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【JSAI2022】人間プレイヤーから学び人間に近づく人狼知能研究の最前線

2022.7.29ゲーム

【JSAI2022】人間プレイヤーから学び人間に近づく人狼知能研究の最前線

2022年6月14日から17日、2022年度人工知能学会全国大会がハイブリッド開催されました。同大会の17日には、人狼ゲームをプレイするAI「人狼知能」に関する研究が多数発表されました。本稿では、こうした研究をまとめることを通して人間プレイヤーから学び人間に近づこうとする人狼知能研究の最前線を伝えます。

皮膚電気活動の計測で露わになる人狼プレイヤーの内面

京都産業大学の御手洗彰氏は、「皮膚電気活動を指標とした人狼プレイヤのゲーム体験に基づくハイライト抽出の試み」と題して、皮膚電気活動の測定によって人狼プレイヤーの内面に迫る研究を発表しました。

現在、人狼ゲームがゲームプレイAI研究におけるテーマとして注目されています。というのも、プレイヤーが特定の役職を演じる同ゲームにおいては言語情報と同時に口調や身振りといった非言語情報も重要となり、時には嘘がゲーム展開を大きく左右するため、同ゲームをプレイする「人狼知能」には高度にヒューマンライクな能力が要求されるからです。

御手洗氏の研究は、よりヒューマンライクな人狼知能開発の基礎研究の一環として、人狼ゲームをプレイする人間プレイヤーの思考過程のモデル化を目標としています。この目標のために、人間プレイヤーのSCL(Skin Conductance Level)を測定することによってゲームプレイ中の情動の推移を観察することにしました。

今回の研究では、SCLの推移すべてを考察対象とするとデータ量が多くなって分析が難しくなるという事情から、SCLの推移のなかでももっとも大きく情動が体験されたと解釈できるハイライト(SCLがもっとも高い箇所)に絞って考察することにしました。SCL測定実験には7名が参加し、ゲーム形式は7名のうち5名がプレイする5人人狼としました。こうした5人人狼を参加者が交代しながら8回試行しました。

以上のような実験で観察されたハイライトをゲームのシーン別に集計すると、ゲームの勝敗を決する投票に近づくにしたがってハイライトが増加することがわかりました。

プレイヤーごとにハイライトを記録したシーンを集計すると、以下の表のようにプレイヤーごとにハイライトを多く体験したシーンが異なることがわかりました。人狼ゲーム経験者は役職確認では情動が生じなかったのに対して、初心者は役職確認で情動のハイライトも確認できました。

今回の実験は、SCLを測定することによって人狼ゲームにおける情動発生という観点からこのゲームの特徴を分析できることを示唆しています。御手洗氏は、今後の課題として経験やプレイスタイルが異なるプレイヤーのSCLを測定して、人狼ゲームにおいて生じる情動の定量分析を挙げました。

熟練人狼プレイヤーに見られる戦略サイクル

電気通信大学の金泉則天氏は、「人狼における熟達者の思考過程」と題して人狼ゲームの熟練プレイヤーのゲーム戦略を考察しました。

発展途上の人狼知能研究では、研究に役立つと考えられる人間の人狼プレイヤーから得られる知見を収集することが重要となります。金泉氏は、チェスの熟練者の思考過程を解明した研究にヒントを得て、人狼ゲームの熟練プレイヤーの思考過程を明らかにすることを研究テーマとしました。この研究のために、人狼ゲームのプレイを舞台作品として披露している人狼TLPTの演者に5人人狼ゲームをプレイしてもらって、プレイ時に発話を分析することにしました。なお、この研究はコロナ禍中に行われたため、ゲームはZoomを用いてプレイしました。

以上のようなTLPT演者による人狼ゲームのプレイにおいて、金泉氏は人狼の役職を与えられたプレイヤーが見せたゲーム終盤のプレイに着目しました。このプレイには、人狼ゲーム熟練者が行っていると考えられる以下のような3つの思考過程が観察できました。

  1. 正確に状況判断を行っている。
  2. 仮説を素早く多く形成している。
  3. 相手の立場に立って説得できている。

正確な状況判断に関しては、人狼となったプレイヤー(以降は説明のために便宜上「プレイヤー1」と記す)が村人となったプレイヤー4とプレイヤー5の関係を把握していたことからわかりました。ゲーム序盤にプレイヤー4はプレイヤー5を人狼ではないかと疑う発言したことから、プレイヤー1はプレイヤー4がプレイヤー5に敵意を持っていると推論していたのです。

多様な仮説の素早い形成は、プレイヤー1、プレイヤー4、プレイヤー5の3人が残ったゲーム最終局面で確認できました。この状況で最後の追放者を決める投票を行う場合、プレイヤー1が残り2人のプレイヤーの役職を正しく推論できたら、説得の際にその推論結果を活用できます。そこでプレイヤー1はプレイヤー4が村人、狂人、占い師のいずれかであると仮定したうえで、プレイヤー4の反応を引き出すことにしました。

具体的には、狂人のふりをしてプレイヤー5を人狼と占う「占い師騙り」を行ったのです。この状況でプレイヤー4がパワープレイを行う素振りを見せなかったら、プレイヤー4は人狼でないと明らかになります。またプレイヤー4はゲーム中に占いを行わなかったので、占い師でないことも推論できます。さらに、プレイヤー4が占っていないことから占い師を騙る狂人でないこともわかります。

以上のような仮定と推論が揃っている状況で、プレイヤー1が占い師騙りを行ってもプレイヤー4はパワープレイを行いませんでした。その結果、プレイヤー4は村人と推論できるのです。

プレイヤー4を村人と推論できたら、人狼であるプレイヤー1は自分が村人であるとプレイヤー4に認識させたうえでプレイヤー5を追放するように説得すれば、ゲームに勝利します。こうしたプレイヤー1の振舞いこそが、相手の立場(この場合は村人であるプレイヤー4)に立った説得と見なせます。

金泉氏は、人狼ゲーム熟練者は前述した3つの思考過程を言わばサイクルのように回すことでゲームの勝利に近づく、と考察しました。そして、こうした戦略サイクルを実行するには、人狼ゲームに関する豊富な前提知識とゲーム展開に応じた高速な推論が求められることを指摘して発表を終えました。

3つの説得手法とその効果

東京工芸大学工学部の片上大輔教授は、「人狼知能エージェントによる人間プレイヤへの説得と効果」と題して、人狼知能による人間プレイヤーへの説得を試みた実験について報告しました。

片上教授によると、2013年に「人狼知能プロジェクト」が発足し2019年には国際大会が開催されたように人狼知能研究は盛り上がりを見せる一方で、人狼ゲームの展開を大きく左右する「説得」を人狼知能が人間プレイヤーを対して試みる実験事例はありませんでした。そこで同教授は、人狼知能が人間プレイヤーを説得する実験を試みることにしました(正確には同教授研究室の卒業生が実験を行い、その結果を同教授が報告)。

以上のような人狼知能による説得実験に先立って、片上教授は人狼ゲームにおける説得の定義を示しました。その定義とは「自身の可能世界を相手と共有したうえで納得してもらうこと」となります。この定義における可能世界とは「自身が考えるすべての役職パターン」となります。そして、自身の可能世界を説得相手に納得してもらえれば、相手の投票先を変えられます。したがって、人狼知能による人間プレイヤーの説得とは「人狼知能の説得によって人間プレイヤーの投票先を変えること」と見なせます。

人狼知能が人間プレイヤーを説得できるかどうかを確かめる実験は、以下のような設定と手順で行われました。

  • 人狼ゲームに人間プレイヤーとして参加した被験者は、1日目は会話に参加せずにどのプレイヤーが人狼か予想してもらう。
  • 2日目に被験者と2つの人狼知能の3プレイヤーが残るようにゲームを展開させる(ゲームは事前に用意したゲームシナリオにしたがって展開する)。最後の投票の前に、人狼ではないかと疑われた人狼知能が被験者に対して説得を試みる。
  • 人狼知能の説得によって、被験者が疑いを撤回して別の人狼知能に投票した場合、説得が成功したと見なす。
  • 説得方法として以下の表に示すような3つの方法を用意した。
  • 実験ゲームは、各被験者に対して練習試合、本番1試合目、本番2試合目の計3試合を行った。
  • 実験ゲームは、本番1試合目の説得3種類と本番2試合目の説得3種類の組み合わせを網羅した9パターンを20回試行した。実験ゲーム1回につき被験者1人が参加するので、9 x 20の180名が実験に参加した。

以上の実験を実施した結果、各説得手法の成功率は以下のグラフに表されるように20~35%であり、成功率の高い順番に並べると論理的説得、メタ情報を用いた説得、感情的説得となりました。

また、1試合目の説得成功率と2試合目のそれを説得手法ごとにまとめると、以下のグラフのようになります。すべての説得手法で2試合目の成功率は1試合目のそれを上回る結果となり、なかでもメタ情報を用いた説得では有意差が認められました。

実験から得られる考察として、片上教授は以下のような知見を挙げて発表を終えました。

  1. 論理的説得がもっとも成功率が高いが、その理由は人狼知能であるという認識に起因するのか、あるいは説得手法自体の効果によるのか検証が必要。
  2. 感情的説得の成功率が相対的に低いが、その理由は今回の実験で被験者が得られる情報は会話のテキストのみだったので、感情的説得を高めるのに必要なしぐさなどの非言語的情報が欠けていたからではないか、と推測される。
  3. 2試合目の説得成功率が上昇したことから、試合数が多くなるとさらに説得成功率が上昇することが示唆される。
  4. 今回はプレイヤーが残り3人の状況で1人を説得すれば勝利する実験設定だったが、今回より不利な状況での実験を行いたい。

TLPTプレイヤーに学ぶ人狼知能改善のヒント

今回の人工知能学会では、人狼TLPTで医師マドック役を演じる松崎文也氏を招いた招待講演も開催されました。この講演は、人狼知能を研究している慶応義塾大学理工学部所属の大澤博隆准教授の問いかけに松崎氏が答える対談形式で進行しました。以下では、そうした松崎氏の答えのうち人狼知能を改善するヒントになるかも知れないものを抜粋して列挙します。

  1. 人狼ゲームにおける強さを一般的に言えば、人狼役の場合では村人を騙す能力、村人の場合では人狼を見抜く能力が高いことを指す。さらに説得のうまいプレイヤーは強いと見なされる。
  2. 説得する際には、相手に応じて異なるアプローチをする。一般に成功しやすい説得方法は、相手に同調するようにして、相手が納得して自ら意思決定したと思わせるように誘導すること。
  3. 人狼ゲームにおける会話では、会話の内容よりも説明のよどみなさや信用を得るために不利になる内容をあえて発言するような会話のコンテクストのほうが大きな意味をもつ。こうしたコンテクストによるメッセージ性が、説得の成功や他のプレイヤーの同調を導く。
  4. TLPTを面白くするには、(マンガ『カイジ』シリーズやドラマ『イカゲーム』のような)デスゲームの登場人物のように振舞うとよい。ゲーム展開が退屈な時は、確信がなくてもあえて人狼を名指しするようなことをして、ゲームにゆらぎを起こす。
  5. TLPTプレイヤーのなかには、ゲームを俯瞰するタイプと役に徹するタイプがいる。ゲームで見せ場を作るのは後者のプレイヤー。
  6. 事前知識のない初対面のプレイヤーを説得するには、プレイヤーのキャラクターに合わせた説得を行うとよい。例えば自身の知性に自信をもっているようなプレイヤーに対しては、相手の推理を称賛するようにして説得すると成功する。初心者や内気な性格のプレイヤーに対しては、相手の思考を引き出すように聴き手に徹したうえで誘導すると説得が成功する。
  7. 人狼ゲームにおいてしばしば行われる推論や仮定の形成を苦手とするプレイヤーのために、推論や仮定を理解しやすいようにする(推論視覚化アプリのような)ツールを開発してくれると、人狼ゲームのプレイヤー人口が増えるかも。

以上の対談の最後に、松崎氏は将来的には人狼知能と人間プレイヤーが入り混じった人狼ゲームをプレイしたい、と発言しました。松崎氏の夢が実現するためには、人間と人狼ゲームをプレイして違和感のない人狼知能の開発が求められます。ヒューマンライクな人狼知能の開発には、前述した研究のような人間プレイヤーによるゲームプレイに関する知見を蓄積しなければなりません。そして、こうして得られた知見を人狼知能に落とし込むことで、人間に比肩する人狼知能が誕生することでしょう。ヒューマンライクな人狼知能の完成までには長い道のりがあると予想されますが、昨今のAIの進化を鑑みれば案外その実現は近いのかも知れません。

Writer:吉本幸記

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