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【GDC 2022】キャラクターAIが感じるままにお絵かきできたら

2022.5.09ゲーム

【GDC 2022】キャラクターAIが感じるままにお絵かきできたら

人間のように振る舞うキャラクターAIをデザインする上で感情表現は欠かせません。これまでの一般的なキャラクターAIの感情表現は、表情や声色、ジェスチャーに制限されています。一方、人間は古くから音楽や絵画のような言語に頼らない方法でも感情を表現してきました。AIモデルを活用した楽曲制作や画像生成が活発化するなか、そうした技術をキャラクターAIに実装しようとする試みもあります。

3月21日から3月25日までサンフランシスコで開催された「Game Developers Conference」(GDC 2022)にて、スクウェア・エニックスの機械学習エンジニアEdgar Handy氏による「Emotional Neural Style Transfer: Expressing Character AI Emotion through Paintings」(絵を使ってキャラクターAIの感情を表現する方法)というセッションを取材しました。

このセッションでは、感情表現の実験用に開発されたキャラクターAI「ピノ」を使って、AIが周囲の環境とのインタラクションを通して構築する感情を絵画で表現する手法が紹介されました。

キャラクターAIの感情を定義するには

ピノが絵画を生成するためには、まずピノが周囲のオブジェクトに対して抱く感情を定義する必要があります。スクウェア・エニックスでは、キャラクターAIの精神状態を決定するために、短期的な状態を示す「感情システム」と長期的な状態を示す「ムードシステム」を定義しています。これらの組み合わせによって、状況に応じたAIの感情が数値化されます。

ピノの感情システムには、包括的な感情を形式化したOCCモデルという心理学の理論が応用されています。このモデルをベースに、キャラクターAIの感情は周囲の環境と干渉するたびに変化していきます。たとえば、ゲームイベントに対して肯定的か否定的か、その結果が快いか不快か、自身の行動に満足か不満か、干渉の対象を気に入ったか気に入らなかったかという具合です。それぞれの反応はさらに細分化され、それぞれに感情が特徴づけられます。

つぎに、ムードシステムはPAD(Pleasure、Arousal、Dominanceの3次元からなる心理学モデル)をベースに構築されています。ピノのケースでは、Pleasure(快感)を表すP軸とDominance(優越感)を表すD軸からなる平面に、Exuberant(元気)、Docile(従順)、Afraid(不安)、Hostile(敵意)という4種類のムードを割り当てています。

この平面上にHope(希望)、Fear(恐怖)、Joy(歓喜)、Distress(苦痛)、Pride(自尊)、Shame(屈辱)、Admiration(感心)、Reproach(非難)、Love(愛着)、Hate(嫌悪)からなる8種類の感情を当てはめ、ピノからのフィードバックを数値化するのが感情システムの役割です。この感情システムが生成するムード値を後述するスタイル変換モジュールへ送ることで、ピノが生成する絵画のスタイルが決定されるという仕組みです。

数値化した感情をもとに画像を自動生成

ピノがキャンバスに絵を描くのに必要なスタイル変換モジュールには、「Neural Style Transfer」と呼ばれるアルゴリズムが使われています。

Neural Style Transferとは、ニューラルネットワークを使ってデジタル画像や動画を特定のスタイルへ改変するアルゴリズムです。既存のイメージをあらかじめ学習させた別のイメージの作風に変換したり、複数のスタイルを合成したイメージに書き換えたりできるのが特徴で、近年ではアーティストやデザイナーの間でも広く使われるようになりました。

今回のデモンストレーションでは、画像を指定したスタイルへ変換する「Basic Style Transfer」、複数のスタイルを合成する「Blending Style Transfer」、イメージのスタイルを部分的に変換する「Masked Style Transfer」、変換後のイメージの色調を変化させる「Color Control Style Transfer」という4種類のケースが検証されました。

デモンストレーションではピノの感情システムからフィードバックを得るために、妖精のキャラクターをポインターとして操作してピノが干渉するオブジェクトを指定しています。たとえば、妖精がゴムボールを拾うように促すと、ピノはボールを拾い上げて口に入れてしまいます。

この時、ピノのアクションが適切かどうかを評価することで、ピノはムード値をフィードバックとして返します。今回の場合、ゴムボールは食べられないとピノに教えると、ムードシステムは「Shame」や「Hate」の反応を示しています。これらのフィードバックを基に、Conditional Instance Normalization(CIN)というプロセスを経てピノが描く絵画の作風が決定します。

CINの役割を極めて端的に説明すると、たとえば絵画のどの部分をどの程度ゴッホ風に描くか、リキテンスタイン風に描くか、カンディンスキー風に描くか、あるいはそれらをどんな割合で混ぜて描くかを決定するプロセスといえます。今回のデモンストレーションでは、ピノは自分が食べようとしたゴムボールをゴッホ風に、その背景をリキテンスタイン風に見えるスタイルで描いています。

なお、今回の検証では素材となるスタイルを人間が用意していることに加えて、絵画と感情の解釈は主観的な価値観に基づくものであることから、ピノがアウトプットしたイメージをキャラクターAIによる感情表現と定義するには若干の違和感があるかもしれません。しかし、エージェントの感情メカニズムに関する研究と、ニューラルネットワークを使った画像変換技術を結びつける検証結果として評価に値するといえるでしょう。

Writer:Ritsuko Kawai / 河合律子

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