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AI時代の死生観とアイデンティティはどこへ向かうのか?:藤澤仁氏×森川幸人氏対談(後編)

2019.10.11ゲーム

AI時代の死生観とアイデンティティはどこへ向かうのか?:藤澤仁氏×森川幸人氏対談(後編)

ゲームシナリオライターで小説家の藤澤仁氏へのインタビューの前編では、小説を書くことに対する考えや、AIと人間が協働して物語を作る可能性について伺いました。後編では、藤澤氏の小説『夏の呼吸』で30年前に描かれた死生観、死者とどう決別するかという問題、そして死に対するAIの課題についても話がおよびました。

AIはどのように人を認識するのか?

藤澤:森川さんが日頃どういったお仕事をされているのか、僕から聞いてもいいですか?

森川:もちろんです。近々では、AIにボードゲームの戦略を勉強させよう、ということをやっていました。昔は自分の作ったゲーム用にAIを設計して組み込んでいましたが、ゲームをまるっと作るのって時間がかかるんですよ。1本作るのに数年かかるので、自分の残りの寿命を考えると、それはどう考えても合理的ではない。で、今はAIの使い方と設計というところに専念して、広く皆さんに「AIはこういうところに使えますよ。AIを使うとこんなに面白い遊びができますよ」という提案をしています。

あくまでも、ゲームプランナー目線でAIの利用を考えているので、ゲームプランナーに向けて「こういう道具がありますよ」と提案していきたいと思っています。ビデオゲームに限らず、アナログゲームや、おもちゃにもAIを提供しています。

藤澤:今回出版した小説『夏の呼吸』の収録作である「雨傘」は、テクノロジーの世界の物語なんです。書いたのはWindows95が出る前なんですけど、あるウイルスが利用者を特定してきます。ウイルスは所詮コンピュータプログラムに過ぎないんですが、なぜか人間を特定し、「お前に感染した」と言ってくるんです。例えば僕が触っていても発病しないのに、森川さんが触ると確実に発病する。そんなウィルスが現れた世界観の物語です。「そのロジックは何だ?」と、原因が突き止められずに、どんどんハマっていく、つまり非常にAI的な物語なんです。

森川:どこまでが人間かというのも、今はだんだん微妙になってきましたよね。

藤澤:今だと顔認証などが可能になりましたが、当時のロースペックなコンピュータで人間を認識するって技術的に非常に困難なことだったんですよ。どうやったら、コンピュータがひとりの人間を知りうるのか、ということがテーマでした。

森川:ご自分の興味として、そのテーマがあったということですか?

藤澤:そうですね。書きためてきた色んなプロットのなかに「コンピュータ・ウイルスの物語」と「家族の物語」があって、このふたつを合わせて「雨傘」という物語にしました。僕は当時、現役のプログラマーだったので、テクニカルな部分は抜かりなく書こうと思って、当時出版されていたコンピュータ・ウイルスの関連書籍はすべて読んで…。読んでいくと、コンピュータ・ウイルス自体が作品性を持っていることに気がつき始めるんです。

森川:1990年代のウイルスは、まだ可愛げがあったと思いますね。

藤澤:ミケランジェロの誕生日にハードディスクを上書きするウィルスの「ミケランジェロ」が流行ってた頃ですね。

森川:「感染させちゃったぜ」くらいでやめてくれて、「俺のテクニックを見ろ」くらいの可愛げのある時代でした。

藤澤:そうですね。今ほど悪意むき出しではなかったですよね。で、そういうのが見えてきたときに、「コンピュータ・ウイルスは物語になる」という確信を持つようになりました。95年にそれを持ってきたのは、今考えれば、ずいぶん早かったなと思いますが。

森川:発表当時はどうだったんですか?

藤澤:「すばる文学賞」という、通ればほぼ映画化されるような立派な賞の3次選考通過の13作品に残りました。けれど、受賞には至りませんでした。

森川:表題作の「夏の呼吸」の方はどうだったんでしょう。

藤澤:「夏の呼吸」の方は『中央公論新人賞』の最終選考まで残りました。そのご縁で、20歳そこそこの若造が中央公論社に呼んでもらって、選者の方々からのアドバイスをいただいて帰ってきました。吉行淳之介さんに「この人は必ずモノになる人だ」と言っていただけたことは、今も心の支えになっています。

森川:その他にも、今描きたい物語はお持ちなんですか?

藤澤:はい。ドラクエのディレクターをやっているときもシナリオライター兼任だったので、物語を作ることを30年もやってきました。なので、アイディアはたくさんあるんですが、そのすべてを書くことはできないので、やるべきことを絞っていこうと思っています。

森川:藤澤さんの脳のなかにあるものを、全部出力してほしいですよね。人間、寿命が短いので、貴重な学習をした脳情報は外部に出力して永久保存してほしいです。

藤澤:人間の脳のデータを外部出力するとして人格を保存して残すことはSFではよくあることですが、現実的にはどうなんでしょう?

森川:ふわっとした脳のパターンを写すことはできるようです。写したところで、ちゃんと再現できるかは別問題でしょうけど。藤澤さんの全知識と絡み合っている問題なので…。そうなったら本当にSFの世界ですね。

30年早すぎた死生観とAI

森川:僕は、藤澤さんの小説を読ませてもらって、感情の表現と、それ以上にすごく興味を持ったのは「弟との別れの儀式」みたいな話ですね。本当はすでに亡くなった弟と、どうやって本当に別れていくか、さようならをしていくか。

30年前にそのことに気づかれていたということにびっくりしました。30年前は今みたいにSNSがあるわけでもなくて、お葬式という儀式を経ることで、割とほとんどの人が気持ちを整理できた時代でした。今は亡くなった人との別れの問題が非常に難しい時代です。AIが絡むとさらにややこしくなるでしょうし、『夏の呼吸』で描かれる弟との別れは、そういう意味で今の時代に合ったテーマなのだなと感じました。

藤澤:そうですね。最近では「ペットロス」なんて言葉が出てきて、グリーフワークみたいな言い方をすることもあるんですけれど、死別の悲しみと、どう向き合っていくかが社会の問題として取り沙汰されたのは最近のことです。少なくとも30年前にこういうことを言っている人はいませんでした。

森川:特に今はSNSが流行っていて、その人がたくさん投稿して、投稿が溜まると、AIがその人価値観や口調をマネすることができます。第三者の目で見たら、その人がまさに語ったようなことをAIがしゃべれるような時代になってきています。すると、『夏の呼吸』の主人公が、頭のなかで妄想していたビジュアルではなくて、画面上で死んだ弟と会話ができて、下手をするといつまででも会話ができてしまう。一見すると、心の痛みや寂しさを和らげてくれるとように見えますが、別れの機会を失うということは意外と厄介なことかもしれないですね。

藤澤:逆効果になるかもしれないですね。決別するタイミングを失わせているのかもしれません。

森川:人間個人だと忘れる力を持っているので、だんだん記憶が消えていく、ぼんやりしていって、時間が解決してくれますが、AIを利用することで、その機会を逃してしまう可能性があります。実際もう、Facebookなどではそれに近いサービスを始めているんですよね。

藤澤:実際に僕ぐらいの年齢になると、Twitterのフォロワーさんにも鬼籍に入られた方が何人もいます。すでに死んでしまった人が、自分のリストの中に今も残っている。そうすると「人間の存在って何だろう」という気持ちにはなりますよね。

森川:ちょっと前まで、それこそ1990年代くらいは、「人間はどう生きるか」ということだけを考えれば済んでいたのに、これからは、「どう死ぬか」とか「どう死んだ人と別れるか」とか、そこまで考えなければならなくなったので、ある意味、面倒くさいですね。

藤澤:終活ブームなどもそうですが、団塊の世代の方々が世の中のブームを作ってきているんじゃないかなという気がしますね。

森川:さらに今は技術が追いついちゃってきていますね。ペットロスで悲しんでいても、遺伝子さえ残っていればそのペットのクローンという形で生き返らせることができちゃう。

藤澤:確かにペットを失うことは悲しいけれど、じゃあ生き返らせることがいいってものなのか、という問題もありますよね。戦争が麻痺させてしまったということもあると思うんです。戦争による不幸が大きすぎて、死んでしまった人のまわりにどれだけ大きな絶望があったのかという点まで、社会の関心が行き届かなかった。それが戦後50年が過ぎて、ようやく目が行き届くようになってきてました。喪失による苦しみが社会で語られる問題になったのは、2000年以降ですよね。

「夏の呼吸」を書いたのは28年前で、僕が20歳の頃でした。当時はバブルの絶頂期で、社会は熱狂していたかもしれないけど、作品としてはクールなものが求められていた時代だったように思います。そういう時代に、僕は小説を書いて、新人賞に投稿して最終候補まで残ったものの受賞できなかった。僕はたぶん時代を読み違えていて、時代に求められていない物語を書いていたんだと思います。

今回、この小説を編集者の方に読んでもらって「これは商品になる」と言っていただいたんですが、小説の内容は変わっていないわけですから、「時代が変わったんだろうな」と考えました。今「エモい」という言葉が使われるようになったのがある種の象徴のように感じるのですが、感情に差し込んでくるものが求められる時代になって、初めてこの小説の価値が閾値を超えた。商品として成立すると判断されたことで、出版に至ったんだと思っています。

森川:ほぼ30年前。ようやく時代が回ってきたわけですね。

藤澤:そうですね。28年前は、『東京ラブストーリー』のような物語が流行っていた時代でした。『夏の呼吸』は汗臭い物語なので、あの時代には合わなかったけれど、今の令和の時代には合っているのかもしれないと思います。

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