生成系AIの開発競争をめぐる大企業の思惑：月刊エンタメAIニュース vol.40

2023.4.21先端技術

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

アマゾンが生成系AI市場へ参入

アマゾンは4月13日、ネットワーク上でデータを管理するためのクラウドサービス「Amazon Web Services」（AWS）の顧客向けに、文章や画像を自動生成できる生成系AIをAPI経由で提供する新たなサービス「Amazon Bedrock」を発表しました。

Amazon Bedrockのユーザーは、今回アマゾンが新たに発表した対話型の大規模言語モデル「Amazon Titan」に加えて、Anthropicの自然言語モデル「Claude」や、AI21 Labsの多言語モデル「Jurassic-2」、Stability AIの画像生成モデル「Stable Diffusion」に、APIを通してアクセスできるようになります。

これにより、AWSを利用する企業は自社のアプリケーションに生成系AIの機能を容易に組み込めるようになるほか、マーケティング用の文章や画像を自動生成したり、ソフトウェア開発者のプログラミングを支援したりすることも可能になります。また、クラウドを通して自前のデータを学習させることもできるため、これらのAIモデルを用途にあわせてカスタマイズすることも可能だということです。

生成系AIをめぐっては、昨年11月にOpenAIが発表した対話型AIモデル「ChatGPT」の爆発的な普及をきっかけに、マイクロソフトやグーグルといったIT大手が競うように自社のAIモデルや新サービスを次々と発表してきました。今回、アマゾンが参入したことで、AIモデルを使った生成技術の開発競争にさらなる拍車がかかることが予想されます。

イーロン・マスクが生成系AIで古巣に対抗

電気自動車メーカーのテスラや航空宇宙メーカーのスペースXで最高経営責任者を務めるイーロン・マスク氏が、対話型AIモデル「ChatGPT」を開発したOpenAIに対抗するため、新たなAI開発企業「X.AI」を設立したと、The Wall Street Journalが報じています。

これに先立ち、マスク氏によって買収されたTwitter社が「X Corp.」という企業に統合され、親会社であるXホールディングスの一部となったことが、4月4日付で裁判所に提出された書類から明らかになっていました。また、買収前の昨年10月には、「ツイッターの買収によって“everything app”であるXの創造が加速する」と、意味深なツイートを残していました。今回の新企業設立も、“万能アプリ”の名を冠した壮大な計画の一部であることがうかがえます。

ちなみに、マスク氏はもともと2015年にサム・アルトマン氏らと共にOpenAIを立ち上げた創業者の1人です。2018年に役員を辞任して、同社と袂を分かったという経緯があります。また、今年3月に非営利団体「Future of Life Institute」が公開した書簡に署名し、GPT-4を超えるAI技術の開発および運用を少なくとも6か月間停止するように呼びかけていた1人でもあります。その一方で、今月には生成系AIの開発目的でおよそ1万個のGPUを購入していたことが、一部メディアによって報じられていました。

こうした事実から、表向きは急速なAI開発の危険性を訴えることで競争の鈍化を促し、その裏では市場参入の遅れを取り戻すべく、着実に駒を進めていたのではないかとの憶測も飛び交っています。いずれにせよ、X.AIの新設からはかつて自分が立ち上げたOpenAIに真っ向から勝負を挑む姿勢が垣間見えます。

グーグルが新たな検索エンジンを開発中

ChatGPTを組み込んだマイクロソフトの検索エンジン「Bing」に対抗するために、グーグルもAIモデルを搭載した新たな検索エンジンを開発中であると、一部メディアで報じられています。

The New York Timesによると、サムスンが今後自社のモバイル端末にGoogleアプリではなく、マイクロソフトのBingを標準アプリとして採用する可能性があるとのこと。同社と結んでいる30億ドル規模の契約を失うことを危惧したグーグルが、生成系AIブームの波に乗り遅れまいと、既存プラットフォームのアップデートに奔走しているということです。

グーグルが｢Magi｣と呼ぶ新たな検索エンジンには、同社が先月発表した大規模言語モデル「PaLM」（Pathways Language Model）をベースにした対話型AIが搭載されており、現状のように複数のキーワードを組み合わせて検索する仕組みではなく、文章を打ち込んで話しかけるような形式で情報を収集できるようになるということです。

Magiは2023年5月から米国限定での提供を予定しているとのこと。最大で100万人のユーザーを対象に限定的に公開した後、年末までに3000万人まで徐々に増やしていく計画だということです。5月10日に開催されるデベロッパーカンファレンス「Google I/O 2023」にて、正式にMagiについての詳細が明かされるかもしれません。

なお、グーグルによる検索エンジンとAIモデルの統合については、今年2月にも「Live from Paris」にて発表されていたほか、最高経営責任者のスンダー・ピチャイ氏が事前にTwitterでも予告していました。

短い呪文で写真のような画像を生成

Stability AIは4月14日、画像生成AI「Stable Diffusion」の上位モデルとなる「Stable Diffusion XL」（SDXL）のベータ版を一般公開しました。エンタープライズ向け最新画像生成モデルとして、従来の「Stable Diffusion 2.1」よりも詳細な画像と構図を、より短いプロンプトで生成できるようになったということです。

特筆すべきは、テキストから画像へのプロンプトだけでなく、画像から画像へのプロンプトが可能になった点です。これは画像を入力すると、その画像のバリエーションが出力されるというもの。また、画像の欠損部分を再構成してくれる「インペインティング」や、既存の画像をシームレスに拡張できる「アウトペインティング」といった新機能も備えています。