配信コンテンツの魅力を強化するメディア＆エンタメAIの動向まとめ

2023.3.30先端技術

現在、Netflixをはじめとする配信コンテンツサービスが全盛期を迎えています。こうしたサービスにおけるコンテンツ制作やコンテンツ運用管理にもAI活用が進んでいます。本稿では、メディア＆エンタメ分野におけるAI市場動向を確認したうえで、同分野におけるAI活用事例を紹介します。

2032年までに年平均成長率26%

大手調査会社Future Market Insightsは2022年6月、メディア＆エンタメ分野におけるAI市場動向をまとめたレポートを発表しました。そのレポートによると、2021年時点での同分野の市場規模は104億米ドルであり、2032年までに年平均成長率26%で成長して1,321億6,000万米ドルに達すると予想されています。

メディア＆エンタメ分野における代表的なコンテンツは各種スポーツの試合とドラマをはじめとする動画全般であり、AIの活用はこれらのコンテンツが対象となります。スポーツの試合に対するAI活用には、ダイジェスト動画の生成があります。生成されるダイジェスト動画は、視聴者各自の嗜好に合わせてパーソラナイズされる方向に進化すると考えられます。

動画に対するAI活用には、配信動画のレコメンデーションが挙げられます。大量の動画を配信するコンテンツサービス企業にとって、レコメンデーションの性能は配信サービスの品質に直結します。NetflixはレコメンデーションにおけるAI活用を熱心に研究していることで知られており、後述するように近年では動画制作にもAIを活用しています。

メディア＆エンタメ分野を地域別に見ると、2021年時点で市場を支配しているのが北米市場で全体の収益の38%以上が同市場から生み出されています。同市場は今後も年平均成長率24.2%で成長し、2032年には650億ドルを超えると予想されています。日本を含むAPAC市場の規模は2021年時点で36億米ドルですが、北米市場を上回る25.8%で成長し2032年には450億米ドルになると考えられています。それゆえ、日本のメディア＆エンタメ分野におけるAI活用も今後増加すると見込まれます。

AI技術を活用するNetflix

前述のようにNetflixは、同社サービスに積極的にAIを活用していることで有名です。こうした同社の取り組みは、英文長文メディアMediumでNetflix Technology Blogと銘打って多数投稿されています。

以上のような投稿記事のひとつで2023年1月31日に公開されたものでは、アートワークのパーソナライズが解説されています。Netflixは、同じ配信コンテンツでも視聴者によって表示するアートワークを変えているのです。

アートワークをパーソナライズする方法はふたつあり、ひとつはトップダウン方式です。この方法は、アートワーク制作専門スタッフが定義した要件にしたがってアートワーク候補画像を絞り込んでいくアプローチです。例えばアートワーク候補画像から「人物の顔がひとつ」で「兵士」が写っている画像を、画像認識を使って絞り込んでいくのです。こうした絞り込み条件は、過去の視聴回数等にもとづいて設定されます。一般にNetflixのアートワークでは、以下のようなひとりの人物が写っているものが視聴につながる傾向にあります。

もうひとつの方法は、アートワークの類似性にもとづいて絞り込んでいくボトムアップ方式です。この方法では事前に絞り込み条件を設定せずに、新規アートワーク候補画像を既存アートワーク画像と比較して視覚的に似たようなものをグループ化します。グループ化した後、多くの視聴回数を獲得しているグループに属する新規アートワーク画像を採用します。トップダウン方式とボトムアップ方式は相補的なものであり、必要に応じて使い分けます。

2022年11月に公開された記事では、動画編集の技法のひとつであるマッチカットにAIを応用する方法が解説されています。マッチカットとは、視覚的に似ているカメラショットをつなげて印象深い動画を制作する技法です。例えばNetflix配信されているドラマ『イカゲーム』の以下の1シーンで効果的に使われています。この技法を実行するには、似たようなショットを特定する必要があります。

マルチカットの例：https://miro.medium.com/v2/resize:fit:828/1*R41a3TMSE52i-p2XVC99Pg.gif

Netflixでは似たようなシーンを特定する方法として、ふたつのアプローチを実施しています。ひとつめはフレームマッチングで、構図が似ているショットを特定するアプローチです。この方法では、画像内のオブジェクトの位置を認識するインスタンスセグメンテーションという画像認識技術が使われます。この方法を使うと『ストレンジャー・シングス』から以下のような似たようなショットが抽出できます。

もうひとつの方法は、あるオブジェクトの動きとほかのオブジェクトの動きをつなげるアクションマッチです。この方法を実行するには、動きが似ているショットを特定する必要があります。Netflixは似た動きを特定する技法としてオプティカルフローを活用しています。この技法は、例えばオブジェクトが右方向に動いている場合、そのオブジェクトを赤く表示するというように動きを強調するものです。この技法を用いると、『アンブレラ・アカデミー』のあるショットは以下のように色付けされます。

以上のように画像認識技術によって特定したフレームマッチングやアクションマッチを使って、Netflixの制作チームは印象的なマッチカットを作るのです。

ChatGPTを導入してラジオ番組の台本を生成

スポーツ中継におけるAI活用には、例えば動画制作企業WSC Sportsの事例があります。同社は2023年2月14日、男子プロテニスの試合を配信するATPメディアと提携して、ATPツアーの試合に関するダイジェスト動画を制作することを発表しました。

画像認識によってテニスの試合中に起こったさまざまなプレイを自動的に特定する技術を有するWSC Sportsは、テニス選手の国籍などにもとづいて視聴者ごとにパーソラナイズされた試合のダイジェスト動画を配信していく予定です。

カナダの放送事業に関するニュースを扱うメディアBroadcast Dialogueは2023年2月23日、同国のメディアRogers Sports & MediaがAIを活用したラジオ番組の強化をテスト中であることを報じました。このテストには、SaaS提供を基幹業務とするFuturiが開発したAI技術のTopicPulseとRadioGPTが使われています。TopicPulseは25万以上のニュースソースから情報を収集して、地方ごとのトピックを特定する技術です。TopicPulseによって特定されたトピックはGPT-3をベースにして開発されたRadioGPTに渡されて、トピックが反映されたラジオ番組用の台本が生成されます。この台本を読み上げるのも、音声AIが担当します。