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【GTC 2022】空間的インターネットに進化するメタバースと産業界への進出

2022.4.14先端技術

【GTC 2022】空間的インターネットに進化するメタバースと産業界への進出

2022年3月21日から24日、NVIDIAは開発者会議GTC 2022を開催しました。23日には「メタバースのビジョン:どのようにして接続された仮想世界を構築するか」というパネルディスカッションが行われました。本稿は、このディスカッションで議論された産業界におけるメタバースの活用事例と産業用メタバースの未来像を紹介します。

メタバースの起源としてのゲーム

以上のパネルディスカッションは、ビジネスメディアVenture Beatでテック系記事を担当するリードライターのディーン・タカハシ氏がモデレーターを務め、同氏がパネリストに質問して回答を聴いていく形式で進められました。最初の質問は、現在語られているようなメタバースはどのように始まったか、というものでした。

以上の質問に対して、NVIDIAでOmniverseとシミュレーションの開発部門でヴァイス・プレジデントを務めるレヴ・レバレディアン氏は、一般に現在普及している技術はゲームからその利用が始まったので、未来の技術を知りたければ現在のゲームを見ればよい、と発言しました。そして、メタバースの舞台となる3D仮想空間はゲームにおいてすでに実現している、とも述べました。レヴ氏にとってのメタバースの起源とは、ゲームにほかならないというわけです。

UnityのXR部門のヴァイス・プレジデントであるティモニ・ウェスト氏は、メタバースの起源をゲームエンジンの進化から説明しました。ゲームステージの設計と構築を遂行するために誕生したゲームエンジンは、物体の落下や放物運動のような物理現象のシミュレーションに始まり、よりリアルで魅力的なゲーム世界を実現するために進化して来ました。この進化は、ついには複雑な物理世界をかなり説得力のあるかたちで複製できるようになりました。この段階にいたって、ゲームエンジンはワールドエンジンとも呼ばれるようになりました。こうしたワールドエンジンをゲーム開発だけではなく、物理世界のシミュレーションに活用した時、産業用メタバースが誕生するのです。

Unityのウェスト氏は、産業用メタバースの誕生をテクノロジーの普及の観点からも説明しました。同氏が考えるテクノロジー普及の法則とは、特殊な活用から始まり汎用かつ簡易になる、というものです。例えば、今日あらゆる用途に使われるスプレットシートの祖先は、1970年代の大型コンピュータを使った財務計算システムです。ゲーム開発という特殊な活用のために誕生したゲームエンジンも、近未来ではあらゆる活動のシミュレーターとなって、さまざまなメタバースを生み出すと考えられます。

産業界での活用事例

続いてモデレーターのタカハシ氏は、パネリストたちが所属する企業の産業用メタバース事例について質問しました。この質問に対し、ドイツの大手メーカーSiemensのデジタルツイン研究部門を率いるヴィルジニー・マイヤール氏は、メタバース技術を用いてさまざまな製造ラインのデジタルツインを構築したことで得られた3つのメリットを述べました。1つ目のメリットは、デジタルツインによって製品の設計が非専門家でも直感的に理解可能となった結果、さまざまなコラボレーションが可能になったことです。2つ目は、現実では不可能な規模や速度で製品テストが可能となったことで、品質保証に要する時間を短縮できたことです。3つ目は、製造ラインを停止させることなくアップデートをテストできることです。

Autodesk設計ソリューション部門のエグゼクティブVPであるエイミー・バンゼル氏は、同社が提供する設計支援システムAEC Collectionについて説明しました。同システムは設計情報に関するデジタルツインを構築して構造物の完成イメージを共有するものですが、同システムを使うことで建材や建設方法の変更が完成イメージに与える影響を早期に確認できるようになる、と答えました。

建設業者向けソフトウェアを開発・提供するBentley Systemsでデジタルツインによるソリューションを推進するロリ・ハフォード氏は、同社が関わったITERプロジェクトの事例を紹介しました。フランスのカダラッシュに世界最大のトカマク型磁場核融合実験炉を建設する同プロジェクトでは、核融合炉のデジタルツインが構築されました(以下の動画参照)。こうしたデジタルツインを構築したことによって、核融合炉を完成させる前に細部まで確認できるようになりました。

求められる「メタバースのHTML」

タカハシ氏は、今後メタバースと(物理世界との対応関係があるメタバースという意味で)そのサブクラスであるデジタルツインが普及する課程で問題となるデータの互換性をどのように実現すべきか、という質問を投げかけました。

NVIDIAのレヴ氏は、メタバースを空間的に拡張されたインターネットと解釈するならば、現在のインターネットコンテンツを記述する一般的な言語であるHTMLに相当するものがメタバースにも必要になる、と発言しました。そして、「メタバースのHTML」を体系化する試みの萌芽として、3Dシーンデータを処理する形式のひとつであるUniversal Scene Descriptionの存在を指摘しました。

Unityのウェスト氏は、未来のメタバースに求められる要件として、アイテムの相互運用性を挙げました。具体的には、例えば「剣と魔法」の世界観を持つメタバースに登場する剣を、ほかのメタバースでも使えるようにするのです。「ほかのメタバース」には似たような世界観のものもあれば、SF的な世界観のものも考えられます。こうしたメタバース横断的な開発技術を実現するためには、レヴ氏が言うところの「メタバースのHTML」が不可欠となるでしょう。

産業用メタバースの未来と課題

タカハシ氏は、最後の質問として各パネラーが考えるメタバースの未来像とそれを実現するための技術的課題について尋ねました。Siemensのマイヤール氏は、メタバースが進化するうえでの重要事項として没入感の向上を挙げました。メタバースにおける体験の没入感を増すためには、フォトリアルなグラフィックとリアルタイムのコラボレーションが不可欠、とも同氏は述べました。

Bentley Systemsのロリ氏は、メタバースが進化するについて増大する計算量の影響を指摘しました。計算量の増大は、二酸化炭素排出量の増大につながります。それゆえ、メタバースを進化させるには、二酸化炭素排出量を削減するようなアーキテクチャとソフトウェアの設計も模索する必要があるのです。

Autodeskのエイミー氏は、メタバースにおける信頼が重要と述べました。具体的には、現在のインターネット環境では常識となっているサイバーセキュリティ、プライバシー、コンプライアンスといった概念はメタバースにおいても引き続き重視されるべきです。

NVIDIAのレヴ氏は、ワールドシミュレーターというアイデアについて語りました。理想的なメタバースとは、物理世界と変わらないリアリティを持ちながら、物理世界ではあり得ないようなオブジェクトやイベントを実現する「もうひとつの世界」であると言えます。こうしたメタバースを実現するためには、必然的に物理世界におけるあらゆる体験をシミュレートする機構が必要となります。この機構が、ワールドシミュレーターです。そして、理想的なワールドシミュレーターが開発できれば、物理世界のあらゆる場所と時間に仮想的に移動できるようになるはずです。究極のワールドシミュレーターとは、バーチャルなテレポートマシンであると同時にタイムマシンでもあるのです。究極的ワールドシミュレーターがあれば、人類は無数の未来をシミュレートしたうえで最善の未来を選択できるようになるはずです。

レヴ氏が語ったワールドシミュレーターは、荒唐無稽なSF的デバイスのように聞こえます。しかしながら、NVIDIAは初歩的なワールドシミュレーターの開発をすでに進めています。同社は昨年開催されたGTC 2021において、地球上の気象現象を完全再現するシミュレーター「Earth-2」の開発に着手したことを発表しました。Earth-2を使えば、気候変動により変わり果てた望ましくない地球を直視できるようになり、その結果として気候変動を回避する行動を促せるようになります。

以上のようにメタバースとそのサブクラスであるデジタルツインに関してさまざまな事例と見解が語られましたが、メタバースの本質的特徴を最大公約数的に表現すれば「ゲームや産業用に利用できる3次元的仮想空間」と言えるでしょう。タカハシ氏は、こうした特徴を端的に「空間的インターネット(spatial internet)」とまとめています。こうした空間的インターネットとしてのメタバースを実現するためには、「メタバースのHTML」を整備しなければなりません。そして、理想的なメタバースを追求して行けば、究極的なワールドシミュレーターの実現にも近づいていくことでしょう。

Writer:吉本幸記

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