調べ物はAIエージェントが全部やってくれる：月刊エンタメAIニュース vol.62

2025.2.20先端技術

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

リサーチエージェントの開発競争

OpenAIは2月3日、新たなAIエージェント機能「Deep Research」を発表しました。ChatGPTから利用できる機能で、ユーザーが入力した質問に対して数百のオンラインソースを検索・分析・統合することで、包括的なレポートを作成してくれます。人の手で数時間かけていた複雑なリサーチタスクを、わずか数十分で完了できるとされています。

Deep Researchは、Webブラウジングとデータ分析向けに最適化された「o3」モデルを採用しています。競合分析や市場調査、学術研究といった専門的なリサーチタスクだけでなく、製品比較や購買アドバイスといった個人向けの用途にも適しています。月額200ドルのChatGPT Proプランで、1か月に100回まで利用できます。今後、その他のプランのユーザーも順次利用できるように展開していく予定ということです。

この発表の翌日には、Hugging Faceが同様の機能をもつオープンソースのAIエージェント「Open Deep Research」を公開しました。AI研究の透明性とアクセス性の向上を掲げて、わずか24時間で機能の複製とオープンソース化に挑んだとのことです。その結果、エージェントの評価に使われるGAIAベンチマークで55.15%という高いパフォーマンスを達成しています。なお、OpenAIのDeep Researchが出したスコアは67.36%でした。

さらに、2月14日にはPerplexityも同名で同機能をもつリサーチアシスタント「Deep Research」を公開しました。Web版のPerplexityから利用可能で、無料ユーザーでも1日5回まで使用できます。また、今後はiOSやAndroid、Macにも対応する予定だということです。こうした立て続けの発表からは、AI業界におけるリサーチ支援ツールの急速な発展と競争の激化がうかがえます。

脳波からテキストを復元する技術

メタは2月7日、脳波を用いて文章を解読する新たなAI技術「Brain2Qwerty」を発表しました。従来の侵襲的なブレイン・コンピューター・インターフェース（BCI）のように電極を埋め込むことなく、脳波計測（EEG）や脳磁場計測（MEG）によって脳の活動から直接テキストを復元できるということです。

Brain2Qwertyは、脳波データを解析してテキストを復元するために、3つの主要なモジュールを組み合わせたAIモデルです。まず、畳み込みニューラルネットワーク（CNN）を用いた「畳み込みモジュール」がEEGやMEGの信号を処理します。次に「トランスフォーマーモジュール」を適用して文脈から文字を補正します。最後に、あらかじめ学習させた「言語モデル」で統計的な補正をおこなうことで、より正確な文章を出力しています。

研究チームは今回、35人の被験者に短い文章を記憶してからキーボードで入力してもらい、その際の脳の活動を記録しました。そのデータをAIモデルで解析した結果、MEGを使用した場合に高い精度で文章の復元が可能であることが確認できました。MEGからのデータを解析した場合の文字誤り率（CER）は平均32%で、最も的確に復元できたケースで19%でした。EEGと比べてMEGは信号のノイズが少なく、文章入力時の誤字による影響を受けにくいということです。

一方、現状ではデバイスが大きすぎて持ち運びが難しく、リアルタイムでの処理もできないという課題も残っています。将来的にポータブルサイズへの小型化や、脳波の解析スピードのさらなる向上が実現すれば、筋萎縮性側索硬化症（ALS）や閉じ込め症候群といった難病患者の意思疎通を手助けする新たなツールとして活用できるかもしれません。

論文：Brain-to-Text Decoding: A Non-invasive Approach via Typing

知識蒸留で加速するAIの高純度化

rinnaは2月13日、日本語の思考能力を強化した大規模言語モデル（LLM）「Qwen2.5 Bakeneko 32B」シリーズを発表しました。アリババのLLM「Qwen2.5 32B」をベースに日本語の継続事前学習や指示学習を施したモデル群で、日本国内におけるAI研究やAI開発の支援を目的にApache-2.0 Licenseで公開されています。

「Qwen2.5 Bakeneko 32B」シリーズには、高性能な日本語LLMを目指して異なるアプローチで学習を施した複数の派生モデルがあります。基本モデルの「Qwen2.5 Bakeneko 32B」は、日本語と英語のデータで継続学習を施したバランス重視の性能が特徴です。また、「Qwen2.5 Bakeneko 32B Instruct」は、対話形式での指示応答に特化しています。さらに、「DeepSeek R1 Distill Qwen2.5 Bakeneko 32B」には、DeepSeek R1の出力を活用して蒸留学習を施してあります。

中国発のDeepSeek R1は先月、低コストで高精度の思考能力を実現したLLMとして、世界のAI業界にセンセーションを巻き起こしました。rinnaによると、DeepSeek R1は高性能な一方でモデルサイズが大きく扱いにくいことから、より小さいモデルへの知識蒸留がよく用いられるとのこと。同社は今回、DeepSeek R1の出力を活用して蒸留学習をおこない、1,200件の思考過程を含むデータを用いて日本語対応の小型モデルを開発しました。

これにより、日本語の対話性能を評価する「Japanese MT-Bench」において、英語と中国語を主体とした従来の蒸留モデルを大幅に上回るスコアを記録したということです。これらのシリーズは、他のLLMとの統合やカスタマイズが容易であることから、多様な応用が期待できます。

AIによるヤフコメの治安維持に効果

LINEヤフーは2月13日、ニュース配信サービス「Yahoo!ニュース」のコメント欄に導入したAIによるコメント添削モデルの効果を発表しました。同社によると、導入後は不快なコメントの投稿が約24%減少し、修正されたコメントの約50%が不快度の低い表現へと改善されたということです。

「コメント添削モデル」は、コメントポリシーに違反していなくても閲覧者が不快に感じる可能性のある表現に対して、AIが代替案を提示してくれる仕組みです。ユーザーがコメントを投稿する前に表現を見直す機会を提供することで、不適切な表現を抑制するとともに健全な議論の場を実現することを目的としています。2024年9月から正式に導入されました。

今回の検証では、AIによる「不適切投稿判定モデル」を活用して不快度を数値化することで、導入前後の変化を定量的に測定したとのこと。その結果、「コメント添削モデル」の導入後も全体のコメント投稿数に大きな変化はなく、不快なコメントの削減に成功したことが確認できたということです。

同社はAIを活用した「建設的コメント順位付けモデル」や「コメント多様化モデル」など、複数の技術を導入してコメント欄の健全化に取り組んできました。今後も表現の自由を守りつつ、より安心して利用できるコメント環境の提供を目指して技術開発と運用改善を進めていくとしています。

Writer：Ritsuko Kawai