AIとの恋愛体験は少子化対策につながるか？：月刊エンタメAIニュース vol.49

エンタメにおいても人工知能は日進月歩で発展しており、新しい研究成果や試みが次々と発表されています。こちらの連載では、過去1か月間に公開された注目すべきゲームAIやエンタメAIに関連したニュース、論文などを紹介していきます。

芥川賞作家も生成AIと共存する

この1月は、小説『東京都同情塔』で芥川賞を授与された九段理江さんの記者会見での発言が印象的でした。

AI時代に小説を書く意味を問われた九段さんは、今回の受賞作を執筆するにあたって、ChatGPTのような生成AIを駆使した事実を打ち明けた上で、自分の創造性を発揮できるように今後も上手く付き合っていきたいと述べています。その際に「おそらく全体の5%くらいは生成AIの文章をそのまま使っている」と発言した部分が、一部のメディアでミスリードを招くような見出しで取り上げられたこともあり、インターネット上には偏った先入観に基づいた拒絶反応が少なからず投稿されているようです。

なお、同作は近未来の日本を舞台に描かれており、作中には主人公が生成AIに文章を書かせる場面も登場します。それが「生成AIの文章をそのまま使っている」と作者が言及した部分かどうかは定かではありませんが、少なくとも「著作権侵害」や「盗作」といった強い言葉を使った一部の批判は、同作の内容や生成AIの仕組みを考慮せずに沸いた過剰反応という印象を受けます。

特筆すべきは、生成AIをめぐる議論が世界中で過熱するいま、芥川賞を主催する文藝春秋があえて同作を選んだ背景、そして過剰な拒絶反応や賛否両論が飛び交うであろうと容易に想定できるなかで、作者があえて執筆における生成AIの活用を公表した事実です。

否定的な意見の中には、芥川賞を神格化するあまり権威の失墜と揶揄するような声もありますが、同賞は国家や皇室が授与する名誉勲章のようなものではなく、あくまで商業誌の出版社によって選考される文学賞です。たとえ販売促進を目的にトレンドを反映した作品を選んだとしても、それは正当かつ合理的な選考基準であり、また作家の発言が結果的に議論を巻き起こしたとしても、それは広報戦略としては十分有効と考えられます。

実際の選考基準や真意はさておき、最前線で活躍する作家が生成AIと共存する道を示した今回の出来事は、ミスリードもふくめてメディアに大きく取り沙汰されて一部から過剰なやじが飛ばされる部分をセットにして、生成AIの普及による本格的なパラダイムシフトが目前に迫っている現実を映し出していることは間違いないでしょう。

AIとの恋愛体験で恋活をサポート

マッチングアプリ「タップル」を運営する株式会社タップルは1月15日、記憶するAIパートナーとの恋愛を楽しめるアプリ「恋するAI」をリリースしました。

「恋するAI」は記憶機能に特化したアプリで、AIキャラクターの「アイ」は対話を通じてユーザーの好みや習慣を学習していくとのこと。その記憶に基づいて会話内容を生成することで、より深いコミュニケーションが取れるということです。ユーザーの行動や発言によってアイとの親密度はもちろん、アイの性格も変化していくとのこと。それによって、「ツンデレ」「さみしがり」「姫タイプ」といった性格に応じた話し方になるようです。

タップルによると、若い世代を中心に結婚や恋愛に対しての意識が下がっている現状を受けて、AIを活用した恋活および婚活サポートの質を向上させるとともに、リアルな恋愛体験を楽しみながら恋愛の機を醸成するために「恋するAI」を開発したとのこと。「恋愛総量の最大化」により少子化問題の解決に貢献したいとしています。

AIで恋愛の味を再現したパン

木村屋とNECは1月17日、AIを活用して開発した「恋AIパン」を発表しました。Abema TVの恋愛番組「今日、好きになりました。」の参加者による会話内容と、フルーツやスイーツが登場する楽曲の歌詞をNECのAIで分析することで、恋愛感情と食品を紐づけて味を表現したということです。

NECによると、同社の音声認識技術を使って「今日、好きになりました。」の出演者の会話データ15時間分をテキストとして抽出。出会いや告白、初めてのデートといった、恋愛シーンごとの会話文に32個の感情ワードとの相関を表した感情スコアを付与することで、恋愛シーンごとの感情の傾向を可視化したとのこと。くわえて、約100万曲の日本語の歌詞データベースから、183種類のフルーツやスイーツなどの食品をふくむ約3.5万曲を抽出した後、食品をふくむ歌詞にも同様に感情スコアを付与。これにより、食品のイメージが持つ感情の傾向を可視化したということです。

つぎに、これら感情の傾向が似ている恋愛シーンと食品を紐づけることで、恋の感情を表現する食品上位50種をリストアップ。これをもとに熟練の蒸しパン職人が相性の良い食品の組み合わせを選定して、恋の味を再現したとのことです。また、商品パッケージや特設サイトで用いられる商品解説文の作成には、NECの大規模言語モデル「cotomi」が活用されているということです。「恋AIパン」は、「運命の出会い味」「初めてのデート味」「やきもち味」「涙の失恋味」「結ばれる両想い味」の5種類のラインナップで、2月1日から関東近郊のスーパーや木村屋オンラインショップにて順次販売される予定です。

自作生成AIを共有できるアプリストア

OpenAIは1月10日、ChatGPTのカスタマイズ機能「GPTs」で自作した生成AIアプリを公開できる「GPT Store」を開設しました。これにより、ChatGPTの有料プランを利用しているユーザーを対象に、GPT-4やDALL・EといったAIモデルをカスタマイズしたオリジナルアプリをユーザー間で共有できるようになりました。近日中には、アプリの作者が収益を得られるプログラムも実装予定とのことです。

生成AIで書いた論文かを自動判定

ユーザーローカルは1月12日、論文やレポートがChatGPTなどの生成AIによって執筆されたものであるかを瞬時に判定する「生成AIチェッカー」の提供を始めました。日本語で執筆された論文やレポートが対象で、会員登録することなく無料で利用できます。

ChatGPTのような手軽な自然言語モデルの普及によって大量のコンテンツを瞬時に生み出せるようになった一方で、事実に基づかない情報を生成してしまう「ハルシネーション」という現象が大きな問題点として指摘されています。また、読書感想文の執筆を丸投げする学生やエントリーシートの内容を生成する就活生など、一部の活用方法にも懸念の声があがっています。ユーザーローカルが独自に開発したアルゴリズムは、生成AI特有の言い回しや語彙の偏りを機械学習で検出することによって、対象の文章を生成AIが作成した可能性を自動で判定できるとのことです。

Writer：Ritsuko Kawai