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アルスエレクトロニカ2019に見る、AIとデジタル革命のミドルクライシス

2019.10.21アート

アルスエレクトロニカ2019に見る、AIとデジタル革命のミドルクライシス

オーストリアのリンツという小さな街で、年に一度、世界中のメディア・アートが集まる「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」と呼ばれる祭典が開催されます。米国のオースティンで開催されるサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)やラスベガスで開催されるCESなどのテック系カンファレンス・イベントとは異なり、毎年ひとつのテーマを掲げ、サイエンス、テクノロジー、そして社会をアートを通して批判的に捉える点が特徴です。今回は「AIxMusic Festival」なるイベントも開催されたこともあり、モリカトロンAIラボとしてもオーストリアに飛ばざるを得ませんでした。

ヒューマンリサーチとしてAIを考察するということ

オーストリアのリンツは、音楽の都として知られるウィーンから電車で1時間ほどで到着する、チェコとドイツの国境付近の小さな街です。シュニッツェルという平たいとんかつのようなオーストリア伝統料理を食べ、教会などの歴史的建造物、そして市内の中心を流れるドナウ川の風光明媚な景色に感激していると、こういうビッカビカのLEDバッキバキの建物が突如現れます。

展示会場のひとつである「アルスエレクトロニカ・センター」。かつて重工業で栄え、時代とともに衰退に向かいつつあった都市、リンツにメディア・アートの新風を吹き込んだ

アルスエレクトロニカ・フェスティバルは、これまでにウィキペディアやハイパーテキストといった、今やデジタル社会に欠かせないツールとなったものを「アート」としてアワードを与えてきた歴史があります。今年は創立40年の歴史を振り返り、「Out of the Box – The Midlife Crisis of the Digital Revolution」というテーマで開催されました。訳せば「既成概念からの脱却 – デジタル革命のミドルクライシス」となり、デジタル社会を批判的に評価することを意図したタイトルだといえるでしょう。

この記事では主に、「ヒューマンリサーチ」としてAIを探求するアルスエレクトロニカの視点を踏まえながら、今回のフェスティバルは一体どんなものであったかを紹介できればと思います。ここで言うヒューマンリサーチとは、アートを通してAIと人間の関わりを批判的に見ることを指します。

AIの極地と音楽家の極地が併存したAIxMusic Festival

今回のフェスティバルの目玉のひとつは「AIxMusic Festival」です。現在の音楽産業は、AIによる大きな変化の渦の中にいます。制作過程やビジネスにおいてもAIの実装が進んでいますが、実験的な試みでも近い未来の音楽産業の行く先を示唆したものが多数あります。例えば、日本で最近話題になった、新曲を歌うAIの美空ひばりは、数年前から予測されてきたAIによる音楽の革新を、もっとも分かりやすい形で実装したものだといえます。数十時間におよぶコンサート映像や音源をディープラーニングによって解析し、美空ひばりそのものを再現しています。

今後、マイケル・ジャクソンやデヴィッド・ボウイといった、時代を作ってきたミュージック・スターたちはマーベルコミックのヒーローのように再構築され、量産されるような存在になるのでしょう。美空ひばりの新曲披露は、AIと融合した音楽は、音楽ビジネスにおけるこれまでの常識があっさり打ち砕かれる時代へと突入していくことを告げています。そうした時代背景の中で、アルスエレクトロニカ・フェスティバルの「AIxMusic Festival」は、リンツ郊外にある修道院「ザンクト・フロリアン」で、目玉のコンサートである「Evening concert」は大聖堂で開催されました。

目を引いたのはYAMAHAによる「Dear Glenn」と名付けられたプロジェクトでした。これは、J.S.バッハの演奏において高い評価を受け続けるピアニスト、グレン・グールドの演奏をディープラーニングによって学習したAIが、自動演奏機能付きのグランドピアノを弾くパフォーマンスをするというものです。100時間を超える音源を解析するとともに、グレン・グールドの奏法を熟知する人間によるインプットも併用することで、完璧にグレン・グールドを再現できるAIを誕生させました。このAIによって、グレン・グールドが演奏したことのない楽曲を永遠に演奏し続けることもできれば、世界中どこへでも、例えばザンクト・フロリアンの大聖堂にでも召喚することが可能になります。

 

さらに、共演する人間の動作や演奏の情報をカメラやマイクなどで取得し、解析し、協調して演奏することも可能です。観客の眼前では、どこまでもグレン・グールドなAIを搭載した誰もいないグランドピアノと、演奏家たちとの共演が展開されました。

「Dear Glenn」がAI色の強い作品であった一方で、このコンサートのフィナーレを飾ったのは人間による新たな試みに満ちた音楽でした。音楽家の渋谷慶一郎による、仏教音楽・声明とのコラボレーション作品を謳う『Heavy Requiem』です。南山進流声明の演奏家にして僧侶である藤原栄善が唱える声明で展開するは、ディープな電子音楽による「仏教音楽×ダブミックス」です。この楽曲には西洋的な音階や和音は一切使われておらず、しかも演奏される場所は天使飛び交う修道院です。

爆音の中で観客はもはや成仏さながらの音楽体験をしたわけですが、この「Dear Glenn」との対比的な演出は、コンサートを通して、これからのAIと音楽の関係性を示唆する構成になることを意図されていました。AIは今後、ミュージシャンに永遠の命を与えるでしょう。「Dear Glenn」が他の音楽家との共演をしたように、クリエイティブな演奏すらもやってのけます。しかしそれと同時に、AIにはできないことも明らかになってきました。というのも、おそらくAIは修道院のステンドグラスが割れんばかりの爆音で、仏教音楽のダブミックスを披露しようとは考えないからです。

興味深いのは、実に対称的な2つの試みが同じコンサート内で併存し、音楽パフォーマンスとして成立したということです。「Dear Glenn」は、言ってみれば音楽における合理的な利便性の極地をAIを使って提示してみせたものです。その一方で『Heavy Requiem』は、最適解でもなければ、便利でもない、創造性をむきだしにした人間の音楽をミュージシャンが生み出し続けることを提示しています。同じ壇上に立ったふたつの音楽のどちらに退屈し、どちらに興奮するかはリスナー次第でしょう。これから音楽はそんな時代になることを予見させるパフォーマンスでした。

ディープでディープなAI博物館

「アルスエレクトロニカ」というのはフェスティバルの名前であると同時に、リンツにあるアートセンターの名前でもあります。今年は「アルスエレクトロニカ・センター」も大幅にリニューアルされましたが、常設展示はまさにディープラーニングの展示百花繚乱という仕上がりでした。

「Neural Network Training」の展示風景。これを常設してしまう力技は圧巻である

例えば「Neural Network Training」では、手元のカメラに物を見せると、ニューラルネットワークがそれをどのように処理し、認識するかをリアルタイムで見ることができます。検索エンジンで「ニューラルネットワーク 仕組み」でググってみても、素人からすれば分かったような分からないような概念図が出てくるだけですが、こうしてリアルタイムで視覚化されると一気に理解が深まります。やはりインタラクティブは正義です。しかもこれが、常設で見られるのです。

 

Learning to see: Gloomy Sunday from Memo Akten on Vimeo.

活躍するアーティストの作品が常設で置かれているのも、アルスエレクトロニカ・センターがただの“科学センター”と違う点だといえます。AIや機械学習を用いたアートで世界的評価を得るアーティスト、メモ・アクテンの「Learning to See: Gloomy Sunday」は、人間の視覚情報処理モデルを活用した機械学習アルゴリズムによって、私たちがどのようにして世界を認識しているかを追体験させてくれる展示です。映像のように、手元に物を置くと、波や岩のような映像にして返してくれます。ニューラルネットワークは人間の脳の情報処理モデルを概念化して作られており、視覚情報はそれを体験するのに最適です。このような作品を体験することで、AIは私たちと対立する概念ではなく、私たち人間の拡張として存在するということにも考えが及ぶのです。

今回のアルスエレクトロニカ・フェスティバルが「デジタル革命のミドルクライシス」というテーマで伝えたかったことは、底なしの利便性を追求してきた粗野な青春時代に別れを告げ、テックジャイアントのビジネスに骨の髄まで依存した“中年”としての私たちのデジタルライフに内省を与えることなのだと思います。そしてAIを使ってできることを人間らしく考えようという、デジタル革命の良き老後のための物語を見る者に与えてくれました。そんなわけで、来年は会場でお会いしましょう!

Writer:森旭彦

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