AI生成ファッションモデルから真贋鑑定まで。国内外のファッション業界で活躍するAIまとめ

2023.3.28先端技術

AIはファッション業界でも活用されています。この業界におけるAI活用事例は在庫管理やチャットボットによる接客などが知られていますが、近年ではさらに多岐にわたっています。本稿では、ファッション業界における国内外のAI活用事例を紹介することを通して、同業界におけるAI活用の広がりを明らかにします。

人間のファッションモデルの生活を助けるテクノロジー

AI model株式会社は2022年3月23日、AIでファッションモデルを生成するサービス「AI model」をリリースしました。同サービスを活用することで「撮影用モデルの顔のパーツを変える」「商品の物撮りからAIでモデルの着用イメージを作り上げていく」「衣服の3Dデータから着用イメージを生成する」ことが可能となります。生成できるモデルは、アジア系とインターナショナル仕様の男女となっています。

AI model株式会社の谷口大季CEOは、2023年1月20日に公開されたファッション系メディアFASHIONSNAPのインタビュー記事で同社サービスに関するさまざまな疑問に答えています。そうした疑問のひとつとして、同サービスが人間のファッションモデルの仕事を奪うのではないか、というものがあります。同CEOによると、同サービスはむしろモデルの生活を支える技術である、と答えています。一般に男性モデルは30歳まではカジュアル系ファッションの案件が続き、40代以降はスーツを着用する案件が増える傾向にありますが、30代ではキャリアに空白が生じてしまいます。こうしたなかAI modelを活用して顔を案件に合わせて変えれば、30代でも活躍できるようになるのです。

以上のインタビュー記事では、AI modelを導入してECサイトの売上が3割伸びた事例が報告されています。そのECサイトは40代モデルを中心にブランドを構築していたのですが、AI modelを活用して20代と30代のモデルも生成したところ、30代モデルのビジュアルがもっとも購買につながったのでした。

海外のAI生成ファッションモデルサービスには、例えばZMO.AIが提供するAI Modelsがあります。同サービスはツールとして提供されており、任意の衣服画像をアップデート後、あらかじめ用意されたAI生成モデルを選択すると、アップロードした衣服を着用したAI生成モデル画像が出力されるというものです。同社は、テキストから画像を生成するタイプの各種画像生成ツールも提供しています。

画像から寸法を高精度に推測

AIを活用すれば、顧客の全身画像だけでメジャーを使わずに採寸できるようになります。こうしたAIをビジネス化した事例として、ダイビングスーツを販売するブランド「MOBBY’S」を展開する株式会社モビーディックがあります。同社は2022年6月13日、スマホで2枚写真を撮るだけで、全身のサイズを自動計測できる「自動採寸システムスマホはかる君」を発表しました。このシステムはMOBBY’S公式サイトから利用できます。

自動採寸システムスマホはかる君には、アメリカのAIスタートアップ3DLOOKのAIスキャニング技術が応用されています。この技術では顧客の全身画像から頭部や胸部といった身体における重要な箇所を抽出したうえで、86の測定値を算出します。この測定値と全身画像を用いて、顧客の3Dアバターを生成します。そして、この3Dアバターからもっとも顧客にフィットする製品を選定するのです。

同様のサービスはイスラエル企業のSizerも提供しています。同社も顧客の全身画像から身体各部位の測定値を算出する技術を提供していますが、測定値を安全に保存するデータモジュールや測定値を他のITシステムと連携させるサイジングデータAPIも提供することで、AIサイズ計測を中心としたビジネス体制の構築を支援しています。

Sizerの顧客のひとつには、女性用下着メーカーのワコールのアメリカ法人があります。ブラジャーの採寸は通常の衣服以上の精度が要求され、5mmのサイズの違いで推奨する製品が変わることがあるほどです。同社はSizerの技術を高く評価して技術提携した結果、ブラジャーサイズ計測アプリ「mybraFit」を開発・提供しました。

画像認識によって真贋鑑定

画像認識を活用して、ファッションアイテムの真贋鑑定を行うサービスもあります。スニーカー・ストリートファッションメディアアプリ「UNSTREET」を運営する株式会社Newelseは2022年8月22日、同アプリに画像認識による真贋判定機能を実装したことを発表しました。

以上の機能は、指示にしたがってスニーカーの画像を撮影してアップロードすると、「約5秒」で鑑定を行うというものです。同機能は真贋判定サービス「CheckGoods」を提供している株式会社超越との技術提携によって実現しました。同社はUNSTREETのほかにも、北関東を中心に展開するハイブランドショップGRAIZや大阪に店舗を構えるブランド買取販売店あずかりやにも同サービスを提供しています。

海外に目を転じると、大手会計事務所デロイトは模造品検出サービス「Dupe Killer」を提供しています。同サービスは何千ものオンラインの販路を常時監視して、顧客が依頼したアイテムの模倣品を検出します。顧客が依頼グッズとのマッチング率を指定できるので、デザイン的に類似した競合アイテムのオンライン上の販路を調査する目的でも同サービスを利用できます。

ファッションメディアVogue Businessが2022年3月7日に公開したDupe Killerを特集した記事によると、同サービスはファッションコレクション全体だけではなく、靴底のデザインのように非常に限られたデザインごとの模造品調査に対応しています。このように調査範囲をフレキシブルにしているのは、調査範囲を限定することで模造品が検出された場合、法的措置に要する費用を抑制したい小規模ブランドのニーズに応えるためです。

以上のようにファッション業界でのAI活用は、もはや「当たり前」になりつつあります。今後は衣服のデザイン段階においても生成系AIの活用が進み、「AI世代」の新進ファッションデザイナーが登場するかも知れません。

Writer：吉本幸記、Image by ShutterStock