべての活動や学問が含まれているからです。

人工知能の研究とは、まさに人間の知能という誰もが持ち合わせている哲学的な深淵と向き合う作業にほかなりません。そんな宇宙を認識する果てしない螺旋階段の第一歩として、森川氏は人間の心はどこにあるかを、生徒たちに問いかけました。それに対して心臓や手、胃といった少数意見もありましたが、多くの児童は脳と回答しました。

人間の心がどこにあるのかは、心の定義によって異なるかもしれませんが、少なくとも心の存在を認識している主体が脳である以上、心は脳にあるといえるでしょう。そのことを子どもたちはすでに漠然と理解しています。

それでは機械に心はあるのでしょうか。森川氏は、AIこそが機械の心であると説明しました。単なる物であった機械に心であるAIが宿ることで、私たち人間は機械の友だちになれるのだと、子どもたちへ語りかけました。

AIは人間と同じように試行錯誤する

人工知能とは何かについて勉強した後は、ロボットトイ「toio」にAIを搭載した「ウロチョロス」を使った機械学習の例が実演されました。まず、色とりどりのマス目上を決まった色の順番でスタートからゴールを目指す迷路に、生徒が二人一組で挑戦。制限時間内に各々解答を導き出し、その後「ウロチョロス」に答え合わせをしてもらうというゲームです。

たとえば、「スタート(赤)→黄→赤→青→ゴール(青)」という条件の迷路では、3色の組み合わせで構成された盤面を進む際、スタートからは必ず黄色のマスへ、その次は赤色のマスへ、そして青色のマスを経てゴールへ到達するという順番を守らなければいけません。各色のマスを何回使うかは自由ですが、ゴールへの経路で同じマスを再度通ることはできません。

例題のように、使用する色のサイクルが短いケースでは、誰でも頭の中で容易に解けるシンプルな迷路です。しかし、「スタート(緑)→黄→緑→赤→青→緑→青→黄→緑→黄→ゴール(青)」のように条件が長くなってくると、いかに大人の頭脳といえど短時間で答えにたどり着くのは難しくなってきます。なお、森川氏によると、こうした問題集はAIが自動生成したもので、いくらでも新しい問題を提供できるということでした。

こうした経路探査は、グラフ上の2頂点間の最短経路を求めるダイクストラ法というアルゴリズムを用いるのが一般的ですが、「ウロチョロス」ではAIが試行錯誤しながら正解を見つけ出していく様子を紹介したかったため、強化学習を利用して正解の経路を導き出しています。もちろん、ワークショップでは子どもたちへ強化学習の原理の解説を行うわけではありませんが、AIは無作為な選択肢からスタートして失敗と記憶を繰り返すことで最適解を見出していくという、基本的な仕組みが教えられました。それは人間と同じ。だからこそAIは人間の友だちになれるのだと。

ちなみに今回のワークショップでは、こうしたコンピュータアルゴリズムを使うことなく単純なトライ・アンド・エラーで試行錯誤を繰り返す方法では、大人の思考力でも制限時間内にすべてを解けるかどうか分からない難易度の問題もいくつか用意していたそうです。しかし、どの生徒も特に苦戦することなくあっさりと解いてしまい、モリカトロンのスタッフ陣を驚かせていました。子どもたちの高い集中力と、AIへの対抗心を垣間見た瞬間でした。

AIと暮らす新時代の子どもたちへ

授業の最後には、生徒たちからAIに関するさまざまな質問や感想が寄せられました。「AIは何でもできると思っていたけど、完璧なAIなどなくて苦手なこともあると分かった。AIは身近なところにあって、いつも私たちを支えてくれている」といった生徒の声からは、現代の子どもたちがすでにロボット掃除機やスマートスピーカーといったAI技術に囲まれて生活しているという事実を認識し始めている様相がうかがえました。

「最初はAIやロボットが苦手だったけど、今日の授業を受けて考え方が変わった」という発見もあったようです。このほか、「AIと過ごすのも悪くないかも」「AIと一緒にラグビーがしたい」「声をかけて励ましてくれるAIが欲しい」など、人工知能をより身近に感じることができたという声が多数寄せられました。一方で、「AIが発達するのは便利になっていいと思うけど、人間が必要なくなるのではないか少し不安」「もしAIが本当の人間そっくりだったら見分けられないんじゃないか」といった達観した意見もありました。

人工知能という言葉だけでは、その実態を肌で感じることはできません。しかし、レゴの部品で顔を得た「ウロチョロス」のように、物理的な身体を与えてあげることで、AIと子どもたちの距離は一気に縮まります。「今後作りたいAIは何か」という生徒の問いに対して、AIを搭載した喋る文房具を作ってみたいと答えた森川氏の言葉からは、この先AIと暮らす時代の子どもたちへ向けた想いが伝わります。

Writer:Ritsuko Kawai / 河合律子

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