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【JSAI2020】ゲーム開発からシナリオ制作まで、AI同士が協調する未来へ向けて

2020.6.22ゲーム

【JSAI2020】ゲーム開発からシナリオ制作まで、AI同士が協調する未来へ向けて

人工知能の研究者やAIを扱うゲーム開発者にとって、これからの技術発展に欠かせないテーマのひとつが、AIに求められる協調という概念です。これまでもモリカトロンAIラボでは、ビデオゲームの中でプレイヤーの動きに協調して意思決定を下す自律型エージェントや、物語のプロットを自動生成する上で作家の個性を忖度できるAIの可能性に焦点を当ててきました。

この協調という価値観は、6月9日から6月12日まで開催された第34回人工知能学会全国大会(JSAI2020)においても、大きな存在感を示していました。今回、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となった同大会で行われた「エージェント:ゲームと協調」というセッションを取材しました。ここでの協調とは、エージェント同士による協調性を技術的に研究することを意味しています。

セッションの登壇者は、株式会社スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏、公立はこだて未来大学大学院の山崎陽斗氏、早稲田大学の立木創太氏、名古屋工業大学の松井俊浩氏。セッションテーマにもとづいた各分野における研究内容に加えて、これまでの成果や今後の展望について発表され、それぞれ異なる領域におけるエージェントの協調に関わる最前線の研究が垣間見える内容となりました。

3種のゲームAIの 動的連携モデル

スクウェア・エニックスの三宅陽一郎氏による発表では、異なるAIが相互に連携することでゲーム開発の効率化を促すモデルについて語られました。ゲームコンテンツを形成するゲームAIは、登場人物を動かすための「キャラクターAI」、ゲーム全体の流れを動的に制御するための「メタAI」、そして空間認識をサポートするための「スパーシャルAI」という3種類に大きく分類されます。

これらを連動させた新たなAIモデルとして、三宅氏は「MCS-AI動的連携モデル(Meta-Character-Spatial AI Dynamic Cooperative Model)」を提案しています。これまでの手法では、自律型キャラクターAIとレベルスクリプトを交互に実行することで登場人物の演技や場面の変化を演出し、キャラクターAIがナビゲーションAIへクエリーを出すことで、パス検索をとおして移動するという連携モデルが一般的でした。

新たなモデルでは、従来のレベルスクリプトがメタAIへ置き換えられ、ナビゲーションAIの仕事は空間の状況解析を自律的に実行できるスパーシャルAIが担っています。それら2つのAIを動的に連携させることで、自律型キャラクターAIは演技や行動を同一の意思決定システムの中で実行できるようになるというわけです。

特筆すべきは、ゲームコンテンツが要求するあらゆる作業を、それぞれのAIが機能モジュールとして分解および蓄積し、それらを再構築することでストーリー展開や戦闘シーンといったゲーム内容を形成するという仕組みです。ゲームデザインとAI技術をフレームとして結びつけることにより、ハードウェア性能の向上に比例して肥大化していく開発作業のさらなる効率化が期待できると、三宅氏は語ります。

論文:ディジタルゲームにおけるメタAI-キャラクターAI-スペーシャルAI 動的連携モデル

生成したゲームシナリオを評価するセマンティックスコア法

公立はこだて未来大学大学院の山崎陽斗氏による提案は、物語の展開が読めずユーザーが何度も楽しめるシナリオを、既存の作品に依存しない手法で自動生成するためのシステム設計に関する技術検証です。

物語は分節的意味単位であるシーンの連続で構成されており、それらは物語の展開を複雑にする「複雑化シーン」と、問題を解決する「解決化シーン」に大きく分けられます。セマンティックスコア法とは、各シーンが物語を複雑化あるいは解決化している度合いを可視化する評価手法です。これをAIで自動生成したシナリオへ適応することで、従来のシナリオに見られた典型的なグラフの形状に当てはまるかどうかを検証したのだといいます。

この実験では、それぞれ異なる役割、関係性、感情といった要素を与えられた登場人物がエージェントとしてモデル化され、それらのやりとりをシミュレートすることで短編のゲームシナリオを生成しています。各エージェントのすべての行動に複雑化あるいは解決化のスコアをつけていき、そのログデータからセマンティックグラフを出力するというものです。

今回の検証では、姫・ドラゴン・王様・騎士という4種のエージェントを使用し、ドラゴンに捕らえられた姫を王様に雇われた騎士が助けに行くという単純なシナリオが生成されました。そこから出力されたセマンティックグラフは、物語の中間で複雑化の頂点に達する山形を成しています。これは従来のデータにおけるドラマタイプの特徴に当てはまります。

山崎氏によると、今後はセマンティックスコアの一般化をはじめ、実際に販売されているデジタルゲームを用いた実験や、逆にセマンティックグラフのサンプルからエージェントの行動を操作してシナリオを生成する手法の研究を進めていきたいとのことです。

論文:マルチエージェントシステムにより生成したゲームシナリオのセマンティックスコア法による評価

強化学習と情報交換で、エージェント間の仕事の引き継ぎをスムーズに

早稲田大学の立木創太氏が発表したのは、清掃や警備において複数のエージェントが特定領域を協調しながら巡回する状況において、エージェントの定期点検や交換を行うために計画的に作業を停止する際、急激なパフォーマンスの悪化を緩和するための自律学習法です。

これには既存手法をベースに、強化学習とエージェント間の情報交換が用いられています。今回のプレゼンテーションでは、20台のロボット掃除機をエージェントとした巡回清掃問題を例に、イベント累積存在時間の総和や最大イベント量を評価指標として実験が行われています。この提案手法により、計画停止したエージェントから計画停止しないエージェントへのタスクの引き継ぎが促進できたということでした。

マルチエージェント巡回問題を扱った研究はこれまでにも多く存在する一方で、複数のエージェントが計画的に一斉停止する状況を考慮したモデルは、まだ提案されていなかったと立木氏は語ります。今回の提案手法は、セキュリティパトロールを想定した状況で特に有効であり、今後はパフォーマンス悪化のさらなる軽減に向けて研究を重ねていくとのことです。

論文:マルチエージェント協調巡回問題における交渉を通じたエージェントの計画停止の自律的な学習手法の提案

漏洩情報の削減には段階的な情報公開が必要

名古屋工業大学の松井俊浩氏は、マルチエージェントの協調問題解決や交渉において各エージェントから漏洩する情報の抑制を提案しています。プライバシー情報漏洩の抑制に関しては、先行研究にて自動交渉エージェントや秘密計算によって情報が完全に秘匿されてきたということですが、その結果をユーザーが直感的に検証するためには、プロセスにおける一定の情報公開が必要になると、松井氏は語ります。

松井氏による従来の研究では、多目的かつ非対称な制約最適化問題による形式化を試みており、その際は個々の選好を持つエージェントによる多目的最適化を実行し、その制約に関わる変数値のペアと評価値に公開コストを定義。その制約の情報を段階的に公開しながら、合意する局所探索の枠組みを検討したということです。

今回の研究では、非集中型の厳密解法を適用するとともに、最適化の指標における実験的な初期評価を行ったそうです。現状における公開の戦略は、自身の情報の優先度付けと他者との足並みの調整に留まっていますが、そこへプライバシーコストの抽象化を織り込んで相手の状況を予測する指標へ展開していくことが、今後の課題だということでした。

論文:非集中型の非対称制約最適化における漏洩情報削減の一検討

Writer:Ritsuko Kawai / 河合律子

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