AIが変える教育のかたち：月刊エンタメAIニュース vol.63

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

国内で初めて大学教育にAIツールを導入

滋賀大学は3月12日、OpenAIが提供する大学教育向けのAIツール「ChatGPT Edu」を、2025年4月1日から導入する計画を発表しました。

ChatGPT Eduは、AIを活用した個別指導や学習支援、研究サポート、大学運営の効率化を目的とした教育支援ツールです。学生だけでなく研究者や教職員を対象に、教育環境を最適化する技術基盤として、米国ではすでに普及が始まっています。日本国内の大学で導入されるのは、今回が初めての事例だということです。

滋賀大学によると、同学は日本初のデータサイエンス学部・研究科を設置した教育機関として、生成AIに関する講義の実施や企業連携によるシステム開発、半導体メーカーとの共同研究など、これまで数々の先進的なプロジェクトを推進してきました。また、教員向けに生成AIを活用したワークショップを実施するなど、教育現場での生成AI技術の有効活用を積極的に進めています。

今回のChatGPT Eduの導入によって、Pythonなどのプログラミング言語の習得支援、語学学習や論文執筆における文章添削、独自の教養教育プログラムである「未来創生リベラルアーツプログラム」への情報提供など、多岐にわたる活用を視野に入れているということです。また、データ分析機能を用いて学生の学習状況にあわせた個別の学習プランやアドバイスを提供するとともに、カスタムGPTを使って夜間や休日にも学生の質問に自動で応答できる環境を整えていく予定だとしています。

滋賀大学による今回の取り組みは、日本の大学教育におけるAI活用を後押しするモデルケースとなるかもしれません。

3Dオブジェクト生成の基盤となるAIモデル

オンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox」を運営するロブロックスコーポレーションは3月17日、3Dオブジェクト生成モデル「Cube 3D」を発表しました。

Cube 3Dは、入力したテキストを基に3Dオブジェクトや環境を生成するオープンソースの基盤モデルです。画像ベースの学習が施される従来の3D生成技術とは異なり、ネイティブな3Dデータを用いてトレーニングしている点が特徴です。これによりゲームエンジンとの互換性が高いオブジェクトを生成でき、それを機能的に拡張することもできます。

その鍵を握っているのが、3Dトークン化という革新的な手法です。言語モデルが次の単語を確率的に予測するように、Cube 3Dは次の形状トークンを予測することで、完全な3Dオブジェクトやシーンを生成しています。さらに自己回帰トランスフォーマーというアーキテクチャを採用しており、単一のオブジェクト生成から、形状補完、複数の物体を含むシーンのレイアウト生成まで、幅広いタスクに対応できるように設計されています。

この技術をオープンソースとして公開することで、ゲーム開発者やユーザーにより効率的かつ革新的な制作ツールを提供するとともに、コミュニティ全体で創造性を高められる環境を構築していきたいと、同社は説明しています。今後は画像入力で3Dオブジェクトを生成できるマルチモーダルモデルへと発展させる予定で、将来的にはさらなる多機能化によりシーン全体の自動生成を目指したいということです。

桜の保全活動に役立つAIカメラ

キリンビールは3月17日、日本の桜を守る取り組み「晴れ風 ACTION」の一環として、スマートフォンのカメラを使って桜の健康状態と推定樹齢をAIで判定できる「桜AIカメラ」を発表しました。

桜AIカメラは、森林総合研究所や日本樹木医会の監修のもと、約5,000件の学習データを使って開発されました。桜の樹形や樹勢、幹の太さや模様をAIで解析することで、健康状態や樹齢を判定できます。ユーザーが撮影した桜の写真と位置情報はデータベースに蓄積されていき、自治体や樹木医が桜の状態に応じたメンテナンスや計画的な植え替えを実施する際に活用されます。なお、桜が開花する春に限らず、葉がつく夏や紅葉の秋、枝のみの冬も含めてデータを収集することで、より精度の高い判定が可能になるということです。

キリンビールによると、このサービスを開発した背景には、戦後に全国で植えられた桜が樹齢60年から70年を迎え、高齢化が進行している現状があります。桜は樹齢40年を過ぎると衰え始め、60年を過ぎると伐採や植え替えが必要です。しかし、人手や予算の不足から管理が十分に行われていない自治体も多いということです。こうした課題に対応するため、キリンビールは「晴れ風 ACTION」を通じて桜の保全活動を支援し続けています。

同社はAI技術を活用することで、お花見を未来へつなげる取り組みを強化していく方針を示しています。将来的には、桜AIカメラを通じて全国の桜の保全データを集積して、より多くの桜を守る活動に役立てたいとしています。

AI機能を搭載した業界初のマイコン

ロームは3月18日、産業機器や家電機器における故障予兆検知や劣化予測を実現するAI機能搭載マイコンを発表しました。ネットワークに依存せずに学習と推論を単体で実行できる業界初のマイコンです。

このAIマイコンは、独自のオンデバイスAIソリューション「Solist-AI」を実現するために、シンプルな3層ニューラルネットワークを採用しています。従来のクラウド型AIやエッジ型AIとは異なり、端末機器だけで学習と推論を完結できます。

ロームによると、独自技術であるAIアクセラレータ「AxlCORE-ODL」により、従来のソフトウェア方式と比較してAI処理速度を約1,000倍に高速化しているとのこと。これにより、リアルタイムでの異常検知が可能になり、機器の設置場所や使用環境の違いに柔軟に対応できるということです。また、消費電力は約40mWと非常に低く抑えられています。既存機器への後付けも可能で、幅広い産業用途における活用が期待できます。

このほか、ロームはAIマイコンの導入を支援するために、AIシミュレーションツール「Solist-AI Sim」を提供しています。このツールによりユーザーは学習と推論の効果を事前に確認でき、出力データをAIマイコンの学習データとしても利用できます。今後はパートナー企業とのエコシステムを構築して、モデル開発や導入支援などのサポート体制を整えることで、AIマイコンの普及を促進していきたいとしています。

Writer：Ritsuko Kawai、Photo by Brooke Cagle